企業法務コラム
会社の資金繰りが苦しくなってきた、会社の経営者の中には、会社をたたもうと考えている方もいるでしょう。多額の負債のある会社では、単純に法人を解散すればよいというわけではなく、会社が有する債務を清算する手続きをとらなければなりません。
一般的によく聞く手続きが破産という手続きですが、特別清算という手続きをとることができる場合もあります。特別清算と破産は、どのような違いがあるのでしょうか。
今回は、特別清算と破産の違いや特別清算による経営者個人や従業員への影響などについてベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
特別清算という言葉はあまり聞きなれない言葉ですので、具体的な手続きを理解している方は少ないでしょう。以下では、特別清算とは何か、特別清算の流れについて説明します。
特別清算とは、債務超過に陥った会社を清算する法的手続きのことをいいます。特別清算は、破産と同様に裁判所を利用する清算型の法的手続きですが、破産手続と比べると厳格な手続きを要求されませんので、比較的、簡易・迅速に会社の清算を行うことができる手続きです。
特別清算は、会社法を根拠として行う手続きであり、対象となる会社は、株式会社に限られます。
また、特別清算手続きを利用するためには、債権者の同意が必要になるのが、特別清算の特徴です。債権者の3分の2以上の同意を得た協定により清算する手続きを協定型の特別清算といい、債権者の3分の2以上の同意があり債権者との個別の和解により清算する手続きを和解型の特別清算といいます。
特別清算と破産は、いずれも清算型の倒産手続きですが、特別清算を利用するには、債権者の同意が必要になるという点で、破産よりもハードルが高い手続きであるといえるでしょう。
特別清算は、一般的には以下のような流れで進んでいきます。
① 特別清算開始決定
必要書類を集め、裁判所に対して特別清算の申し立てをします。裁判所は、特別清算開始の要件の有無を検討し、要件を満たしていると判断した場合には、特別清算開始決定をします。
② 清算人の就任
特別清算開始決定が出されると、すでに特別清算の議決をした株主総会で、選ばれた清算人が就任します。清算人は、財産の現況調査、財産目録の作成、債権額の確定、協定の策定、債権者集会の招集などの職務を行います。
③ 債権者集会による協定または和解
協定型の特別清算の場合には、債権者集会を招集して、債権者に対して協定の申し出を行います。この債権者集会において、以下のいずれも満たした場合には、協定が可決されます。
協定型の特別清算では、協定の内容は債権者間で平等なものにしなければなりません。
他方、和解型の特別清算の場合には、債権申出期間経過後に、裁判所の許可を得た上で、債権者と和解を締結します。和解型の特別清算では、協定型と異なり債権者ごとに異なる内容の和解をすることが可能です。
④ 終結決定
上記の協定または和解内容に従って債権者への弁済を行った後、特別清算が終結します。特別清算の終結決定によって、会社の権利義務がすべて消滅し、法人格もなくなります。
債権者の同意が得られないなどの理由で協定が否決された場合には、特別清算手続きが終了し、破産手続に移行します。
特別清算と破産は、いずれも清算型の倒産手続きですが、それぞれどのような違いがあるのでしょうか。以下では、特別清算と破産の違いについて説明します。
特別清算と破産とでは、主に以下の3つの点で違いがあります。
特別清算 | 破産 | |
---|---|---|
申立人 | 債権者、清算人、監査役、株主 | 債権者、債務者、取締役、清算人 |
同意の必要性 | 株主、債権者の同意が必要 | 不要 |
権利の違い | 否認権なし 財産管理処分権は清算人に帰属 |
否認権あり 財産管理処分権は破産管財人に帰属 |
① 申立人
特別清算の申立人は、会社法511条により、債権者、清算人、監査役、株主と定められています。
これに対して、法人破産の申立人は、債権者、債務者、取締役、清算人です(破産法19条1項、2項)。
② 同意の必要性
特別清算の申し立てをするためには、その前提として、株主総会を招集して、会社の解散と清算人の選任の決議をする必要があります。会社の解散決議は、株主総会の特別決議が必要になりますので、議決権を行使することができる株主のうち、議決権の過半数を有する株主が出席すること、そして、出席した株主議決権の3分の2以上の賛成決議が必要です(会社法309条2項11号)。また、特別清算は、債権者への弁済にあたって、協定または和解をする必要がありますので、株主以外にも債権者の同意が必要となります。
これに対して、法人の破産の申し立てにあたっては、申立人が単独で行うことができますので、株主や債権者の同意を得る必要はありません。
③ 権利の違い
特別清算は、株主総会で選任された清算人に会社財産の管理処分権が委ねられますが、破産は、裁判所によって選任された破産管財人に会社財産の管理処分権が委ねられます。会社で、管理処分権者を決めることができるのが特別清算の特徴です。
