企業法務コラム

2022年01月20日
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ワクチン未接種者の解雇は違法? ワクチン接種と労働法について解説

ワクチン未接種者の解雇は違法? ワクチン接種と労働法について解説

ワクチンを接種していない方は、一般に新型コロナウイルス感染および重症化のリスクが高いとされています。そのため、自社の従業員全員にワクチンを接種してほしいという経営者の気持ちは、非常によくわかるところです。

しかし、ワクチン接種は健康や信条などに関わるセンシティブな問題であり、会社が従業員に対して強制することはできません。ワクチン接種を強制する業務命令を出すことは許されませんから、ワクチン未接種だけを理由とした解雇は無効と判断される可能性が高く、そのため安易な解雇は慎む必要があります。

今回は、ワクチン未接種を解雇することの違法性や、コロナ対応に関する会社の留意事項などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、ワクチン未接種者を解雇することはできるのか?

自社の従業員をコロナから守りたいという気持ちのあまり、新型コロナワクチン未接種の従業員を解雇してしまう経営者の方も一部に見受けられます。

しかしワクチン未接種(ワクチン接種拒否)だけを理由とする解雇は無効となる可能性が高く、安易な解雇に踏み切るべきではありません

  1. (1)ワクチン未接種だけを理由に解雇することはできない

    労働契約法第16条では、いわゆる「解雇権濫用の法理」が定められています。
    これにより、客観的に合理的な理由を欠いており、社会通念上相当と認められない解雇は、違法・無効です。

    解雇権濫用の法理の下でも適法に解雇ができるのは、

    • 横領などの悪質な背信行為をした場合
    • 就業規則違反に対する再三の改善指導が奏功しなかった場合


    など、極めて限定的な場合です。

    コロナワクチンを接種するかどうかは、それが医学的に効果のあるものであるとしても、個人の健康や信条にかかわるものであり、本来個人の選択に委ねられるべきものです。
    そのためコロナワクチンの接種を義務付ける業務命令を出すことも許されないと考えられます。

    したがって、コロナワクチンを接種しない選択をした従業員には、会社に対する何らの背信行為も認められず、業務命令への違反にもなりません
    それなのに、ワクチン未接種であることだけを理由として従業員を解雇した場合、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上不相当として、解雇は無効と判断されてしまう可能性が高いと言えます。

    厚生労働省も、「新型コロナウイルスワクチンの接種を拒否したことのみを理由として解雇、雇止めを行うことは許されるものではありません」として、ワクチン未接種のみを理由とする解雇はできないとする見解を示しています

  2. (2)医療従事者等についても、ワクチン未接種を理由に解雇することは困難

    ワクチン未接種だけを理由として解雇することが困難なのは、医療従事者や介護従事者などについても同様と考えられます。

    たしかに医療従事者や介護従事者は、コロナにり患すると重症化しやすいと言われる基礎疾患を有する患者・入居者などと接する機会が多いため、コロナワクチンの接種が強く推奨されます。
    しかし、ワクチン接種が個人の選択に委ねられるべき点は、医療従事者や介護従事者であっても同様です。

    そのため、医療従事者や介護従事者についても、ワクチン未接種だけを理由に解雇することは、解雇権の濫用となり、無効となる可能性が高いと言えます。

    なお、就業規則などでワクチン接種義務化の規定を置いたとしても、公序良俗違反(民法第90条)を理由に無効となる可能性があるので要注意です。

  3. (3)ワクチン未接種のみを理由とした雇止めも、無効になる可能性が高い

    有期雇用契約における雇止めについても、無期雇用契約における解雇と同様に、ワクチン未接種のみを理由とした雇止めは無効と判断される可能性が高いと考えられます。

    新規の採用の場合には、企業側に採用の自由がありますので、ワクチン接種を採用の条件とすることは可能であると考えられます。

    ただし、その後のトラブルを未然に防ぐためにも、ワクチン接種を採用条件とすることについて予め明確に示して募集を行うようにしましょう。

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2、ワクチン未接種者に対する会社の対処法

  1. (1)ワクチン接種の勧奨・接種を受けやすい環境づくり

    上述のとおり、会社が従業員に対してワクチン接種を強制することや、ワクチン未接種を理由に従業員を解雇することはできないと考えられます
    したがって、ワクチン未接種の従業員への対応としては、まずはワクチン接種の勧奨を行うことになるでしょう。

    たとえば、従業員研修を行って、重症化のリスクやワクチン接種の重要性を訴えてワクチン接種をするように勧めるなどです。

    また、並行して、

    • 接種者に対して接種奨励金などの名目で一定額の金銭を支払う
    • 副反応を原因とする休業時の補償を行う
    • 接種日を公休日とする


    などして、ワクチン接種によって受けられる社内のメリットを強調することも有用です。

  2. (2)他人との接触が少ない部署への配置転換

    上記のようなワクチン接種の勧奨を行ってもなお接種をしない従業員に対しては、他の従業員や顧客との接触が少ない部署への配置転換を考えられる方もいらっしゃると思います。

    一般に、個別の雇用契約や就業規則等において配置転換することができる旨の定めがある場合には、企業は従業員の同意なく配置転換を命じることができます。

    しかしながら、その場合でも配置転換は無制限に認められるわけではなく、不当な動機や目的がある場合や、配置転換の業務上の必要性とその命令による労働者の不利益とを比較衡量した結果として、配置転換命令が権利濫用に当たると判断される場合があります。

    ワクチン未接種を理由として配置転換をする場合には、

    • その目的や業務上の必要性
    • 労働者への不利益の程度
    • 配置転換以外の感染防止対策でその目的を達成できないか


    について慎重な判断が必要です。
    安易な配置転換は権利濫用として無効となるなどトラブルの原因になりますので注意しなければなりません。

3、ワクチンハラスメント(ワクハラ)に要注意

コロナワクチン未接種の従業員に対して、会社側が不当な扱いをすることは、「ワクチンハラスメント(ワクハラ)」として問題になるおそれがあります。

  1. (1)ワクチンハラスメント(ワクハラ)とは?

