企業法務コラム

2024年05月02日
  • 労働条件通知書

労働条件通知書とは?作らない企業のリスクや2024年4月からの変更点

労働条件通知書とは?作らない企業のリスクや2024年4月からの変更点

労働条件通知書とは、労働者に対して労働条件を明示する書面です。

使用者が労働者を雇い入れる際には、労働条件通知書を交付する必要があります。2024年4月より追加される記載事項も含めて、正しく労働条件を記載しましょう。

本記事では労働条件通知書の概要や、2024年4月以降追加される記載事項などをベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、労働条件通知書とは

労働条件通知書とは、使用者が労働者に対して労働条件を明示する書面です。
労働基準法および労働基準法施行規則により、雇い入れ時における交付が義務付けられています(記載事項は後述します)。

  1. (1)労働条件通知書と雇用契約書の違い

    労働条件通知書と同じく、労働条件が記載された書面として「雇用契約書(労働契約書)」があります。

    労働条件通知書と雇用契約書の主な違いは、以下のとおりです。

    ① 作成の必要性の有無
    労働条件通知書の作成(交付)は、労働基準法および労働基準法施行規則によって義務付けられています。
    これに対して、雇用契約書の作成は必須ではなく、口頭の合意によっても雇用契約は成立します。

    ② 作成者の違い
    労働条件通知書は、使用者が作成して労働者に交付する書面です。
    これに対して雇用契約書は、使用者と労働者が共同で作成(締結)する書面です。

    ③ 記載事項の違い
    労働条件通知書の記載事項は、労働基準法施行規則によって定められています。
    これに対して、雇用契約書の記載事項は、原則として使用者と労働者の合意によって自由に決められます。

    なお、雇用契約書において労働基準法および労働基準法施行規則に基づく記載事項が網羅されていれば、労働条件通知書を兼ねることもできます。

  2. (2)労働条件通知書の交付方法

    労働条件通知書は、原則として必要事項を記載した書面によって交付しなければなりません(労働基準法施行規則第5条第4項本文)。

    ただし労働者が希望した場合には、FAXや電子メールなどによって労働条件通知書を交付することも認められます(同項ただし書き)。

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2、労働条件通知書の記載事項|2024年改正による変更点も解説

労働条件通知書の記載事項は、労働基準法および労働基準法施行規則によって定められています。そして、2024年4月以降には記載事項が追加される点に注意が必要です。

  1. (1)労働条件通知書に記載すべき事項

    労働条件通知書には、以下の事項を記載する必要があります(労働基準法第15条第1項後段、労働基準法施行規則第5条第3項、同条第1項第1号~第4号)。

    • ① 労働契約の期間に関する事項
    • ② 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項 ※有期労働契約のみ
    • ③ 就業の場所及び従業すべき業務に関する事項
    • ④ 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇ならびに労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
    • ⑤ 賃金(退職手当および臨時に支払われる賃金等を除く)の決定、計算および支払いの方法、賃金の締切り及び支払いの時期並びに昇給に関する事項
    • ⑥ 退職に関する事項(解雇の事由を含む)

    (上記カッコ内は、※以降の文章以外は、同条第1項第1号~第4号より引用。)

  2. (2)2024年4月施行|労働条件通知書の追加記載事項

    2024年4月1日に改正労働基準法施行規則が施行され、新たに以下の事項が労働条件通知書の記載事項として追加されます。

    <全労働者共通>
    (a)就業の場所および従事すべき業務の変更の範囲
    →「就業の場所および従業すべき業務に関する事項」として、業務をする場所・業務の変更範囲の記載義務が明記されました。

    <有期雇用労働者のみ>
    (b)有期労働契約の通算契約期間、または更新回数の上限
    →「期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項」として、通算契約期間または更新回数の上限を定める場合は、その旨記載する必要があります。

    (c)無期転換の申し込みに関する事項および無期転換後の労働条件
    無期転換ルール※(労働契約法第18条)が適用される有期労働契約については、無期転換の申し込みに関する事項、および無期転換後の労働条件の記載が新たに義務付けられます。

    ※無期転換ルール:有期労働契約の期間が通算5年を超えた場合、労働者が使用者に対して無期労働契約への転換を申し込めば、有期労働契約の終了日の翌日から無期労働契約へ転換されます。

