企業法務コラム

2022年02月10日
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企業再生とは事業再生とは異なる制度か? 実際の手続きと事例

企業再生とは事業再生とは異なる制度か? 実際の手続きと事例

新型コロナウイルスの感染拡大の影響によって、各種産業で業績悪化が進んでいます。そんな中、資金繰りが厳しくなり、廃業や破産を検討している企業もあると思いますが、企業再生ができるなら企業の延命を図りたいと考える経営者もいるのではないでしょうか。

ただ、「企業再生」と似た言葉として「事業再生」や「民事再生」などもあり、その違いややり方についてよくわからないという人も多いと思います。

そこで、本コラムでは、企業再生とはどういうことを意味するのか、また、どのような効果が得られるのかなど手続きや注意点などについて解説していきたいと思います。

1、企業再生とは? 事業再生との違い

  1. (1)企業再生と事業再生の違い

    企業再生とは、債務超過や資金繰りの悪化などで実質的に経営破綻状態にある企業において、経営再建を図り、企業を再生させることをいいます。

    他方、事業再生とは、不採算事業の廃止や事業の見直しによって収益力アップを図るなど、業務を改善して事業を再生させることをいいます。

    実はどちらも法律用語ではなく、一般的な用語として使われているにすぎません。企業再生が「企業」を再生させることを主眼にしているのに対し、事業再生は「事業」を再生させることに主眼を置いているという違いがあります。明確な違いはないので、厳密に区分する必要はなく、いずれも会社を建て直すことと理解しておけば十分です

    それに対して「民事再生」と「会社更生」は法的倒産手続で法律用語になります。企業再生や事業再生の手段として利用されるものです。それぞれの違いや内容については後で説明します。

  2. (2)企業再生の必要性とその方法

    債務超過や資金繰りの悪化などで実質的に経営破綻状態に陥った場合、何もしなければ廃業または倒産ということになってしまいます。いずれにせよ、従業員の雇用が失われ、取引先にも迷惑をかけかねない事態であることは間違いないでしょう。

    法的倒産となれば、債権者にはわずかな配当しか支払われず、倒産手続きのための裁判所や弁護士への多額の費用も発生します。社会全体でみても大きな経済的損失となります。

    それに対して、法的倒産手続きを使わずに企業再生できれば、事業を継続することができ、従業員の雇用も守ることができます。任意整理の場合、金融機関に対する債務免除の要請は必要になるかもしれませんが、一般取引を行う事業者の債務は全額弁済されるのが一般的ですので、取引先にも極力迷惑をかけない対応をすることも可能です。これだけのメリットがあるので、企業再生できるのであればしたほうがよいといえます

    それでは、どのような場合なら企業再生できるのでしょうか。まず、資金繰りを正常化できるかどうかがポイントです。資金繰りさえなんとかなるのであれば、対策を講じることはできますが、資金繰りに行き詰まると、即倒産ということになってしまうからです。

    資金繰りが厳しい場合には、金融機関からの追加融資が一般的ですが、銀行は企業の状態がよくないときにはお金を貸してくれません。そのため、スポンサーを見つけるなど他の方法も検討する必要があります。

    場合によっては、金融機関に債務免除をお願いすることも検討材料となりえます。同時に、キャッシュフローを改善するため、コストの削減にも取り組む必要が出てくることは間違いありません。

    資金繰りが安定したら、次は事業の見直しを行います。不採算事業は廃止するなど思い切ったリストラを行い、成長可能な事業を選別する必要があります。

    法的整理まではいかないものの一定のルールに基づき、再生を図る制度として、以下を代表とする制度による支援を受けられることもあります

    • ① 事業再生ADR
    • ② 地域経済活性化支援機構
    • ③ 中小企業再生支援協議会
    • ④ 整理回収機構
    • ⑤ 経営改善支援センターなど
  3. (3)民事再生と会社更生

    ① 民事再生
    民事再生とは、民事再生法に基づく裁判手続きで、経済的な危機に陥っている債務者について、債権者の同意のもと再生計画を定め、それを遂行することによって債権者との権利関係を調整し、債務者の事業の再生を図ることを目的とするものです。

    民事再生手続の開始決定がなされても、事業は継続され、従来の経営者も地位を失うことはありません。再生計画案を作成し、債権者集会で債権者による投票が行われます。

    再生計画案が認められるためには、議決権者の過半数の同意(頭数要件)と、議決権者の議決権の総額の2分の1以上の議決権を有する者の同意(議決権数要件)の2つの要件をいずれも満たす必要があります。

    再生計画案が債権者集会で可決されると、裁判所は再生計画認可決定を行い、再生計画が法的な拘束力を持ち、再生計画に従い履行されていくことになります。

    ② 会社更生
    会社更生とは、会社更生法に基づく会社を再建させるための裁判手続きです。対象となるのは「株式会社」のみに限られます。裁判所が選任した更生管財人によって、会社債権者など、利害関係者の多数の同意を得ながら更生計画を策定し、これを遂行することになるでしょう。

    民事再生と異なるのは、株式会社しか対象とならないことと、基本的に経営陣が退陣することです。また、担保権についても制限できるというのも民事再生と違います。主に大企業を再建させるために利用されます。

