企業法務コラム
使用者には労働基準法に基づき、法定三帳簿(労働者名簿・賃金台帳・出勤簿)の整備が義務付けられています。
法定三帳簿が適切に管理されていない場合や、内容に不備がある場合は、労働基準法に基づく罰則の対象となるので注意が必要です。
今回は、法定三帳簿の作成・管理に関する注意点をベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
「法定三帳簿」とは、労働者を雇用する事業主が保管すべき「労働者名簿」・「賃金台帳」・「出勤簿」の3つを指します。
それぞれの内容について以下で解説します。
「労働者名簿」とは、労働者に関する情報をまとめた名簿です。
会社には、日雇い労働者を除く労働者について、事業場ごとに労働者に関する以下の事項を記載した労働者名簿を調製する義務、及び、労働者の死亡、退職又は解雇の日から労働者名簿を3年間保存する義務があります(労働基準法第107条第1項、第109条、附則第143条第1項、労働基準法施行規則第53条、第56条第1号)。
「賃金台帳」は、労働者に対する賃金の支払いに関する事項を記載する台帳です。
事業場ごとに賃金台帳を調製した上で、賃金の支払いの都度以下の事項を遅滞なく記入すること及び最後の記入日から3年間保存することが義務付けられています(労働基準法第108条、第109条、附則第143条第1項、労働基準法施行規則第54条、56条第2号)。
「出勤簿」は、労働者の出勤状況を記載した帳簿です。法律上の明文はありませんが、労働基準法における労働時間・休憩・休日に関する規定の趣旨に照らし、使用者は出勤簿を作成する必要があると解されています。
また、「その他労働関係に関する重要な書類」として3年間の保存義務があります(労働基準法第109条、附則第143条第1項)
2017年1月20日に策定された、厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」においては、出勤簿やタイムカード等の労働時間の記録に関する書類について明文で3年間の保存義務が定められています。
出勤簿の一般的な記載事項は、労働者に関する以下の事項です。
問題社員のトラブルから、
法定三帳簿を適切に作成・保存しなかった場合、労働基準監督官による行政指導を受ける可能性があります。
また、悪質なケースでは刑事罰の対象にもなり得るので、注意が必要です。
労働基準監督官による臨検調査を経て、法定三帳簿の作成・保存義務違反が発覚した場合には、是正勧告などの行政指導が行われます。
行政指導に法的拘束力はありませんが、無視して対応しないと刑事処分に発展する可能性があるので要注意です。
労働者名簿および賃金台帳の作成・保存義務に違反した場合、「30万円以下の罰金」に処されます(労働基準法第120条第1号、第107条、第108条、第109条)。
労働者名簿・賃金台帳の作成・保存義務違反が犯罪に当たることは正しく認識しておきましょう。
法定三帳簿の作成・保存義務違反など、労働基準法違反が疑われる事業者に対しては、労働基準監督官による「臨検」(=立ち入り調査)が行われる可能性があります。
労働基準監督官による臨検の流れは、大まかに以下のとおりです。
労働基準監督官(労働基準監督署)が、事業者に対して労働基準法違反の疑いを抱くきっかけとなるのは、主に労働者による違反申告です(労働基準法第104条第1項)。
労働者から違反申告を受けた労働基準監督署は、違反内容の悪質性や嫌疑の程度などを考慮して、臨検を実施するか否かを判断します。
労働基準監督官による臨検が行われる際には、対象事業者に対して事前通知がなされるケースが多いです。
ただし、悪質な労働基準法違反が存在すると思われるケースでは、抜き打ちで臨検が行われることもあります。
臨検の当日には、原則として2名の労働基準監督官が事業場を訪問します。
労働基準監督官は、その身分を証明する証票(身分証)を携帯する義務を負い(労働基準法第101条第2項)、臨検の際には事業主などに対して身分証を提示します。
臨検調査の主な目的のひとつは、対象事業者が保管している労働関係帳簿・書類をチェックすることです。法定三帳簿のほか、臨検の目的に応じて以下のような帳簿・書類がチェックされます。
帳簿書類の提出を拒否し、または虚偽の記載をした帳簿書類を提出した場合は「30万円以下の罰金」に処されます(労働基準法第120条第4号、第101条第1項)。
労働基準監督官は、事業場に対する臨検を行うに当たり、使用者(事業主)または労働者に尋問を行うことができます。
尋問の目的は、事業場における労働基準法の順守状況等について、実態の確認を行うことです。陳述を拒否し、または虚偽の陳述をした場合は「30万円以下の罰金」に処されます(労働基準法第120条第4号、第101条第1項)。
臨検の結果に応じて、労働基準監督官は以下の行政指導を行います。
また、労働基準法違反となる罪について、労働基準監督官は、逮捕や捜索・差押等、刑事訴訟法に規定する司法警察官の職務を行うことができます(労働基準法第102条)。
問題社員のトラブルから、
法定三帳簿は、それぞれ以下の期間保存することが義務付けられています(労働基準法第109条、附則第143条第1項、労働基準法施行規則第56条第1号、第2号、第5号)。
労働者名簿 | 労働者の死亡、退職または解雇の日から3年間 |
---|---|
賃金台帳 | 最後に記入した日から3年間 ※退職金に関するものは5年間 |
出勤簿 | その完結の日から3年間 |
法定三帳簿を作成・保存するに当たっては、特に以下の各点にご注意ください。
労働者名簿と賃金台帳については、厚生労働省ウェブサイトに様式が掲載されています。ただし、必ずしも厚生労働省の様式にのっとる必要はなく、自社で独自に作成した様式を用いても構いません。
日雇い労働者については、労働者名簿の作成が不要とされています。これに対して、賃金台帳と出勤簿については、日雇い労働者についても作成が必要です。
法定三帳簿は、いずれも事業場ごとに作成する必要があります。
労働時間が労働者の自己申告制の場合、賃金台帳や出勤簿を作成するに当たって、実態とは異なる申告がなされていないかをチェックすることが求められます。
労働時間を適正に把握するための措置については、厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」が参考になります。
会社を起業したら、早い段階で弁護士と顧問契約をすることをおすすめいたします。
起業の初期段階から弁護士と顧問契約をすることの主なメリットは、以下のとおりです。
顧問弁護士を探す際には、企業法務に関する経験豊富な弁護士が在籍するベリーベスト法律事務所へご相談ください。
問題社員のトラブルから、
労働者を雇用する事業者は、法定三帳簿(労働者名簿・賃金台帳・出勤簿)を作成・保存する必要があります。
法定三帳簿の作成・保存を含めて、労働法令に沿った労務管理を行うためには、顧問弁護士と契約するのがおすすめです。
ベリーベスト法律事務所には、企業法務の経験豊富な弁護士が在籍しておりますので、顧問弁護士をお探しの場合には、ぜひお気軽にご相談ください。
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