企業法務コラム
労動者を1人でも雇っていれば、事業者は労災保険に加入しなければなりません。
労災保険への加入を怠っていると、後から保険料や労動者への給付金を追加徴収されるおそれがあるので要注意です。
今回は、労災保険の加入条件・加入手続き・保険料の計算方法・未加入時のリスクなどについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
「労災保険」とは、業務中または通勤中にケガをし、病気に罹り、障害を負い、または死亡した労動者が被った損害を補償する保険です。
正式名称は「労動者災害補償保険」と言い、労働保険の一つに位置づけられます。
なお、もう一つの労働保険である「雇用保険」は、労動者が失業等した際に、生活保障および再就職促進を目的とした給付を行う保険です。
労災事故の際に給付を行う労災保険と合わさって、働く労動者の保護に寄与しています。
業務上の事由または通勤中に労動者がケガをしたり、病気にかかったりした場合、労災保険給付の対象となる可能性があります。
労災保険給付の対象は、「業務災害」または「通勤災害」と認定されたケガ・病気・障害・死亡です。
業務災害または通勤災害に該当すれば、どのようなケガや病気であっても労災保険給付の対象です。
厚生労働省が公表している労働災害統計によると、2021年における労働災害の発生原因は、以下の割合で分布しています。
死亡者数
事故の型 | 人数 |
---|---|
墜落、転落 | 217人(25%) |
はさまれ、巻き込まれ | 135人(16%) |
交通事故(道路) | 129人(15%) |
激突され | 62人(7%) |
崩壊・倒壊 | 42人(5%) |
飛来・落下 | 38人(4%) |
その他 | 244人(28%) |
合計 | 867人 ※うちコロナ感染89人 |
休業4日以上の死傷者数
事故の型 | 人数 |
---|---|
転倒 | 33,672人(23%) |
墜落・転落 | 21,286人(14%) |
動作の反動、無理な動作 | 20,777人(14%) |
はさまれ・巻き込まれ | 14,020人(9%) |
切れ・こすれ | 7,638人(5%) |
交通事故(道路) | 7,079人(5%) |
その他 | 45,446人(30%) |
合計 | 149,918人 ※うちコロナ感染19,332人 |
(出典:「労働災害発生状況」(厚生労働省) )
問題社員のトラブルから、
一部の「暫定任意適用事業」を除いて、労動者を1人でも雇用していれば、事業者は労災保険に加入しなければなりません。
また、加入事業所で雇用されている労動者は、原則として全員が労災保険の加入対象です。
さらに、本来は労災保険の加入対象にならない中小事業主や一人親方も、労災保険に特別加入できる場合があります。
労動者を1人以上雇用している事業所は、原則として労災保険への加入が義務付けられます。
ただし例外的に、以下の農林水産業を行う事業所については、労災保険への加入が任意とされています(暫定任意適用事業)。
もっとも、暫定任意適用事業であっても、労動者の過半数が希望した場合には、事業所として労災保険に加入しなければなりません。
適用事業所に雇用されている労動者は、原則として全員が労災保険の加入対象者(被保険者)となります。
ただし海外派遣者については、後述する特別加入をしない限り、労災保険の加入対象から除外されます。
また、事業主と同居の親族は、以下2つの要件を両方満たさない限り、労災保険の加入対象から除外されます。
なお、労動者でない者(代表権を有する法人の役員など)については、労災保険の加入対象となりません。
事業主や一人親方(フリーランスなど)は、原則として労災保険の加入対象となりませんが、一定の要件を満たす場合には「特別加入」が認められています。
特別加入制度は、業務中・通勤中のケガや病気などにつき、労動者に準じた保護を与えるべき者に対して、任意で労災保険に加入することを認める制度です。
以下のいずれかに該当する者には、労災保険への特別加入が認められています。
労災保険に特別加入すると、業務災害・通勤災害について労災給付を受けられるようになります。
ただし、通常の労動者は労災保険料が全額事業主負担であるのに対して、特別加入の場合は全額加入者負担です。
労災保険への加入手続きは、事業主が行う必要があります。
労災保険の適用事業所となった場合、「保険関係成立届」を所轄の労働基準監督署に提出します。
届出の期限は、保険関係が成立した日(労動者を雇用した日)の翌日から起算して10日以内です。
保険関係成立届の提出と同時、または後日に「概算保険料申告書」を提出したうえで、概算の労災保険料を納付します。
概算保険料申告書の提出期限は、保険関係が成立した日の翌日から起算して50日以内です。
問題社員のトラブルから、
労災保険料は、以下の式によって計算します。
労災保険率は、事業の種類によって異なります。
事業ごとの労災保険料率は、以下の厚生労働省の資料をご参照ください。
(参考:「労災保険率表」(厚生労働省) )
たとえば化学工業の場合、労災保険率は4.5/1000(0.0045%)です。
化学工業に従事する労動者に支払う年間賃金の見込額が400万円の場合、労災保険料は年額「1万8000円」となります。
事業主が労災保険に加入していなくても、業務災害または通勤災害に遭った労動者は、労災保険給付を受けることができます。
その一方で、労災保険の加入(成立)手続きを怠った事業主に対しては、最大2年間遡って労働保険料が徴収され、さらに10%の追徴金の納付が命じられます。
また、事業主が故意または重大な過失により、労災保険の加入(成立)手続きを行っていない期間中に労災保険給付が行われた場合、以下の金額が事業主から徴収されます。
労動者を雇用する事業主は、労働基準法等に基づく勤怠管理、社会保険・労働保険の手続き、労働保険料の納付など、さまざまな事務を取り扱う必要があります。
人事労務には細かい手続きも多いため、弁護士へのご相談がお勧めです。
弁護士は法律の専門家として、人事労務に関する手続きや留意事項に精通しています。
仮に従業員や監督官庁との間でトラブルになっても、弁護士が円滑な解決に向けて尽力いたします。
人事労務のトラブル・疑問点が生じた場合には、お早めに弁護士までご相談ください。
労働者を1人でも雇用していれば、事業主は労災保険に加入しなければなりません。
未加入のまま労災事故が発生すると、労災保険料や労災保険給付相当額の追加徴収を受ける可能性があるのでご注意ください。
労災保険を含めた人事労務に関する疑問点については、弁護士にご相談いただくのが安心です。
従業員とのトラブルや、社会保険・労災保険等に関するご相談は、お気軽にベリーベスト法律事務所へご連絡ください。
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