企業法務コラム
会社が従業員の労働時間を正確に把握・管理し、人件費を抑制するためには、残業の事前申請制度(残業申請制)を導入することが効果的です。
残業を事前申請制にすることにより、どのようなメリットがあるのか、注意すべきことはどんなことがあるのか気になる方も多いのではないでしょうか。
本コラムでは、残業の事前申請制度の、メリット・デメリット・導入方法・注意点などをベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
残業の事前申請制度とは、従業員(労働者)が残業(時間外労働)をする際に、その旨を会社へ事前に申請し、承認を受けることを義務付ける制度です。
会社は労働基準法に従い従業員に残業代を支払いますので、労働基準法や36協定に基づいた労働時間の上限を遵守するために、各従業員の労働時間を把握しておく必要があります。残業の事前申請制度は、従業員の労働時間を把握するとともに、残業時間を適切に管理して人件費を抑制する目的で導入されることが多いです。
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残業の事前申請制度には、メリット・デメリットの両面がありますので、自社の状況に合わせてメリット・デメリットを比較した上で実際に導入するかどうか判断しましょう。
残業の事前申請制度を導入することのメリットの1つは、会社が従業員の残業時間を把握しやすくなるという点です。
残業時間を正確に把握しておくことで、労働基準法に従って正しく残業代を計算したうえで支払えます。また、残業時間が多くなっている従業員に対しては、休暇の取得や産業医との面談を促すなどして、健康維持を図ることも可能です。
さらに、残業の事前申請制度を設けることは、無駄な残業の抑制にも繋がります。従業員の間で「できる限り残業を少なくしよう」という心理が働くため、残業代の抑制や業務効率の向上に繋がることが期待できるでしょう。
一方で、残業の事前申請制度を導入すると、突発的に業務が増えて残業が必要になった場合にも、事前申請が必要になるため、従業員が機動的に残業をしにくくなるというデメリットがあります。必要な残業が行われずに業務が滞ってしまう状態を防ぐためには、申請手続きを簡略化するなどの工夫が必要です。
また、管理職を含む従業員に対して、きちんと制度の浸透を図らなければ、残業の事前申請制度そのものが形骸化してしまうことも懸念されます。
たとえば、管理職が事前申請制度を無視して部下に不要な残業を指示したり、ばれないように持ち帰り残業をする従業員が現れたりすることがあります。
このようなデメリットの顕在化を防ぐためには、残業の事前申請制度の仕組みづくりや周知の方法に工夫が必要です。
残業の事前申請制度を導入する際には、以下の流れで対応を進めましょう。
導入を検討している場合は、まず、残業の事前申請制度をどのような形で導入するか、申請ルールなどの制度内容を検討・決定しましょう。
検討が必要な事項の例は、以下のとおりです。
事前申請制度をどの程度まで厳密に適用するかは、事業内容や人員の状況などによって異なります。
そのため、ある程度までは例外を設けることも考えられますが、あまりにも多くの例外を認めてしまうと、事前申請制度が形骸化してしまうので注意が必要です。
残業の事前申請制度の内容が決まったら、そのルールを定めた社内規程を整備しましょう。法務部や人事部などが中心となって草案を作成し、関係各部署の承認を得て制定するのが一般的です。
また、従業員に残業を事前申請させるに当たり、申請書等の様式も準備が必要です。
申請すべき所定の事項を網羅しているかどうか、実際の導入前によく確認する必要があります。
システムを通じて申請を受付・管理する場合には、きちんとシステムが機能するかどうか事前にテストすることも大切です。
残業の事前申請制度の導入準備が整ったら、実際に導入する前の段階で、人事担当者と管理職に周知しましょう。
人事担当者は、残業の事前申請制度に関する従業員からの問い合わせの窓口を担当することが多いため、従業員からの問い合わせにきちんと対応できるように、人事担当者に対しては充実した研修を行うことがおすすめです。
各部署の管理職には、部下の残業時間を管理する立場として、部署内における残業の事前申請制度の周知徹底に協力してもらう必要があります。
