企業法務コラム
人事採用では売り手市場が続いており、各社の人材獲得競争はますます激しさを増すばかりです。
優秀な人材を集めたいがために、本来知らせるべき情報を求人票に明示しなかったり、面接で聞くべきではない事項を質問したりする企業もあり、注意が必要です。場合によっては、「法律違反」になって罰則を適用される可能性もあります。
今回は人事採用に関する法律や罰則をご紹介しますので、人事採用担当者の方はぜひとも参考にしてみてください。
そもそも、企業の採用活動は法律で規制されるものなのでしょうか?
各企業には「採用の自由」があり、募集方法や採用人数、採用基準について企業は自由に決めることができます。
一方、憲法は1人1人の国民に「職業選択の自由」を保障しています(憲法22条)。
そして、個々の国民の職業選択の自由を十分に保障するためには、採用者である企業側が差別をせず公正な方法で選考することを求められます。不公平かつ差別的な採用活動が行われて門戸が閉ざされてしまったら、個々の国民の職業選択の自由は実質的には保障されないのと同じになるためです。
公平で不合理な差別のない採用を実現するためには、企業の自主性に任せるだけではどうしても難しいでしょう。そこで、雇用者である企業側の採用活動に対しては、さまざまな法律による規制がもうけられ、これによって不公正な採用が行われることを防止しているのです。
問題社員のトラブルから、
まずは企業が求人募集する際に適用される、法律による制限をみていきましょう。
求人票には法律上記載しなければならない項目が決まっています。
また、法律によって求人情報として記載してはならないとされる項目もありますので、求人広告を出す際に合わせて確認しましょう。
職業安定法5条の3と職業安定法施行規則4条の2において、以下の事項を求人票に記載しなければならないとされています。
以下のような記載は法律上禁止されています。
応募者に誤解を与える表現をすると職業安定法違反となり、6か月以下の懲役刑又は30万円以下の罰金刑が適用される可能性があります(職業安定法65条)。
問題社員のトラブルから、
採用面接の際にも、応募者への質問を回避すべき事項や提出を求めてはならないものがあります。以下で順番にみていきましょう。
厚生労働省の「採用先行自主点検資料」によると、以下のようなことは、面接で質問することは回避すべきと記載されています。
以下のような本人の適性や能力と関係のない情報が記載された書類は面接の際に提出を求めるべきではありません。
厚労省が資料の中で示した上記基準は法律ではないため、違反しても罰則を受けるわけではありませんが、職業安定法5条の4は、本人の同意がある場合やその他の正当な事由がある場合を除いて、業務の目的達成に必要な範囲を超えて求職者の個人情報を収集してはならない旨を定めています。
この法律に違反すると行政から改善命令が発せられますが、その改善命令にも従わない場合には、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります(職業安定法65条)。
問題社員のトラブルから、
企業が従業員を雇い入れるとき、労働基準法15条第1項及び労働基準法施行規則第5条で、労働者に「労働契約書(雇用契約書)」または「労働条件通知書」という書面を交付して労働条件を明示しなければならないと定められています。
しかし、2019年4月以降は労働者が希望した場合には、メール等の方法で労働条件を通知する方法も認められるようになりました(労働基準法施行規則第5条4項)。
上記(2)①~⑭までの労働条件明示義務に違反すると、30万円以下の罰金刑(労働基準法120条1号)、上記(2)⑮~⑱までの義務に違反すると10万円以下の過料(パートタイム労働法31条)が適用される可能性があります。
問題社員のトラブルから、
企業が採用活動を行うとき、いったん採用を内定したにもかかわらずこれを取り消すことにはリスクがあります。
判例上、採用内定者と企業との間には、採用する企業の側が一定の場合に行使できる解約権を留保しているものの、採用内定の段階で既に労働契約(解約権留保付労働契約)が成立していると考えられています。
採用内定すると一種の「労働契約」が成立するので、「試用期間」と同じような状態になります。
すると、「内定取消し」は解雇と同じですから、採用内定者側の同意がない限り、企業側の一方的な都合で取り消すことは認められません。
企業が採用内定を取り消せるのは、以下のようなケースです。
採用内定を取り消す際には、以下のように手続きを進めましょう。
問題社員のトラブルから、
企業が採用活動を行うときには、法律を守りながら進める必要があります。
法律による規制を知らずに適当な方法で求人募集を行うと、知らない間に違法行為をしてしまい、罰則を適用されたり応募者から裁判を起こされたりするリスクも発生します。
このようなリスクを避けるため、当初から弁護士に相談しながら安全な方法で優秀な人材を募集しましょう。
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