企業法務コラム
子どもはいない、または子どもはすでに就職してしまい、会社を継ぐ気はないという場合、高齢の経営者としては、今後の会社運営についてどうするか真剣に考えなければなりません。
業績が悪ければ廃業という選択も可能ですが、業績が好調の場合には廃業するのはもったいないといえます。そのような時、考えるべきなのが「M&A」です。
M&Aというと、大企業がするイメージがあるかもしれませんが、最近は、後継者不足もあって、中小企業によるM&Aが増えています。本コラムでは、M&Aとはどういうもので、M&Aをすることでどのようなメリットがあるのかについて弁護士が解説します。
M&Aとは、「Mergers and Acquisitions」の略で、日本語では「合併と買収」と訳されます。
「M&A」というと、「買収される」というネガティブなイメージがあるせいか、あまり良い印象はもたれていないかもしれません。しかし、M&Aはうまく活用すれば、買う側にとっても、売る側にとっても、有効な手段です。
合併は、文字通り複数の会社を1つの会社にすることです。たとえば、A株式会社とB株式会社があり、A株式会社がB株式会社を吸収する場合を「吸収合併」、A株式会社とB株式会社を統合してC株式会社を新たに設立することを「新設合併」といいます。
買収とは、買収したいと思う会社の支配権を獲得することです。具体的には、株式を買い集めたり、特定の事業について事業譲渡を持ちかけたりします。
① 合併
合併には、「吸収合併」と「新設合併」の2つがあることはすでに説明しましたが、その使い分けはどうなっているのでしょうか。吸収合併は、存続会社が消滅会社を飲み込むようなイメージの合併で、事業譲渡や営業譲渡と同じような効果があります。ただ、事業譲渡や営業譲渡の場合には個別に権利移転が必要であるのに対し、合併の場合には個別に権利移転の手続きをとる必要がないというメリットがあります。
他方、新設合併は、すべての当事会社がいったん消滅し、新しい会社を作る合併方法で、いわゆる「対等合併」の場合に利用されることがあります。実務的には、対等合併であっても既存の会社を利用した方が手続きが楽なので、吸収合併の方がよく利用されています。
② 会社分割
会社分割とは、会社の事業を分割し、別の法人に一部を承継させるものです。合併と同じく、「吸収分割」と「新設分割」があります。吸収分割は、ある会社の事業を他の会社が引き継ぐような場合に利用されます。他方、新設分割は、企業規模が多くなり、スリム化したい場合などに、分割して新たに設立する子会社などに引き継がせるような場合に利用されます。
なお、事業譲渡と会社分割には、合併と同様、個別に財産を移転する必要があるかないかの違いがあります。また、事業譲渡が事業の売買であるのに対し、会社分割は、会社法上の組織再編の手法であるという点も異なります。
③ 買収
企業を買収する方法としては、株式を取得する方法と事業譲渡を受ける方法があります。事業譲渡を受けるためには買収先の企業と合意ができなければなりませんが、株式取得の方法の場合、大株主から譲渡を受けたり、株式公開買い付け(TOB)をしたりすることで会社の意思に反して買収することが可能です。TOBは、不特定多数の者に対し、株式を売却してほしいと公告し、取引所外で株式を買い付ける方法です。
株式を取得する方法には、株式譲渡、新株引受(第三者割当増資)、株式交換、株式移転の4つがあります。
・株式譲渡
株式譲渡は、株主から既存の株を譲渡してもらうことですが、上場株式であれば、誰でも市場から株式を買うことができます。ただし、大量に株式を購入するなど一定の要件に該当する場合には、金融商品取引法により、株式公開買付け(TOB)によることが義務付けられています。
・新株引受(第三者割当増資)
新株引受は、友好的買収をする場合に、買収対象会社から新株を発行してもらい、それを買収者が引き受けることで支配権を得るものです。新株引受の場合、会社に新たな資金が入るので、資本の増強につながることがメリットです。
・株式交換
株式交換は、買収される会社の株式を買収する会社に譲渡し、買収する会社はその対価として金銭や自社株式を割り当てるというものです。買収する会社は、買収される会社の株式を取得することで、支配権を獲得します。株式交換は対価の内容によっては新たな資金を必要としないため、キャッシュがあまりない場合に有効な手段となります。
・株式移転
株式移転は、基本的に株式交換と同じですが、金銭や株式等を交付する会社が既存の会社ではなく、新設の会社という点です。持ち株会社を新しく設立して、その傘下に買収対象会社が入るような場合に利用されます。
事業譲渡は、会社の事業の一部または全部を他の会社に譲渡することです。事業譲渡の場合、個別に権利移転をしなければならないので、全部の事業譲渡をしたい場合には合併等の他の方法を選択した方がよいケースが多いですが、一部門だけ買収したい場合には一部の事業譲渡の手法が利用されています。
