ゲーム内通貨の導入は、ユーザー体験を高め、収益化を図る上で有効な手段です。
しかし、ゲーム内通貨を導入する場合、資金決済法や特定商取引法、景品表示法、刑法など複数の法律が関わるため、適切な法的対応を行わないと、行政処分や刑事罰のリスクがあります。特に、課金機能を備えたゲームを初めてリリースするベンチャー企業では、制度理解の不足から違法状態に陥るケースも少なくありません。
今回は、ゲーム内通貨の発行・運営に関わる主要な法律とその対応方法をベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
ゲーム内通貨の導入には、複数の法律が関係します。特に重要なのは、資金決済法と特定商取引法です。また、ゲームの設計や販売方法によっては、景品表示法や刑法が適用されることもあります。ベンチャー企業では制度理解不足による違反が起こりうるため、リリース前の段階から法的要件を確認しておくことが不可欠です。
ゲーム内通貨やコイン、ポイントを販売・発行する場合、資金決済法がもっとも直接的に関係します。
資金決済法は、前払式支払手段(プリペイドカードや電子マネーなど)の発行・運営ルールを定めた法律で、ゲーム内通貨も多くの場合、この「自家型前払式支払手段」にあたります。
資金決済法が適用される場合は、発行者に届け出や資産保全、情報提供などの義務が課されます。
特定商取引法は、消費者保護を目的として、通信販売や訪問販売などに関する規制を定める法律です。
有料のオンラインゲームを提供することはもちろん、ゲームの中でクレジットカードなどを使ってアイテムを購入する仕組みをつくることや、ゲーム内の通貨を販売することも、「特定権利」の販売であるとして、通信販売規制の対象になってくると考えられています。
また特定商取引法では、表示義務や返品特約、誇大広告の禁止など、事業者が守るべきルールも定められています。
オンラインゲーム運営では、資金決済法や特定商取引法だけでなく、景品表示法や刑法にも注意が必要です。
これらの法律に違反すると、行政処分や課徴金、刑事罰を受ける可能性があるため、リリース前から法的チェックを行うことが重要です。
資金決済法の目的は、発行事業者の倒産や不正利用などからユーザーの資産を保護することです。規制内容を理解せずにゲームを発売したりゲーム内通貨を発行したりすれば、届け出漏れや資産保全義務違反などにより、行政処分や罰則を受ける可能性があります。以下は、ゲーム内通貨に関係する、資金決済法の基本的な考え方と事業者がとるべき実務対応を説明します。
前払式支払手段とは、発行者が前もって金銭を受け取り、後に商品やサービスの提供を行う仕組みを指します。ゲーム内通貨の多くは、発行者であるゲーム事業者自身が運営するゲーム内でのみ利用可能なため、「自家型前払式支払手段」に分類されます。
一方で、複数の事業者や異なるプラットフォーム間で利用できる場合は「第三者型前払式支払手段」に該当し、規制内容が異なります。
ゲーム内通貨の場合、第三者型に該当するケースは少ないですが、外部プラットフォームや提携サービスで利用できる設計にする場合は注意が必要です。
ゲーム内通貨の発行者に課される資金決済法に基づく主な義務としては、以下のようなものがあります。
① 届け出義務
自家型前払式支払手段の場合、使われていない通貨の残高が1000万円を超えた時点で財務局への届け出が必要です。届け出には、事業者の基本情報、通貨の名称や利用範囲、有効期限、発行残高の見込みなどを記載します。届け出を怠ると行政処分の対象となり、業務改善命令や業務停止命令が科されることもあります。
② 資産保全義務
利用者から受け取った金銭のうち、未使用残高の半額以上を供託、保全契約、信託契約などの方法で保全する必要があります。これにより、事業者が倒産した場合でも利用者が一定額の払い戻しを受けられるようになるからです。保全措置は四半期ごとに実施し、財務局へ報告する義務もあります。
③ 情報提供義務
利用者が安心して通貨を利用できるよう、次の情報を表示または情報提供しなければなりません。
約款等が存在する場合には、その旨および内容の提示これらは購入画面や利用規約、公式サイトなどで事前に確認できるようにしておくことが望ましいです。
資金決済法の規制を踏まえて、ゲーム事業者がとるべき主な対応は、以下のとおりです。
