企業法務コラム
採用面接の際、面接を受けに来た方に対して「聞いてはいけないこと」があります。
良かれと思ってした質問が「法律違反」「人権侵害」や「就職差別」になってしまう可能性もあるので要注意です。
今回は経営者や人事採用担当者が知っておくべき、法的・倫理的に聞いてはいけない質問について、弁護士が解説します。
会社が求職者と面接する際、応募者の「基本的人権を尊重すること」と「応募者の適性と能力のみを選考の基準とすること」の2点を意識する必要があります。
職業安定法では、「必要な範囲を超える求職者の個人情報を同意なしに収集してはならない」と定められており、面接時に不適切な質問をすると違法となってしまう可能性も発生します。
これを具体化するために厚生労働省は「面接で聞くべきではない項目」を具体的に11個挙げているので、それぞれみていきましょう。
参考:厚生労働省ホームページ 公正な採用選考の基本
面接時、本人に責任のない事項の把握は避ける必要があります。
そういった事情を選考資料とすると特定の応募者に不当な不利益が発生する可能性があるためです。
① 本籍・出生地に関すること
「出身地はどこですか?」「生まれてから今までずっと同じ住所?」などの質問です。
「戸籍謄(抄)本」や本籍が記載された「住民票(写し)」を提出させることもしてはいけません。
② 家族に関すること
職業や続柄、健康、病歴、地位、学歴、収入、資産などの事項も聞くべきではありません。
「お父さんのお仕事は?」「ご両親の出身地は?」「年齢や健康状態は良好ですか?」などの質問が聞くべきではないものとなります。
③ 住宅状況に関すること
「家の間取りは?」「賃貸住宅ですか?」などの質問や、部屋数、自宅の周辺施設などの確認もするべきではないでしょう。
④ 生活環境・家庭環境などに関すること
「同居している人はいますか?」など、現在や過去の生活環境や家庭環境について話題にすべきではありません。
思想や信条は本来自由であるべきことなので、質問して候補者の選考時に考慮することは許されません。
⑤ 宗教に関すること
「宗教を信じていますか?」「何の宗教を信じていますか?」などと、宗教に関する質問を聞いてはなりません。
⑥ 支持政党に関すること
「何党を支持していますか?」「先日の選挙では、誰に投票しましたか?」「ご家族の支持政党は?」など支持政党に関する質問もしてはいけません。
⑦ 人生観、生活信条に関すること
「将来どのような人になりたいですか?」「信条としていることはありますか?」などです。こういったことは「一般的な話題」と思って聞いてしまいがちですが、配慮すべき事項に含まれるので要注意です。
⑧ 尊敬する人物に関すること
「誰を尊敬していますか?」という尊敬する人物に関する質問もしてはいけません。
⑨ 思想に関すること
業務と関係ない個人的な物の考え方などについて採用担当者側から話題を振るべきではありません。
⑩ 労働組合に関する情報
これまでの活動歴や加入状況、学生運動など社会運動に関することを聞いてはなりません。
⑪ 購読新聞・雑誌・愛読書など
「何の新聞を読んでいますか?」「愛読書は何ですか?」などの質問はしてはいけません。
採用担当者の方は、上記の「NG質問例」をしっかり把握する必要があります。
問題社員のトラブルから、
採用面接時には、質問だけではなく以下のような行為も不適切とされています。
選考の際、本人の責任のない事項を把握すると、不当な偏見や就職差別につながるおそれがあるため、すべきではありません。同じ理由で会社側が「身辺調査」を行うことも避けるべきでしょう。調査会社などを雇って身辺調査を行い、情報収集してはなりません。
面接の際、本籍地や家族関係、出身地などを質問してはならないことになっています。
同じ理由で戸籍謄本や本籍地の記載された住民票などの提出を要求することもしてはなりません。
自宅までの略図を書かせると、生活環境の把握や身元調査につながる可能性があるので控えるべきです。
応募者の適正と能力を判断する上で合理的かつ客観的に必要である場合を除き、採用時の健康診断は実施すべきではありません。適正と能力を判断する上で不要な検査結果により差別や不採用につながるおそれがあるからです。
実施する場合でも、その検査内容と必要性について応募者に十分に説明をしましょう。
もし、面接時に聞いてはいけない質問をしてしまったら、会社側はどういったリスクを負うのでしょうか?
