企業法務コラム
厳格化が進む消費者保護法への対応は、消費者向けのビジネスを展開する企業にとって急務といえます。消費者保護法とは、消費者契約法や特定商取引法、景品表示法、割賦販売法、貸金業法などの総称をいいます。
企業側としては、消費者保護法のルールを踏まえて、消費者との取引の効力が覆されることがないように備えておかなければなりません。
この記事では、消費者保護法の全体像を踏まえつつ、主な消費者保護法に関する企業側の対応策や違反した場合のペナルティなどについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
消費者保護法とは、事業者と消費者間の取引に関して、消費者が不当に搾取されないように一定の規制を及ぼす、さまざまな法律の総称を意味します。
消費者保護法は、取引の類型ごとにルールを定めるさまざまな法律によって成り立っています。
消費者保護法を構成する法律の具体例と概要は、以下のとおりです。
上記のうち、消費者契約法と特定商取引法の2つについては、事業者にとっての重要性が年々増しているため、後で詳しく解説します。
そもそも消費者保護法とは、事業者が豊富な情報や強い交渉力を利用して、消費者から不当に搾取する行為を規制するために制定されたものです。
特に、商品などに対する適切な情報量については、情報化社会の進展に伴って、事業者と消費者の間の情報格差は年々拡大しています。そのため消費者保護法の規定は、段階的な改正によって、より消費者保護に厚い規定へと変化し続けているのです。
消費者保護法の中でもっとも重要な法律のひとつである、消費者契約法について、その目的や主なルールなどを解説します。
消費者契約法の根底にある基本的な思想は、“事業者と消費者の情報格差・交渉力格差の是正”です。
消費者契約法は、もし消費者が事業者から取引において不正に搾取された場合、その取引の取り消しなどによって、消費者を保護することを目的としています。
消費者契約法の主なルールとしては、以下のものが挙げられます。
① 消費者契約の取り消し
事業者が消費者に対して、契約締結に関して以下の不当な行為をした場合、消費者は契約を取り消すことができます(消費者契約法第4条第1項~第3項)。
なお、事業者による消費者の搾取が多様化していることを受けて、令和元年施行の改正法では、消費者契約の取り消しが可能な場合として、以下のケースが追加されました。
② 消費者に不利益な条項の無効
事業主にとって一方的に有利、消費者にとって一方的に不利となる以下の条項は無効となります(消費者契約法第8条~第10条)。
さらに直近の改正法では、より厚く消費者の権利を保護するため、以下の条項についても新たに無効とされました。
次に、消費者契約法と並んで重要な消費者保護法のひとつである、特定商取引法について解説します。
特定商取引法は、消費者が類型的に搾取されやすい取引についてのルールを定め、事業者による搾取から消費者を保護する法律です。
特定商取引法の規制対象となる取引としては、以下のものが挙げられます。
特定取引法における消費者保護のルールの代表例として、クーリングオフがあります。
消費者がクーリングオフの意思表示をした場合、それがクーリングオフ期間内であれば、契約締結の事実がなかったことになるうえに、事業者は消費者に対して損害賠償や違約金を請求することができません。
取引類型ごとに定められているクーリングオフ期間は、以下のとおりです。
訪問販売 | 契約書面を受け取った日から8日間 |
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電話勧誘販売 | 契約書面を受け取った日から8日間 |
連鎖販売取引 | 契約書面を受け取った日から20日間 |
特定継続的役務提供 | 契約書面を受け取った日から8日間 |
業務提供誘引販売取引 | 契約書面を受け取った日から20日間 |
訪問購入 | 契約書面を受け取った日から8日間 |
なお、訪問販売と電話勧誘販売については、以下に該当する場合にはクーリングオフ制度が適用されないので、事業者が消費者の返品要請に応じる必要はありません(特定商取引法第26条第5項)。
また、通信販売については、消費者の自主性を尊重するという観点から、クーリングオフが認められていません。厳密に言うと、特定商取引法の原則としては、通信販売についても、商品を受け取ってから8日以内の返品は認められます(同法第15条の3第1項)。
しかし、返品不可の特約を通信販売の広告に表示するなどの条件を満たしている場合は、この原則が適用されず、通信販売で購入した商品の返品は不可となります。
消費者契約法・特定商取引法に違反する典型的な事例と、各違反行為に対するペナルティーの内容を紹介します。
事業者が消費者契約法に違反した場合、契約の取り消しや契約条項の無効などのペナルティーを受ける可能性があります。
具体的には以下のようなケースが該当します。
事業者が特定商取引法に違反した場合、業務改善指示・業務停止命令・業務禁止命令などの行政処分や、刑事罰の対象になります。
具体的には、以下のようなケースが処分や刑事罰の対象になります。
消費者保護法違反によるペナルティーを受けないように、消費者ビジネスを展開する事業者としては、以下の点に留意して対策をとる必要があります。
消費者トラブルの多くは、事業者と消費者が直接コミュニケーションをとる現場で発生します。
消費者保護法に違反するリスクのある勧誘や商品案内が行われないように、従業員の指導・教育を徹底することが大切です。
消費者からの相談に真摯(しんし)に対応することは重要ですが、一方で不当な要求をするクレーマーに対しては、厳正に対処する必要があります。消費者保護法の規定内容をよく理解したうえで、消費者からの正当な請求と不当な要求の境界線を見極められるようにしましょう。
従業員の指導・教育を行う場合や、消費者の要求の合理性を見極める場合には、顧問弁護士に相談することで、適切な対応を取ることが可能です。顧問弁護士に相談すれば、消費者保護法の横断的なルールの内容を正確に踏まえたうえで、従業員に対する研修講義や、個々の消費者トラブルを解決するためのアドバイスを受けられます。
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