企業法務コラム

2020年11月30日
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同一労働同一賃金で支給すべき手当は? 最新判例をもとにルールを解説

同一労働同一賃金で支給すべき手当は? 最新判例をもとにルールを解説

平成31年4月1日の働き方改革関連法の施行に伴い、成立したのが同一労働同一賃金です。これによって、企業は不合理な待遇格差を解消しなければならなくなりました。

同制度のいう待遇には、基本給だけでなく、手当や休暇も含まれます。では、制度を導入する(待遇格差をなくす)には、どのような手当や休暇を支給すべきなのでしょうか。

この記事で、ベリーベスト法律事務所の弁護士が、同一労働同一賃金のガイドラインや、令和2年10月に下された最高裁の判決内容から、支給すべき手当などを解説します。労使間のトラブルや裁判を避けるために、導入に必要なルールを一緒に確認しましょう。

1、同一労働同一賃金で手当や休暇はどう扱われるのか

早速、同一労働同一賃金における手当や休暇の扱いについて、基本を確認した上でご紹介します。

  1. (1)同一労働同一賃金は、会社の義務

    同一労働同一賃金は、働き方改革関連法の施行によって、会社に義務づけられた施策のひとつです。企業は、雇用形態ではなく、業務内容や勤務形態などに即して待遇を決定し、差別がないようにしなければいけません。

    この施策の根拠となる法律は、「労働契約法」に加えて、新たに施行された「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム・有期雇用労働法)」、法改正された「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(労働者派遣法)」の3つです。

    自社で同一労働同一賃金を実現するためには、これらの法律の内容や、企業に求められていることを、正しく理解する必要があります。

  2. (2)手当や休暇の扱いは、どうすればいい?

    同一労働同一賃金は、不合理な待遇格差(以下、待遇差)を解消することを目指した施策のため、基本給はもちろん、手当や休暇も対象です。これらの扱いは、厚生労働省の「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」(通称:同一労働同一賃金ガイドライン)で示されています。

2、同一労働同一の場合、各種手当はどうなる?

  1. (1)正社員と同一の業務・条件を満たしている場合、支給が必要な手当

    指針では、以下の手当等については、正社員と同一の業務・条件を満たしているのであれば、同一の支給をしなくてはならないと示されています。

    • 特殊作業手当
    • 業務の危険度や作業環境に応じて支給されるもの

    • 特殊勤務手当
    • 交代制などの特殊な勤務形態に応じて支給されるもの

    • 精皆勤手当
    • 勤務状況に応じて支給されるもの

    • 時間外労働手当の割増率
    • 所定労働時間を超えて時間外労働を行った場合に支給されるもの

    • 深夜・休日労働手当の割増率
    • 深夜・休日労働を行った場合に支給されるもの

    • 通勤手当・出張旅費
    • 通勤や出張に必要な費用として支給されるもの

    • 食事手当
    • 労働時間中の食事費用として支給されるもの

    • 単身赴任手当
    • 単身赴任の場合に支給されるもの

    • 地域手当
    • 特定の地域で働く労働者に対して支給されるもの
  2. (2)休暇についての扱い

    • 慶弔休暇
    • 指針によれば、「慶弔休暇」は通常の労働者と同一の付与を行わなければいけません。

    • 病気休暇
    • 「病気休暇」は当該労働者の契約期間に配慮しつつ、通常の労働者と同一の取得を認めるべきとされています。

  3. (3)すべての手当や休暇が同一の支給・付与が必要なわけではない

    一方、法定外の有給休暇やその他の法定外休暇(慶弔休暇を除く)は、有期雇用・短期間労働者、派遣労働者、いずれもどのような趣旨や計算方法で付与されているかで変わります。

    たとえば、通常の労働者に対して、勤務時間に対する報酬としてリフレッシュ休暇を与えているなら、ほかの労働者にも労働時間に比例した日数を付与します。

    ここまで見てきたように、指針では、具体的な事例を出しながらわかりやすく説明されています。
    しかし、すべての手当や休暇が指針の中で示されているわけではありません。
    では、それ以外の手当や休暇は、どのように対処すればいいのでしょうか。

    次章で詳しく見ていきましょう。

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3、2020年10月最高裁判例による合理・不合理

令和2年10月13日と令和2年10月15日に、待遇差に対する最高裁判決が出ました。
さまざまなネットニュースで取り上げられ、話題となったので、まだ記憶に新しい方もいるでしょう。