また、特別清算には、破産に認められている否認権の制度は存在しません。否認権とは、特定の債権者への優先的な弁済や会社財産を不当に減少させる行為など、債権者間の公平を害する行為があった場合に、流出した財産の取り戻しを可能にする制度です。
特別清算には、この否認権の制度はありませんので、特別清算の前に私的整理を行っていたとしても、私的整理の内容が否認の対象になることはありません。そのため、特別清算は、私的整理と組み合わせて利用されることもあります。
特別清算は、清算型の倒産手続きですが、倒産手続きには、そのほかにも再建型の倒産手続きというものがあります。
再建型の倒産手続きとは、文字通り会社を存続させながら再建を図る手続きのことをいい、民事再生手続きと会社更生手続きがあります。
清算型は、会社とともに債務も消滅することになりますが、再建型では、会社は存続したままで、債務の減免や弁済方法を変更しながら企業活動を継続していくという違いがあります。
再建型の倒産手続きを選択したとしても負債がすべて消滅するわけではありませんので、将来的に経営の黒字化が見込めるかどうかが再建型と清算型を選択する目安といえます。早期に黒字化できる見込みがあるのであれば、再建型を選択してみるのもひとつの方法でしょう。
特別清算をした場合には、従業員や経営者にどのような影響が及ぶのでしょうか。
特別清算は、清算型の倒産手続きですので、会社は解散し、特別清算手続きの終結とともに消滅することになります。法人格が消滅すると従業員との雇用契約も当然に消滅することになりますので、破産と同様に会社の解散の前に、従業員との雇用契約を終了させるのが一般的です。
賃金や退職金などの労働債権については、協定債権から除外されていますので、特別清算では、破産のように配当という形式をとらなくても、優先債権として適宜弁済を受けることが可能です。
また、従業員が30日未満の予告期間で解雇をされた場合には、解雇予告手当の支払いを求めることができます(労働基準法20条)。さらに、一定の要件を満たす場合には、未払賃金立替払制度を利用することによって、未払賃金総額の80%を上限として会社に代わって労働者健康安全機構から支払いを受けることができます。
特別清算は、会社の債務を消滅させる手続きですので、会社の経営者の財産や負債に関しては原則として影響が及ぶことはありません。
もっとも、経営者が会社の債務の保証人になっているような場合には、会社を清算しただけでは、経営者の保証債務が消滅するということはありません。そのため、経営者の保証債務も対象として、経営者個人の債務整理を併せて行わなければならない場合があります。
特別清算をしようとする場合に気になるのが、どのくらいの費用がかかるのかということです。以下では、一般的に必要となる費用について説明します。
特別清算の申立てをするにあたっては、申立手数料として2万円の印紙代がかかります。
特別清算の申し立てをするにあたっては、裁判所に予納金という費用を納める必要があります。
事前に債権者からの同意が得られている場合には、特別清算手続きが無事に終わることが多いことから、予納金の金額は低く設定されています。
たとえば、東京地方裁判所では、以下の金額が予納金として設定されています。
事前に債権者の同意が得られていない事案では、破産予納金相当額の費用も必要になりますので、注意が必要です。
清算人には、破産管財人と同様に特別清算手続きが終結する時点で、裁判所が定めた報酬が支払われることになります。
清算人への報酬は、清算人の業務内容を考慮して最終的に裁判所が定めることになりますので、金額はケース・バイ・ケースといえます。一般的には、破産管財人の報酬よりも低額になることが多いでしょう。
特別清算の申し立てを弁護士に依頼する場合には、弁護士費用も必要になります。弁護士費用は、法律事務所ごとの報酬基準によって算定しますので、金額はケースによって変わってきます。
特別清算の手続きでは、会社財産を換価したうえで、債権者に対して弁済を行うことになります。債権者への弁済額は、協定または和解によって決めた金額です。
労働債権や公租公課などは、一般の債権者に優先して支払う必要があります。
今回は、特別清算や破産について解説してきましたが、どの手続きがお客さまにとって最適なのかは、実際お話を伺わないと分からない面もあります。
企業法務に詳しい弁護士であれば、その点について最適なご提案が可能です。ご自身が清算型の手続きを選択するしかないと考えている場合であっても、弁護士が負債や収支状況を精査することによって、再建型でも倒産手続きが可能になることもあります。
ベリーベスト法律事務所では、事務所内に法人破産・民事再生専門チームがありますので、質の高い法的サービスを提供すること可能です。また、経営者が連帯保証をしており、個人の債務整理が必要な場合でも、債務整理専門チームがサポートします。
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