企業法務コラム
インターネット通販を行うときなどには「ポイントサービス」を導入するとユーザーにも運営者側にもメリットがあります。
しかし、ポイントサービスには「資金決済に関する法律」(以下「資金決済法」といいます)を始めとする複数の法律が関わるので、知らず知らずのうちに違法行為をしてしまわないよう、正しく対応する必要があります。
今回は、ポイントサービスを導入する際に必ず押さえておくべき「資金決済法」と関連する法律について、弁護士が解説します。
資金決済法は、支払い(資金決済)についての利便性や安全性、効率性を向上させるために作られている法律です。具体的にはどのような内容を定めているのか、概要・ポイントを確認しましょう。
前払式支払手段とは、わかりやすく言うと、現金の代わりに使える支払いの媒体です。ただし、(3)で述べる仮想通貨(暗号資産)は除きます。
前払式支払手段の例を挙げると電子マネーやポイントなどです。プリペイド方式の支払い方法と考えてもわかりやすいかもしれません。資金決済法では前払式支払手段を規制対象としています。
資金決済法がどのような規制をしているかについては、後で詳しく述べます。
資金移動は基本的に銀行が行うものですが、銀行業の免許がなくても、資金決済法にもとづく登録をすれば「資金移動業者」として為替取引(1回あたり100万円以下)ができます。
営利目的で反復継続して仮想通貨と金銭の交換や仮想通貨どうしの交換を行う場合には、仮想通貨交換業の登録が必要になります。なお、仮想通貨は、法改正により「暗号資産」と改称されることが決まっており、仮想通貨交換業は、法改正が施行された後、「暗号資産交換業」と呼ばれることとなります。
資金清算業とは、銀行間の資金清算を行う機関です。資金決済法では資金清算業者を免許制としており、現在は「一般社団法人全国銀行資金清算ネットワーク」(全銀ネット)がその免許を受けています。
ポイントサービスも資金決済法が規制する「前払式支払手段」に該当する可能性があるため、導入の際には法律による規制内容を正しく理解しておく必要があります。
ポイントサービスとも関係が深い資金決済法の「前払式支払手段」についてもう少し詳しく理解しましょう。
前払式支払手段とは、現金の代わりに使える商品券やプリペイドカードなどの財産的価値のあるもので、対価を払って購入するものです。
なお、前払式支払手段には、発行者との関係でのみポイント等を使うことができる「自家型」(典型例としては、ゲーム内通貨のうち特定のゲームでしか使えないもの)と、発行者以外に、発行者が指定する第三者に対しても使うことができる「第三者型」(典型例としてはPASMO)がありますが、ここでは、「自家型」のみを取り扱うこととし、以下で単に「前払式支払手段」といった場合、自家型前払式支払手段をいうものとします。
前払式支払手段に該当する要件は以下の3つです。
つまり対価と引き換えに購入するもので、金銭的価値が表象されていて、発行者との関係では現金の代わりのように決済に利用できるものが前払式支払手段です。
■ あてはまる例
前払式支払方法にあてはまるのは、以下のようなものを発行しているケースです。
■ あてはまらない例
前払式支払手段に該当するには「対価性」が必要なので、無償で得られる権利は該当しません。たとえば「おまけ」や「景品」としてポイントを付与するだけなら、規制対象になりません。
また、発行から6か月以内で消滅するポイントなど、6か月を超えると使用できなくなるものも、法律上、前払式支払手段には該当しません。
以上のように、資金決済法による規制を受けるかどうかは「ユーザーが対価を払うかどうか」によって決まります。対価を払わせるなら資金決済法による規制を受けますし、前述のとおり、「おまけ」のポイントのように払わなくて良いなら資金決済法の適用外です。
もし、自社が導入しようとしているポイントサービスが前払式支払手段に該当する場合、資金決済法によって以下のような規制が及びます。
供託義務
前払式支払手段を導入する事業者には、サービス利用者保護のために一定資金の供託を求められます。具体的には一定の基準日に未使用のポイント残高が1000万円を超過する場合、残高の2分の1以上の金額を供託しなければなりません。最低供託額は500万円です。
ただし、金融機関や信託会社と「発行保証金保全契約」を締結し、内閣総理大臣に届け出をすれば供託義務を免れます。
表示に関する義務
前払式支払手段を導入する事業者は、ウェブサイトなどのわかりやすい方法で、以下の事項を表示する義務があります。
■ 行政への報告義務
前払式支払手段の未使用残高が1000万円を超えると資金決済法の規制対象となりますので、まず、事業者は国(具体的には、管轄する財務局)に対して「前払式支払手段の発行届出書」を提出しなければなりません。その後も、定期的に国へと「前払式支払手段の発行に関する報告書」を提出する義務を負います。報告書には、以下のような内容を記載します。
ただし、基準日以降に未使用残高が1000万円以下になると、報告義務はなくなります。
■ 未使用分払い戻しの義務
ポイントサービスを終了する際などには、事業者は利用者へ対し、ポイント未使用分に相当する「お金」払い戻す義務を負います。
■ 義務に違反した場合のペナルティー
