企業法務コラム
高齢化社会の進展に伴い、親の介護を理由に退職せざるを得ないという方も少なくありません。従業員本人としても仕事を辞めることは本位ではないということもあるでしょう。
他方、企業としても、介護のためという理由で優秀な社員をできれば手放したくないという思いがあるはずです。これらの事情を踏まえ、介護と仕事の両立をはかるため、法律で「介護休暇」や「介護休業」制度が定められています。
そこで、今回は、介護休暇の概要や取得条件、介護休業との違い、企業が気を付けるべきことなどについて解説いたします。
介護休暇とは、病気やケガあるいは高齢などの理由で、家族の介護が必要になった場合に取得できる休暇のことです。
介護休暇は、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(以下単に「法」といいます。)で規定されている制度です。
具体的には、
要介護状態にある対象家族の介護その他の厚生労働省令で定める世話を行う労働者は、その事業主に申し出ることにより、一の年度において五労働日(要介護状態にある対象家族が二人以上の場合にあっては、十労働日)を限度として、当該世話を行うための休暇を取得することができる。
と規定されています(法第16条の5)。
つまり、介護が必要な場合、要介護者が1人の場合には5日、2人以上の場合には10日まで企業に対し申請すれば介護休暇がもらえるということです。
厚生労働省令で定める世話とは?
「厚生労働省令で定める世話」とは、対象家族の介護と通院等の付添い、対象家族が介護サービスの提供を受けるために必要な手続の代行、その他の対象家族の必要な世話になります。
食事や排泄などの直接的な介護はもちろん、病院への送迎や買い物、事務手続きの代行などの間接的な介護もできます。
問題社員のトラブルから、
介護休暇制度は、2021年1月から1時間単位で介護休暇を取得できることになります。
買い物や各種手続などは、半日も休まなくてもできることから、1時間単位で介護休暇が取れるようになりました。仕事と介護を両立する人が増えるなか、休暇の取得内容についても柔軟に対応できるようにしたものです。
介護休暇制度が始まった頃は1日単位でしたが、2017年に半日単位で取得できるようになりました。しかし、「半日単位では使いづらい」などの指摘が出ていたことから、今回の改正につながりました。
1日の所定労働時間が4時間以下の労働者については、1日単位でしか介護休暇は取れませんでしたが、改正後は、時間単位での介護休暇の取得ができるようになります。
問題社員のトラブルから、
「介護休暇制度」を利用するには、一定の条件を満たす必要があります。
介護休暇を取得できるのは、
日々雇用以外の全労働者です。
正社員はもちろん、アルバイトやパート、派遣社員や契約社員も含まれます(法16条の5)。
また、介護休暇を取得するための「要介護状態」とは、負傷、疾病または身体上若しくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態のことをいい(法2条3号)、要介護認定を受けていなくても、介護休暇の対象となります。
要介護者の範囲は、配偶者(事実婚も可)・実父母・配偶者の父母・子・同居かつ扶養している祖父母・兄弟姉妹・孫のことを指します(法2条4号)。
これ以外の人を介護しても介護休暇は取得できません。
常時介護を必要とするかどうかの判断は、細かな判断基準が厚生労働省から公表されているので、その基準に従って判断します。
企業から、対象家族が要介護状態にあることを証明する書類の提出を求められた場合には、その事実を証明する書類を提出する必要があります。
基本的には、これらの条件が揃えば介護休暇を取得できます。
ただし、企業と労働者が介護休暇に関する労使協定を締結している場合には、適応外となることがあるので注意が必要です。
問題社員のトラブルから、
介護休業とは、負傷や疾病、身体もしくは精神上の障害などの理由から、2週間以上の期間に常時介護が必要な対象家族を介護するための休業を指します。
介護休暇と同様に「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」により定められた労働者の権利です。
「介護休暇」と「介護休業」の違いは、
です。
介護休暇の場合
介護休暇は1の年度において5労働日を限度とします。