職業安定法は、「採用選考の際、必要な範囲を超える個人情報を同意なく収集してはならない」旨を定めており、違反すると厚生労働大臣から改善命令がなされ、当該改善命令にも違反すると「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金刑」が適用されます。
面接時に、会社側が求職者の本籍地や家族関係、思想信条や宗教、支持政党などの情報を集めると、職業安定法違反となってしまいます。
面接を受けた応募者が不快に思って通報したら、指導や改善命令が出される可能性がありますし、命令に従わなければその旨の公表をされたり書類送検されたりするおそれもあります。
今は多くの学生や求職者がインターネットで情報収集をしています。
面接で不快な質問をされた学生や求職者が、転職口コミサイトやSNSなどに「○○社では面接でこのようなことを聞かれた」などと書き込むと、会社のイメージダウンに繋がります。
評判が悪くなって応募する人が減ったり、現在の従業員のモチベーションが下がってしまったりする可能性がありますし、取引先からの信用を失うリスクもあります。
面接の際には、仕事や能力と無関係な個人的な質問はすべきでありません。
たとえ、「場を和ませるため」「一般的な話題」と思って質問した内容でも、個人的な内容で応募者が不快に感じたら問題が発生する可能性があります。
人事採用の担当者は、「聞いても良いこと」「聞くべきではないこと」についてしっかり理解しておきましょう。
採用面接の際、以下のようなことであれば聞いても問題ありませんし、むしろ聞くべきものもあります。
① これまでの職歴、経歴、実績など
これまでの職歴や経歴、実績、得意なことなどは採用選考に当たって重要な情報となるので、聞いても問題ありません。
② 応募した動機や就職後にやりたいこと、目指したいこと
志望動機や就職後に携わりたい業務内容、取得したい資格、今後目指すべき仕事人としてのイメージなどについては、業務に関することなので質問しても問題ありません。
③ 自社へのイメージ
「自社へどういったイメージを持っているか?」という質問も、志望動機ややりたいことと関係するので聞いてもかまいません。
④ 健康情報の調査について
面接採用時、健康診断を一律で実施することは控えるべきですが、業務の目的達成に必要な範囲内であれば可能です。
たとえば、配送等のドライバーを募集するにあたって、事故を防ぐために失神等の発作の有無を確認することは必要であると考えられています。
面接時に確認しなかったことによりトラブルが発生するケースもあるので、以下では必ず確認すべきことをお伝えします。
① 資格、経歴について
応募者の保有する資格や転職歴などの経歴についてはしっかり確認しておきましょう。
資格や経歴を信頼して採用しても、実は詐称していたというケースは少なくありません。
そうすると、解雇などのトラブルに発展してしまう可能性があります。
② 犯罪歴
過去に犯罪歴がある場合でも、応募者は「質問されない限り」答える必要がありません。
直接面接の場で質問するか、提出書類の中に「賞罰」の欄を設けて応募者が申告しなければならない状態にしましょう。
問題社員のトラブルから、
新規採用でも中途採用のケースでも、採用活動の際には「適切な面接」を行うべきです。
法律上聞くべきではないことがいくつかありますが、反対に聞いておかないと入社後トラブルにつながる事項もあります。
自社の面接・採用の進め方に不安がある場合は、弁護士がアドバイスをいたします。
顧問弁護士がいれば、普段から採用面接の方法や人事担当者への指導などを受けられますし、万一応募者側とトラブルが発生しても対応できて安心です。
ベリーベストでは、各業種に合わせて弁護士が法律的な支援を行っていますので、面接方法を始めとしたコンプライアンス上の不安を抱えている場合には、お気軽にご相談ください。
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