企業法務コラム
労働者派遣法は、労働者派遣事業の適正化を目的として、時流に合わせて頻繁に改正が行われています。
2021年に2回に分けて施行された省令・指針の改正では、事業者の義務が一部強化されたことに伴い、各派遣会社において業務の内容・方法を見直す必要性が生じています。派遣会社は、省令・指針の改正内容を踏まえたうえで、自社の実情に合わせた対応策を柔軟に検討しましょう。
この記事では、2021年労働者派遣法改正施行のポイントや、派遣会社がとるべき対応策を中心に、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
派遣会社が雇用している派遣労働者を、他の会社(派遣先会社)の指揮命令下で労働させる仕組みを「労働者派遣」といいます。
「労働者派遣法」は、この労働者派遣に関するさまざまなルールを定める法律です。
労働者派遣法の目的は、労働者派遣事業の適正な運営を確保して、派遣労働者を保護し、派遣労働者の雇用の安定など福祉の増進を図ることにあります(労働者派遣法第1条参照)。
派遣労働者は有期雇用・時給制の場合が多く、いわゆる「正社員」と比べて雇用が不安定であり、かつ待遇が低く抑えられがちな傾向にあります。
このような背景事情を踏まえて、派遣労働者に対する事業者の搾取を防ぐため、労働者派遣法によって事業者に対する規制が設けられているのです。
労働者派遣法は、もともと職業安定法第44条によって禁止されていた労働者派遣事業を解禁し、人材派遣のルートを多様化させることを目的として制定されました。
その後規制緩和が段階的に進められましたが、派遣労働者の劣悪な労働環境・待遇が社会問題化するにつれて、2012年の労働者派遣法改正を機に、以降は規制強化の流れが続いています。
2021年の労働者派遣法改正施行についても、2012年以降続く事業者に対する規制強化の一環と捉えることができます。
問題社員のトラブルから、
最近の労働者派遣法改正の内容では、2018年に改正され、2020年に施行された「同一労働同一賃金」が極めて重要ですので、ルールの概要を確認しておきましょう。
同一労働同一賃金とは、正社員と非正規社員・派遣社員の間の不合理な待遇差を禁止するという考え方で、それぞれ以下の法律によって定められています。
たとえば、能力・責任の重さ・配置転換の有無などの合理的な理由によって、正社員と派遣者員の間で待遇差を設けることは認められます。
これに対して、単に「正社員だから優遇する」「派遣社員だから待遇を低く抑える」というのは違法です。
なお同一労働同一賃金は、基本給のみならず、賞与・退職金・各種手当・福利厚生・職業訓練などのあらゆる待遇について適用されます。
同一労働同一賃金の下で、派遣労働者の待遇を決定する方法には「均等・均衡方式」と「労使協定方式」の2つがあります。
福利厚生施設の利用については要注意
なお、労使協定方式によっても、休憩室や更衣室などの福利厚生施設の利用や教育訓練について定めることはできません。
そのため、福利厚生施設の利用、教育訓練に関しては、派遣先企業の正社員と比較して、不合理な差が生じないように決定されなければなりません(同法第30条の4第1項柱書)。
派遣先企業は派遣元企業に対して、比較対象労働者の賃金その他の待遇に関する情報等を提供することが義務付けられています(労働者派遣法第26条第7項)。
これは、同一労働同一賃金に基づき、派遣元企業が派遣労働者の労働条件を決定する際の検討材料とするためです。
なお、労使協定方式の場合は、情報提供義務の範囲が教育訓練および福利厚生施設の内容に限られます(同法施行規則第24条の4第2号)。
問題社員のトラブルから、
2020年10月9日に各種関係省令および各種関連指針が改正され、2021年の1月と4月の2回に分けて、施行されました(令和2年厚生労働省令170・171号、令和2年厚生労働省告示346・347号)。
以下では、各改正点の概略についてまとめます。
教育訓練・キャリアコンサルティングの内容を、派遣元会社が派遣労働者に対して、雇い入れ時に説明することが義務付けられました(2021年1月施行)。
(労働者派遣法第31条の2第1項、同法施行規則第25条の14第2項4号)
労働者派遣契約を、書面に代えて電磁的記録で締結することが可能になりました(2021年1月施行)。
(e-文書法第4条第1項、厚生労働省の所管する法令の規定に基づく民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する省令5条、別表2)
