企業法務コラム
日本企業の多くは、長らく「副業を禁止」してきました。
しかし、近年では政府主導の「働き方改革」もあり、大手企業を中心に「副業」を解禁する動きが起こっています。今まで副業を禁止してきた会社が副業を解禁するとき、どのような点に注意すれば良いのでしょうか。
この記事では、長らく禁止してきた副業を解禁するメリット・デメリット、解禁する際の就業規則の定め方、注意点などについて、弁護士が解説していきます。
そもそも副業とは何か、またこれまで禁止されてきた副業がなぜ容認されてきているのか、確認しましょう。
副業とは、本業以外の仕事を意味します。会社員や公務員の方が本業を行いつつ、別のアルバイトや内職、ライター業務やネット販売などの副業を行うイメージです。
副業と兼業という用語については、法律上、明確な定義は存在しないため、両者を使い分けせずに使用しているのが一般的です。
副業には、自ら事業を営む自営型と、本業でも副業でも労働者としての立場に立つダブルワーク型があります。
労働関係法令との関係で様々な問題を含んでいるのはダブルワーク型です。
株式投資や不動産投資などの投資は、お金を株式や不動産につぎこんで「殖やし」、利益を得ることです。投資は、資産運用であって不労所得ですので、労働による所得である副業とは根本的に異なります。
これまで日本では多くの会社が副業を禁止してきました。
しかしながら、副業は、新たな技術の開発、オープンイノベーションや起業の手段、第二の人生の準備として有効であるため、政府は、働き方改革実行計画において、今後の普及を目指す方針を示し、副業を推進しています。
たとえば、厚生労働省が示す「モデル就業規則」(平成30年1月)では、それまであった「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと。」という副業禁止規定が削除されています。
参考:厚生労働省ホームページ「モデル就業規則について」
問題社員のトラブルから、
会社にとって、副業を解禁するのは勇気の要ることでしょう。
副業を認めるとどのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか?
副業を解禁すると、会社にとって以下のようなメリットやデメリットがあります。
メリット
デメリット
これまで禁止していた副業を解禁すると、どうしても長時間労働の危険がありますし、副業にのめり込み過ぎて本業がなおざりにされるなど、いろいろな問題が発生します。
以上のように、副業を解禁すると、いろいろな問題が発生するリスクがあります。
そこで、そのリスクを回避するためにどのようにすればよいでしょうか?
副業を解禁する方法としては、許可制と届出制があります。
届出制は、副業を行うことを会社に届け出れば認められる制度です。
許可制は、副業を行うことを会社が許可した場合に認められる制度です。
副業は自由に認められるのが原則ですが、副業解禁によるリスクを回避するためには、まずは許可制を採用して、客観的な許可基準を設けておくことをお勧めします。
これまで副業を原則禁止してきた会社が副業を解禁する場合、就業規則の変更をはじめとしたいろいろな対応が必要です。
以下で副業解禁時に会社が検討すべき事項をご説明します。
まずは副業の解禁に向けて、会社が事前に検討しておくべきことがあります。
労働者の健康、衛生管理
副業によって労働者の健康や衛生状態が害されると、本業への支障も大きくなります。
たとえば劣悪な労働環境で副業に従事した結果、労働者が体調を崩したり、他の労働者にウイルスを感染させるなど、本業に悪影響を及ぼしてしまう可能性が考えられます。
そこで副業を希望する労働者には、衛生や健康管理の重要性を理解させ、どのように対応するのか指針を検討の上、提出させるなどの対応をとることが考えられます。
労働時間の把握
労働者が副業をすると、全体的な労働時間の管理が困難になる可能性があります。労働基準法38条1項により本業と副業を行った時間は通算されます。
その結果、本業と副業を行った労働時間を通算して法定労働時間を超えた場合には残業代(割増賃金)が発生することになります。
もっとも、残業代(割増賃金)を本業先と副業先のいずれが負担すべきかについては、基本的に後から契約締結した方が負担すべきとされています。
とはいえ、本業先が通算すれば残業代(割増賃金)が発生することを認識しつつ、残業命令をするような場合には、本業先の負担となります。
このように、本業先も残業代(割増賃金)支払い義務を負担する可能性がありますので、副業を認める場合、副業の状況を労働者に報告させるなどして副業先での労働時間を把握し、管理できる体制をつくることが必要です。
