企業法務コラム
動画配信サービスなどにおいて「投げ銭」のシステムを導入する場合には、資金決済法の規制をクリアする必要があります。
弁護士などの専門家に相談しながら、投げ銭のシステムを適切に設計しましょう。
本記事では、「投げ銭」を企業が導入する際の注意点などをベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
「投げ銭」とは、ライブ配信サービスなどにおいて、視聴者が配信者に対して金銭やギフトなどを送ることができるシステムです。
路上の大道芸人などのパフォーマンスに対して少額のお金を投げ入れる行為になぞらえて、ライブ配信における金銭やギフトのプレゼントも「投げ銭」と呼ばれるようになりました。
投げ銭のシステムはサービスによってさまざまですが、金額を自由に設定して送金するシステムと、アイテムを購入して使用するシステムの2つに大別されます。
いずれもユーザーが支払った金額から一定の手数料が控除された後、サービスの運営会社から配信者に対して支払われます。
投げ銭システムには、サービスの運営会社・配信者・視聴者の3者にとってそれぞれメリットがあります。
サービスの運営会社にとって、投げ銭システムはプラットホームビジネスの収益性を大きく高める可能性があります。サービス上で人気を集める配信者が増えれば増えるほど、運営会社は大きな手数料収入を得ることが可能です。
配信者にとっては、投げ銭システムを通じてライブ配信を収益化できるメリットがあります。特に人気配信者の場合は、投げ銭だけで1か月当たり数百万円以上の収入を得るケースも見られます。
視聴者にとっては、投げ銭システムは配信者に対して応援の気持ちを伝えるためのツールとして有用です。また、積極的に投げ銭を行えば、配信者にファンとして認知してもらうことにもつながります。
投げ銭システムを導入するに当たっては、以下の設定・機能が重要になります。これらの設定・機能次第ではトラブルにつながることもあるので、注意深く設計しなければなりません。
視聴者によって行われた投げ銭の収益は、サービスの運営会社と配信者の間で配分します。
運営会社としては、配信者との間での配分ルールをあらかじめ明確に定めることが大切です。配分ルールが不明確だと、配信者が未払いの収益金の支払いを求め、運営会社を提訴するなどのトラブルが生じるおそれがあります。
利用規約や配信者と締結する契約において、配分割合・金額の計算方法・支払い方法などを適切に定めましょう。
投げ銭は簡単な操作で行うことができるのがメリットのひとつですが、操作ミスなどによって投げ銭が行われてしまうケースもあり得ます。
不本意に多額の投げ銭をしてしまった視聴者は、ウェブサイトやアプリなどのユーザーインターフェース(UI)の不備などを理由に、サービスの運営会社に返金を請求してくるかもしれません。
このような事態を防ぐためには、投げ銭が確定するまでに確認画面を表示するなど、意図しない投げ銭が行われないようにする機能を搭載することが望ましいでしょう。
未成年者が親のお金で投げ銭を乱発するトラブルは、ライブ配信サービスにおいてしばしば発生します。
未成年者が法律行為をするには、一部の限られた例外を除いて法定代理人の同意を得なければなりません(民法第5条第1項)。法定代理人の同意を得ずに行われた未成年者の法律行為は、原則として取り消すことができます(同条第2項)。
投げ銭についても同様に、未成年者が法定代理人の同意を得ずに行った場合は取り消しの対象となります。未成年者の投げ銭について取消権が行使された場合、サービスの運営会社は返金対応や配信者への説明などに多大なコストを要することになるでしょう。
このような事態を防ぐには、未成年者による投げ銭を禁止することが考えられます。
また、投げ銭に関するユーザー登録を行う際に、未成年者ではない旨を確認するメッセージを再三にわたり表示するように設定しましょう。再三の確認をくぐり抜けて未成年者が投げ銭の登録を行った場合には、詐術を理由に取消権が否定される可能性が高まります(民法第21条)。
ライブ配信サービスなどにおいて投げ銭システムを導入する際には、資金決済法の規制に注意が必要です。
サービスの運営会社を通じて、視聴者が配信者に対して直接送金する形とすることは、銀行法や資金決済法上の「為替取引」に該当する可能性が高いと思われます。なお、「為替取引」の定義については、最高裁で以下のとおり示されています。
