企業法務コラム

2014年04月01日
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退職した社員からの残業代請求の解決ポイント

退職した社員からの残業代請求の解決ポイント

ブラック企業という言葉をニュースなどで頻繁に目にするようになり、若者の就職活動でも「ブラック企業かどうか」は重要な情報となっているようです。

平成25年12月17日の厚生労働省の報道発表によると、同省による若者の「使い捨て」が疑われる企業等への取組として、同年9月に行われた「過重労働重点監督」の結果、実施事業場5111事業場のうち4189事業場(82%)に、何らかの労働基準関係法令違反があり、1221事業場(23.9%)に、賃金不払残業があったとのことです。

ブラック企業かはともかく、未払残業問題を抱える企業は少なくないのが現状のようです。

1、退職した社員からの残業代請求

このような風潮の中、これまで一心不乱に働いていた社員がふと「残業代がきちんと支払われていないのではないか」と問題意識をもつようになり、上司と顔を合わせずにすむ退職後に、在職中の残業代の支払を求める通知書を会社に送るケースが増えています。

通知書を受領した会社は、「在職中は何の文句も言わなかったのになぜ今頃このような請求をするのか」と困惑することが殆どですが、この請求を安易に拒否すると、裁判手続に移行し、最悪の場合、未払分の残業代だけでなく、遅延利息(在職期間は年6%、退職後は年14.6%)、未払分の残業代と同額の付加金(労働基準法114条)の支払を裁判所から命令されるリスクがあります。また、「ブラック企業」などと評価され、企業イメージが低下するなど風評被害のリスクも否定できません。

したがって、会社としては、残業代請求について、直ちに拒否はできないものの、請求されたとおりに支払うべきかの検証を迅速に行い、慎重に対応を検討する必要があります。

2、検討する事項

使用者は、労働者が時間外労働(1日について8時間をこえて労働した場合、1週間について40時間をこえて労働した場合)、深夜労働(午後10時から午前5時までの間に労働した場合)、法定休日労働をした場合には、労働基準法37条に基づき割増賃金(時間外労働25%、休日労働35%、深夜労働25%)の支払義務を負うのが原則です。
そして、残業代請求された場合、この原則どおりのケースかどうかも含めて、以下の項目を検討することが多いです。

  1. (1)残業代が支払われる役職か

    たとえば、本質的に経営者と一体的な立場と解される管理監督者(労働基準法41条2号)に該当する場合は、労働時間、休憩及び休日に関する労働基準法の規定は適用されず、深夜業に対する割増賃金の規定は適用されると解されています。

    いわゆる「名ばかり管理職」問題が争われたN社事件(東京地裁平成20年1月28日判決)では、ハンバーガーの販売等を業とする株式会社の直営店の店長が、店舗運営において重要な職責を負っているものの、企業経営上の必要から、経営者との一体的な立場において、労働基準法の労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与されているとは認められない等の理由から管理監督者には当たらないと判断されているように、会社の規程で管理職として残業代の支払対象となっていなくても、管理監督者(労働基準法41条2号)に該当しないと判断されるケースもあります。

  2. (2)残業時間数は正しいか

    労働時間の把握方法は、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」(平成13年4月6日付け基発第339号)によれば、原則として、使用者が自ら現認するか、タイムカード・IDカード等の客観的な記録を基礎として確認・記録することとなっています。一方、残業代請求の裁判では、残業したことは元社員側が主張・立証しなければならないと解されているので、会社に客観的な記録がないと、残業したことが認められない可能性があります。

    しかし、元社員がタイムカードのない会社に残業代を請求した裁判(大阪高裁平成17年12月1日判決)では、タイムカード等による出退勤管理がされず、事前の残業・休日出勤許可のない残業には残業代が支払われていなかった事案でしたが、裁判所は、タイムカード等による出退勤管理をしないのは、専ら会社の責任によるもので元社員に不利益に扱うべきではなく、許可のない残業を会社が把握しながら放置していたことがうかがわれるなどの事情から、具体的な終業時刻や従事した業務内容が明らかでなくても、ある程度概括的に残業時間を推認すると判断しています。

    この裁判例を参考にすると、タイムカードなどの客観的な記録が残っていなくても、会社での残業の実態などから、ある程度の残業時間が認められる可能性もあります。

  3. (3)計算の基礎となる賃金額や割増率は正しいか

    割増賃金は、「通常の労働時間又は労働日の賃金」(時間給、月給など)を基礎にして算定されるものの、労働と直接的な関係が薄く個人的事情に基づいて支給される賃金となる家族手当・通勤手当等は算入しません(労働基準法37条、労働基準法施行規則21条)。ただし、たとえば名目が「家族手当」でも、実質は扶養家族数に関係なく一律に支給される手当ですと算入される可能性もあります。

    また、割増率については、たとえば、休日労働の場合、法定休日(労働基準法35条)か会社の所定休日かによって、割増率が異なる可能性にも注意が必要です。

  4. (4)定額で支払った残業代はどう扱われるか

    残業代を定額の手当として支払う場合、原則として、その手当は上記(3)の基礎賃金には含まれず、未払残業代から既払分として控除できますが、手当の性質(残業に対する手当であることが明確か、基本給と区別できるかなど)によっては、残業代の既払分と認められず、上記(3)の基礎賃金に含まれる可能性もあります。

  5. (5)消滅時効(2年)になっているか

    賃金請求権は、2年間行わない場合は、時効によって消滅します(労働基準法115条)。時効の起算点は、賃金請求権が具体化する各賃金支払期と解されています。

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3、対応方針の検討

前記3のとおり、残業代請求への対応の検討に際しては、事実関係や会社の制度だけでなく、実質的な取扱についての確認も必要となります。

事実関係や解釈に争いのある事項は、行政通達や類似の裁判例などと照らし合わせ、裁判になった場合にどのような判断となる可能性があるかを検討し、裁判を覚悟しても請求を拒否するか、ある程度妥協しても裁判外の交渉で解決すべきかを慎重に判断する必要があるといえます。判断に迷われたときには法律事務所に相談することをおすすめします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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