企業法務コラム
政府は、新型コロナウイルスの感染が急速に拡大する首都圏の1都3県に対し、令和3年1月7日に、2回目の緊急事態宣言を出しました。しかし、依然として感染者があとを絶たず、終息する気配は見られません。
また、政府は感染拡大防止のため、経済団体に対して、テレワーク率70%の実現を要請しています。しかし、中小企業などでは、テレワークを70%にすることは厳しいところもあり、出社を命じているところも多いと思います。
そんな中、従業員がコロナウイルスの感染が怖いとして出社拒否する場合、会社はどう対処すればよいのでしょうか。企業担当者や使用者のなかには、出社拒否する従業員に対し、給与を支払わない、あるいは、懲戒処分にするなどを検討することもあるかもしれません。
しかし、対応方法によっては、法的に問題が発生する可能性があります。そこで、本コラムでは、出社拒否した場合の企業の対応について解説します。
新型コロナウイルスの危険性を理由に出社拒否をしている従業員を、懲戒解雇してもよいのかという問いの答えを出す前に、懲戒について定めた労働契約法第15条を確認しましょう。
労働契約法第15条
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
新型コロナウイルスは、決定的なワクチンや治療薬がない状況です。
したがって、感染リスクをおそれ、ウイルスの感染回避のために出社拒否するということは、必ずしも従業員の身勝手な主張による出社拒否とは言い切れないといえる可能性があります。
特に本人が高齢のケースや、家族が療養中などのケースでは、新型コロナウイルスに感染すれば命にもかかわることになりかねません。警戒することは当然の反応です。
出社拒否せざるを得ない、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると判断される可能性があります。
そのため、コロナを理由にした出社拒否をする従業員に対して懲戒解雇処分を下したとしても、裁判で無効とされる可能性があるでしょう。
労働問題に発展してしまうだけでなく、社名などを含めた報道をされたり、SNSでそのことが公開されたりすれば、ブラック企業として炎上する可能性もあります。
つまり、懲戒解雇という強行的な手段はできるだけ避けるべきであると考えられるのです。
それらのリスクを考えると、懲戒解雇処分ではなく、賃金を不支給とする解決策を探っていくのが現実的といえます。
当該従業員と合意の上で、有給休暇を消化してもらい、その後は欠勤扱いとすることが考えられます。
欠勤した日については、ノーワークノーペイの原則が適用されるため、給与を支払う必要はないでしょう。
しかし、会社は、下記で説明するように従業員に対して安全配慮義務を負っていますので、従業員から「安全配慮義務の履行として、〇〇といった環境を整えてもらえれば働けるが、会社がしてくれないので働けない。」と主張され、この主張が認められれば、欠勤中であっても、給与の支払い義務が生じる可能性があります。
従業員とよく話し合い、従業員の要望は、会社として対応するべき範囲を超えているので、欠勤扱いとして、給与を支払わないことについて理解を求めて、当該措置について可能な限り合意をしておくことが大事になります。
場合によっては、話し合いの際、従業員側から休業補償を申請したいと申し出てくるかもしれません。
確かに、厚生労働省による新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金の支給要件に該当すれば、休業前賃金の8割(日額上限11000円)が給付されます(申請期間は令和3年3月31日まで延長)。
しかし、制度が利用できる要件のうちのひとつに「事業主の指示により休業した中小事業者の労働者」が挙げられています。
したがって、自ら出勤を拒否する場合は適用されないことを伝えたほうがよいでしょう。
問題社員のトラブルから、
会社には、従業員が安全に業務に従事できるようにすべき安全配慮義務が課せられています。そのため、新型コロナウイルスについても感染防止対策を講じる必要があることをまずは知っておきましょう。
従業員が感染リスクをおそれて出社拒否している場合に、会社側の措置が不十分で安全配慮義務違反が認められると、出社拒否中にも給与の支払い義務が生じる可能性があるので、注意が必要です。
①時差出勤を検討
都市部では、通勤時間帯の電車は人が多いので、感染リスクを感じる人も多いと思います。この場合、時差出勤を提案するなどして、電車の混雑時を回避するということが考えられます。
②自家用車、バイク、自転車での通勤を検討
また、通常は電車での通勤であっても、例外的に自家用車、バイク、自転車での通勤を認めるなどの方法を検討できるケースもあるでしょう。
①マスク着用の義務や、アクリル板の設置などの対策を講じる
会社内部での感染リスク対策としては、勤務時間中は全員マスク着用を義務付けたり、机にアクリル板を設置したりするなどが考えられます。
②対策を講じた旨を周知し、出社を要請
そして、対策を講じた内容について従業員に説明し、出社するよう要請します。その際、対策が不十分であると主張された場合には、どの部分が不十分か確認し、対応できるのであれば対応することが大事です。
①テレワーク(在宅勤務)を検討する
時差出勤や会社での感染対策をしても、完璧な感染防止は不可能であるから、出社したくないという場合、テレワーク(在宅勤務)で業務ができないか検討することになります。
対面でないとできないと思われていた業務も実はオンライン会議システムなどを使えば意外とできるものです。もしかしたら、それらのシステムの導入は、業務効率向上に向けた新たなチャンスになりうるかもしれません。固定概念に縛られていないかどうか、業務を見直してみることが重要になります。
これらの対策を検討した上で、従業員に出社またはテレワークでの業務をするよう要請することになります。
②就業規則の変更が必要になるケースも