(要介護状態にある対象家族が2人以上の場合にあっては、10労働日)
介護休業の場合
介護休業は要介護状態にある対象家族1人あたり通算93日までとなっています(法15条1項)。
介護休業の方が期間は長いですが、介護休暇が「1の年度」なのに対し、介護休業は「通算」なので、一度93日使ってしまうとその後は使うことができません。
介護休暇の場合
介護休暇は短期間ということもあり、「介護休業給付金」は支給されません。
介護休業の場合
他方、介護休業の場合、長期間にわたるので、その間の休業補償として「介護休業給付金」が支給されます(雇用保険法61条の6)。
介護休業給付金の給付額は、以下の通りです。
また、介護休業開始日から10日以内に「休業開始時賃金証明書」を提出しなければなりません。受給資格は、介護休業を開始した日前2年間に雇用保険の被保険者期間が12か月以上あることです。
ただし、介護休業開始時点において、有期雇用労働者の場合は、介護休業開始時において、
が必要です。
介護休暇の場合
申請は書面が原則ですが、当日に電話だけでも取得することは可能です。
その場合、事後に申出書を提出します。
介護休業の場合
他方、介護休業は原則として開始日の2週間前には申出書を提出しなければなりません。長期間休むことになるので、予め計画を立て早めに申告する必要があるからです。
問題社員のトラブルから、
介護休暇は、法律上「取得することができる」と定められており、企業は正当な理由なくそれを拒むことは許されません。
当然のことながら、介護休暇を取得したことを理由に解雇したり、降格、減給、賞与の削減をしたりといった不利益を課すことも許されません。
しかし、残念なことに一部の企業において社員が企業に介護休暇を申し出たのに、企業から拒否されてしまうことがあるようです。
その結果、有能な社員が介護と仕事の両立は無理だと判断して離職してしまうという実情があります。
このような事態は、企業が介護休暇の制度について無理解なことが原因ですが、結果として優秀な社員が介護を理由に離職してしまうことは、企業にとっても、社員にとっても不幸なことです。
このようなことがないよう、介護休暇制度をよく理解し、制度をうまく使い、優秀な人材の離職に歯止めをかける必要があります。
介護休暇を取得したときの賃金に関しては法的な定めはなく、それぞれの企業が支払うかどうかを判断することができます。
介護休暇を取得した日も給与の何パーセントかを支給するところもあれば、無給のところもあります。
そのため、労働者の立場からすると介護休暇が無給の場合には、有給休暇を使った方が有利ということもあるので注意が必要です。
企業としては、福利厚生の観点から給与の一定割合を払うのが望ましいと言えます。
企業は、要介護状態にある対象家族の介護をする労働者に対して、以下のうちいずれかの措置を選択して講じなければなりません。
所定外労働の制限・免除は、要介護状態の家族を介護するため、労働者が所定時間以外の勤務を免除する申請をした場合、業務の正常な運営に支障がある場合を除いて、時間外勤務が免除されるという制度です。
「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」に定められているもので、企業は拒否できません。
つまり、介護が必要な労働者には、残業をさせてはいけないということです。
また、制限時間(1か月24時間、1年150時間)を超えての時間外労働、午後10時〜午前5時(深夜)の労働も「事業の正常な運営を妨げる場合を除き、させてはならない」ことになっています(法18条)。
問題社員のトラブルから、
今回は、介護休暇制度について解説いたしました。
優秀な社員が介護のために仕事を辞めることなると、企業としては大損失です。
社員が辞める決断をする前に「介護休暇制度」や「介護休業制度」を周知しておくことで、退職を回避できるかもしれません。
介護休業制度を導入したいが、どのように進めればよいのかわからないという場合、はじめが肝心なので社会保険労務士か弁護士に相談することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所には、労務関係について経験豊富な弁護士が在籍しておりますので、介護休業制度の導入について相談したいという場合には、お気軽にお問い合わせください。
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