企業法務コラム
新型コロナウイルスの感染防止対策も踏まえ、人数を限定して実施するといった対応のほか、オンラインでの株主総会も実施されるようになりました。このように、社会情勢に応じて従来の形式以外の方法も検討する必要がでてきたことで、役員は一堂に会する必要があるのか、取締役がオンラインで出席してもよいのかなど、新たな疑問も生じているようです。
今回は、株主総会への取締役の出席義務とオンライン出席の可否、オンライン開催時の注意点などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
取締役などの役員は、株主総会に出席する義務があるのでしょうか。
まずは、役員は株主総会への出席義務があるのかについて説明します。
株主総会とは、出資者である株主が集まって、役員の選任、合併・会社分割、事業譲渡、定款の変更など会社にとって重要な事項を決定する、株式会社の最高意思決定機関です。
会社法では、株主総会は必ず設置しなければならないとしているので、株式会社においては不可欠な機関といえます(会社法第295条)。
株主総会には、「普通決議」「特別決議」「特殊決議」という決議方法があり、それぞれ異なる成立要件が定められています。
しかし、いずれも議決権を行使することができる株主の人数に応じた定足数と、出席株主の議決権数が定められているのみで、役員の出席については、株主総会の成立要件とはされていません。
取締役の出席は、株主総会の成立要件とはされていませんが、取締役全員が欠席した株主総会決議は、決議取消の瑕疵(かし)を帯びると考えられています。
取締役には、株主総会において計算書類や事業報告を提出し、事業内容の報告をする義務があります。
また、取締役には、株主総会において株主への説明義務が定められています(会社法第438条1項、3項・第314条)。
そのため、取締役は正当な理由なく株主総会を欠席することはできず、株主総会への出席義務があると解されています。
なお、取締役以外の会計参与、監査役、執行役についても、その出席が株主総会の成立要件とはされていませんが、取締役と同様に株主への説明義務があります。
説明義務が果たされていない場合には、当該株主総会決議が取り消されてしまうリスクがあるので注意が必要です。
オンラインによる株主総会の方法としては、2つの方法が考えられます。
ハイブリッド型バーチャル株主総会とは、現実に株主総会を開催するとともに、現実の株主総会の開催場所にいない株主や役員についても、インターネットなどの手段を利用して株主総会への参加・出席を認める方法です。
現行の会社法では、株主総会議事録への記載事項として、次のような定めがあるので、インターネットなどを利用して株主総会に参加することが許容されているものと考えられます。
会社法施行規則72条3項1号
株主総会が開催された日時及び場所
(当該場所に存しない取締役(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役又はそれ以外の取締役。第四号において同じ。)、執行役、会計参与、監査役、会計監査人又は株主が株主総会に出席をした場合における当該出席の方法を含む。)
バーチャルオンリー型株主総会とは、現実の株主総会の開催場所がなく、すべての参加者がインターネットなどを利用して株主総会に参加・出席する方法です。
現行の会社法では、株主総会の招集に際して、株主総会の開催場所を定めなければならないとされています(会社法第298条1項)。
つまり、現行の会社法を前提とすると、株主総会の開催場所を定めないバーチャルオンリー型株主総会は開催できません。
しかし、昨今の情勢を鑑みて、会社法の特例として「場所の定めのない株主総会」に関する制度が創設されました(産業競争力強化法 第66条)。
これにより、一定の要件を満たした上場会社であれば、バーチャルオンリー型の株主総会を実施することが可能になりました。
参考:「場所の定めのない株主総会(バーチャルオンリー株主総会)に関する制度」(経済産業省)
では、株主総会への出席義務を果たすために、取締役などの役員がオンラインで株主総会に参加することは認められるのでしょうか。
取締役などの役員についても、株主総会において株主への説明義務があるので、株主総会への出席が必要と考えられていますが、オンラインで株主総会に参加することが可能です。
現行の会社法では、株主だけでなく取締役などの役員の出席方法についても株主総会議事録への記載事項とされているので、現実の開催場所以外での参加も前提としていることがその根拠です。
ただし、オンラインでの出席の場合には、開催場所と取締役などの役員との間で、情報伝達の双方向性と即時性の確保がなされていることが必要となります。
通信障害などによって、説明義務が果たされない状況が生じた場合には、株主総会決議の取消事由に該当するおそれがあるので、注意が必要です。
コロナ禍においては、従来予定していた月での株主総会の開催が難しくなったということもあったかもしれません。
一般的に、株主総会を開催する時期としては6月が多いですが、株主総会の開催月には何か決まりがあるのでしょうか。
定時株主総会の開催時期について、会社法では、「毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならない」と定められているのみで、それ以外のルールは定められていません(会社法第296条1項)。
それにもかかわらず、株主総会を6月に開催する企業が多い理由には、会社の決算時期と議決権行使の基準日が関係しています。
日本の企業では、国や地方自治体の会計年度に合わせて、3月を決算時期に設定しているところが多いです。
そして、会社法上、議決権行使をする権利は、基準日から3か月以内に制限されています(会社法第124条2項)。
そのため、決算月の3月末日を基準日として、その3か月後である6月に株主総会が集中しているのです。
会社法上は、6月以外の月であっても株主総会を開催することは可能です。
ただし、議決権行使のための基準日を定める場合には、当該基準日から3か月以内に行使するものとされています。
そのため、定款で定められている基準日から3か月を経過した後に株主総会を開催する場合は、当該基準日の2週間前までに「当該基準日」と「基準日株主が行使できる権利」の内容を公告する必要がある点に留意する必要があります(会社法第124条3項)。
株主総会を開催した場合は、下記内容が記載された、株主総会議事録を作成する必要があります(会社法第318条1項、会社法施行規則第72条)。
これは、たとえオンラインで開催したとしても変わりません。
なお、任期満了による取締役の改選や就任があった場合には、「株主総会に出席した役員の氏名または名称」に記載すべき取締役は、前任者の取締役になります。
後任者の取締役は、株主総会が終了した時点で取締役として就任するので、株主総会の開催時においては、取締役としての身分がないからです。
社会の変化を受け、ハイブリッド型バーチャル株主総会などオンライン形式での株主総会の開催を検討している企業も少なくないでしょう。
新型コロナウイルスの感染拡大を防止するという観点だけではなく、遠方に住む株主が参加できる、役員等が同じ場所にいなくても開催できるなど、オンライン形式は多くの点から非常に有効な手段といえます。
企業の実情に合わせて、自社に適した株主総会の開催方法を検討していくとよいでしょう。
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