企業法務コラム
会社の経営が悪化し、自力では回復不能な状態に陥った場合、法的整理手続きの利用を検討せざるを得ません。
会社を存続させながら債務整理を行う方法として「民事再生」と「会社更生」がありますが、どちらの方法を選ぶかは、自社の状況に応じて事前によく検討する必要があります。
この記事では、民事再生・会社更生それぞれの内容や違い、メリット・デメリットなどについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
倒産と一口にいっても、その方法には複数のパターンがあります。まずは倒産の定義と、会社が倒産する際に利用できる4つの法的整理手続について解説します。
倒産とは、実は法的に定義された概念ではありません。一般的には、債務の支払不能や債務超過などを原因として、事業の再建または清算が必要となった状態をいいます。
倒産状態に陥った会社の再建または清算を行う法律上の手続きを、法的整理手続、または法的倒産手続と呼びます。
会社が利用できる法的整理手続には、「再建型」と呼ばれる民事再生・会社更生と、「清算型」と呼ばれる破産・特別清算の4種類があります。
それぞれの手続きについて、目的と概要を見ていきましょう。
民事再生の例、制度内容、メリットやデメリットについて解説します。
民事再生法の適用を受けた有名な会社の例としては、2015年のスカイマークや、2017年のタカタなどが挙げられます。
いずれも当時の上場企業ではあったものの、債権債務関係が比較的シンプルであったことから、会社更生ではなく民事再生を選択したと考えられています。
スカイマークとタカタについては、民事再生手続終了後、いずれも順調に債務の返済が進められたことが報じられています。
民事再生手続は、民事再生法という法律に従って行われます。
民事再生では、支払不能または債務超過のおそれがある会社について、債権者が決議し、裁判所が認可する再生計画に従って債務が大幅に圧縮されます。その後、再生計画に定められたスケジュールに沿った計画弁済が行われ、すべての計画弁済が完了すれば、手続きは終結します。
債権者の視点から見れば、債務の大幅な減額が行われることは、受け入れがたい側面があります。しかし、その時点で会社を清算してしまうよりも、企業活動を継続させることで少しでも多くの配当が得られる見込みがあると判断する場合には、再生計画案に賛成票を投じる可能性は高いでしょう。
民事再生のメリットは、清算型の法的整理手続(破産手続・特別清算手続)とは異なり、会社を存続させながら大幅な債務の減額を実現できる点にあります。
また、一定の制限はあり得るものの、現経営陣を続投させることができる点も、会社側にとってのメリットといえるでしょう。
一方、民事再生のデメリットとしては、社会的な信用の低下や、予納金・弁護士費用などの資金が必要となる点が挙げられます。
また、上記に加えて、民事再生の場合、会社更生と異なり原則として担保権の実行を阻止できないというデメリットがあります。この点については後述します。
会社更生の例、制度内容、メリットやデメリットについて解説します。
会社更生法の適用を受けた有名な会社の例としては、2010年の日本航空・武富士などが挙げられます。
会社更生手続開始時点において、日本航空は約2兆3000億円、武富士は約4300億円の負債を抱えていました。しかし、単純に負債総額が巨額であったからというだけでなく、債権債務関係の複雑さ・再建計画の内容などが考慮された結果、民事再生ではなく会社更生の手続きが選択されたものと考えられます。
会社更生手続は、会社更生法という法律に従って行われます。対象は、株式会社に限られます。
会社更生は、民事再生同様、会社を存続させながら債務を圧縮して経営の再建を図る手続きです。更生計画に従った債務の圧縮と計画弁済が行われる点も、民事再生に類似しています。
ただし、会社更生の場合には株主と担保権者の権利も整理の対象となるため、更生計画の決議は担保権者を含む債権者と株主によって行われます。
また、会社更生では管財人に強力な権限が与えられており、管財人主導で手続きが進行する点も大きな特徴です。
会社更生のメリットも、民事再生同様、会社を存続させながら大幅な債務の減額を実現できる点にあります。また、管財人主導で強力に手続きを推進できるため、権利関係が入り組んでいる会社でもスムーズに債務整理を行うことができます。