そのため、実際に事前申請制度を導入する前の段階で、管理職に制度内容をよく理解してもらわなければなりません。管理職向けの研修を実施することも効果的でしょう。
事前申請の徹底を図るには、すべての従業員に制度内容を認識・理解させることが必要不可欠です。そのため、残業の事前申請制度の導入時期が近付いた段階で、全従業員向けに制度内容を周知させましょう。
周知する際には、単にメールなどで情報を送信するだけでなく、従業員が制度内容をしっかりと認識できるような方法をとることが望ましいでしょう。
たとえば、管理職から部下に対してアナウンスしてもらう方法や、全従業員向けの講習会を開催する方法などが考えられます。
残業の事前申請制度を導入する際には、残業の無申請・過小申請を見落とさないように努めなければなりません。
特に、管理職による仮装工作や、無申請での持ち帰り残業には注意が必要です。
もし、事前申請制度に沿わない残業をしたりさせたりする従業員を発見した場合には、人事担当者などが厳しく指導する必要があります。
残業の無申請、または過小申請が行われた場合、残業の事前申請制度は形骸化してしまう可能性があります。
実際の労働時間と会社が把握している労働時間に差が生じれば、未払い残業代の支払いや、労働基準法違反による行政指導などのリスクを負いかねません。
事前申請制度を導入したからには、会社は残業の無申請・過小申請を一切許さないという心がけで取り組む必要があります。従業員の自主申告だけを信用するのではなく、機械的な勤怠管理システムを導入して残業時間を管理することを検討すべきでしょう。
管理職に対して残業時間抑制のノルマを課している場合、部署全体での残業時間を少なく見せるため、管理職が仮装工作を行う例もしばしば見られます。
典型例としては、定時になったらタイムカードを打刻させて、その後もサービス残業をさせるケースなどが挙げられます。当然ながら残業の事前申請も行われませんので、会社は管理職の仮装工作による無申請残業を見落としてしまう可能性があります。
残業時間に関する管理職の仮装工作を見抜くためには、人事担当者などが各従業員と1on1ミーティングを行うことなどが考えられます。
実際にタイムカードの定時打刻など不正が判明した場合には、該当する管理職や関係者から事情聴取を行いましょう。その際、情報提供者が不利益に取り扱われないように配慮することが非常に重要です。
無申請残業の原因になりがちなのが、従業員の判断による「持ち帰り残業」です。
仕事がなかなか終わらず「残業をしないように上司から指示されている」、「能力がないから残業していると思われるのが嫌だ」などといった理由から、無断で持ち帰り残業をするケースもあります。
従業員が持ち帰り残業をしているという事実を会社が把握するには、部下と密接に関わる管理職に対して、持ち帰り残業の有無についてヒアリングを行うことが考えられます。
ただし、管理職主導で持ち帰り残業が行われているケースもありますので、一般従業員に対するヒアリングも並行して行い、多角的に事態を把握するよう努めましょう。
残業の事前申請制度の導入を含めて、会社の人事労務に関する対応については、弁護士へのご相談をおすすめいたします。
弁護士は、ご依頼いただいた企業に合った人事労務体制の整備をサポートいたします。
人事労務に関する新たな取り組みを行うに当たっては、制度内容の検討・社内規程の整備・従業員に対する研修など、弁護士はさまざまな観点からアドバイスすることが可能です。
顧問弁護士と契約すれば、人事労務に限らず、会社が直面する法律問題についていつでも相談できるようになります。コンプライアンスを強化し、会社の安定的な成長を図りたい場合には、顧問弁護士との契約をご検討ください。
問題社員のトラブルから、
残業の事前申請制度を導入することで、残業時間の適切な把握による労働法令の遵守や、残業代の抑制・従業員の健康保持に繋がります。ただし、残業の無申請や過小申請を見逃さないような取り組みを行うことが大切です。
人事労務に関する新たな制度を導入する際には、弁護士へのご相談がおすすめです。ベリーベスト法律事務所にご相談いただければ、労働問題に詳しい弁護士が、企業に合った制度・取り組みの内容をご提案いたします。
人事労務に関する対応にお悩みの企業経営者・ご担当者の方は、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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