企業法務コラム
労働組合から使用者に対して「労働協約」の締結を求めて団体交渉の申し出が行われるケースがあります。
労働協約は、既存の就業規則や労働契約を置き換える効力を持つ強力な合意です。そのため、使用者側としては、労働組合からの労働協約締結の要求に対しては慎重に対応する必要があります。
この記事では、使用者が労働組合から労働協約の締結を求められた場合の留意点について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
まずは、労働協約についての基本的な事項について解説します。
労働協約と同様に労使の関係を規律する「労働契約」「就業規則」「労使協定」と労働協約の関係についても、ここで押さえておきましょう。
さらに、労働協約の締結を求めて労働組合が使用者に交渉を求めてきた場合、使用者は交渉に応じる義務があるのかという点についても併せて解説します。
労働協約とは、労働組合と使用者または使用者団体との間で締結される、労働条件その他の事項に関する合意をいいます(労働組合法第14条)。
労働条件は使用者と労働者の関係において適用されるものですが、労働協約を締結する労働者側の当事者は「労働組合」である点に、労働協約の特徴があります。
労働協約の有効期間は「3年以内」と法律で決まっています(労働組合法第15条第1項)。
仮に3年を超える有効期間を設定した場合、その労働協約の有効期間は3年とみなされます(同条第2項)。
労働契約・就業規則・労働協約の3つの関係については、各労働関係法令において以下の規定が置かれています。
就業規則違反の労働契約
第十二条 就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。(労働契約法第12条)
法令及び労働協約と就業規則との関係
第十三条 就業規則が法令又は労働協約に反する場合には、当該反する部分については、第七条、第十条及び前条の規定は、当該法令又は労働協約の適用を受ける労働者との間の労働契約については、適用しない。(労働契約法第13条)
以上の各規定から、これら3つの優先劣後関係は、原則として
となります。
なお、これら3つの上位に法令があることは言うまでもありません。
労働協約と労使協定は、いずれも労働者集団の代表と使用者間の交渉によって締結される、労働条件などに関する合意であるという点で共通しています。
しかし、労働協約と労使協定は以下の点で異なります。
使用者が労働組合からの団体交渉の申し入れを正当な理由なく拒むことは、不当労働行為に該当します(労働組合法第7条第2号)。
そのため、原則として使用者には、労働組合との団体交渉のテーブルに着く義務があります。
ただし、これはあくまでも交渉のテーブルに着く義務であって、労働組合の要求を必ず受け入れなければならないというわけではありません。
問題社員のトラブルから、
法律上、労働協約が有する法的効力は強力かつ幅広いため、使用者が労働組合と労働協約を締結するかどうかを判断する際には、いっそう慎重な判断が求められます。
以下では、労働協約が有する4つの法的効力について解説します。
労働協約に定める労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約は無効とされます(労働組合法第16条)。
これを「規範的効力」といいます。
なお就業規則についても、労働協約に反する部分は、労働協約の適用を受ける労働者との間の労働契約に対して適用されないとされています(労働契約法第13条)。
更に、労働協約は、通常の契約書などと同様、当事者である使用者および労働組合(労働組合員である労働者)を拘束します。
これを「債務的効力」といいます。
ある事業所において、同種の労働者の4分の3以上が一つの労働協約の適用を受ける場合、残りの同種の労働者に対しても、その労働協約が適用されるようになります(労働組合法第17条)。
これを「一般的拘束力」といいます。
ただし、4分の1未満の労働者が自ら労働組合を結成していた場合、その少数組合には一般的拘束力が及ばないとする見解も有力です。
労働協約が有効期間の満了その他の理由で終了した場合であっても、労働協約によって規律されていた個々の労働契約の内容は存続すると解されています。
これを「余後効」といいます。
労働協約を締結するに当たって、形式面・体裁面などで留意すべき事項について解説します。
労働協約の名称については特に決まりはなく、労使で自由に決定することができます。
たとえば「労働協約書」「労使協定」「合意書」「覚書」「確認書」などの名称が一般に使用されています。
労働協約は、必ずしも一本の書面にする必要はなく、項目ごとに複数になってしまっても構いません。
ただし、労働協約が点在してしまい、労働組合員の側から見て分かりにくい状態になってしまうことは避けるべきでしょう。
労働協約の締結当事者は、使用者側は「使用者または使用者団体」、労働者側は「労働組合」に限られます。
労働協約が有効に成立するためには、団体交渉で合意した事項を書面にまとめ、両当事者が署名または記名押印する必要があります(労働組合法第14条)。
署名または記名押印は、労働協約の締結権限を有する者が行う必要があります。
そのため、労働組合側は執行委員長、使用者側は事業主または代表取締役が署名または記名押印するのが通常です。
すでに解説したとおり、労働協約の有効期間は最長3年とされています(労働組合法第15条第1項)。
なお、有効期間の定めがない労働協約は、当事者の一方が署名または記名押印した文書によって、90日前に予告をすることにより解約できてしまいます(同条3項前段、同条4項)。
これでは労働協約が法的に不安定なものになってしまうため、有効期間は必ず設定するようにしましょう。
使用者側としては、労働組合の求めに応じて労働協約を締結する義務はありません。
しかし、労働者との関係を良好に保っておくことは、ビジネス上重要であることも確かです。
使用者側が労働協約締結に応じる場合に留意すべき事項について解説します。
労働協約の内容についての交渉において重要なのは、合意内容が会社にとって不利でないかをチェックすることです。
そのためには、法令や業界スタンダードに照らした基準となる労働条件を十分に理解したうえで、その基準に照らして労働協約の内容が労使のどちらに傾いているかを確認しなければなりません。
こうした作業は弁護士が豊富な経験を有しているので、弁護士にレビューを依頼することをおすすめします。
労使で合意した労働協約の内容が、実際に作成される書面に正しく反映されない場合、労使間の権利義務が両者の想定とは食い違った内容になってしまいます。
そのため、労働協約書の作成段階において、弁護士による文言のチェックを受けることをおすすめします。
労働協約は作成・締結して終わりではなく、労働協約の規定を遵守した形で日常の業務を運営することが重要になります。
労働協約を締結したにもかかわらず、使用者がその規定を遵守しない場合、不当労働行為などの問題を生じてしまう恐れがあります。
労働協約の内容に沿ったオペレーションをどのように構築したら良いかについても、弁護士にアドバイスを求めるのが良いでしょう。
問題社員のトラブルから、
使用者側が労働組合から、労働協約の締結を求める団体交渉の申し入れを受けた場合で、その交渉を拒否する正当な理由がない場合は、使用者にはいったん交渉のテーブルに着く義務があります。
とはいえ、労働協約の締結が将来の企業活動にもたらす影響をよく理解したうえで、労働協約を締結するかどうか、またはその内容をどうするかについて慎重に判断する必要があるでしょう。
労働協約の内容については、使用者側に不利益な内容となっていないか、専門家である弁護士にチェックしてもらうと安心です。
労働協約についての団体交渉を申し入れられた使用者の方は、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所の弁護士にご相談ください。
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