銀行など以外の者が為替取引を業として営むためには、資金移動業の登録を受けなければなりません(資金決済法第37条)。
資金移動業の登録については、財産的基礎や業務遂行体制・規制順守体制の整備状況などが厳しく審査されるため、登録のハードルは高いといえます。
また資金移動業者は、投げ銭を含む為替取引を行うに当たり、「犯罪による収益の移転防止に関する法律」に基づく取引時確認を行う必要があります。取引時確認に当たってはユーザー側にも一定の負担がかかるため、ユーザーの離脱につながってしまう懸念があります。
さらに資金移動業者は、投げ銭などによる為替取引について、預かっている資金の100%以上の額(1000万円を下回る場合は1000万円)を履行保証金として供託しなければなりません(資金決済法第43条)。
履行保証金は、預かり金とは別に調達する必要があるため、調達コストが大きな負担となることがあります。
このように、為替取引に当たる投げ銭サービスには厳しい規制が適用されるため、実務上はあまり採用されていません。
前述のとおり、視聴者がサービスの運営会社を通じて配信者に対し直接送金する方法にはハードルがあるため、ライブ配信サービスの投げ銭システムでは、アイテムの購入を通して投げ銭を行う、「自家型前払式支払手段」を採用する例が多数となっています。
前払式支払手段とは、あらかじめ支払った金額などが記載・記録された証票やデータなどです。
伝統的には商品券・カタログギフト券・プリペイドカードなどが例に挙げられますが、ライブ配信サービスにおいて投げ銭として使用できるアイテムも前払式支払手段に当たります。視聴者は前払式支払手段であるアイテムをあらかじめ購入し、それを使用することで投げ銭を行うことができます。
この方法であれば、ユーザーはまず運営からアイテムを購入し、その利益を運営が配信者へ分配するという流れになりますので、ユーザーが配信者に直接送金する形をとる必要がなくなり、為替取引に該当することを回避できることとなります。
前払式支払手段のうち、発行者またはその密接関係者との取引についてのみ使用できるものを「自家型前払式支払手段」といいます。ライブ配信サービスにおける投げ銭アイテムは、自家型前払式支払手段に当たるのが一般的です。
自家型前払式支払手段を利用した投げ銭システムを導入する場合は、以下の規制が適用されます。
ただし、有効期間が発行日から6か月未満の前払式支払手段に関しては、資金決済法における上記の規制が適用されません(同法第4条第2項)。
自家型前払式支払手段を活用した投げ銭システムを導入する際には、「実質的には送金サービス(為替取引)に当たる」と評価されないように設計する必要があります。
たとえば、アイテムを視聴者が配信者に直接送信でき、そのアイテムについて配信者側で直接払い戻しを受けられるような場合には、実質的にみて為替取引に該当すると評価される可能性があります。
これを回避するためには、アイテムがその金額に応じて運営とユーザーの間で適切に消費されていることがわかるようなサービス内容にしておくことが考えられます。例えば、購入したアイテムを利用することで、運営側からそのアイテムのランク(支払った金額)に応じた追加サービス(特殊なエフェクトなど)が提供されるような形が想定されます。
前払式支払手段を用いた投げ銭システムの設計については、弁護士にご相談ください。
投げ銭システムを導入するに当たっては、資金決済法の規制をクリアできるように、適切なシステム設計を行う必要があります。弁護士にご相談いただければ、投げ銭システムの仕組みに応じた注意点をアドバイスし、スムーズなリリースができるようにサポートいたします。
また、投げ銭システムの運用に関する社内体制の整備についても、クライアント企業の実情に応じてサポート可能です。
ライブ配信アプリなどにおいて投げ銭機能の導入を検討している企業は、弁護士にご相談ください。
ライブ配信などにおける投げ銭システムの導入に当たっては、資金決済法の規制を踏まえて設計を行う必要があります。
自家型前払式支払手段(アイテムやギフトなど)を活用すれば規制が比較的緩やかになりますが、為替取引に当たると評価されないような仕組みとしなければなりません。弁護士のアドバイスを受けながら、適切なシステム設計を行いましょう。
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