企業法務コラム

2023年05月18日
  • 法定三帳簿
  • 労働者名簿
  • 賃金台帳
  • 出勤簿

法定三帳簿とは? 記載事項や作成・保存時の注意点などを解説

法定三帳簿とは? 記載事項や作成・保存時の注意点などを解説

使用者には労働基準法に基づき、法定三帳簿(労働者名簿・賃金台帳・出勤簿)の整備が義務付けられています。

法定三帳簿が適切に管理されていない場合や、内容に不備がある場合は、労働基準法に基づく罰則の対象となるので注意が必要です。

今回は、法定三帳簿の作成・管理に関する注意点をベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、法定三帳簿とは?

「法定三帳簿」とは、労働者を雇用する事業主が保管すべき「労働者名簿」・「賃金台帳」・「出勤簿」の3つを指します。
それぞれの内容について以下で解説します。

  1. (1)労働者名簿

    「労働者名簿」とは、労働者に関する情報をまとめた名簿です。

    会社には、日雇い労働者を除く労働者について、事業場ごとに労働者に関する以下の事項を記載した労働者名簿を調製する義務、及び、労働者の死亡、退職又は解雇の日から労働者名簿を3年間保存する義務があります(労働基準法第107条第1項、第109条、附則第143条第1項、労働基準法施行規則第53条、第56条第1号)。

    • ① 氏名
    • ② 生年月日
    • ③ 履歴
    • ④ 性別
    • ⑤ 住所
    • ⑥ 従事する業務の種類(常時使用する労働者が30人未満の場合は不要)
    • ⑦ 雇入れの年月日
    • ⑧ 退職の年月日およびその事由(解雇の場合は、解雇の理由を含む)
    • ⑨ 死亡の年月日およびその原因
  2. (2)賃金台帳

    「賃金台帳」は、労働者に対する賃金の支払いに関する事項を記載する台帳です。

    事業場ごとに賃金台帳を調製した上で、賃金の支払いの都度以下の事項を遅滞なく記入すること及び最後の記入日から3年間保存することが義務付けられています(労働基準法第108条、第109条、附則第143条第1項、労働基準法施行規則第54条、56条第2号)。

    • ① 賃金計算の基礎となる事項
    • ② 賃金の額
    • ③ 労働者ごとに以下の事項
    • 氏名
    • 性別
    • 賃金計算期間(雇用期間が1か月以内の日雇い労働者を除く)
    • 労働日数
    • 労働時間数(管理監督者などについては不要)
    • 時間外労働、休日労働、深夜労働の時間数(就業規則上の所定労働時間および休日に従った記入も可。ただし、管理監督者などについては不要)
    • 基本給、手当その他賃金の種類ごとの金額(通貨以外のもので支払われる賃金がある場合は、その評価総額を記入しなければならない。)
    • 賃金の一部を控除した場合は、その額
  3. (3)出勤簿

    「出勤簿」は、労働者の出勤状況を記載した帳簿です。法律上の明文はありませんが、労働基準法における労働時間・休憩・休日に関する規定の趣旨に照らし、使用者は出勤簿を作成する必要があると解されています。
    また、「その他労働関係に関する重要な書類」として3年間の保存義務があります(労働基準法第109条、附則第143条第1項)
    2017年1月20日に策定された、厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」においては、出勤簿やタイムカード等の労働時間の記録に関する書類について明文で3年間の保存義務が定められています。

    出勤簿の一般的な記載事項は、労働者に関する以下の事項です。

    • 氏名
    • 出勤日
    • 出勤日ごとの出勤時刻、退勤時刻、休憩時間
    など
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2、法定三帳簿を適切に作成・保存しなかった場合のペナルティ

法定三帳簿を適切に作成・保存しなかった場合、労働基準監督官による行政指導を受ける可能性があります
また、悪質なケースでは刑事罰の対象にもなり得るので、注意が必要です。

  1. (1)労働基準監督官による行政指導

    労働基準監督官による臨検調査を経て、法定三帳簿の作成・保存義務違反が発覚した場合には、是正勧告などの行政指導が行われます

    行政指導に法的拘束力はありませんが、無視して対応しないと刑事処分に発展する可能性があるので要注意です。

  2. (2)刑事罰(罰金)

    労働者名簿および賃金台帳の作成・保存義務に違反した場合、「30万円以下の罰金」に処されます(労働基準法第120条第1号、第107条、第108条、第109条)。

    労働者名簿・賃金台帳の作成・保存義務違反が犯罪に当たることは正しく認識しておきましょう。

3、違反が疑われる事業者に対する「臨検」の流れ

法定三帳簿の作成・保存義務違反など、労働基準法違反が疑われる事業者に対しては、労働基準監督官による「臨検」(=立ち入り調査)が行われる可能性があります。

労働基準監督官による臨検の流れは、大まかに以下のとおりです。

  • ① 労働者による違反申告等
  • ② 臨検の事前通知|抜き打ちの場合もある
  • ③ 労働基準監督官2名の訪問
  • ④ 労働関係帳簿・書類の確認
  • ⑤ 事業主・責任者・従業員等へのヒアリング
  • ⑥ 行政指導|指導票の交付・是正勧告等


  1. (1)労働者による違反申告等

    労働基準監督官(労働基準監督署)が、事業者に対して労働基準法違反の疑いを抱くきっかけとなるのは、主に労働者による違反申告です(労働基準法第104条第1項)。

    労働者から違反申告を受けた労働基準監督署は、違反内容の悪質性や嫌疑の程度などを考慮して、臨検を実施するか否かを判断します

  2. (2)臨検の事前通知(抜き打ちの場合もある)

