企業法務コラム
最近、日本でも「働き方改革」が進み「テレワーク」を導入する企業が増えています。
テレワークは今までにはなかった働き方なので、テレワークの導入にあたっては就業規則の変更が必要になる可能性が高くなります。
今回は、テレワークとはどのような働き方なのか、テレワーク導入にあたってどのような場合に就業規則を変更する必要があるのか、注意点も踏まえて弁護士が解説していきます。
そもそも「テレワーク」とは何なのか、理解しておきましょう。
テレワークは「ICT(情報通信技術)を利用する、時間や場所にとらわれない勤務形態」です。テレワークは「テレ(遠距離の)」と「ワーク(労働)」を組み合わせた造語です。
テレワークは、就業場所に応じて以下のように分類されます。
問題社員のトラブルから、
テレワークを導入すると、企業にとってさまざまなメリットがあります。
テレワークの導入にあたり就業規則の変更が必要ですが、働く場所が変わるだけであれば、就業規則を変更しなくてもテレワークを導入することは可能です。
労働基準法で就業規則に記載すべきと定められている事項(労働基準法第89条第1号~第3号)について就業規則に記載されていなければ作成義務の違反となり、30万円以下の罰金に処せられる可能性があります(同法第120条第1号)。
労働基準法で就業規則に記載すべきと定められている事項のうち、テレワーク導入にあたって就業規則の変更が必要となる可能性がある事項としては、
などがあります。
これらの事項について既存の就業規則の内容と相違が生じる場合は、就業規則を変更する必要があります。
① 始業及び終業の時刻が変更になる場合
テレワークによって通勤時間が削減されると、始業及び終業時刻を繰り上げて通常よりも早く業務を開始することが考えられます。
また、テレワークでは、一定程度労働者が業務から離れる時間(いわゆる中抜け時間)が生じやすいと考えられます。中抜け時間については、労働者に業務から離れた時間と戻ってきた時間を報告させる等して休憩時間として扱い、労働者のニーズに応じて、始業時刻を繰り上げる、または終業時刻を繰り下げることも考えられます。
その場合には、始業及び終業の時刻が変更になるため、就業規則を変更する必要があります。
② テレワークを行う労働者の処遇が変更になる場合
テレワークを行う労働者については、オフィスで勤務する労働者と同等の処遇を行う企業がある一方で、出勤に伴う電話対応等が免除される分、給与水準を下げたり、出来高制で賃金を支給したりする企業もあります。
テレワークを行う労働者について、通常の労働者と異なる賃金制度等を定める場合には、賃金の決定及び計算の方法が変更になるため、当該事項について就業規則を変更する必要があります。
③ 労働条件の不利益変更に注意
ただし、テレワークで就業規則を変更するにあたり、当該変更が労働条件の不利益変更にあたると認められた場合は、当該変更部分は無効になる可能性がありますのでご注意ください。
労働条件の不利益変更とは、簡単に言うと「従業員にとって悪い労働条件に変える」ということです。労働条件や就業規則の一方的な不利益変更は、原則として認められていません。労働条件や就業規則を変更するには、合理性が必要であるとされます。
合理性があるか否かは、
等により、判断されます(労働契約法第10条)。
テレワークの導入にあたり就業規則を変えようとしても、合理性がなく、無効となるリスクもありますので、事前に弁護士にご相談いただき、弁護士と一緒に就業規則を考えていくことを強くお勧めいたします。
労働基準法でいかなる場合にも必ず記載すべきと定められている事項(労働基準法第89条第1号~第3号)とは異なって、制度として行う場合において就業規則に記載すべきと定められている事項(同条第3号の2~第10号)についても、制度として行う場合に就業規則に記載されている内容と異なる場合、又は就業規則に記載されていない場合には作成義務の違反となり、上記3、(1)と同様の罰金に処せられる可能性があります(同法第120条第1号)。
労働基準法で制度として行う場合に就業規則に記載すべきと定められている事項のうち、テレワーク導入にあたって就業規則の変更が必要となる可能性がある事項としては、
があります。
これらの事項については、制度として行う場合でなければ就業規則に記載する必要がない事項ですが、以下の規定については、制度として行い就業規則を変更するのが望ましいです。
① 通信機器等の費用負担についての規定
テレワーク時に発生する費用としては、情報通信機器にかかる費用、文具、備品、郵送等にかかる費用、水道光熱費、サテライトオフィスへ移動する際の交通費や利用料金など、使用者が負担すべきか労働者が負担すべきか曖昧なものが多くあります。
テレワーク導入にあたって、労働者が安心してテレワークを利用できるようにするためにも、労使どちらが費用を負担するのか、使用者が負担する場合における限度額、労働者が請求する場合の請求方法等について、あらかじめ労使で十分に話し合い、就業規則等で定めておくことが望ましいです。
② テレワークを行う労働者の健康管理のための規定
使用者は安全衛生法などの関係法令等に基づいて、加重労働対策やメンタルヘルス対策を含む健康確保のための措置を講じる必要があります。
