企業法務コラム
労働者との間で未払い残業代や不当解雇などのトラブルが発生した場合、労働者から労働審判の申し立てをされることがあります。
労働審判は、訴訟に比べて迅速かつ柔軟な解決が可能な手続きですが、限られた期間で対応しなければなりませんので、事前の準備が非常に重要となります。そのため、労働審判で適切な対応をするためには、労働審判の流れや注意点をしっかりと理解しておくことが大切です。
今回は、労働者側から労働審判を申し立てられた場合における企業側の対応とその注意点について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
労働審判とは、どのような手続きなのでしょうか。
以下では、労働審判の概要と特徴について説明します。
労働審判とは、事業主と労働者との間で生じた労働関係のトラブルの解決を目的として行われる紛争解決手段です。
労働審判では、労働審判官という裁判官1名と民間から選ばれる労働問題に関する知識や経験を有する労働審判員2名で構成される労働審判委員会が審理を担当します。
主に以下のような事件が労働審判制度の対象となります。
労働審判には、主に以下のような特徴があります。
労働審判は、原則3回以内の期日で終了することとされています。
裁判だと証拠に基づいて事実認定を行いますので、争いがある事件だと判決がでるまで1年以上の期間を要するものも少なくありません。
しかし、労働審判事件では、平均で約2か月半の期間で審理が終了しますので、通常の裁判に比べて迅速な解決を期待できます。
裁判は、白か黒かを明らかにする手続きですので、いわゆるグレーな解決は期待できません。しかし、労働審判は、まずは当事者同士の話し合いによる調停での解決を試みます。
そのため、法律論にとらわれない柔軟な解決が可能です。
労働審判には、労働問題に関する豊富な知識と経験を有する労働審判員が審理に参加します。裁判官だけだと労働問題の実態をよく理解していないこともありますが、労働審判員も審理に参加することで、より実態に即した判断が期待できます。
問題社員のトラブルから、
労働者側から労働審判を申し立てられた場合、企業側としてはどのような対応が必要になるのでしょうか。
以下では、労働審判の流れと企業が対応すべきことについて説明します。
労働審判は、主に労働者からの申し立てによりスタートします。
労働者から労働審判の申し立てがあった場合、裁判所から以下の書類が届きます。
これらの書類が届いたら、まずは「期日呼出状および答弁書催告状」を確認して、労働審判の第1回期日の日程と答弁書の提出期限を把握するようにしましょう。
企業側は、裁判所に定められた期日までに答弁書を作成し、提出しなければなりません。
労働審判は、原則3回以内の期日で終了しますので、最初に提出する答弁書の内容が非常に重要です。
労働者からの申立書の内容を十分に精査して、効果的な反論をしていく必要があります。また、反論を裏付ける証拠がある場合にはそれも一緒に提出します。
労働審判の第1回期日は、労働審判の申し立てから40日以内の期日が設定されます。
第1回期日では、労働審判委員会が当事者双方から事情を聞いて、争点を明らかにしていきます。
一通り事情聴取が終了すると、労働審判委員会から話し合いによる解決(調停)の打診がなされるのが一般的です。
第1回期日で調停が成立しない場合には、第2回期日および第3回期日が設定されます。企業側としては、労働審判期日で企業側の言い分をしっかりと伝えるとともに、労働審判委員会から示された解決案を検討する必要があります。
労働審判は、調停の成立または労働審判により終了します。
労働審判期日において、企業側および労働者側が労働審判委員会から提示された解決案に合意した場合には、調停成立により労働審判の手続きが終了します。
調停が成立しない場合は、裁判所が審判を出して手続きが終了します。
労働審判に対して不服がある場合には、審判の告知を受けた日(審判書を受け取った日)から2週間以内に異議申し立てができます。
異議申し立てがなされると労働審判の効力が失われ、通常訴訟の手続きに移行します。
異議申し立ての期間は、非常に短いため、企業側としては労働審判の内容を精査して、異議申し立てをするかどうかを早めに判断するようにしましょう。
企業が労働審判に臨む際の注意点としては、以下のようなものが挙げられます。
前述のとおり、労働審判は原則3回以内の期日で終了し、事実確認が行われるのは基本的には第1回期日がメインとなります。このように審理が短期間で行われるため、企業側に有利な判断をしてもらうためには、最初の期日までの準備が重要となります。
しかし、裁判所から労働審判の申立書が届いてから最初の期日までは、非常にタイトなスケジュールになっていますので、知識や経験がなければ限られた時間内で必要な準備を整えるのは難しいといえます。
スピーディーに答弁書の準備・証拠の選別を進めて審理に臨まないと、解決金の支払いに数百万の違いが出るケースもありますので、一刻も早く弁護士に相談すべきでしょう。
第1回期日では、当事者双方の主張を踏まえて、労働審判委員会から解決案が提示されます。その場で判断することは難しいケースも多いため、第2回期日を設定してもらい、じっくりと解決案に応じるかを検討しましょう。
その際には、調停による早期解決というメリット、裁判になった場合に勝訴可能性、時間や費用の負担などを踏まえて、調停に応じるかどうかを見極めましょう。
労働審判に対して異議申し立てがあった場合には、通常の訴訟手続きに移行します。その際には、労働審判で主張した事実や提出した証拠が訴訟でも援用される可能性がありますので、訴訟を見据えて主張立証を行うことが大切です。
労働審判で企業側の手の内をすべて明らかにしてしまうと、通常訴訟に移行した際に不利になる可能性もありますので注意が必要です。
労働者側から労働審判を申し立てられた場合は、早めに弁護士に相談するようにしましょう。
労働審判の審理は非常に短期間で行われますので、スピーディーに答弁書の作成や証拠の準備を進めていかなければなりません。
そのためには、労働審判の手続きを熟知していることはもちろんのこと、労働問題に関する知識や経験が不可欠になります。
弁護士に依頼すれば、答弁書の作成や証拠収集をサポートしてもらえますので、限られた期間でも充実した主張立証を行うことができます。
弁護士に依頼をすれば、労働審判期日に同行してもらうことができます。
基本的な事実関係は、当事者である企業側の担当者が説明することになりますが、法的主張や和解に関する事項については弁護士が代理人として対応することが可能です。
また、緊張から企業側の担当者が不正確な説明をしているような場合には、弁護士から補足することで誤った事実が伝わることを防ぐこともできます。
不慣れな労働審判の手続きでは不安も多いと思いますので、弁護士に同行してもらいアドバイスやサポートを受けるのが安心といえるでしょう。
労働審判に対して異議申し立てがあった場合には、通常の訴訟手続きに移行します。
訴訟では、労働審判のような話し合いの手続きではなく、証拠に基づいて事実認定を行っていく必要がありますので、専門的な知識や経験が不可欠になります。
労働審判の対応を弁護士に依頼していた場合には、訴訟になった場合でも引き続き対応してもらうことができます。
問題社員のトラブルから、
労働審判は、裁判とは異なり迅速かつ柔軟な解決が期待できる手続きです。
しかし、その反面、非常にタイトなスケジュールで進みますので効果的な主張反論を行うためには、弁護士によるサポートが不可欠になります。
また、顧問弁護士を利用することで労働審判などに発展する事態を事前に回避できる可能性が高くなりますので、顧問弁護士の利用もおすすめです。
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