通勤手当や通勤災害について
本業先から副業先へと移動する場合、通勤手当を誰がいくら支払うべきかが問題となります。また通勤災害が発生した場合の責任者も変わります。
本業が終了してから副業先へ移動中の事故は、基本的に副業先が責任を負うからです。無用なトラブルを回避するためにも、このようなこともルール化して明確にしておく必要があります。
社会保険料について
社会保険については、適用要件は事業所ごとに判断されますので、本業と副業それぞれで適用要件を満たす必要があります。
両者で適用要件を満たす場合には、労働者がいずれかの保険者(年金事務所等)を選択することになります。
副業を禁止してきた就業規則を変更する際には、以下のような点に注意しましょう。
まずこれまでの「副業禁止条項」を改めて「副業を認める」ことを明確にします。
ただし、労働者が会社に何の報告もなく副業に従事することまで認めると、会社が不測の損害を被る可能性があるため、必ず「事前に会社に対する届出または許可を要する」と規定しましょう。
次に、「会社が副業を禁止、制限できるケース」についても定めておくべきです。
たとえば、本業に支障が生じる場合、競合他社で副業を行う場合、本業先の秘密情報を漏えいされる危険がある場合、本業の名誉や信用が損なわれる場合などには、副業を禁止できると定めておきましょう。
モデル就業規則の例
副業を解禁するために就業規則を変更する際には、以下の流れで進めます。
まずは会社の経営陣で話し合い、十分議論を尽くして副業制度の導入方法を決めます。そして就業規則の変更案を作成します。
変更案ができたら労働組合または労働者の過半数の代表者と協議をして、意見を聞きます。可能な限り同意を得るように説明と説得を尽くしましょう。その上で労働者側の意見をまとめた意見書を作成します。
意見書ができたら、改正した就業規則と意見書を労働基準監督署長へ届け出て、受理印をもらいます。
受理印をもらった就業規則を、労働者がいつでも閲覧できる場所に掲示、備え付ける等して、労働者に周知させれば、就業規則の変更が完了します。
ここまでは副業を解禁する場合の説明をしてきましたが、まだまだ副業は禁止し続けたいと考える会社も多いことでしょう。
副業を禁止している会社において、労働者が就業規則に違反して副業した場合、会社はその労働者を解雇できるのでしょうか?
従来の裁判所の考え方によれば、副業禁止規定を守らずに別の仕事をしたことだけを理由とする解雇は認められにくいです。
労働者がどこでどのように働くかは、基本的に労働者の自由だからです。本業に支障を来さない程度の副業であれば、本業先が禁止する合理的な理由がありません。
ただし以下のようなケースでは労働者を懲戒できる可能性があります。
また懲戒権を行使するためには少なくとも就業規則上の根拠規定が必要です(最判S54.10.30労判329号12頁国鉄札幌支部事件)。
従いまして、副業によって労働者を懲戒するには、必ず就業規則に副業の制限規定と当該制限違反を懲戒事由とする規定を定め、当該規定に従って懲戒の手続きを進める必要があります。
一般的に、懲戒処分には、軽い方から、けん責・戒告(注意すること)、減給(給料を一定額差し引くこと)、降格(地位を下げること)、出勤停止(一定期間出勤を禁止すること)、懲戒解雇(強制的に退職させること)があります。
副業禁止規定に違反したらすぐに懲戒解雇が認められるわけではありませんので、違反内容や会社側に与えた損害の程度により、どういった懲戒処分を適用すべきか慎重に検討しましょう。
このように、副業禁止規定に違反した場合に、懲戒処分をするためには、副業禁止規定と懲戒処分について必ず就業規則で定めて労働者に周知しておく必要があります。副業に関する就業規則の定め方、運用方法について具体的に相談したい方は、弁護士までご連絡ください。
問題社員のトラブルから、
これからの時代、ビジネスを進めていくのに「副業を全面的に禁止する」という姿勢では良い人材も集めにくくなりますし、社内の風通しが悪くなって成長が停滞する可能性もあります。世界でも副業を認める流れがありますし、日本社会においても一定の副業制度を導入せざるを得なくなってくるでしょう。
今回は副業を解禁する場合の基礎知識を説明しましたが、副業を解禁する際にはどのようなことに配慮すれば良いか、また就業規則をどのように定めるべきか等より具体的に検討を進めたいとお考えのようでしたら、ベリーベスト法律事務所までご相談ください。
労働法務に通じた弁護士が、どのような就業規則にすべきか、具体的なアドバイス・ご提案をいたします。
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