企業法務コラム
事業再生ADRは、経営破綻した、あるいは経営破綻の危機に瀕した企業を救済する“債務整理”手続きのひとつです。事業再生ADRでは、民事再生や破産などの法的手続きとは異なり、裁判所を介さずに金銭債権者等と債務者との合意に基づき債務を猶予・減免するなどの手続きを行うため、取引先に極力迷惑をかけずに債務整理を実現できる可能性があります。
経営破綻した、あるいは経営破綻の危機に瀕した企業経営者・担当者の方は、他の債務整理手法とともに、債務整理の選択肢のひとつとして、事業再生ADRの利用可能性を検討してみましょう。
この記事では、事業再生ADRのメリット・デメリット、利用条件、手続きの流れなどについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
事業再生ADRは、事業再生と呼ばれる手続きのひとつです。事業再生ADRを理解するに当たって、まずは事業再生とは何か、およびどのような手続きがあるのかについて、基本的な点を理解しておきましょう。
事業再生とは、支払不能または債務超過のおそれがある企業を、経済的に再生させるための手続き全般を指します。
たとえば債務のカット、返済期日の延長などの措置をとることによって、企業の債務負担を緩和し、財務体制の見直しや事業投資を可能として、企業再生を目指すことになります。
この事業再生よりもさらに大きなカテゴリーとして、債務整理があります。
債務整理は、会社自体を消滅させる法人破産・特別清算の清算型手続きと、会社を存続させたまま経済的な再生を目指す再建型の手続きの2つに大別されます。
事業再生は、このうち再建型の手続きを指す言葉と理解しておけばよいでしょう。
事業再生の手続きは、さらに「法的整理(法的再生)」と「私的整理(私的再生)」の2つに分類できます。
法的整理は、裁判所を通じた債務整理手続き全般を意味します。
事業再生に属する手続きのうち、法的整理に属するものとしては、民事再生や会社更生が挙げられます。
これに対して、裁判所を通さずに、債権者と債務者の交渉によって行われる債務整理を私的整理と呼んでいます。
私的整理に属する事業再生の手続きとしては、純粋な個別交渉を行う任意整理が代表的ですが、事業再生ADRも私的整理に該当します。
法的整理の場合、商取引債権者を含めた債権者の全員参加、かつ債務カット等に関するルールも法律で厳格に決められているので、柔軟かつ機動的な解決を図りにくい難点があります。
これに対して私的整理は、債務者と金銭債権者の合意に基づいて解決案を決められるので、当事者の多様なニーズに応えた形での柔軟な解決が図りやすい点が大きなメリットです。
ここからは、私的整理のひとつである事業再生ADRが、どのような手続きであるかについて解説します。
事業再生ADRは、“準則型私的整理”と呼ばれる手続きの一種です。
私的整理は、債権者・債務者間の純然たる交渉によって行われます。
しかし、私的整理といえども、ある程度のルールやガイドラインに基づく方が当事者のニーズに合っているというケースもあります。たとえば債権者が多数の場合や、中立な第三者の仲介によってフェアな交渉を行いたい場合などが該当するでしょう。
準則型私的整理とは、このような債権者・債務者のニーズに応えるために用意された、一定のルール・ガイドラインに基づく私的整理手続き全般を意味します。
事業再生ADRは、産業競争力強化法第49条第1項に基づく経済産業大臣の認定を受けた“認証紛争解決事業者”が仲介者となって、行われる私的整理手続きです。
2021年3月現在、認証紛争解決事業者としての認定を受けているのは、事業再生実務家協会(JATP)のみです。
(参考:一般社団法人 事業再生実務家協会ホームページ)
事業再生実務家協会には、弁護士・公認会計士・税理士・コンサルタント・事業会社・金融機関・ファンドなどの有識者が会員として所属しており、公正・中立な立場から、私的整理の交渉がまとまるようにサポートしています。
債務整理の手続き選択に当たっては、各手続きのメリット・デメリットを適切に比較することが大切です。事業再生ADRのメリット・デメリットについても、正しく理解しておきましょう。