事業開始前から法的要件を踏まえて設計すれば、後からコンプライアンス対応を迫られるリスクを軽減できます。
特定商取引法は、消費者保護を目的として通信販売や訪問販売などを規制する法律です。違反すると行政処分や罰則を受ける可能性があるため、事業者は販売形態ごとの規制内容を正しく理解しておく必要があります。
ゲーム内でクレジットカードなどを使いアイテムを購入できる仕組みを作ったり、ゲーム内でのみ流通する通貨を発行する場合には、この法律の適用を受けることになります。主な義務としては、以下のようなものがあります。
① 表示義務
販売事業者は、商品の内容、販売価格、支払い方法、引き渡し時期、返品特約など法律上求められている必須項目を明確に表示しなければなりません。これらは購入ページや利用規約に記載し、利用者が事前に確認できるようにする必要があります。
② 返品特約
原則として、通信販売にはクーリング・オフ制度はありませんが、返品特約を定める場合はその内容を明示する必要があります。返品不可の場合でも、その旨を明確に記載しておかなければ、法律上は返品可能とみなされるリスクがあります。
③ 誇大広告禁止
事実と異なる表示や、実際より著しく優良・有利であると誤認させる表示は禁止されています。たとえば、実際には排出確率が低いアイテムを「高確率で当たる」と宣伝することは違法です。
特定商取引法の規制を踏まえて、ゲーム事業者がとるべき主な対応は、以下のとおりです。
これらの対応を怠ると、業務改善命令や罰則のリスクが生じます。法務担当者はマーケティング部門や開発部門と連携し、リリース前に法的チェックを行う体制を整えることが重要です。
ゲーム内通貨の発行・利用に関しては、主に資金決済法や特定商取引法が関係しますが、ゲームの設計や販売方法によっては、景品表示法や刑法などの法律にも注意が必要です。
景品表示法は、商品やサービスの取引における不当表示を禁止し、消費者の利益を保護することを目的とした法律です。オンラインゲームでは、特に「有利誤認表示」と「二重価格表示」が問題になるケースが多く、広告やゲーム内表記の方法によっては違反とされるリスクがあります。
① 有利誤認表示
実際の取引条件よりも、著しく有利であると利用者に誤認させる表示が禁止されています。
② 二重価格表示
通常価格と割引価格を併記し、実際には「通常価格」での販売実績がない場合は違反になります。
これらの規制に違反すると、景品表示法に基づく措置命令や課徴金納付命令を受ける可能性があります。ゲーム運営者は、広告やゲーム内表記の全てが事実に基づいているかを定期的にチェックする体制を整えることが重要です。
刑法の賭博罪は、偶然の勝敗によって財産上の利益を得る行為を処罰します。ゲーム内で行われる抽選(ガチャやルーレットなど)がユーザーに経済的価値のあるアイテムを付与する場合、その設計によっては賭博とみなされるリスクがあります。
たとえば、当選アイテムが現金化可能、または換金性の高い形で流通している場合は特に注意が必要です。
運営するゲーム上で、ユーザー同士が連絡を取り合う媒介手段を作る場合(クローズド・チャット機能やダイレクトメッセージ機能)には、電子通信事業法の届け出が必要になります。
ゲーム内通貨の導入は収益化の大きな武器になりますが、資金決済法や特定商取引法、景品表示法、刑法など複数の法律が関係します。
資金決済法では、自家型・第三者型の判定や届け出・資産保全・情報提供義務の履行が不可欠です。特定商取引法では、表示義務や誇大広告禁止への対応が必要です。さらに、景品表示法による有利誤認・二重価格表示の禁止への対応や、刑法の賭博罪に当たらないような設計の工夫、電子通信事業法の順守などが求められます。
法令違反は行政処分や刑事罰に直結するため、リリース前から弁護士など専門家による法務チェックを行い、コンプライアンス体制を構築することが重要です。
ゲーム内通貨の導入を検討中のベンチャー企業の担当者の方は、リリース前にベリーベスト法律事務所までご相談ください。
ゲーム内通貨の導入は、ユーザー体験を高め、収益化を図る上で有効な手段です。しかし、ゲーム内通貨を導入する場合、資金決済法や特定商取引法、景品表示法、刑法など複数の法律が関わるため、適切な法的対応を行…
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