企業法務コラム

2023年03月06日
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月60時間超の残業代の割増賃金率引き上げ|中小企業がとるべき対策

月60時間超の残業代の割増賃金率引き上げ|中小企業がとるべき対策

2023年から、中小企業における、月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率が引き上げられます。

人件費の増加に直結するため、変更内容を正しく理解したうえで、働き方改革などによる残業の抑制に取り組みましょう。

今回は、月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率の引き上げについて、変更内容や中小企業がとるべき対策などを、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率が引き上げ

2023年4月1日より、中小企業における月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率が、大企業並みに引き上げられます。

  1. (1)時間外労働・休日労働・深夜労働の割増賃金率

    使用者が時間外労働・休日労働・深夜労働※をさせた場合、使用者は割増賃金を支払う必要があります(労働基準法第37条第1項)。

    ※用語説明
    時間外労働:法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える労働
    休日労働:法定休日に行われる労働
    深夜労働:午後10時から午前5時までの間に行われる労働

    割増賃金率
    時間外労働(月60時間以下の部分) 25%以上
    時間外労働(月60時間超の部分) 50%以上
    休日労働 35%以上
    深夜労働 25%以上

    ※所定労働時間を超え、法定労働時間以内の残業(法定内残業)については割増なし

  2. (2)2023年4月から、中小企業でも割増賃金率が大企業並みに

    月60時間超の時間外労働につき、通常の賃金に対して50%以上の割増賃金の支払いを義務付ける規定は、「中小事業主」(≒中小企業)には長らく適用が猶予されてきました(労働基準法附則第138条)。

    <中小事業主の要件>
    業種 中小事業主に当たるための要件
    小売業 資本金の額or出資の総額が5000万円以下
    または
    常時使用する労働者の数が50人以下
    サービス業 資本金の額or出資の総額が5000万円以下
    または
    常時使用する労働者の数が100人以下
    卸売業 資本金の額or出資の総額が1億円以下
    または
    常時使用する労働者の数が100人以下
    その他 資本金の額or出資の総額が3億円以下
    または
    常時使用する労働者の数が300人以下

    しかし、改正附則第138条の猶予措置は、2023年4月1日以降撤廃される予定です。
    したがって、同日以降は中小事業主も、月60時間を超える時間外労働をした労働者に対して、大企業と同様に50%以上の割増賃金を支払う必要が生じます。

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2、月60時間超の時間外労働が認められる場合の要件

労働者に月60時間超の時間外労働をさせることは、常に認められるわけではありません。
以下の要件をすべて満たさなければ、月60時間を超える時間外労働をさせることは違法です。

  1. (1)特別条項付き36協定の締結

    労働者に時間外労働をさせるには、時間外労働などのルールを定める労使協定(36協定)の締結が必須とされています(労働基準法第36条第1項)。
    さらに、月45時間を超える時間外労働をさせるには、36協定に「特別条項」が定められていなければなりません。

    特別条項とは?
    特別条項とは、「当該事業場における通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に第3項の限度時間を超えて労働させる必要がある場合」に限り、「月45時間・年360時間」を超える時間外労働を許容する旨の条項です(同条第5項)。


    36協定に特別条項が定められていなければ、労働者に月60時間を超える時間外労働を命ずることは一切認められません。

  2. (2)臨時的な必要性

    特別条項付き36協定が締結されている場合でも、労働者に「月45時間・年360時間」の限度時間を超える時間外労働を指示できるのは、予見できない業務量の大幅な増加など、臨時的な必要性が生じた場合に限られます

    臨時的な必要性が認められる場合の例
    • 予算、決算業務が発生した場合
    • ボーナス商戦に伴い業務が繁忙化した場合
    • 納期がひっ迫している場合
    • 大規模なクレーム対応が発生した場合
    • 機械トラブルへの対応が生じた場合
    など

    これに対して、業務量が平常時に比べて大きく増えていないにもかかわらず、労働者に限度時間を超える時間外労働を指示することはできません。


    限度時間は、できる限り具体的に定める必要がある
    なお、労働基準法第36条第7項に基づいて厚生労働省大臣が定める「労働基準法第三十六条第一項の協定で定める労働時間の延長及び休日の労働について留意すべき事項等に関する指針」(厚生労働省告示第323号)によれば、限度時間を超えて労働させることができる場合は、36協定の中で「できる限り具体的に」定めなければならないとされています(同指針第5条第1項)。

    たとえば、「業務の都合上必要な場合」「業務上やむを得ない場合」などのように、恒常的な長時間労働につながるおそれがある記載は不可となるので注意が必要です。

  3. (3)労働基準法の上限時間を超えないこと

    36協定において特別条項を定めた場合でも、労働時間は以下の上限を超えることができません(労働基準法36条第6項各号)。

    1. (a)坑内労働などの健康上特に有害な業務については、1日当たりの時間外労働が2時間以下
    2. (b)直近1か月間の時間外労働・休日労働の合計が100時間未満
    3. (c)直近2か月・3か月・4か月・5か月・6か月間における、1か月当たりの時間外労働・休日労働の平均合計時間が80時間以下
    4. (d)年間の時間外労働が720時間以下
    5. (e)月45時間超の時間外労働を行うのは、1年のうち6か月以下