使用者は、当該措置を講じる際、テレワーク時の作業環境や作業方法について把握する必要があります。
しかし、一方で、使用者が過度に労働者のテレワーク時の作業環境に干渉したり、硬直的な管理を行うと、テレワークが利用しにくいものになってしまう可能性もあります。
そのため、作業環境についてのルールを作り、これに従って作業環境を整えるよう、労使間で十分に話し合うことを就業規則等で定めておくことが望ましいです。
③ テレワークについての教育・研修のための規定
テレワークを行う労働者はOJT(On the Job Trainingの略。業務を通して行う教育訓練のこと)の機会が少なくなる可能性があるため、OJTに代わる教育をどのようにするかが課題になります。
テレワークを行う労働者の上司に対しても人事評価の方法や、テレワークを行う労働者の不満や苦情についての教育が必要であり、テレワークを行う労働者以外の労働者についてのテレワークに対する理解を深めるためにテレワークについての研修等が必要です。
また、テレワーク導入にあたって、労働者が企業の情報資産をオフィス外で取り扱うことになるため、情報資産がウイルス等に感染したり、情報漏えい等のリスクが高まります。これらのリスクが顕在化すれば企業活動が停止するだけでなく、企業の信用が失墜するなど、多大な損失が発生する可能性があります。
そのため、テレワークの導入にあたって情報セキュリティー対策を適切に行うため、情報セキュリティー対策についての研修等を行うことが重要となります。
そして、テレワークを行う労働者等に上記研修等の受講を義務付ける場合は、その旨を就業規則に定めておくことが望ましいです。
以上の通り、労働基準法で必ず記載すべきと定められている事項以外の事項については、就業規則に記載していなくても作成義務違反となることはありません。
しかしながら、テレワーク導入後の紛争を防止する観点から、<以下の事項については就業規則で定めておくことが望ましいです。
① テレワーク適用対象者についての定め
テレワークを希望する者が全員、テレワーク適用対象者となることが理想ですが、テレワーク導入の初期段階から希望者全員をテレワーク適用対象者とすると、社内に混乱が生じ業務に支障を来すおそれがあります。そのため、<テレワーク導入の初期段階は適用対象者に一定の基準を設けて適用範囲を限定し、実施状況を見ながら適用対象者の範囲を広げていくのがよいでしょう。
また、テレワークを許可された者であっても、テレワークを行う労働者としての基準を満たさないと使用者が判断した場合には、オフィスでの勤務を命じることができるように定めておくことが大切です。
② 時間外労働・休日労働の管理についての定め
テレワークを行う労働者については、その労働時間を適正に把握したうえで、時間外労働、深夜労働及び休日労働を行った場合には、法令に従った割増賃金の支払いが必要になります。
この点に関して、テレワークの性質上、労働者の判断による中抜け等があるほか、労働者が使用者への事前の連絡等なく休日や深夜等に業務を行うことも想定され、使用者にとって想定外の時間外労働、深夜労働及び休日労働が発生する可能性が相対的に高いです。
そこで、テレワーク導入済み企業では、テレワークでの時間外労働、深夜労働及び休日労働を就業規則で原則禁止としているところが少なくありません。
また、労働者からの想定外の時間外労働、深夜労働及び休日労働割増賃金請求を防止するため、就業規則に、労働者が時間外労働等を行う場合には、事前に申告し使用者の許可を得えなければならず、かつ、事後に時間外労働等を行った時間を使用者に報告することが必要である旨を定めておけば、このような事前申告又は使用者の許可がなかった場合で、かつ事後報告がなかった場合には、使用者の関与なく行われた労働として労働時間に該当しないものとして扱うことも考えられます。
ただし、就業規則で定めた事前許可制・事後報告制について、実態を反映していないと判断される事情がないことが前提となりますので、ご注意ください。
テレワーク導入の際の就業規則の変更の方法と手続きの流れをみてみましょう。
テレワーク導入にあたって就業規則を変更する場合に、テレワークについての定めを就業規則に定めるほか、新たに「在宅勤務規程」、「サテライトオフィス勤務規程」、「モバイル勤務規程」を作成することが考えられます。
どちらにするかは、使用者の判断となりますが、就業規則は多岐にわたる記載事項をカバーするもので大部となりがちですので、わかりやすさという観点からは、テレワークについての詳細な定めは別規程を作成した方がよいと思われます。
就業規則を変更した場合や別規程を作成した場合には、従業員の過半数を代表する者の意見書を添付し、所轄労働基準監督署に届出するとともに、労働者に周知する必要があります。
問題社員のトラブルから、
テレワークを上手に導入すると、効率化によって企業の生産性を高められる可能性があります。ただし人事担当者や人事部には労務管理の負担もかかるでしょう。
これからテレワークを導入するため就業規則の改定やテレワーク就業規程の導入をご検討であれば、ベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。
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