    労働基準監督官による臨検が行われる際には、対象事業者に対して事前通知がなされるケースが多いです

    ただし、悪質な労働基準法違反が存在すると思われるケースでは、抜き打ちで臨検が行われることもあります。

  3. (3)労働基準監督官2名の訪問

    臨検の当日には、原則として2名の労働基準監督官が事業場を訪問します。

    労働基準監督官は、その身分を証明する証票(身分証)を携帯する義務を負い(労働基準法第101条第2項)、臨検の際には事業主などに対して身分証を提示します。

  4. (4)労働関係帳簿・書類の確認

    臨検調査の主な目的のひとつは、対象事業者が保管している労働関係帳簿・書類をチェックすることです。法定三帳簿のほか、臨検の目的に応じて以下のような帳簿・書類がチェックされます

    (例)
    ① 労働条件に関するもの
    • 雇用契約書
    • 労働条件通知書
    • 就業規則(周知の書面等を含む)

    ② 労働時間に関するもの
    • 出勤簿
    • タイムカード
    • 勤務シフト表
    • デジタルタコグラフ、アナログタコグラフ
    • 勤怠管理システムの記録
    • 労使協定の届出書(三六協定届など)

    ③ 賃金に関するもの
    • 賃金台帳
    • 時間外労働手当、休日手当、深夜手当の支払い状況を示す資料

    ④ 年次有給休暇に関するもの
    • 年次有給休暇の取得状況を示す資料

    ⑤ 安全衛生管理に関するもの
    • 安全衛生推進者、産業医の選任状況を示す資料
    • 安全衛生委員会等の設置状況を示す資料
    • 安全委員会等の議事録
    • 産業医と労働者の面接状況に関する資料

    ⑥ 労働者の健康管理に関するもの
    • 健康診断の実施記録、結果報告
    など

    帳簿書類の提出を拒否し、または虚偽の記載をした帳簿書類を提出した場合は「30万円以下の罰金」に処されます(労働基準法第120条第4号、第101条第1項)。

  5. (5)事業主・責任者・従業員等へのヒアリング

    労働基準監督官は、事業場に対する臨検を行うに当たり、使用者(事業主)または労働者に尋問を行うことができます

    尋問の目的は、事業場における労働基準法の順守状況等について、実態の確認を行うことです。陳述を拒否し、または虚偽の陳述をした場合は「30万円以下の罰金」に処されます(労働基準法第120条第4号、第101条第1項)。

  6. (6)行政指導(指導票の交付・是正勧告等)

    臨検の結果に応じて、労働基準監督官は以下の行政指導を行います。

    ① 指導票の交付
    労働基準法違反の事実は認められないものの、改善すべき状況がある場合には指導票が交付されます。

    ② 是正勧告
    労働基準法違反の事実が認められた場合には、是正勧告が行われます。

    また、労働基準法違反となる罪について、労働基準監督官は、逮捕や捜索・差押等、刑事訴訟法に規定する司法警察官の職務を行うことができます(労働基準法第102条)。

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4、法定三帳簿の保存期間

法定三帳簿は、それぞれ以下の期間保存することが義務付けられています(労働基準法第109条、附則第143条第1項、労働基準法施行規則第56条第1号、第2号、第5号)。

労働者名簿 労働者の死亡、退職または解雇の日から3年間
賃金台帳 最後に記入した日から3年間
※退職金に関するものは5年間
出勤簿 その完結の日から3年間

5、法定三帳簿の作成・保存に関する注意点

法定三帳簿を作成・保存するに当たっては、特に以下の各点にご注意ください。

  1. (1)労働者名簿・賃金台帳の様式

    労働者名簿と賃金台帳については、厚生労働省ウェブサイトに様式が掲載されています。ただし、必ずしも厚生労働省の様式にのっとる必要はなく、自社で独自に作成した様式を用いても構いません。

  2. (2)日雇い労働者の取り扱い

    日雇い労働者については、労働者名簿の作成が不要とされています。これに対して、賃金台帳と出勤簿については、日雇い労働者についても作成が必要です。

  3. (3)事業場ごとに作成する必要あり

    法定三帳簿は、いずれも事業場ごとに作成する必要があります。

  4. (4)労働時間が自己申告制の場合の注意点

    労働時間が労働者の自己申告制の場合、賃金台帳や出勤簿を作成するに当たって、実態とは異なる申告がなされていないかをチェックすることが求められます。

    労働時間を適正に把握するための措置については、厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」が参考になります。

6、起業したら早めに顧問弁護士の利用の検討を

会社を起業したら、早い段階で弁護士と顧問契約をすることをおすすめいたします。
起業の初期段階から弁護士と顧問契約をすることの主なメリットは、以下のとおりです。

  • 法定三帳簿の整備を含めて、労働法令に沿った労務管理を行うことができます。
  • 労働者との間でトラブルが生じた際にも、迅速に解決するための対応を適切にとることができます。
  • 労務管理以外にも、契約や知的財産権など、事業に関して問題になりやすい法律問題についても相談できます。

顧問弁護士を探す際には、企業法務に関する経験豊富な弁護士が在籍するベリーベスト法律事務所へご相談ください。

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7、まとめ

労働者を雇用する事業者は、法定三帳簿(労働者名簿・賃金台帳・出勤簿)を作成・保存する必要があります。

法定三帳簿の作成・保存を含めて、労働法令に沿った労務管理を行うためには、顧問弁護士と契約するのがおすすめです。
ベリーベスト法律事務所には、企業法務の経験豊富な弁護士が在籍しておりますので、顧問弁護士をお探しの場合には、ぜひお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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