事業再生ADR手続きは、法的整理と私的整理のメリットの融合を目指した制度であり、以下のとおりさまざまなメリットがあります。
一方、事業再生ADRはあくまでも私的整理手続きの一種なので、債権者が一人でも解決案に合意しなければ、債務整理を実現できないというデメリットがあります。
もし債権者間の調整が困難な場合には、民事再生などの法的整理手続きを検討するほかないでしょう。
また、事業再生実務家協会に支払う審査料・業務委託金・業務委託中間金・報酬金や、アドバイザーとなる専門家に支払う報酬が高額になりがちな点も、事業再生ADRのデメリットのひとつです。そのため実際には、事業再生ADRを利用するのは大企業がほとんどという状況になっています。
実際に事業再生ADRを利用するに当たっては、利用条件や手続きの流れを事前に理解しておくとスムーズに対応できます。以下では、事業再生ADRの利用実績とともに、利用条件や手続きの流れについて解説します。
経済産業省の「事業再生ADR制度について」によると、事業再生ADRは、制度創設以来2020年3月までに、計81件(253社)の手続利用申請があり、そのうち55件(210社)で事業再生計画案への債権者合意が得られています。
事業再生実務家協会は、事業再生手続きが必要かつ可能で、事業再生ADRの利用が手段としてふさわしいと認められるための要件として、以下の5つを掲げています。
事業再生ADRの大まかな流れは、以下のとおりです。
事業再生ADRは非常に専門的な手続きであるため、事前検討の段階から、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
事業再生ADRに関して弁護士にアドバイスを求める主なメリットは、以下のとおりです。
事業再生ADR以外にも、法的整理や任意整理など、事業再生の手段にはさまざまなものがあります。債務者の状況によって適切な手続きは異なるところ、弁護士は、各手続きのメリット・デメリットを比較したうえで、どの手続きを選ぶべきかについてのアドバイスを行います。
事業再生実務化協会はあくまでも中立・公正な第三者機関なので、債務者の代理人として行動してくれるという立場にはありません。これに対して弁護士は、債務者の代理人という立場で、債務者にとってベストな解決策は何かという観点から親身になってアドバイスを行います。
事業再生ADRを含めて、債務整理を行う際には、準備作業を含めた多くの工程を経る必要があります。弁護士に依頼をすれば、必要な手続きの大部分を代行してくれるので、債務者の負担は大きく軽減されることでしょう。
事業再生ADRは、裁判所を通さない債務整理手続きとして、主に債務負担に苦しむ大企業にとって有力な選択肢のひとつです。事業再生ADRを含めて、債務整理の手続きを選択する際には、メリット・デメリットを適切に比較するため、まずは実績のある弁護士へ相談することがおすすめです。
ベリーベスト法律事務所では、法人破産・民事再生専門チームの弁護士を中心に、グループ内の税理士・社会保険労務士との連携し、事業再生期間中の財務・税務処理、財務レポートなどの必要書類の作成、整理解雇などについてワンストップで対応可能です。また、事業継続を前提とした定額制・プラン別の顧問弁護士サービスもご提供しております。
事業再生をご検討の際は、まずは一度ベリーベスト法律事務所にご相談ください。
会社経営に暗雲が垂れ込み始め、「経営破綻」という言葉が頭に浮かんで不安に感じている方はいませんか。その中には、経営破綻とは何なのか、具体的に理解していないという方もいるでしょう。経営破綻後は倒産手続…
もし経営危機に陥ってしまった場合、解決策のひとつになり得るのが、借入金などの負担を軽減できる「私的整理」です。私的整理には、破産や民事再生などの法的整理と比較すると、迅速・柔軟に債務を軽減できるメリ…
清算人とは、会社が解散した後に清算業務を行う人のことをいいます。その多くは取締役が就任するため、廃業を考えている経営者(取締役)の方は、清算人の職務や責任について理解しておきましょう。本記事では、清…
お問い合わせ・資料請求