ただし、就業規則が時差通勤やテレワークに対応していない場合、原則として就業規則を変更する必要があります。
もっとも、小規模な会社で従業員全員と会社が合意できるのであれば、就業規則に定めがなくても時差出勤やテレワークを実施しても問題になることはないでしょう。
これだけの対応をしても、出社またはテレワークでの業務を拒否するような場合には、懲戒処分の検討もやむを得ないとお考えになるかもしれません。
しかし、その場合でも、懲戒解雇はあくまでも最終手段となります。
そのため、まずはこれ以上出社またはテレワークでの勤務に応じない場合には懲戒処分もありうることを通告するなどして、出社またはテレワークによる勤務をうながしていくケースが一般的です。
これまでも説明してきたとおり、企業には安全配慮義務があるので、企業が新型コロナの感染対策についてやるべきことを実施していない場合、従業員が出社拒否したとしても、懲戒解雇は無効と判断される可能性が高いといえます。
そのため、懲戒解雇するためには、企業が新型コロナウイルスの感染対策をしっかりとやっていることが前提になります。
長期にわたる欠勤を理由とする懲戒解雇が認められる可能性がでてくる状況を挙げるとすれば、テレワークの推進などの環境を整えてもなお出社または業務への従事を拒否し続けているケースが想定できるでしょう。
このようなケースであれば、企業による業務従事を求める業務命令も、正当なものとして是認され、従業員がこれに従わないことを懲戒の理由とすることができる可能性が高いからです。
もちろん、「たった数日間欠勤した」というだけでは懲戒解雇は認められません。
出社拒否を理由に解雇したいと思っても、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上も相当であると認められない場合には、懲戒解雇は無効となる可能性が高いでしょう(労働契約法15条)。
さらには、就業規則などによって、懲戒解雇、出勤停止など、懲戒処分の種別と内容、理由を、全従業員に対して周知しておく必要があります(就業規則のある会社の場合、懲戒(制裁)の定めについては就業規則で定める必要があり(労働基準法89条9号)、更に就業規則を周知する必要があります(労働基準法106条1項、労働契約法7条))。
つまり、欠勤を理由とした懲戒解雇の場合、就業規則や労働契約において、「正当な理由なく欠勤した場合には解雇することができる」と規定してあり、それが周知されていることが必要になるのです。
もし、就業規則がそもそもないケースや、あっても周知がなされていない場合は、有効な就業規則に規定していれば懲戒解雇ができた事案であっても、当該懲戒解雇は、無効となります。
懲戒解雇は、従業員にとって重大な不利益処分にあたります。
そのため、厳格な手続きが求められています。
まず、懲戒解雇を含む解雇の場合、これに先立ち解雇予告を行うよう、法律で定められています(労働基準法20条1項)。
解雇予告除外認定を受けた場合は、即時解雇が可能
ただ、懲戒解雇の場合は、会社が労働基準監督署長から、解雇予告除外認定を受ければ、解雇予告をせずに即時に懲戒解雇することが可能です(労働基準法20条1項但書、3項、労働基準法19条2項)。
また、従業員から解雇理由証明書の請求があった場合には、会社は解雇理由証明書を交付しなければなりません。
解雇理由証明書には、以下の項目を書く必要があります(労働基準法22条1項)。
懲戒解雇等の懲戒処分を行うと、従業員と感情的な対立が生じやすいものです。
最終的には、従業員から訴えられてしまう可能性が考えられます。
裁判となれば長期間紛争状態が続くことになります。
できるだけトラブルを回避するためにも、懲戒解雇処分を下さなくとも、双方にとってよい解決方法を見つけられるよう、慎重に対応したほうがよいでしょう。
特に、会社への出社拒否をする従業員への対応については、慎重に行うべきです。
コロナなど外部的な要因だけでなく、パワハラなどそのほかの労働問題と地続きになっている可能性がありうるためです。
①法的な視点からアドバイスを受けられる
直ちに解雇とするのではなく、まずは弁護士に相談し、法的な視点からアドバイスを受けてみてはいかがでしょうか。
状況に適した交渉を行うことで、従業員も納得して出社するようになれば、双方にとってもっともよい解決となります。
②顧問契約をしている場合、事前にトラブル回避のサポートをしてくれる
特に、顧問契約をしていれば、弁護士が会社の状況についてある程度は理解しているので、すぐに対応することが可能です。
従業員とのあいだでトラブルになる前、就業規則の作成や労働組合との交渉の段階からリスクマネジメントをすることで、従業員とのあいだで起こりえるトラブルの回避をサポートします。
③労働審判や裁判になっても、弁護士であれば適切に対応できる
それでも労働問題に発展した場合には、労働審判や裁判へ進まざるを得ないことがあるでしょう。
しかし、そのようなときであっても、労働問題に対応した経験が豊富な弁護士に早期から相談していれば、適切な対応が可能です。
問題社員のトラブルから、
今回は、新型コロナウイルスの感染をおそれて出社拒否する従業員に対して会社側が行うべき対応方法について解説しました。
当該従業員を懲戒解雇できるかどうかは、会社の対応状況(コロナ対策やテレワーク(在宅勤務)の実施など)や欠勤日数、従業員が出社拒否している理由などによって、懲戒解雇が有効になるかどうかが決まります。
新型コロナウイルスという未知のウイルスによる緊急事態であることを考えると、従業員が出社しないからとすぐに懲戒解雇するというのは、賢明な対応とは言えません。
できるだけ従業員が出社するように持って行くことが重要です。
そのためには、第三者である弁護士があいだに入り、法的に出社する必要があることを説明したほうが冷静な話し合いをすすめられる可能性が高いでしょう。
ベリーベスト法律事務所では、労働問題について経験豊富な弁護士が在籍しています。
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