ただ、このふたつの判決が注目を集めたのは、類似の訴訟内容に関する最高裁判決が、ほぼ同時期に出たからだけではありません。
13日の判決では原告の訴えが退けられた一方、15日の判決では原告の主張が認められる、という真逆の結果が出たためです。

  1. (1)2つの最高裁判決の詳細

    なぜ、最高裁の判決が分かれたのでしょうか。
    これは13日の判決では待遇差に合理性があり、15日の判決では待遇差が不合理であるとみなされたからです。

    ① 賞与と退職金
    13日の判決で争点となったのは、賞与退職金です。

    これらは正社員にしか支給されていませんでしたが、そもそも正社員として働いてくれる人材の確保と定着が目的でした。また、当該企業の正社員は、非正規雇用者と職務内容が異なり、配置転換の可能性もありました。

    こうした理由から、最高裁は正規雇用者にのみに当該待遇を与えるのは合理的である、と判断を下したのです。

    ② 扶養手当や年末年始勤務手当、 夏期冬期休暇、有休の病気休暇
    15日の判決で争点となったのは、 扶養手当や年末年始勤務手当、 夏期冬期休暇、有休の病気休暇など、手当や休暇です。

    13日の事例と同様、これらの手当や休暇は、正社員のみにしかありませんでした。
    しかし裁判では、たとえば扶養手当は、扶養家族がいれば雇用形態に関係なく支給されるべきものとされました。また、年末年始に非正規雇用者も出勤していたことも指摘されました。

    こうした事情から、最高裁は、業務内容や責任などの違いだけでこれらの待遇に差をつけるのには合理性がない、という判決を出しました。

  2. (2)判決からわかること

    待遇差の合理性は、基本的に、業務内容や労働者に課せられた責任、配置変更の有無とその範囲、そのほかの事情で決定されます。

    上記2つの判決は、まさにこれらに基づいて、待遇差の説明ができるかどうかで判断されたため、異なる結果が出たといえるでしょう。
    また、これらの判決からは、どんな待遇差であれ、その差に合理性がなければ法律違反といわれてしまう可能性がある、ということもわかります。

    • すべての手当や休暇による待遇差は認められない
    • 賞与や退職金であればすべてのケースにおいて不支給が認められる

    というわけではないのです。

4、同一労働同一賃金を導入するために知っておきたいポイント

これまで見てきたとおり、同一労働同一賃金は、賃金のほか、手当や休暇も対象です。
ただし、導入時には、これ以外に、さまざまなポイントをおさえる必要があります。

特に重要なものをご紹介しましょう。

  1. (1)非正規雇用の定義

    同一労働同一賃金は、主に正規雇用と非正規雇用の不合理な待遇差を禁止する制度です。
    非正規雇用とは、正規雇用労働者(無期雇用かつフルタイム)(※)以外の雇用形態を指します。
    契約社員、派遣社員、アルバイトやパートタイム労働者などが、それに当てはまります。

    (※) この雇用形態で働く労働者を、通常の労働者と呼ぶこともあります。

  2. (2)「均衡待遇規定」と「均等待遇規定」

    非正規雇用者の同一労働同一賃金を実現するための判断基準として、「均衡待遇規定」「均等待遇規定」があります。非正規雇用者の待遇は、主にこれらを基準に決定されます。

    ① 均等待遇規定
    「均等待遇規定」は、非正規雇用者が、一定の条件を満たしたときに差別的な扱いをすることを禁止する規定を指します(パートタイム・有期雇用労働法9条)。
    一定の条件とは、非正規雇用者と通常の労働者の職務内容や、職務内容・配置の変更範囲が同じときです。

    ② 均衡待遇規定
    「均衡待遇規定」は、一定の内容を考慮して、通常の労働者との不合理な待遇差を禁止する規定を指します(パートタイム・有期雇用労働法8条)。
    一定の内容とは、職務内容や職務内容・配置の変更範囲、成果、能力、経験値などです。

  3. (3)待遇の具体的な決定方法

    待遇の具体的な決定方法は、パートタイム労働者・有期雇用者と派遣労働者で大きく分かれます。

    ① パートタイム労働者・有期雇用者の場合
    パートタイム労働者および有期雇用者は、「均衡待遇規定」と「均等待遇規定」をもとに決定されます。対象となる待遇は、基本給や賞与、各種手当などすべてです。