    「ワクチンハラスメント(ワクハラ)」とは、仕事上の優越的地位を利用して、コロナワクチンの接種を強制したり、ワクチン接種者とワクチン未接種者を差別的に取り扱ったりする行為を意味します。

    たとえば、以下のような行為は「ワクハラ」に該当する可能性が高いでしょう。

    • ワクチン未接種であることだけを理由に、閑職へと配置転換した
    • 従業員全員に対してワクチン接種証明の提出や接種完了報告を求める
    • 上司が毎日のように、ワクチンを早く接種するように連絡してくる
    • ワクチン未接種者に対して執拗に退職勧奨を行う など


    「ワクハラ」は、従業員に対して精神的なダメージを与えて就業を困難にする行為として、会社の安全配慮義務違反(労働契約法第5条)等に該当する可能性があります。

    厚生労働省も、ワクチン未接種を理由とした配置転換への同意を強要等した場合にはパワーハラスメントに該当する可能性があると指摘しています。
    「ワクハラ」やパワハラに該当する場合やその可能性がある場合には、会社は従業員から損害賠償請求を受けるなどのリスクを負うため、注意が必要です

  2. (2)ワクチンハラスメントを防止するための対策

    社内でのワクチンハラスメントを防止するには、個々の従業員にまで、コロナワクチンや労働法についての正しい知識を浸透させることが大切です。

    臨時にまたは定期的に社内研修を行い、

    • コロナワクチンの接種は個人の任意であること
    • ワクチン未接種を理由とした不当な差別は違法となること


    などを、従業員に対して強く意識付けしましょう。
    社内研修を行う際には、弁護士に講師を依頼すると、法律の規定を踏まえた、正しい知識のインプットを行うことができます。

4、コロナ感染した従業員に対して、会社がやってはいけないこと

会社がコロナ対策の名目の下に過剰な労務管理を行うと、従業員との間でトラブルに発展するリスクを抱えてしまいます。

以下に挙げるものは典型的なNG事例ですが、これ以外にも問題のある例はたくさんあるので、適宜弁護士に相談のうえで適正な労務管理に努めましょう。

  1. (1)完治しているのに別室で隔離する

    コロナが完治した場合、もはや他の従業員にコロナを感染させる可能性はなくなります。
    それにもかかわらず、コロナが完治した従業員を不必要に別室隔離することは、パワハラに当たる可能性があります。

  2. (2)コロナで長期休業したことを理由に解雇する

    コロナ感染による長期間の病欠は、世情に鑑みるとやむを得ないものです。
    そのため、コロナによる長期休業を理由として従業員を解雇することは、不当解雇に当たる可能性が高いです。

  3. (3)PCR検査を拒否したことを理由に解雇する

    PCR検査は医療行為の一種であり、受けるかどうかは本人の選択に委ねられるべきものです。
    そのため、会社が従業員に対してPCR検査を強制する権限はなく、従業員がPCR検査を拒否したことのみを理由とする解雇は無効になると考えられます。

  4. (4)本人や同居家族がコロナに感染したことを理由に解雇する

    コロナ感染自体は誰にでも起こり得るものであり、感染した人に責任はありません。
    それなのに従業員本人、ましてや同居の家族がコロナに感染したことを理由として、従業員を解雇することには合理性がなく、不当解雇として無効となると考えられます。

5、コロナ関連の労務トラブルを防止するには、顧問弁護士へのご依頼を

  1. (1)日頃から労務トラブルに備えたり、タイムリーに弁護士へ相談できる

    コロナ関連の労務管理については、日々刻々と変化するコロナ禍の状況を踏まえて対応しなければなりません。

    そのため、経営者がご自身で情報収集することはもちろん、法律の専門家である弁護士に常日頃から相談して、コロナ関連の労務管理についてのトラブルを予防することをおすすめいたします。

    日常的に弁護士へ相談したい場合には、顧問弁護士と契約するのが便利です。
    コロナ関連の労務トラブルに対する平時の備えや、万が一トラブルが発生した場合の対応などについて、タイムリーに弁護士へ相談することができます。

  2. (2)企業のリスクコントロールに関するアドバイスを受けられる

    また顧問弁護士からは、労務管理以外にも、取引に関する契約書のレビューやコンプライアンス体制の整備など、さまざまな観点から企業のリスクコントロールに関するアドバイスを受けられます

    安定的に企業経営を行っていくためにも、顧問弁護士との契約を検討してみてはいかがでしょうか。

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6、まとめ

コロナワクチン未接種であることだけを理由に、従業員を解雇することは違法であり、従業員から損害賠償請求などを受けるリスクを負ってしまいます。

コロナ対策を踏まえた労務管理を行うに当たっては、最新の世情を踏まえて対応する必要があるため、法律の専門家である弁護士のアドバイスを受けるのが安心です
日常的に弁護士のアドバイスを受けたい場合には、顧問弁護士と契約することをおすすめいたします。

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労務管理を中心として、企業のコロナ対応に関するアドバイスのご依頼も、随時お受けしております。
刻々と変化するコロナ禍の状況下において、労務管理等の対応にお悩みの企業経営者・担当者の方は、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所へご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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