企業法務コラム
厚生労働省が発表しているデータによれば、国内で喫煙者本人の喫煙によるたばこ関連疾患で亡くなっている方は年間に約12~13万人であり、受動喫煙による死亡数は約6800人と推定されています。また、日本医師会によれば世界では年間500万人以上と推定されているそうです。
このように健康に害を及ぼすとされている「たばこ」ですが、健康増進法が改正されたことにより、令和2年(2020年)4月1日からは原則として屋内は禁煙となりました。飲食店だけでなく、オフィスも含まれます。
本コラムでは、健康増進法の概要と、事業主として求められる受動喫煙防止対策、違反した場合の罰則などについて解説していきます。
健康増進法が改正されたことによって、喫煙に関するルールはどのようにかわったのでしょうか。
健康増進法とは、国民の健康の増進に関する基本的な事項を定めるとともに、国民の健康の増進を図るための措置を講じ、国民保健の向上を図ることを目的とした法律です。
この目的を達成するため、① 国民、② 国や地方公共団体、③ 健康増進事業実施者に対して、次にあげる一定の責務を負わせています。
健康増進法は、国民の健康の増進を図るための措置を講じるための法律であって、禁煙や受動喫煙の防止だけを目的にした法律ではありません。
あくまで健康増進のひとつとして、禁煙の推進や受動喫煙の防止が定められています。
これまで、受動喫煙の防止は罰則なしの努力義務にすぎませんでしたが、同法が改正されたことにより、一定の場所を除く屋内での喫煙は原則禁止となりました。
なお、学校、病院、児童施設、行政機関、路線バスなどの旅客運送事業自動車、航空機などは、屋内だけではなく敷地内のすべてが、原則として禁煙です。
必要な措置がとられない限り、喫煙室などを設けることもできません。
改正によって、もっとも影響を受けたのは「飲食店」かもしれません。
特に居酒屋やバー、パブなどは影響が大きいと考えられます。
ただし、一定の要件を満たす飲食店については経過措置として、喫煙可能室の設置でよいとされています。
ここでは、これまでと同様に、客に飲食のサービス提供を行う場所で喫煙してもらえます。
喫煙可能室の設置でよいとされる一定の要件とは、次の3つです。
■ 20歳未満の者の入店の扱いに要注意
① 喫煙可能室を設置する場合
ただし、喫煙可能室を設置する場合でも、喫煙可能なエリアに20歳未満の者を立ち入らせてはならず、「喫煙可能室あり」とする標識の掲示が義務付けられています。
② 店全体を喫煙可能室にした場合
店全体を喫煙可能室とした場合には、20歳未満の者を入店させることはできません。
「健康増進法」は法律なので、全国民が対象になりますが、それと似たものとして「受動喫煙防止条例」というのがあります。
条例というのは、地方自治法に基づき制定される自治体における自主法で、その地域に限定して効力が認められます。
条例は法律の範囲内で認められるものなので、法律に反する定めは無効となります。
ただし、法律が規制していない事柄などについて、条例で規制することは認められています。
たとえば、東京都受動喫煙防止条約では、保護者の責務として20歳未満については、受動喫煙の悪影響が及ぶことを未然に防止するように努めなければならないと規定しています。
問題社員のトラブルから、
では、飲食店などを含む事業者は、どのような措置を講じる必要があるのでしょうか。
具体的に確認していきましょう。
原則として屋内は禁煙のため、喫煙させるためには喫煙室を設置しなければなりません。
喫煙室には、以下の4種類があります。
違いは以下の通りです。
① 喫煙専用室
喫煙専用室は、喫煙だけを目的とした部屋になります。いわゆる「喫煙所」が、これにあたります。
たばこを吸うことだけを目的とした部屋であり、この中で飲食のサービスなどを行うことはできません。
② 加熱式たばこ専用喫煙室
加熱式たばこ専用喫煙室は、加熱式たばこであれば喫煙することが認められています。
ここでは飲食等をすることも可能です。
ただし、同部屋については、経過措置として設置が認められているため、今後規制内容が変わる可能性があります。
③ 喫煙目的室
たばこ販売店、公衆喫煙所、バー、スナックなど、喫煙そのものをサービスの目的とする施設や喫煙を主たる目的とする施設において設置することができます。
ただし、「たばこの煙の流出防止にかかる技術的基準」に適合した室内空間に限られます。
なお、飲食をすることは認められていますが、パンや米類、麺類といった主食を提供することは許されません(※)。
※主食の対象については、実情に応じて判断されます。
④ 喫煙可能室
前述したとおり、令和2年4月1日時点で営業しており、資本金5000万円以下かつ客席面積100㎡以下の既存特定飲食提供施設に限定して設置が認められています。
喫煙室を設けた場合は、各種喫煙室と施設自体に、喫煙室の種類に応じた標識を掲示しなければなりません。
20歳未満の人は、すべての喫煙エリアへの立ち入りが禁止となります。
アルバイトなどの従業員も20歳未満であれば、喫煙エリアに立ち入ることは認められません。
飲食店全体を喫煙可能室としている飲食店では、20歳未満の者を入店させることができません。
さらに、各施設の管理権限者は、すべての従業員に対して望まない受動喫煙を防止するための措置を講じる努力義務が課されています。
管理権限者とは、ビルの所有者やテナントオーナー、経営者などが該当します。
これらの対応は飲食店のみならず、一般的なオフィスも対象です。
テナントとして入居している場合は、ビル全体のルールに従いつつ、自社内でも喫煙に関するルールを設定し従業員に順守させる必要があるでしょう。
問題社員のトラブルから、
喫煙する場所を指定し喫煙室と標識を掲げれば、問題がないかというと、そうではありません。
喫煙室は、一部の例外を除き次の基準を満たす必要があります。
(参考:厚生労働省「なくそう!望まない受動喫煙」)
ただし、令和2年4月1日時点で、すでに存在している建築物において、構造的に排気ダクトが設けられないなど、管理権原者の責めに帰すことができない事由により「③ たばこの煙が屋外に排気されていること」を満たすことができない場合は、脱煙機能付き喫煙ブースの設置が、経過措置として認められています。
脱煙機能付き喫煙ブースは、次にあげる機能を有している必要があります。
問題社員のトラブルから、
健康増進法の規定に違反した場合、行政による指導・助言、勧告・命令・公表、過料などの処分がなされます。
「過料」とは、法律秩序を維持するために違反者に対して制裁として科せられる罰金処分ですが、刑事罰ではありません。
具体的には、喫煙禁止場所において喫煙を行った場合は、最大で30万円の過料が科せられます。これは、実際に喫煙をしていた者に対する処分です。
同法に違反した施設や、喫煙室が基準に適合しておらず、勧告・命令・公表をしても改善がみられない場合、管理権限者に対しては最大で50万円の過料が科せられます。
そのため、早くから対策をしておくことが重要ですが、行政機関から指導がなされた場合には、すみやかに対策を講じることが肝要です。
問題社員のトラブルから、
本コラムでは、改正健康増進法の内容を中心に、事業者が注意するべき点について解説しました。
本改正により令和2年4月1日から屋内は原則禁煙とりましたが、オフィスも例外ではありません。管理権限者はもちろんのこと、施設を利用する従業員に対しても、改めてルールを周知することが大切です。
万が一、過料が科されるなどすると企業イメージにも傷が付くおそれがありますので、法律の要請する基準を満たしているかどうかを弁護士に相談するなどして、しっかりと対策を講じておくことをおすすめします。
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