    ② 派遣労働者の場合
    派遣労働者は、「派遣先均等・均衡方式」「労使協定方式」のいずれかの方法で設計されます。

    • 派遣先均等・均衡方式
    • 「派遣先均等・均衡方式」は、「均等待遇規定」「均衡待遇規定」を基準にした方式です。
      具体的には、派遣事業者が、派遣先企業が選定した比較対象労働者(待遇決定で参考となる労働者)と比較し、均等待遇・均衡待遇どちらが求められるのか判断した上で、すべての待遇内容を決定します。

    • 労使協定方式
    • 「労使協定方式」は、派遣元において、労働者の過半数代表者あるいは労働者の過半数で組織する労働組合と待遇内容を話し合い、労使協定の締結をもって決定する方式です。
      「派遣先均等・均衡方式」と異なり、基本給や手当といった賃金と、福利厚生や教育訓練などの賃金以外の待遇が対象となります。
      なお、判断基準は、基本的に賃金は一般労働者の平均賃金、賃金以外は派遣先の通常の労働者に与えられている待遇内容です。

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5、不合理な待遇差は対応が必要

同一労働同一賃金は、法律に基づいた制度です。
そのため、企業は、自社内で不合理な待遇差が生じていたら、速やかに対応する必要があります。

最後に、対応しなかった場合のリスクと対応すべきことについて解説します。

  1. (1)罰則はないが、損害賠償請求等のリスクがある

    同一労働同一賃金の根拠となる各法律は、パートタイム・有期雇用労働法については、大企業は令和2年4月1日、中小企業は令和3年4月1日から適用されます。
    労働者派遣法については、派遣元、派遣先の企業の規模に関わりなく令和2年4月1日から適用されます(同日以降に締結された労働者派遣契約のみならず、同日をまたぐ契約も、同日から改正法の適用を受けます)。

    この日以降に不合理な待遇差が解消されていないと法律違反となり、事後的に不足分の賃金を請求されたり、損害賠償を請求されたりする可能性があります。

  2. (2)待遇差があるか確認し、ある場合は理由を明確にする

    同一労働同一賃金に対応するためには、まず各従業員の職務内容や責任の範囲などを把握した上で、正規雇用者と非正規雇用者の間に、待遇差があるかどうか確認します。

    待遇差が判明したら、次に、なぜそのような待遇差を設けているのか、相手方に説明するための合理的な理由を考えましょう。
    説明が難しい場合、訴訟のきっかけになる可能性があるため、対処方法を検討します。

    このとき、就業規則や雇用契約書の見直しが必要になることがしばしばあります。
    実際に変更する場合は、労使で十分に話し合う必要があるので注意しましょう。

  3. (3)待遇差の理由などについて説明義務がある

    パートタイム労働者・有期雇用労働者は、正社員との待遇差の内容や理由などについて、事業主に説明を求めることができるようになります(パートタイム・有期雇用労働法14条)。
    また、派遣労働者に対する説明義務も創設されています(労働者派遣法31条の2)ので、この説明義務に関する対応も必要となるでしょう。

  4. (4)厚生労働省の助成金制度の利用を検討する

    厚生労働省が設けているキャリアアップ助成金には、賃金規定等共通化コースや諸手当制度共通化コースなど、同一労働同一賃金の導入をサポートするコースが用意されています。
    導入時にかかる費用で悩んでいるときは、検討してみましょう。

    ① 賃金規定等共通化コース
    賃金規定等共通化コースは、有期雇用者等に関して、正規雇用者と共通の職務内容などに応じた賃金規定を新たに作成、適用した場合に助成金をもらえるコースです。
    規定されている条件を満たせば、1事業場あたり57万円(大企業は42万7500円)支給されます。

    ② 諸手当制度共通化コース
    諸手当制度共通化コースは、有期雇用者等に関して、正規雇用者と共通の諸手当に関する制度を新たに設置し、適用したときに助成してもらえるコースです。
    こちらでは、1事業場あたり38万円(大企業は28万5000円)が支給されます。
    なお、両コースとも、生産性の向上が認められる場合は、より多くの助成金が支給されます。

6、まとめ

同一労働同一賃金は、非正規雇用の従業員がいたら、必ず考慮しなければいけない制度です。
待遇差が生じているのであれば、手当や休暇の取り扱いや「均等待遇規定」「均衡待遇規定」などのポイントをおさえた上で、迅速かつ的確な対応が求められます。
しかし、実際に導入するときは、どこからが不合理なのか迷う場面も少なくありません。

そのときは、ぜひベリーベスト法律事務所にご相談ください。
当事務所の弁護士なら、法的なアドバイスで、導入までの負担を減らすことができます。

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  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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