一方、会社更生のデメリットについても、社会的な信用の低下や、予納金・弁護士費用などの資金が必要となる点は民事再生と同様です。
なお、会社更生の方が大がかりな手続きになるため、費用はかなり高額になります。加えて、民事再生とは異なり、会社更生では現経営陣の退任が必須となる点に注意が必要です。
民事再生と会社更生はどちらも再建型の法的整理手続であり、手続きも似ていますが、一方で大きく異なる点もいくつかあります。
以下では、民事再生と会社更生の主な違いについて解説します。
民事再生では、現経営陣が続投したまま手続きを進めることが法律上可能となっています。
そのため、経営への影響をできるだけ小さく債務整理を進めたい場合に、民事再生が選択される傾向にあります。
一方会社更生では、手続き開始に伴い現経営陣は全員退任し、管財人に経営権や会社財産の管理処分権限がすべて移転します。
つまり、会社更生を選択する場合、現経営陣は自らが経営から手を引くという決断をしなければなりません。その反面、管財人がワンマンで手続きを進めるため、大胆な意思決定をスムーズに行うことができるなどのメリットがあります。
民事再生では、担保権者には「別除権」が認められ、担保権の付着した債権は整理対象外とされています。そのため、原則として、担保権は別除権として手続外で実行することが可能です(民事再生法第53条第2項)。
一方会社更生では、担保権者に別除権が認められておらず、担保権の付着した債権も「更生担保権」として整理の対象となります。
したがって、担保権付き債権も整理の対象に含めたい場合には、会社更生の選択が検討されます。
民事再生では、株主の権利が変更されることはありません。
一方、会社更生では、更生計画の中で株主の権利の変更に関する事項を定めなければならないとされています(会社更生法第167条第1項第1号)。
そのため、会社が債務超過の場合を除いて、株主も更生計画の決議において議決権を有するものとされています(同法第166条第1項)。
民事再生手続の利用主体には特に制限がなく、株式会社以外の法人や、個人も利用することができます。
一方、会社更生手続の利用主体は株式会社に限られます。また、会社更生手続にかかる費用や大がかりな手続きから、会社更生を利用できるのは事実上大企業のみとなっています。
民事再生と会社更生の手続きの流れを解説します。どちらも基本的な流れは共通しているため、まとめて見ていきましょう。
まずは民事再生・会社更生手続開始の申し立てを行うところから手続きが始まります。
申し立てができる申立権者は、それぞれ以下のとおりです。
申し立てを受けた裁判所は、手続開始の原因があると認めた場合には、その他の形式要件が充足されていることを確認の上、手続開始の決定を行います。
手続開始の原因は、民事再生・会社更生共通で以下のとおりです。
手続開始の決定と同時に、債権者が会社に対して有する債権を届け出るための債権届出期間が定められます。
債権者は、原則としてこの債権届出期間内に債権を届け出た場合のみ、民事再生手続・会社更生手続において権利を行使することができます(民事再生法第94条第1項、会社更生法第138条第1項)。
債権届出期間が満了した後、裁判所の定める期間内に、再生計画・更生計画案が裁判所に提出されます(民事再生法第163条第1項、会社更生法第184条第1項)。
計画案を提出するのは、原則として民事再生の場合は再生債務者(会社)、会社更生の場合は管財人です。
ただし、民事再生の場合は債権者、会社更生の場合は更生会社、債権者および株主も計画案を提出することができます(民事再生法第163条第2項、会社更生法第184条第2項)。
裁判所に提出された再生計画・更生計画案については、民事再生の場合は債権者の、会社更生の場合は債権者と株主の決議に付されます。
計画案の可決要件は以下のとおりです。
計画案が可決された場合、当該計画案が法定の要件を充足していることを確認して、裁判所が再生計画・更生計画の認可を行います(民事再生法第174条第1項、会社更生法第199条第2項)。
再生計画・更生計画が裁判所により認可された場合、計画の内容に従って、債権者に対する計画弁済が行われます。
民事再生・会社更生を行うことを検討している経営者の方は、ぜひベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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