企業法務コラム

2020年10月15日
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時間外労働の上限規制、中小企業もスタート! 概要と罰則を解説

時間外労働の上限規制、中小企業もスタート! 概要と罰則を解説

日本では「過労死」などが社会問題化し、残業規制が強く求められてきました。そこで、「働き方改革」の一環として、平成31年4月より大企業について時間外労働の上限規制がはじまりました。働き方改革関連法に基づく労働基準法の改正です。

さらに令和2年4月からは、中小企業においても時間外労働の上限規制がはじまり、いよいよ本格的に残業による過労死の防止に向けた取り組みがなされるようになりました。この規定に違反すれば罰則も適用されるため、経営者や人事担当者は注意が必要です。

そこで、今回は、時間外労働の上限は何時間なのか、罰則規定はどのようなものかなど、時間外労働規制の内容について、弁護士が解説します。

1、中小企業でも適用される時間外労働の上限規制とは

  1. (1)時間外労働をさせるためには「36協定」の締結が必要

    労働時間は、労働基準法で上限が定められています。労働基準法で定められている労働時間の上限は、原則として1日8時間、1週間40時間です。これを「法定労働時間」と言います。また、休日は原則として、毎週少なくとも1回は与えなければなりません。

    法定労働時間を超える時間外労働、休日労働させるためには、「36協定」を締結する必要があります。

    36協定とは?
    36協定とは、労働基準法第36条に基づく労使協定のことです。
    36協定では、「時間外労働を行う業務の種類」や「時間外労働の上限」などを決めて労働基準監督署に届け出をする必要があります。
  2. (2)なぜ時間外労働の上限規制ができたのか

    ① 時間外労働の上限規制ができた背景
    かつては、厚生労働大臣の告示によって、上限基準は定められていましたが、特別条項付きの36協定を締結すれば、臨時的に限度時間を超えて上限なく時間外労働を行わせることが可能でした。そのため、長時間労働が常態化している企業があったのです。

    そこで、時間外労働の上限規制は、この上限について厳格にし、法律で上限を月45時間・年360時間と定め、「臨時的な特別の事情」がなければ、これを超えることができないとしました。

    ② 臨時的な特別な事情とは?
    臨時的な特別な事情についても、以下の通り厳格に定められています。

    1. ① 時間外労働が年720時間以内
    2. ② 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
    3. ③ 時間外労働と休日労働の合計について、「2か月平均」、「3か月平均」、「4か月平均」、「5か月平均」、「6か月平均」が全て1か月当たり80時間以内
    4. ④ 時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6か月が限度
  3. (3)中小企業の範囲

    この労働時間の上限規制は、平成31年4月1日からですが、中小企業については、令和2年4月1日からとなっています。
    つまり、大企業であっても中小企業であっても、現在はすでに施行されている状態であると言えます。

    なお、中小企業の範囲については、業種に応じて資本金(出資金)額、または、常時使用する労働者の人数に応じて次のようになっています。

    ① 小売業
    資本金の額(または出資金の総額)5000万円以下、
    または、常時使用する労働者数50人以下

    ② サービス業
    資本金の額(または出資金の総額)5000万円以下、
    または、常時使用する労働者数100人以下

    ③ 卸売業
    資本金の額(または出資金の総額)1億円以下、
    または、常時使用する労働者数100人以下

    ④ その他
    資本金の額(または出資金の総額)3億円以下、
    または、常時使用する労働者数300人以下
  4. (4)違反した場合の罰則

    労働時間の上限規制に違反した場合には、使用者は「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」に処せられます。

2、時間外労働の上限規制には例外がある

  1. (1)適用が令和6年3月31日まで猶予される業種

     以下の業種については、猶予期限まで上限規制が適用されません。

    1. ① 建設事業
    2. ② 自動車運転業務
    3. ③ 医師


    なお、「鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業」については、猶予期限までは、時間外労働と休日労働の合計について、月100時間未満、2~6か月平均80時間以内とする規制は適用されませんが、その他の上限規制は適用されることになります。

  2. (2)上限規制を適用しなくてもよい事業や業務

    新技術・新商品等の研究開発業務に関しては、時間外労働の上限規制の適用除外とされています。

    ただ、労働安全衛生法が改正され、新技術・新商品等の研究開発業務については、1週間当たり40時間を超えて労働した時間が、月100時間を超えた労働者に対しては、医師の面接指導が罰則付きで義務付けられました。

    事業者は、面接指導を行った医師の意見を勘案し、必要があるときには就業場所や職務内容の変更、年次有給休暇とは別に有給休暇を付与することなどの措置を講じなければならないことになっています。

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3、従業員とのトラブルを避けるため企業がすべきこと

厚生労働省が公開している労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドラインも踏まえて、従業員とのトラブルを避けるために企業がすべきことを確認していきましょう。

  1. (1)労働時間の適正な把握が求められている

    労働時間の上限規制がはじまったことで、規制に違反すると労働者から労働基準監督署に通報されるなどして、トラブルになる可能性があります。
    そのような場合に対応できるよう労働時間の適正な把握をしておく必要があります。