前払式支払手段を導入し、資金決済法による規制対象となったのに規制に従わない場合、最大3年以下の懲役または300万円以下の罰金刑あるいはその併科を科される可能性があります。
企業がポイントサービスを導入しようとするときには、資金決済法以外にも守らねばならない法律があります。
景品表示法は、事業者がユーザーへ「景品」を提供することによって自社サービスの利用や購入へと誘導することを規制する法律です。
規制対象となるのは、ポイントが「景品」に該当するケースです。
景品とは、簡単にいうと会員などのユーザーが自社商品を購入した際などに、対価として経済的な利益を与えることです。ただし「値引き」や「アフターサービス」の範囲内であれば規制対象になりません。
ポイントサービス制を導入する際、自社が発行し、自社のみに通用する自社ポイントと、Tポイントなどの他社との共通ポイントを導入する方法の2種類があります。このうち自社ポイントは「値引き」の範囲内と認めてもらえる可能性がありますが、共通ポイントは値引きになる余地がないので、必ず景品表示法が適用されます。
景品表示法が適用される場合、付与できる景品に限度額が課されます。もれなくプレゼントされるもの(「総付景品」といいます。)であれば、基本的に1,000円未満であれば200円まで、1,000円を超える場合は取引価額の2割が限度となります。
ポイントサービスを導入する場合には、消費者契約法にも注意が必要です。消費者契約法は、消費者にとって一方的に不利益となる規約や契約条項を無効としているからです。
たとえば、ポイントの有効期限については、基本的に発行企業が自由に「当社所定の期間」を定めることが可能です。しかし、ユーザーがポイントを購入しても利用が困難となるような短すぎる期間を設定すると、そのサービス規約が消費者契約法10条によって無効とされる可能性があります。
会員に対する事前の予告なしに突然サービス内容を変更・廃止してポイントを失効させた場合にも、消費者の利益が害されるため無効となる可能性があります。
以上のように、ポイントサービス提供事業者には、ユーザーの利益を考慮したルール作りが求められます。
わかりやすく顧客側に誤解を招くことのない表記を心がけましょう。
もし、御社がポイントサービスの導入を検討されているなら、事前に弁護士に相談されることをお勧めします。以下で弁護士に相談・依頼するメリットをご紹介します。
御社が提供しようとしているサービスモデルが各法律に違反しないか、どのような法律によってどういった制限を受けるのか、弁護士が正しくリーガルチェックします。このことで、法律に違反しないでポイントシステムを導入することが可能となります。
ポイント制度を導入するときには、資金決済法や景品表示法などの関係法令に違反しない仕組みを作る必要があります。具体的な対処方法は、そのポイントが自社ポイントなのか自社以外の事業者が提供する共通ポイントなのか、またポイント還元率などによっても異なってきます。
弁護士に相談をすれば、御社が導入しようとしているポイント制度にどのような規制がかかるのかがわかりますし、各種法律に違反しないようなシステム作りのサポートを受けられます。
ポイントサービスを導入する際には、ユーザーへ向けた利用規約の作成が必要です。ここでも資金決済法にもとづく表示義務などが課されるので、法的規制に注意が必要です。
弁護士に相談すれば、法規制内容に配慮した規約作成を依頼できるので、安心です。
前述のように、前払式支払手段の発行に当たっては、届出及び定期的な報告が必要となる場合があります。弁護士に依頼することにより、これらの届出及び報告を怠ったとして違法な事業者であると指摘されるリスクを避けることができます(なお、第三者型前払式支払手段の場合は、より厳しい「登録」が必要になります。)。
現実にトラブルが発生した場合にも、弁護士に相談すれば解決に向けての活動をしてくれます。
たとえば、顧客ともめてしまったときには交渉などの対応を依頼できますし、行政機関から指摘を受けた際には書面提出や資料作成などの対応を任せられます。
資金決済法に関するリーガルチェックなどを単発で依頼することも可能ですが、継続的に顧問弁護士契約を締結するとよりメリットが大きくなります。顧問弁護士は依頼企業の状況や希望、社風などをよく理解しているので自社の希望内容に応じたポイント制度を設計しやすいですし、顧問先にトラブルが起こったときに優先的に動くことができるからです。
また、顧問弁護士であれば、資金決済法上提出を義務付けられた届出書を提出するタイミングも把握することができますので、同法に違反するリスクを避けることができます。
売上金や商品代金の一部を利用者に還元することによりポイント制度を導入すると、サービスの向上に役立ちます。
ただし、ポイント制度には資金決済法や景品表示法にもとづく規制がかかるので、法律に関する正しい知識が求められます。これらの法律は一般に周知されているものではないので、適切に対応するには弁護士によるサポートが必要といえるでしょう。
資金決済法などの法規制内容が気にかかっている場合、まずはお気軽に弁護士へご相談ください。
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