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2、企業再生としてとられる手法とメリット・デメリット

  1. (1)私的再生

    私的再生は、法的拘束を受けずに自由に実行できることがメリットのひとつです。「倒産」という事実が顕在化しないため、世間にマイナスのイメージを与えることなく事業を継続できます。

    一方、法的拘束力がないため、関係者の協力が得られない場合には実行が難しいという問題があります。

  2. (2)民事再生

    民事再生では、経営者が事業を継続できること、法的な手続きであるため不正が起こりにくく、再生がやりやすいというメリットがあります。

    しかし、民事再生は「法的倒産」と位置づけられるため、社会的信用が毀損されます。また、取引先にも債権カットを求めることになるので、取引先に迷惑をかける可能性が高いというデメリットがあります。裁判所や弁護士に支払う費用が高額になる点も忘れてはなりません。

  3. (3)会社更生

    会社更生も基本的に民事再生と同じですが、民事再生と異なり、担保権についても制限できるというのがメリットになります。

    他方、経営者が事業を継続できないことと、株式会社しか利用できないというのがデメリットとなります。

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3、企業再生ができたケース、できなかったケース

  1. (1)企業再生できる条件

    企業再生できる条件として、一般的に「価値のある事業がある」ということが挙げられます

    その上で、負債がなければ、正常な資金繰りが正常化できる状況にあることが求められます。「価値がある事業がある」というのは、現在あるいは将来においても必要な事業という意味であり、そのような事業は残すべき必要性があるからです。

    時代の流れと共に求められる事業は変わるものなので、衰退していく事業はいつまでも延命させておいても意味はありません。

    負債がなければ資金繰りが正常化できるというのは、再生においては債権放棄や債権の猶予がメインなので、負債の負担がなくなっても資金繰りが正常化しないのでは、根本的な事業として成り立っていないことを意味し、再生することは不可能だからです。

  2. (2)企業再生が成功した例

    企業再生が成功した例としては、「日本航空」があります。平成22年1月に会社更生法を適用して倒産しましたが、その後、復活して再上場を果たしています。

    企業再生の過程で、日本航空は財務面において金融機関による債権放棄と支援機構からの公的資金の注入を受けています。そして大型機材を売却し、中型機を主体とする機材編成へと大幅に転換しました。さらに、人員削減をはじめ、給与の削減も行われ、年金も大幅にカットされました。法的倒産することで経営陣も刷新され、非協力的だった労働組合も協力的になったことも、営業黒字に転換することができ、再上場に至った大きな理由といえるでしょう。

  3. (3)企業再生に失敗した例

    企業再生を失敗した例としては、「レナウン」があります。レナウンは、令和2年5月15日に民事再生手続開始決定を受け倒産しましたが、令和2年10月30日民事再生手続廃止決定を受け、破産開始決定となる見込みとなっています。

    レナウンは、バブル崩壊前まではアパレル産業でトップに君臨していました。しかし、バブル崩壊後は、高価格帯の衣料品は売れなくなり、その結果、時代が変わるごとに業績はどんどん悪化していたようです。新型コロナウイルス感染症による外出自粛の影響が決定打となり、倒産に至ってしまったとされています。

    企業再生できるかどうかを判断する「価値がある事業がある」という点については、レナウンは現時点でも将来においても売れるような商品をもっていなかったようです。そのため、仮に債務を免除してもらったとしても事業が好転することは考えづらいと判断されたのかもしれません。そのため事業の継続は断念し、破産することに決まってしまったのでしょう。

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4、企業再生を弁護士に依頼したほうがよい理由

企業再生を行う場合、まずは財務状況を把握することからはじまります。資金繰りの状況を把握しなければ何もできないからです。この部分に関しては、公認会計士、中小企業診断士などの専門家に相談することになります。

次に、どのような再生手続をとるのかを検討することになります。具体的には、私的再生、民事再生、会社更生のどの手続きが適切なのかを判断する必要があります。この部分に関しては法的処理を含むので弁護士に相談することになります。法的手続きをする場合には、弁護士が裁判所に対して申し立てを行います。場合によっては、銀行に金融支援を依頼する場合もあります。

具体的な手続きが決まったら、それに従い処理をしていくことになります。処理の流れとしては、現状把握をした上で、再生計画を作成します。私的整理である場合には再生計画について利害関係人に説明し了解を得る必要があります。ここでも弁護士が再生計画について利害関係人に説明します。

再生計画の了解が得られた場合、その内容に従い実行していくことになります。再生計画ではリストラなどもしなければならず、労働者とトラブルになることもあるため、弁護士と共に調整を行っていきます。事業譲渡をする場合には契約書の作成など難しい処理が必要になります。

このように、再生手続においては、弁護士を中心に公認会計士や中小企業診断士などと連携をとりながら経営改善に向けて処理してくことになります

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5、まとめ

今回は企業再生をテーマに、企業再生の種類、それぞれの手続きのメリット・デメリット、企業再生の成功例や失敗例について解説してきました。

企業再生で、私的再生を行う場合、複数の利害関係者との調整が必要になります。また、民事再生や会社更生の場合、裁判所に対する申し立てをする必要があります。いずれも、難しい対応が必要になることから弁護士に依頼することが一般的です

ベリーベスト法律事務所では、各種士業とも連携しワンストップで対応することが可能です。また、民事再生・法人破産についての知見を日々高めている専門チームに所属している弁護士が対応します。お気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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