企業法務コラム
会社が破産した場合、払えなくなった借金は原則として免除されます。しかし、代表者が経営者保証をしていた場合などは、会社の債務を負うことになり、自己破産も検討せざるを得ない可能性もあります。
どのような手続きが最善になるかはケース・バイ・ケースです。本記事では、破産した会社の借金を誰が払うのか、また法人破産(会社破産)の手続きをどのように行うべきかなどについて、注意点も併せてベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
なお、ご自身が経営する会社が破産したらどうなるのか、対策をどう打つべきか、正確に知りたい場合は、早めに弁護士にご相談ください。
借金の返済が不可能となった会社は、「破産」を選択することになります。
破産した会社の借金は、会社財産をもって可能な範囲で支払うのが原則です。ただし例外的に、代表者個人が会社の借金を返すべき場合もあります。
中小企業の場合、オーナー経営者が会社の株式を100%保有しているケースも珍しくありません。しかし株式を保有していても、会社とオーナー経営者は別人格であり、会社の借金は会社が返すのが原則です。
会社が破産した場合、会社の財産が処分された上で、債権者への配当に充てられます。配当では返済しきれなかった借金が残った場合、その借金は免除されます。原則として、オーナー経営者が残債を返す必要はありません。
ただし、例外的に以下の場合には、代表者が会社の借金を返すための資金を捻出する必要があります。
代表者が会社の借金を連帯保証していた場合、法人破産に伴い、代表者も自己破産(個人破産)を強いられることが多くなります。
平成17年(2005年)4月以降、会社の借金に関する経営者保証については、極度額を定めることが必須となりました。
しかし、極度額は数千万円から数億円の高額に設定されるケースも多いです。会社の借金があまりにも膨らんだ状態で法人破産をした場合、連帯保証人である代表者は巨額の弁済を一挙に請求され、自己破産に追い込まれてしまうことがよくあります。
代表者が自己破産をした場合、代表者の財産は処分される一方で、家族の財産は処分されません。また、自己破産した代表者は借金ができなくなる、クレジットカードが使えなくなるなどの不利益を被りますが、家族にこのような不利益は生じません。
ただし、代表者が所有する自宅や家財などが処分されてしまえば、家族の生活にも一定の影響は避けられないでしょう。法人破産を申し立てる際には、家族への影響についてもよく検討するため、弁護士への相談をおすすめします。
法人破産の手続きは、以下の流れで進行します。
まずは主たる営業所の所在地を管轄する地方裁判所に対して、破産手続開始の申し立てを行います。
裁判所は、次に紹介する破産手続開始の要件を満たしているかどうかを確認するため、会社に対して質問を行います(=債務者審尋)。円滑に破産手続きを進めるため、裁判所の質問には誠実に回答しましょう。
裁判所は、以下の①~③の要件がすべて満たされている場合に限り、破産手続開始の決定を行います(破産法第15条第1項、第16条第1項、第30条第1項)。
破産手続開始の決定を行う際に、裁判所は破産管財人を選任します。破産管財人は、会社財産の換価・処分や債権者への配当を行います。
破産管財人は会社財産をリストアップした上で、順次換価・処分します。得られた売却代金等は、債権者への配当の原資となります。
破産手続開始の決定をもって、会社財産の管理処分権は破産管財人に専属するため(破産法第78条第1項)、代表者であっても会社財産に手をつけることはできません。
会社財産の換価・処分状況は、債権者集会において破産管財人が債権者に報告します。
債権者集会の開催時期は、破産手続開始の決定から約3か月後が目安です。換価・処分に時間がかかっている場合は、債権者集会が複数回開かれることもあります。
会社財産の換価・処分が完了したら、残った資金をもって債権者への配当が行われます。なお、全く資金が残っていない場合は、債権者への配当も行われません。
債権者への配当が完了すると、裁判所は破産手続終結の決定を行います(破産法第220条第1項)。この場合、裁判所は決定主文と理由の要旨を公告し、会社に対しても通知します(同条第2項)。
一方、債権者への配当ができない場合には、裁判所は破産手続き廃止の決定を行います(同法第217条第1項)。この場合、2週間の即時抗告期間が経過すると廃止決定が確定し、裁判所がその旨を公告します(同条第7項)。
破産手続の終結または廃止は、裁判所書記官の嘱託によって法務局で登記が行われます(破産法第257条第7項、第1項)。登記の完了をもって会社の法人格は消滅し、残った債務は免除されます。
会社について法人破産を申し立てる際には、以下の行為をしないように十分ご注意ください。
破産手続きによる換価・処分を免れようとして、会社財産を個人名義に変更してはいけません。
財産減少行為として破産管財人による否認の対象となるほか(破産法第160条)、詐欺破産罪によって刑事罰を科されるおそれがあります(10年以下の懲役または1000万円以下の罰金、同法第265条)。
一部の債権者だけに借金を返済し、または担保を提供する行為は、破産管財人による否認の対象となります(破産法第162条)。
具体的には、以下の行為が否認の対象です。
また、他の破産債権者を害する目的で、特定の債権者に対して弁済期未到来の債務の弁済または義務のない担保提供を行った場合は「5年以下の懲役または500万円以下の罰金」に処されます(同法第266条)。
破産手続開始の申立てに前後して行われた会社財産の売却も、財産減少行為として破産管財人による否認の対象になり得ます。
安すぎる価格による売却はもちろん、相当の対価を得て行った売却も、破産管財人によって否認される可能性があるので注意が必要です(破産法第161条)。
また、安すぎる価格で会社財産を売却した場合は、詐欺破産罪による処罰の対象となります(同法第265条第1項第3号)。
破産した会社の借金は、法人破産の手続きを通じて免除されます。ただし、代表者が連帯保証人となっている場合は、残った会社の借金を弁済する義務を負うので注意が必要です。
会社の破産を申し立てるに当たっては、法人破産の手続きや注意点に加えて、代表者やその家族に生じる影響についても検討しなければなりません。想定外の事態が生じることを防ぐため、弁護士への相談をおすすめします。
ベリーベスト法律事務所は、法人破産に関するご相談を随時受け付けております。会社の負債にお悩みで法人破産をご検討中の経営者は、お早めにベリーベスト法律事務所へご相談ください。
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