派遣先事業主は、派遣先事業主を使用者とみなして適用される労働関係法令上の義務に関する苦情について、誠実かつ主体的に対応すべきことが明確化されました(2021年1月施行)。
(派遣先が講ずべき措置に関する指針第2の7(2))
日雇い派遣労働者が、自らの責に帰すべき事由によらず就業機会を失い、新たな就業機会の確保ができない場合、派遣元企業が休業手当などを支払う責任を果たすべきことが明確化されました(2021年1月施行)。
(日雇派遣労働者の雇用の安定等を図るために派遣元事業主及び派遣先が講ずべき措置に関する指針第2の5(2))
同一組織への派遣期間が1年間以上見込まれる派遣労働者等に対して、雇用安定措置を講じる際に、雇用安定措置に関する希望を聴取することが派遣元企業に義務付けられました(2021年4月施行)。
(労働者派遣法第30条第1項、同法施行規則第25条の2第3項)
マージン率と労使協定の締結状況に追加して、以下の情報についても、派遣元企業のインターネット上で常時公開することが原則とされました(2021年4月施行)。
問題社員のトラブルから、
2021年の労働者派遣法改正(関係省令・指針)の施行に伴い、派遣元企業((3)については派遣先企業)は、以下の要領でオペレーションの見直しを行いましょう。
法令に沿った形で、かつ会社の実態に合わせた対策を実施するためには、弁護士と協力してオペレーションの改善に取り組むことをおすすめします。
派遣社員の雇い入れ時に教育訓練・キャリアコンサルティングに関する説明が義務付けられたことに伴い、雇い入れ時の待遇に関する説明内容を見直しましょう。
配布資料などを準備している場合には、改正後施行規則の内容がカバーされていることを確認する必要があります。
労働者派遣契約の電子化が解禁されたことに伴い、派遣元企業は積極的に契約書の電子化を検討すべきでしょう。
今後は業務のリモート化・ペーパーレス化がいっそう進展すると予想されるため、早い段階で電子契約を導入することをおすすめします。
派遣先企業が派遣労働者からの苦情処理の窓口を設けているかどうか、窓口担当者の独立性が確保されているかどうかなどが、監督官庁によるチェック事項として重要度が高まると予想されます。
派遣先企業は、監督官庁への対応を想定して、きちんと苦情処理体制を整備しておきましょう。
日雇い派遣労働者を雇用している派遣元企業は、就業機会が確保されていない日雇い派遣労働者に対する休業補償の支給について見直す必要があります。
特に、就業規則その他の社内規定における休業補償の規定が、労働基準法第26条の最低ラインを満たしていない場合には、社内規定の改正が必要になるので注意しましょう。
派遣元企業が派遣労働者について雇用安定措置を講ずる場合、会社の独断で措置の内容を決定するのではなく、派遣労働者の意見を聞くステップを事務フローに組み込まなければなりません。
また、意見聴取の結果は派遣元管理台帳に記載する必要がありますので、台帳管理のマニュアルなども見直しておきましょう。
派遣元企業がインターネット上で開示すべき情報の範囲がかなり増えましたので、自社のホームページの記載が改正後施行規則・指針の内容をカバーしているかどうか確認しましょう。
問題社員のトラブルから、
2021年の労働者派遣法改正(関係省令・指針)の施行には、主に派遣元企業(派遣会社)の側にオペレーションの見直しを迫る内容が含まれているので、未対応の派遣元企業は対応を急ぎましょう。
労働者派遣法は頻繁に改正が行われるため、タイムリーな対応には弁護士への相談が欠かせません。
法令改正について速やかに対応することで、派遣労働者とのトラブル防止や監督官庁によるチェックへの対策にもつながりますので、いつでも相談できるように弁護士と顧問契約を締結することをおすすめいたします。
ベリーベスト法律事務所では、クライアント企業のニーズに合わせた顧問契約プランを複数ご用意しておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。
会社には、人事権があります。そのため、従業員の配置転換や昇格・降格などの人事を自由に行うことが可能です。しかし、気に入らない従業員がいるからといって、正当な理由もないのに配置転換や降格などを行うと、…
時間外労働とは、法定労働時間を超過して労働することです。労働者に時間外労働をさせる場合は、36協定を締結しなければなりません。また、時間外労働には割増賃金が発生する点にも注意が必要です。弁護士のサポ…
服務規律とは、会社の秩序を守るために従業員が守るべきルールです。服務規律の作成は、法律上の義務ではありません。しかし、服務規律を定めておくことでコンプライアンス意識の向上やトラブルの防止などのメリッ…
お問い合わせ・資料請求