企業法務コラム
大手自動車メーカーによる鉄工所など部品製造の下請け先に対する不当な値切り行為や下請け代金の支払い遅延にみられるように、いわゆる下請けいじめに悩む中小企業は依然として多いようです。
政府も各種法律や相談窓口を整備するなどして下請けいじめの根絶に力を入れていますが、残念ながら下請けいじめの報告はあとを絶ちません。
また、大企業による下請けいじめは年々巧妙化しているようです。そのため、不利益を被っていることは認識しつつも、親事業者から受けている行為が下請けいじめに該当するのか、もし該当するのであればどのように対処すべきなのか、とお悩みの中小企業は数多く存在します。
そこで、本コラムでは下請けいじめの具体例と対処方法について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
一般的に下請けいじめとは、企業間の請負関係において発注側の企業が優越的な地位を利用し、相対的に弱い立場にある受注側に対して不利な取引条件や無理難題を押し付け、下請事業者の利益を不当に害することをいいます。特に大企業と中小企業との取引関係において多くみられ、大事な取引先を失いたくない中小企業が泣き寝入りをしてしまうケースも多いようです。
特に近年は政府が推進する「働き方改革」の一環で、多くの企業が従業員の労働時間削減を余儀なくされています。これを背景に、発注者として優越的な地位にある大企業が下請け先の中小企業などに対して適正な支払いなどを伴わない短納期発注や急な仕様変更を強いるなど、あたかも大企業の労働時間削減を中小企業に対してしわ寄せするような下請けいじめに関する事例が数多く報告されています。
このような事態を重くみた厚生労働省・中小企業庁・公正取引委員会により、令和元年6月には「大企業・親事業者の働き方改革に伴う下請等中小事業者への「しわ寄せ」防止のための総合対策」(しわ寄せ防止総合対策)が策定されるまでに至っています。
もっとも、しわ寄せ防止総合対策が策定される以前に、下請けいじめは明らかな法令違反です。日本では「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」(独禁法)や「下請代金支払遅延等防止法」(下請法)で下請けいじめを禁止しており、これに違反した事業者にはさまざまなペナルティーが課せられます。
独禁法の目的は、「公正かつ自由な競争を促進し、事業者が自主的な判断で自由に活動できるようにすること」です。
一方で下請法の目的は、主に「下請事業者に対する親事業者等の不当な利益を規制し、下請取引の公正化および下請事業者の利益を保護すること」、つまり下請けいじめを禁止することにあり、独禁法を補完する位置づけとなっています。
下請けいじめを防止するため、下請法では親事業者に対して11項目の禁止行為を規定しています。この11項目の行為が親事業者に認められた場合、仮に親事業者が違法性を認識していなかったとしても、あるいは下請事業者の了解を得ていたとしても、親事業者には下請法違反が問われることになります。
以下で、下請けいじめに該当する法令違反の具体例をみてみましょう。
親事業者が下請け代金の支払いを遅延させること、あるいは下請事業者の責任となる事情がないにもかかわらず発注時に決定した下請け代金を減額させるような行為は、それぞれ下請法第4条第1項第2号および第1項第3号で禁止されています。
下請事業者の責任となる事情がないにもかかわらず、納品時に親事業者から受け取りを拒否される、あるいは不良品ではないにもかかわらず返品してくるような下請けいじめは、それぞれ下請法第4条第1項第1号および第1項第4号で禁止されています。
下請事業者が親事業者の下請けいじめを中小企業庁や公正取引委員会などに通報した場合、これに対して親事業者が取引減少や取引中止などを報復的に行うと、下請法第4条第1項第7号に違反することになります。
発注代金を決定する際、親事業者が世間一般の水準(下請事業者の属する取引地域において一般に支払われる対価、市場価格)とかけ離れた低い価格を迫る行為は、下請法第4条第1項第5号に違反します。
正当な理由がないのにもかかわらず、取引維持をちらつかせながら親事業者が自ら指定する製品やサービスの利用を強制したり、あるいは親事業者のために金銭や役務提供などを要請するような行為は、それぞれ下請法第4条第1項第6号および第2項第3号で禁止されています。
下請事業者に責めがないのにもかかわらず、親事業者が急に発注内容の変更や取り消しをしたり、あるいは納品後にやり直しをさせるような行為は、下請法第4条第2項第3号に違反します。
親事業者から有償で原材料の支給を受け、それを使用し製品の製造または修理を請け負っている下請事業者は多いようです。このとき、親事業者が下請事業者に対して有償支給の原材料の早期決済を迫る行為、あるいは下請け代金の支払いと相殺するような行為は、下請法第4条第2項第1号に違反します。