    そもそも、労働時間を適正に把握しておかなければ、未払い残業代を請求されるおそれが高まり、また請求された場合に有効な反論ができない可能性が出てきますので、その意味でも労働時間の適正な把握は重要です。

  2. (2)労働時間の定義を理解する

    使用者が労働時間ではないと思っていても、実際には労働時間としてカウントすべきものがある場合、使用者と労働者で時間外労働の時間で不一致が生じます。
    そこで、労働時間の定義を理解しておく必要があるでしょう。

    労働時間の定義
    労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間であり、使用者の明示または黙示の指示により労働者が業務に従事する時間を言います。


    たとえば、作業着への着替え時間、清掃時間、参加することが義務付けられている研修の受講、使用者より指示されている学習などを行っていた時間は労働時間に該当します。

  3. (3)始業・終業の確認・記録

    使用者は、労働者が労働した日については、始業と終業の時刻を適正に記録することが必要です。使用者が現認することや、タイムカードやICカード等の客観的な記録に基づいて始業と終業の時間を適正に記録することが求められます。

    これらの書類は3年間保存しなければなりません。

    やむを得ず、自己申告で労働時間を管理する場合には、労働者に十分説明した上で、入退場記録やパソコンの使用履歴といった事業場内にいた時間が分かるデータと照合するなどして実態と乖離していないか実態調査をし、正確な申告をするよう促すなどの対策が必要になります。

  4. (4)賃金台帳の作成

    使用者は、労働者ごとに、労働日数、労働時間数、休日労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数といった事項を適正に記入しなければなりません。

    なお、賃金台帳にこれらの事項を記入していない場合や、故意に虚偽の労働時間数を記入した場合は、30万円以下の罰金に処されます。

  5. (5)36協定の見直し・修正

    ① 労働させることができる時間数を定める
    36協定は、有効期間を定めることになっており、通常は1年となっています。
    経過措置のため、上限規制は2019年4月1日(中小企業は2020年4月1日)以降の期間のみを定めた36協定にしか適用されませんが、今回の時間外労働の上限規制が中小企業にも適用されることになりましたので、有効期間が経過した後は、時間外労働の内容についても法改正に適合したものに修正する必要があります。

    具体的には、法定労働時間を超えて労働させる場合には、必ず「1日」、「1か月」、「1年」それぞれについて労働させることができる時間数を定めなければなりません。
    時間数については、原則として「1か月45時間」、「1年360時間」の範囲内で定めることが必要です。

    ② 特別の事情がある場合には、特別条項付きの36協定を締結
    ただし、「通常予見することのできない業務量の大幅な増加」など、特別な事情がある場合に限っては、特別の事情をできるだけ具体的に定めたうえで、特別条項付きの36協定を締結することができます。

  6. (6)就業規則の周知徹底

    36協定は、法定労働時間を超えて労働させても罰則の適用を受けないという効力を有するものであり、36協定があるだけでは労働者に時間外労働をさせることはできません。

    労働契約書就業規則に、「業務上必要がある場合には時間外労働・休日労働を命じることができる」といった定めを置く必要があります。

    そして、就業規則でこのような定めをする場合には、就業規則を労働者に周知しなければなりません。就業規則は、常時各事業所の見やすい場所に備え付け閲覧できる状態にするか、書面で交付するか、デジタルデータとして、いつでも閲覧できる状態にしておく必要があります。

4、弁護士のサポートを受けるメリット

  1. (1)トラブルを未然に防ぎやすくなる(予防法務)

    会社側が残業代の未払いをしたり、時間外労働・休日労働規制に違反したりした場合、直ちに労働基準監督署に通告されるケースも少なくありません。
    違反事実が認められれば、労働基準監督署から指導や是正勧告がなされるほか、場合によっては刑事事件として立件されて処罰を受けるリスクがあるでしょう。

    そうならないためにも予防法務が重要になってきます。就業規則や36協定の内容などについて法的に問題がないかチェックしておくことは重要です。
    弁護士であれば、労働関係法令に抵触しないか確実に確認することができますので、安心して労働基準監督署に届け出することができます。

  2. (2)労働紛争が起きたとき迅速に対応できる

    弁護士と顧問契約し、就業規則等のチェックをしていれば、万が一労働紛争に発展した場合でも迅速に対応することができます。顧問先の状況は常に把握しているので、一から事業内容などを説明する必要がなく、企業の実情に合わせて対応することが可能です。

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5、まとめ

以上のとおり、令和2年4月から中小企業であっても時間外労働の上限規制が課され、それに違反した場合に罰則の適用もあるようになりました。それに伴い、これまで以上に会社は労務管理や勤怠管理をしっかりしなければなりません。

また、就業規則の改訂や36協定の締結し直しなど、時間外労働の上限規制への対応が求められます。これらの準備について不安があるという企業も多くあるのではないでしょうか。

そのような場合には、弁護士に相談して作成するのが安心です。万が一労使間で紛争が起きた場合でも迅速に対応ができます。

ベリーベスト法律事務所では、労働法について経験豊富な弁護士が在籍しており、顧問契約についてもリーズナブルなプランを用意しております。
労働問題について心配があるときは、お気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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