    上記(a)から(e)のうち、1つでも上限を超過する場合には、月60時間超の時間外労働を命ずることは不可となります。

3、割増賃金率の引き上げに備えて、中小企業がとるべき対策

特別条項付き36協定の締結など、労働基準法上の要件を満たせば、労働者に月60時間超の時間外労働を命ずることはできます。

しかし、長時間労働が常態化すると、労働者の健康被害(労災)や離職につながりかねません。また、特に中小企業においては、2023年4月から、月60時間超の時間外労働について割増賃金率が引き上げられるため、人件費の増大にも直結します。

そのため、以下のような取り組みを通じて、会社全体として時間外労働を減らすように努めることが大切です。

  1. (1)労働時間・業務状況の適切な把握

    特定の労働者に業務が偏ることを防ぐには、各労働者の労働時間や業務状況を適切に把握することが第一歩です。

    たとえば、勤怠管理システムを導入して機械的に労働時間を管理したり、定期的に1on1ミーティングを実施して具体的な業務状況をヒアリングしたりする方法が考えられます。

    社内全体の労働時間の傾向や、業務状況の偏りなどを把握できたら、適宜業務を再配分するなどして、特定の労働者の労働時間が増えすぎないように調整を行いましょう。

  2. (2)働き方改革による業務効率化

    働き方改革による業務効率化に成功すれば、会社全体で無駄な業務が減少し、労働者の業務状況にも余裕が生まれます。

    働き方改革の有力な方法として挙げられるのは、たとえば、ペーパーレス化、決裁手続きの簡素化、テレワークの導入などです。中小企業では、これらの対応まで手が回っていないケースも多いですが、この機会に働き方改革を一挙に推進することも検討すべきでしょう。

  3. (3)代替休暇制度の導入

    労働者による月60時間超の時間外労働が想定される場合には、「代替休暇制度」を導入することも有力な選択肢です。


    代替休暇制度とは?
    代替休暇制度とは、月60時間超の時間外労働をした労働者に対して、割増賃金率をアップする(25%→50%)代わりに休暇を付与する制度です(労働基準法第37条第3項)。

    付与すべき代替休暇の時間数=月60時間を超える時間外労働の時間数×換算率(※)
    ※換算率:通常の割増率(25%以上)と月60時間超の割増率(50%以上)の差に相当する率

    (例)
    月80時間の時間外労働をし、通常の割増率が25%、月60時間超の割増率が50%の場合
    →5時間(=20時間×25%)の代替休暇を付与することで、月60時間を超える部分における時間外労働についても、(50%ではなく)25%の割増率が適用される

    代替休暇制度を導入するメリット
    代替休暇制度は、会社にとっては人件費の抑制になり、労働者にとっては健康保持につながるメリットがあります。
    特に、2023年4月から、月60時間を超える、時間外労働の割増賃金率が引き上げられる中小企業では、代替休暇制度の導入を積極的に検討するとよいでしょう。


    代替休暇制度の導入には、就業規則を変更が必要
    なお、代替休暇制度を導入する際には、就業規則を変更する必要があります(同法第89条第1号)。
    就業規則変更の手続きや注意点などについては、弁護士へのご相談がおすすめです。

4、人事・労務管理については弁護士にご相談を

労働時間の管理や賃金の支払いなどを含めて、人事・労務管理についてお悩みの中小企業は、弁護士へのご相談をおすすめいたします。

人事・労務管理については、不適切な運用が行われると、労働者との間でトラブルに発展する可能性があります
また、労働基準法所定の割増賃金を支払わなければ、経営者などが刑事罰(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金、同法第119条第1号)を受けるおそれがあるため、中小企業でも人事・労務のコンプライアンスは非常に重要です。

弁護士は、法律・実務の両面を踏まえて、クライアント企業に合った人事・労務管理の方法をご提案いたします。
社内における人事・労務管理体制の構築や、就業規則の変更などについても、幅広くご対応可能です。

企業における人事・労務管理についてのご相談は、お早めに弁護士までご連絡ください。

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5、まとめ

企業が労働者とのトラブルを避けるには、割増賃金など労働基準法のルールを正しく理解し、適切に運用すること、さらに企業全体で時間外労働を減らす取り組みを行うことが大切です。

そのためには、人事・労務管理の実務や法令に精通した弁護士へのご相談をおすすめいたします。
人事・労務コンプライアンスの強化や、関連する社内体制の構築・就業規則の変更などについては、お早めにベリーベスト法律事務所へご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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