企業法務コラム
新型コロナウイルスによる緊急事態宣言を受けて、日本ではテレワークが一気に広まりました。第二波、第三波の影響が心配される中、テレワークを前提とした働き方が定着しつつあります。
しかし、他方で、在宅による気の緩みから、ネットサーフィンをする者や飲酒をしながら仕事をする者などもいるのではないかと疑われることもあります。
もし、そのような事実が判明した場合、減給や解雇などの懲戒処分をすることは可能なのでしょうか。
そこで、今回は、リモートワークに関する、懲戒処分を下すための要件、サボり防止策、情報漏えいの防止などの対策について解説したいと思います。
在宅勤務で起こりうる問題としては、情報管理が適切になされないことによる情報漏えいが考えられます。
つまり、会社であれば、インターネット回線はファイヤーウォールなどによって守られていますが、自宅の場合、人によって接続環境が様々なので、セキュリティ対策が万全でない人の場合、そこから情報が漏えいしてしまう可能性があります。
特に、自宅外で仕事をする場合、公共のWi-Fi環境を使うことになると思いますが、フリーWi-Fiでは、暗号化キーが公開されていたり、暗号化されていなかったりするケースがあります。そのような場合、通信内容を傍受されたり、パソコン内のデータを読み取られたりするリスクがあります。
また、テレワークを会社から支給されたパソコンを使って行う場合、会社から自宅までパソコンを持ち帰る必要があり、逆に出社の場合には自宅から会社にパソコンを持って行かなければなりません。その移動中にパソコンを置き忘れたり、紛失してしまったりするというリスクがあります。
このリスクに対しては、端末上のデータを暗号化する、あるいは仮想デスクトップとして、端末にデータを保存しない方法があります。
また、これは社員のモラルによりますが、在宅勤務の場合、管理監督者の目が行き届かなくなるため、いわゆる「サボり」をする人たちが出てきます。
具体的には、テレビやラジオを視聴しながらの仕事、ネットサーフィン、飲酒、昼寝、買い物や散歩などの外出や、個人的な用事を行う、副業などをするなどが考えられます。
問題社員のトラブルから、
労働条件が変わらない場合には、既存の就業規則のままでもリモートワーク(テレワーク)をすることができますが、将来的にリモートワーク(テレワーク)を定着させる予定なのであれば、リモートワーク(テレワーク)に適した形にしておくことが望まれます。
その場合には、以下のような規定などを定めるべきでしょう。
以下で、具体的に解説していきます。
① 就労場所
テレワークの定義では、就労場所として、「自宅、その他自宅に準じる場所」と指定するのが一般的です。サテライトオフィスがある場合にはそれを加えたり、移動しながらの業務も認めるのであれば、モバイル勤務を認めたりする旨の規定を定めることになります。
② 対象者
テレワークの対象者としては、正社員だけなのか、パートやアルバイト、あるいは派遣社員を含めるのか等を決めてその内容を定めます。
③ 服務規律
テレワーク勤務時の服務規律では、テレワークで発生しそうな事項について、あらかじめ禁止事項を定めます。たとえば、勤務中の飲酒の禁止、職務専念義務の明示、副業の禁止、勤務場所を離れないことなどを定めます。
④ 出退勤管理
テレワークの出退勤管理では、「勤務の開始および終了時には、電話、電子メール、勤怠管理システムにより報告しなければならない」などと規定します。
労働時間については、通常勤務と変わらないのであれば特に定める必要はありませんが、フレックスタイム制を導入する場合や事業場外みなし労働時間制を導入する場合には、規定の変更、労使協定の締結等の準備が必要になります。
また、時間外労働に関する取扱いについても定めておく必要があります。
テレワークをする場合には、自宅を使うことになるので、厳密に言えば家賃、水道光熱費、通信費などを仕事に使った場合、その費用は会社が負担すべきものです。
もちろん、私生活と明確に分けることは難しいため、一定の範囲で負担することにはなりますが、少なくとも通信費や光熱費などの一部は会社が費用として支払うしくみにすることが望まれます。
会社の立場で考えると、修行規則などで従業員がサボることを防止したいと考えがちですが、過度に監視を強めれば社員の反発を招き、業務効率が下がる可能性もあります。
一定の禁止事項を定めた上で、通信費や光熱費を会社が負担するなどして従業員が働きやすい環境作りをすることがサボり防止につながるのではないかと思います。
また、成果主義を採ることで在宅であっても結果が求められるようにすると事実上サボることはできなくなるので効果的です。
問題社員のトラブルから、
在宅勤務というと従業員のサボりが問題になると思われがちですが、日本人はまじめなので、在宅勤務になることでむしろ残業が増える人もいます。