2019年版「中小企業白書」によると、最も多い経営者の年齢は、1995年に47歳だったものが、2018年には69歳になっており、経営者の高齢化が深刻化しています。また、少子化や個人の意識の変革により、子どもが親の職業に拘束されることなく、自由に職業を選択する時代になってきていることから、後継者不足になっています。
事業承継ができないと会社は解散せざるを得なくなります。事業がうまくいっていない場合には、それもやむを得ないかもしれませんが、事業が順調で従業員がいるような場合には、何とか存続させたいものです。このような場合に活用できるのが、M&Aです。
かつてのように、必ずしも家業は子どもが後を継ぐという時代ではなくなってきているので、中小企業の経営者としては第三者に売却することも視野に入れて事業承継について考えておく必要があります。その一環として、できるだけ早くM&Aをすることも視野に入れて準備をしておくとよいでしょう。
M&Aというと完全に外部の第三者に譲渡するイメージがあると思いますが、会社の優秀な社員などに経営権を譲るという方法もあります。これは、MBO(マネジメント・バイアウト)と呼ばれるもので、会社幹部が株式を譲り受け、オーナーになるというものです。ただ、社員に株式を買い受けるだけの資力がなければ手続きを進めることができないので、金融機関との連携も含めて検討する必要があります。
会社内部に経営を任せられる人材がいない場合には、第三者に任せることになります。その方法として、第三者への株式譲渡、合併、事業譲渡、株式交換、会社分割が考えられます。知り合いで経営を任せられる人がいれば、その人に株式を譲渡することで経営権を移転することができます。
知り合いに経営を任せられる人がいない場合には、M&A仲介会社、金融機関などから経営者を紹介してもらうという方法があります。また、同業者に合併や事業譲渡を持ちかけるという方法も考えられます。相手先企業にキャッシュがない場合には、会社分割や株式交換という手法で対価を相手先企業の株式とすることにより対処することも可能です。
後継者不足のため、M&Aを活用して事業承継をするというのがM&Aが注目される理由のひとつですが、事業を拡大するためにM&Aを利用するということも注目されています。これまで、中小企業では専門分野だけに注力するというスタイルが一般的でしたが、企業規模を大きくするためにはそれでは限界がある場合もあります。
かといって、新たな分野に進出するためには研究開発等の時間と手間が掛かります。そこで、M&Aを活用して興味のある分野の企業を買うという方法があります。すでにある分野で事業を行っている企業を買うので、人材やノウハウもそろっており、手っ取り早く事業を拡大するためにM&Aが有効と言えるのです。
事業承継ができないと廃業せざるを得ず、従業員も解雇するしかありませんが、M&Aにより事業承継ができれば従業員の雇用を維持することができます。
M&Aにより会社を存続させることができれば、これまで培われたノウハウや技術を承継することができます。ノウハウは長年の蓄積により獲得できるものなので、事業承継ができることのメリットといえます。
経営者がリタイアをすると、収入は年金だけとなることが多いでしょう。M&Aをすることで、株式の譲渡代金などの一定の金銭を受領して老後の資金を得ることができます。
後継者問題は中小企業にとってもっとも悩ましい問題ですので、M&Aによって事業を引き継ぐ相手が見つかることは最大のメリットと言えます。
M&Aをする場合、買い手側は買収対象企業の実情を把握するため、デューデリジェンスを行います。また、売り手側はできるだけデューデリジェンスで高く評価されるために、権利関係を明確にしたり、議事録を作成するなどの準備が必要になります。これらの作業を弁護士に依頼すれば、確実に処理してもらうことができます。
M&Aの基本的な合意ができると次は契約書を作成することになりますが、買い手側に有利にならないように、売り手側も契約書の作成や交渉を弁護士に依頼することが有効です。弁護士に依頼をすれば、依頼者にもっとも有利になるよう最善を尽くしてくれます。
M&Aの手続きは複雑で、取り得る方法も複数あります。その中で、どのような方法を選択するのかといったことから、相手方との価格や条件交渉も含めて弁護士に任せることが可能です。通常は、相手方もM&Aを専門に扱う会社や弁護士に依頼しているので、条件交渉において相手方のペースに持ち込まれないためにも弁護士への依頼は必須といっても過言ではありません。
今回は、中小企業とM&Aの活用について解説してきました。後継者問題は、中小企業にとって、非常に重要な問題ですので、早期に対策を立てることが重要です。
M&Aをするためには、通常相手方を探して交渉する必要があり、また組織再編などの法律の知識も求められるため、弁護士に相談することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所では、M&Aの業務について経験豊富な弁護士が在籍しておりますので、お気軽にご相談ください。
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