企業法務コラム
従業員から労働審判を申し立てられた場合、会社(使用者)に生じるダメージを最小限に食い止めるために、適切かつ迅速な対応をとる必要があります。
労働審判は準備期間も短く、短期決戦の傾向にあるため、速やかに弁護士に依頼をして準備を整えることが大切です。
この記事では、従業員との間の労働審判において、会社へのダメージをできる限り防ぐ方法などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
労働審判とは、労働紛争を法的に解決する手続きのひとつで、2006年から開始された制度です。
労働審判は、訴訟よりも迅速に解決が示される点に大きな特徴があります。
訴訟にかかる期間
訴訟では、おおむね1か月に1回期日が設定され、当事者同士が主張・立証を尽くすまで、延々と期日が続きます。
そのため、労働問題に関する訴訟は1年以上に及ぶケースも少なくありません。
労働審判にかかる期間
一方、労働審判は原則として3回以内の審判期日で終結します(労働審判法第15条第2項)。そのため、労働審判の期間は長くとも3か月程度です。
労働紛争を早期に解決することは、労働者・会社の双方にメリットがあるため、労使の間で揉めてしまった場合の解決手段としてよく利用されています。
2006年に開始した労働審判の利用件数は、2009年ごろまで急速に増加した後、10年前後は横ばいで推移しています。
しかし、2021年に入っても新型コロナウイルス感染症の流行が続き、全国的に景気が落ち込む中で、労使間の紛争が増加することが予想され、必然的に労働審判の利用件数も増えてくるものと考えられます。
コロナ禍の状況では、会社がいつ労働紛争に巻き込まれてもおかしくありません。
そのため会社としては、労働審判の手続きに通じておくことは、万が一の場合に備えて大切になるでしょう。
労働審判は、労働者・会社のいずれからも申し立てることができます。
しかし実際には、会社から不当な取り扱いを受けたことを理由として、労働者が労働審判の申し立てを行うケースが大多数です。
労働審判の主な流れは以下の通りです。
審判期日では、裁判官1名と労働審判員2名で構成される労働審判委員会が、当事者双方の言い分を聞いて争点を整理し、必要に応じて証拠調べを行います。そして最終的には労働審判委員会が「審判」という形で解決案を言い渡します。
なお、審判期日においては、労働審判委員会が提示する調停案に当事者双方が合意した場合、「調停」の成立という形で手続きを終了することも可能です。
問題社員のトラブルから、
会社が労働審判の申し立てを受けやすい代表的なケースについて見ていきましょう。
会社が労働者を解雇した場合は、労働者が不当解雇を主張して、労働審判を申し立ててくる可能性があります。
労働契約法第16条において定められた解雇権濫用の法理により、客観的に合理的な理由がなく、社会的相当性を欠いた解雇は法的に無効とされています。
解雇権濫用の法理との関係で、会社にとって解雇のハードルは非常に高く、労働審判が申し立てられた場合には、会社がノーダメージでいられる可能性は低いでしょう。
多くの場合、賃金の数か月分に相当する解決金を支払って終わることになりますが、労働審判における主張の成功度合いによっては、解決金の金額を低く抑えられる可能性があります。
違法なサービス残業があったとして、従業員が未払い残業代請求などを行うケースも、典型的な労働審判事例といえます。
従業員の残業に対して、労働基準法に従った所定の割増賃金が支払われていない場合には、会社としては多額の支払いを強いられるダメージを負ってしまう可能性があります。
最近では、職場におけるいじめ・嫌がらせ・パワハラなどについても、従業員側の被害者意識が強くなっており、労働審判を申し立てられるケースも多数存在します。
同僚によるいじめ・嫌がらせ・パワハラなどにより、従業員が精神を病んでしまった場合などには、会社の使用者責任や安全配慮義務違反が問われかねません。
この場合、会社は従業員に対して治療費・休業損害などの損害を賠償する必要があります。
問題社員のトラブルから、
労働審判は迅速を旨とする手続きであり、裏を返せば短期決戦の要素が強いともいえます。
そのため会社としては、自社のダメージを最小限に食い止めるための準備を短期で整えなければなりません。
労働審判の申し立てが行われた後、第1回の審判期日は申し立てから40日以内(おおむね申し立ての1か月程度後)に設定されます。