下請け代金の支払期日までに割引が難しい手形により支払いを強制することは、下請法第4条第2項第2号に違反します。
下請代金の支払いが適正に受けられなかったなど、下請けいじめと捉えられかねないような行為が親事業者にあったとしても、それが悪意による下請けいじめとはかぎりません。親事業者の担当者による勘違いや、そもそも法令違反に該当する下請けいじめの認識がないことに起因している可能性があります。
そのような場合は、まず担当者あるいはその上長レベルで交渉し、契約内容に関する認識齟齬の有無の確認、あるいは抗議を行いましょう。これにより今後の下請けいじめとされかねない行為が改善する可能性もあります。
ただし、口頭では改善する旨を約していたとしても、そのような行為が何度も続くようであれば、親事業者に対してしかるべき対応を取ることを検討しなくてはなりません。
下請けいじめなど企業間取引等について生じた紛争の調停は、裁判外紛争解決手続(ADR)ともいいます。
調停を申し立てると、弁護士などの調停人が下請事業者と親事業者の間に入り、和解に向けた話し合いを行います。調停人が間に入ることで、紛争の当事者間のみによる話し合いよりも迅速かつ簡便な問題の解決が期待できます。
下請けいじめに関する相談や通報は、各地域における公正取引委員会の事務所が受付けています。通報する際は、事実関係をしっかりと整理したうえで、可能であれば証拠をそろえておくことが望ましいでしょう。
下請けいじめという不法行為が原因で会社に損害が生じている場合は、実際に受けた損害(積極損害)について賠償を請求することが可能です。また、下請け代金の未払いや支払い遅延などの場合は、実際に支払われるべき下請け代金に遅延利息を付加して請求することも可能です。
ここで注意していただきたい点は、未払い代金や損害賠償の請求には時効があるということです。
たとえば、小売・卸売の商品代金であれば2年、建築工事代金であれば3年で時効が完成し、たとえ下請けいじめによる代金の未払いだったとしても回収ができなくなってしまうのです(ただし、民法改正により令和2年4月1日から、権利を行使できるときから10年または権利を行使できることを知ったときから5年間のいずれか短い期間となります)。
また、損害賠償請求は下請けいじめという不法行為による損害の事実を知ったときから3年または不法行為があったときから20年経過すると、時効が完成してしまいます。
時効を中断(改正民法施行後は時効の更新)するためには、裁判上の請求(民法第149条)、支払い督促の申し立て(民法第150条)、差し押さえ(民法第155条)など、さまざまな方法があります。具体的には、まず親事業者に対して支払いを求める「催告」を内容証明郵便で送付します。この時点で親事業者が催告に応じようとしない場合、親事業者に内容証明郵便が送達されてから6か月以内に訴訟を提起すれば、時効を中断(完成猶予及び更新)させることができます。
下請かけこみ寺とは、(公)全国中小企業振興機関協会が受付けている中小企業・小規模事業者の取引に関する相談および苦情紛争処理等の通称です。
全国の広範囲に受付窓口を設置しており、下請けいじめをはじめ中小企業が抱える悩みについて無料相談を受付けたり、先述した裁判外紛争解決手続(ADR)を行っています。
先述のとおり、下請けいじめに関する相談や通報は、各地域における公正取引委員会の事務所に対して行います。
告発により下請けいじめという違法行為を確認すると、公正取引委員会は親事業者に対して指導・勧告・報告命令・立ち入り検査、さらに罰金の支払い命令(刑事罰)などを行う権限を有しています。
下請けいじめを行う親事業者との交渉や債権回収、損害賠償請求は、弁護士に相談することがもっともおすすめです。
下請けいじめをはじめとする企業間紛争の解決に実績豊富な弁護士であれば、各種のアドバイスはもちろんのこと、あなたの代理人として親事業者と交渉や裁判上の手続きを依頼することができます。これにより、すみやかな解決と今後の下請けいじめの再発防止が期待できるのです。
親事業者は優越的な立場にあるため、下請事業者単独による交渉は困難が予想されます。最悪の場合、今後の経営に悪影響を及ぼしかねません。また、下請けいじめに関する法律は複雑なうえに、解釈も難しいものです。
だからこそ、親事業者による下請けいじめを疑ったら、まずは弁護士にご相談のうえ今後の対応をご検討ください。
ベリーベスト法律事務所ではワンストップで対応可能な顧問弁護士サービスも提供しています。親事業者による下請けいじめなど企業間紛争にかぎらず、幅広い範囲でご対応が可能です。
ベリーベスト法律事務所は、あなたの会社が抱える問題を解決するためベストを尽くします。ぜひお気軽にご相談ください。
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