取締役等が任務に背いて株式会社に損害を与えた場合、特別背任罪が成立します。
特別背任罪が疑われるときは、会社側は、可能な限り、早急に刑事告訴を検討しましょう。また、当該取締役等の解任や損害賠償請求、ステークホルダーに対する情報発信などをするとともに、レピュテーションリスクを最小限に抑えることなどについても、状況に応じて適切に行うことが求められます。
本コラムでは、特別背任罪に該当する取締役等の行為や刑事告訴の手続き、刑事告訴以外にとるべき対応などをベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
特別背任罪とは、取締役等が任務に背く行為をして、会社に財産上の損害を与えたときに成立する犯罪です。
特別背任罪は、以下の構成要件をすべて満たす行為に成立します(会社法第960条、第961条)。
特別背任罪の法定刑は、10年以下の懲役または1000万円以下の罰金で、併科される場合もあります。
ただし、代表社債権者または決議執行者による特別背任罪の法定刑は、5年以下の懲役または500万円以下の罰金で、併科される場合もあるとされています。
特別背任罪と同じく、任務に背いて被害者に財産上の損害を与える行為について成立するのが、背任罪です(刑法第247条)。
背任罪の法定刑は5年以下の懲役または50万円以下の罰金であり、特別背任罪よりも軽く設定されています。
特別背任罪と通常の背任罪の違いは、行為者の身分です。
通常の背任罪は、行為者の身分が特に限定されていません。これに対して特別背任罪は、株式会社の役員をはじめとする、一定の身分を有する者に限って成立します。
株式会社は株主・債権者・取引先などの多数の利害関係者を有するため、その権限ある者の背任行為は通常の背任行為よりも悪質と考えられます。そのため、特別背任罪の法定刑は、通常の背任罪よりも加重されているのです。
取締役等が会社の任務に背く行為には、特別背任罪のほかにも業務上横領罪の成立が考えられることがあります(刑法第253条)。
業務上横領罪は、業務上自己の占有する他人の物を横領する行為について成立する犯罪です。法定刑は、10年以下の懲役とされています。
背任罪(特別背任罪を含む)と業務上横領罪の違いについては諸説ありますが、物の不法領得については業務上横領罪が成立し、その他の任務に背く行為については背任罪が成立するとの見解が有力です。
特別背任罪に当たる行為としては、以下のような例が挙げられます。
取締役等の特別背任罪に当たる行為が判明した場合には、検察官または警察官に対する刑事告訴を検討しましょう。
刑事告訴ができるのは、犯罪により害を被った方などです(刑事訴訟法第230条)。
特別背任罪のケースでの被害者は株式会社なので、株式会社の代表者が会社名義で刑事告訴することができます。
刑事告訴は、書面や口頭により、検察官または司法警察員に対して行います(刑事訴訟法第241条第1項)。
実際には、検察官に比べて捜査官の人数が多い警察署に対して告訴状を提出するケースが大半です。また、特別背任に関する有力な証拠を提出すれば、スムーズに捜査に動いてもらえる可能性が高まります。
刑事告訴を受けた司法警察員は、告訴された事件に関する書類および証拠物を、速やかに検察官へ送付しなければなりません(刑事訴訟法第242条)。
また、検察官が告訴事件について公訴を提起し、または提起しない処分をしたときは、速やかにその旨を告訴人に通知しなければなりません(同法第260条)。
検察官が公訴を提起しない処分をした場合には、告訴人が請求すればその理由の告知を受けられます(同法第261条)。
スムーズな捜査を促したい場合や、捜査の経過について知りたい場合には、刑事告訴を行いましょう。
取締役等による特別背任罪に当たる行為が判明したら、刑事告訴のほかにも、会社として以下の対応を検討しましょう。
それぞれの項目について、説明していきます。
特別背任罪に当たる行為をした取締役等への処分として、臨時株主総会を開催して速やかに解任しましょう。
取締役を含む役員の解任は、株主総会での決議によって行います。
解任決議は、以下の定足数と賛成数の要件をいずれも満たした場合に成立します(会社法第341条)。
会社の損害をできるだけ少なくする等のため、特別背任罪に当たる行為をした取締役等については、速やかに職務執行を停止して解任すべきです。しかし、オーナー経営者の意向によって当該取締役等を解任できないなど、何らかの事情で職務執行を停止できない場合もあります。
このような場合には、株主や監査役が主導して、裁判所に対して取締役等の職務執行停止および職務代行者選任の仮処分を申し立てることが考えられます。
仮処分申し立ての審理は、訴訟などよりも迅速に行われるものです。会社に著しい損害が生じるおそれがあることなどを疎明すれば、仮処分命令によって取締役等の職務執行を強制的に停止させることができます。
特別背任罪に当たる行為によって会社が被った損害については、当該行為をした取締役等に対して損害賠償を請求することが可能です(会社法第423条第1項)。
損害賠償請求の対応は、特別背任行為をした取締役等から独立した役員・従業員に行わせましょう。
なお、損害賠償請求訴訟を提起する場合には、監査役設置会社であれば監査役が会社を代表し(会社法第386条第1項)、それ以外の会社では代表取締役が会社を代表します(会社法第349条第4項)。
また、会社が取締役等に対して損害賠償請求訴訟を提起しないときは、株主が株主代表訴訟を提起することも可能です(会社法第847条)。
取締役等による特別背任について、株主・債権者・取引先などのステークホルダーの不安を解消するためには、会社の対応状況について適切に情報発信を行うことが大切です。また、同時に、可能な限り、レピュテーションの低下を食い止めなければなりません。
ステークホルダーの信頼を維持し、レピュテーションの低下を可能な限り防ぐためには、情報発信のタイミングや内容に十分配慮する必要があります。弁護士のサポートを受けながら、適切な情報発信のあり方を検討しましょう。
取締役等が不正な目的をもって、任務に背いて会社に損害を与えた場合は、特別背任罪が成立する可能性があります。
損害を受けた会社としては、特別背任行為をした取締役等の刑事告訴を検討しましょう。さらに刑事告訴と併せて、取締役等の解任や損害賠償請求、ステークホルダーに向けた情報発信などを行う必要があります。弁護士のサポートを受けながら、迅速かつ適切な対応に努めましょう。
ベリーベスト法律事務所は、複数の元検事の弁護士、公認会計士資格を持つ弁護士、不正行為等への対応の専門家である公認不正検査士資格を有する弁護士、税理士などが所属する危機管理チームがあり、刑事事件を含む危機管理対応について、ご相談を随時受け付けております。取締役等の特別背任罪が疑われる状況において、会社の損害を最小限に食い止めたい場合には、お早めにベリーベスト法律事務所までご相談ください。
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