    上記(a)については主に正社員の雇用ルールの明確化、上記(b)(c)については有期雇用労働者の無期転換ルールに関する認知と理解を促すことを目的としています。

3、労働条件通知書を交付しなかったら、どうなる? 裁判例も紹介

労働者に対して労働条件通知書を交付しないと、労働基準監督署による行政指導や刑事罰の対象となるほか、労働者との間でトラブルに発展するリスクがあります

  1. (1)労働条件通知書を交付しない企業のリスク

    企業が労働者に対して労働条件通知書を交付しない場合、以下のリスクを負うことになります。

    ① 労働基準監督署による行政指導
    労働基準法違反を理由に、労働基準監督署の是正勧告を受けるおそれがあります。是正勧告を受けた企業は、速やかに労働基準法違反の状態を是正し、その経過を労働基準監督署へ報告しなければなりません。

    ② 刑事罰
    労働条件通知書の不交付を含む労働条件明示義務違反は、刑事罰の対象とされています。法定刑は「30万円以下の罰金」です( 労働基準法第120条第1号、121条)。

    ③ 労働者とのトラブル
    労働条件が不明確であることに起因して、企業と労働者の間でトラブルが発生するおそれがあります(後述の裁判例を参照)。
  2. (2)労働条件通知書の不交付が問題となった裁判例

    東京地裁平成30年3月9日判決では、飲食店に対する労働者の未払い残業代請求が問題となりました。飲食店と労働者の間では、賃金の金額や計算方法を明示した契約書や労働条件通知書が作成されていませんでした。

    飲食店側としては、求人広告に提示した労働条件で労働者を雇用する意思がありませんでした。しかし東京地裁は、求人広告の労働条件と実際の労働条件が異なることが労働者に対して表示されなかったことを指摘し、求人広告どおりの内容による労働契約の成立を認定しました。
    結果的に、会社は想定していたよりも多くの残業代を支払うことになってしまいました。

    本事案のように、労働者に対して労働条件通知書を交付しなかったとしても他の雇用に至るまでの経緯から労働者の主張する労働条件が認定されて不測の損失を被ってしまうおそれがあるため、相互が前提とする契約内容に齟齬がないようにするためにも、労働条件の通知は履行しておくべきです。

4、労働条件の明示以外に、採用活動時に企業が注意すべきこと

使用者は労働者を採用する際には、雇い入れ時における労働条件の明示(労働条件通知書の交付を含む)に加えて、以下の各点に注意する必要があります。


  1. (1)求人広告に書いてはいけないことがある

    求人広告では、以下のような表現が禁止されています

    • 性差別的な表現(男女雇用機会均等法第5条)
    • 年齢差別的な表現(労働施策総合推進法第9条)
    • 特定の人を差別または優遇する表現(労働基準法第3条)
    • 実態とは異なる虚偽の労働条件等(職業安定法第65条第9号、第10号)

    求人広告を掲出する際には、これらの不適切な表現が含まれていないかどうかを必ず確認しましょう。

  2. (2)採用面接時に聞いてはいけないことがある

    採用面接の際に、候補者の適性・能力とは無関係な質問をすると、職業安定法違反や男女雇用機会均等法違反に当たるおそれがあります( 職業安定法第3条、 男女雇用機会均等法第5条)。

    たとえば、以下のような質問は差別的で不適切と考えられます。面接担当者に対して、このような質問を行わないように注意喚起しましょう。

    • 出身地や居住地に関する質問
    • 家族に関する質問
    • 資産状況に関する質問
    • 思想、信条、宗教、支持政党に関する質問
    • 恋愛、交際関係、結婚、出産に関する質問
    など
  3. (3)安易な内定取り消しは認められない

    採用候補者に対して内定を出した場合、その後に内定を取り消すためには以下の要件を満たさなければなりません。

    • ① 内定取り消し事由が、使用者側にとって採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であること
    • ② 採用内定を取り消すことが「解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認できる」こと

    ※参考:大日本印刷事件(昭和54年7月20日判決)

    内定取り消しの要件は厳しく、安易な内定取り消しは違法と判断される可能性が高いです。採用内定を出す際には、候補者の能力や適性を慎重に判断しましょう。

    ただし、当該労働者が職場に居続けることで明確な害が生じるような事情が見受けられるケースでは、内定取消を有効に行えているものもあります。

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5、まとめ

労働条件通知書は、採用活動における重要な書面です。後で労働者との間でトラブルにならないように、労働基準法および労働基準法施行規則に沿って適切に作成・交付しましょう。

労働条件通知書については2024年4月に労働条件明示のルールが改正されます。
法令上のルールは年々変化する中で、逐一情報を集めて対処するのは大変です。

顧問弁護士と契約すれば、法令改正への対応を含めて、人事・労務管理について総合的なサポートを受けられます。ベリーベスト法律事務所は、ニーズに応じてご利用いただける顧問弁護士サービスをご提供しておりますので、お気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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