会社として提出する主張書面などは、審判期日の約1週間前までには裁判所へ提出しなければなりませんので、準備期間は実質3週間~4週間程度しかありません。
特に解雇に関する紛争の場合、会社側は解雇に関する合理的な理由を示す証拠を大量にそろえなければならないため、短期間での準備は困難を極めます。
そのため、弁護士に依頼をして速やかに争点を洗い出し、書面や証拠の準備に着手すべきでしょう。
労働審判の期日は原則として3回に限定されており、かつ第1回の審判期日で争点の整理がほぼ完了します。
そのため、労働審判委員会の心証も、第1回の審判期日でおおむね決まってしまうことが少なくありません。
第1回の審判期日で労働審判委員会が抱いた心証を、残り2回しかない審判期日で覆すことは非常に困難です。
第1回の審判期日に狙いを定めて、スピーディーに周到な準備を整えることが大切になります。
たとえば何人かの従業員をまとめて解雇したり、複数の従業員に対して残業代などの賃金未払いが発生していたりする場合には、労働審判でも特に慎重な対応が求められます。
なぜなら、1人の労働者との間で不利な内容の審判が行われてしまうと、他の労働者もそれに触発されて、五月雨式に労務紛争が発生してしまい、会社のダメージが拡大するおそれがあるからです。
そのため、会社がダメージを最小限に食い止めるには、労働審判においてきちんと会社の正当性を主張しつつ、状況を見て和解や調停で穏便な解決を図ることも必要になるでしょう。
問題社員のトラブルから、
労働審判において、会社にとって手痛い判断が下されてしまうと、他の労働者への波及効果も含めて、会社に深刻なダメージが生じる可能性があります。
会社に生じるダメージをできる限り回避するには、以下の点に留意して対応しましょう。
労働審判を最後まで進めて審判の内容に従うよりも、労働者側と調停案に合意して手続きを終了させる方が、以下の点で会社にとってメリットがあります。
【調停のメリット】
● 迅速な解決
労働審判の完結を待たずに解決に至るため、時間的コストを節約できます。
● 結果を予測できるのでリスクコントロールが可能
調停は、当事者双方が合意しなければ成立しません。調停案の内容は事前に確認できるため、会社側にとっては、自社にどの程度のダメージが生じるかを把握したうえで、調停案を受け入れるかどうかを決めることができます。
審判になった場合に見込まれる判断内容と比較したうえで、調停案が会社にとって不利でないと判断するならば、調停案を受け入れてしまうのも一策です。
労働審判による会社へのダメージを抑えるには、弁護士に相談することをおすすめします。弁護士は、労働審判において会社側が主張すべき内容や、解決金の相場などを熟知しているため、事案に応じた適切な戦略についてアドバイスを受けられます。
さらに、顧問弁護士であれば、普段から会社の状況に精通しているため、労働審判に対してより迅速な対応が期待できるでしょう。
ベリーベスト法律事務所には、月額3980円からの顧問弁護士サービス「リーガルプロテクト」がございます。
顧問弁護士に興味はあるがコスト面でお悩みの場合は、ぜひ一度ご検討ください。
労働審判の中で調停が不成立に終わった場合は、審判の内容を見届けるほかありません。
会社としての主張立証がうまくいっていれば、会社にとってダメージの少ない解決が示される可能性も十分あります。
もし労働審判の結果に不服がある場合には、異議申し立てを行うことにより、訴訟手続きへの移行が可能です。
ただし、訴訟には時間と費用がかなりかかりますので、徹底抗戦すべきか、手を引くべきかについては、弁護士と十分に相談のうえで冷静に判断しましょう。
問題社員のトラブルから、
従業員から労働審判を申し立てられた場合、会社の対応によっては深刻なダメージを受けてしまうおそれがあります。
労働審判は短期決戦型の手続きです。
弁護士への早めの相談が、会社のダメージを食い止めることにつながりますので、労働審判を申し立てられたら、お早めにベリーベスト法律事務所までご相談ください。
また、そもそも労働者とトラブルにならないようにするという予防法務の観点も非常に大切です。ベリーベスト法律事務所では、就業規則の整備や労務管理の見直しなどについて、企業法務専門チームが相談者の親身になってサポートいたします。
労働者とのトラブルにお悩みの場合は、まずはお気軽にベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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