会社であれば、早く帰るよう促されるので長時間の残業は難しいですが、自宅であれば、エンドレスで仕事ができてしまうからです。その場合、残業代が発生し、未払い残業代として請求される可能性があります。
そのため、みなし労働時間制を導入したり、時間外労働をする場合には、上司に申請をして承認を得る必要があるようにしたりするなど、厳格な勤怠管理を行うことが重要になります。
また、在宅勤務ではなく休業となる場合には休業手当の支給が必要になります。休業手当とは、使用者の責任で労働者を休業させた場合に、労働者に対して手当を支給するものです。
① 休業手当
休業手当の金額は、平均賃金の60%以上と計算し、休業期間の日数に応じて支払われます(労働基準法第26条)。
② 平均賃金
平均賃金とは、労働基準法第12条に計算方法が規定されており、算定すべき事由が発生した日以前の3カ月間に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数によって割り戻した金額になります。賃金の総額には基本給に加え、残業代や各種手当も含まれます。
その他、「コロナ禍により業績が下がったから解雇することはできるか」という問題がありますが、それだけの理由では解雇は認められません。
解雇が認められるためには、正当事由が必要となり、判例により次の4要件が必要とされています。
新型コロナの影響により多くの企業で業績が悪化していますが、各企業は、今できるあらゆる手を尽くし、業績の維持・従業員の雇用維持に努めています。
そのような努力もせずに、「コロナで業績が下がったから」という理由だけで、簡単に解雇するというのは許されないということです。
もちろん、様々な努力をしてもなお、業績が回復せず、解雇するしか手段がないという場合には、合理的な選定基準により解雇者を選定し、説明や協議を重ねた上で、解雇ということは認められる可能性はあります。
その他、在宅ワークとなることで運動不足になったり、外出が自由にできないストレスにより気分が落ち込むというケースもあるため、産業医などを活用し、健康相談ができるようにしたり、情報漏えいが発生したりしないようにするために、イーランニングなども活用しながら、情報管理について社員教育していくことも重要になります。
テレワークなどでは出社に比べコミュニケーションがうまくとれないという問題もあることから、社員にストレスがかかり、労働問題に発展しやすい状況にあります。
会社は普段以上に労働者から不満がでることがないよう、配慮していくことが求められます。
問題社員のトラブルから、
結論から申し上げると、在宅勤務でサボった場合に懲戒処分にできるかについては、「程度による」でしょう。
仕事の合間にスマホを見たり、コーヒーブレイクをしたりするというのは出社していたとしてもある程度は許容されていると思います。そのため、在宅勤務中にスマホを見たり、コーヒーを飲んだりしたからと言って懲戒処分することはできません。
ネットサーフィンやテレビを見ながらの業務については、好ましいこととは言えませんが、業務に支障がない範囲であれば、懲戒処分をするということはやりすぎのような気がします。
実務的な観点からも、テレビの視聴やネットサーフィンをしていた事実を立証するのは困難なため、懲戒処分が難しいでしょう。
もっとも、飲酒をしていて、電話をしても明らかに酔っ払っているような場合には、懲戒処分の対象にはなり得るでしょう。
現実に損害が発生したり、他の従業員へ甚大な悪影響を及ぼす等のことがなければ、初めは厳重注意をして、次回飲酒した場合には懲戒処分をする旨を通告するなどの対処が現実的だと思います。
また、飲酒をしていなくても、業務への支障が甚大だった場合や、会社に損害を及ぼしたような場合には、懲戒処分ができる可能性が高くなります。
いずれにしても、減給などの懲戒処分をするためにはあらかじめ就業規則に懲戒事由を定めておく必要があります。
懲戒事由に該当するかどうかは、ケースバイケースなので、判断が難しい場合には顧問弁護士などに相談することをお勧めします。
問題社員のトラブルから、
今回は、在宅勤務で起こりうる問題点とその対応策、就業規則で定めておく事項などについて解説してきました。サボった社員に対して懲戒処分できるかどうかは、その内容とどれだけの損害が発生したかによって変わってきます。
懲戒処分でも減給などは比較的認められやすい傾向がありますが、解雇となると厳格な要件が求められます。
懲戒処分をするための前提として適切な懲戒事由を定めた就業規則が必要であり、懲戒事由に該当するかの判断も判例の傾向などを踏まえて判断する必要があります。
労働者とのトラブルは避けたいという場合、弁護士に相談すると安心です。
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