企業法務コラム
清算人とは、会社が解散した後に清算業務を行う人のことをいいます。
その多くは取締役が就任するため、廃業を考えている経営者(取締役)の方は、清算人の職務や責任について理解しておきましょう。
本記事では、清算人の選任方法・登記申請・職務内容・会社に対する責任などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
まずは、清算人は具体的にどのような役割を負って、どのくらいの報酬を受け取るのか、基本的な概要を説明していきます。
株主総会決議などによって会社が解散した場合、最終的にその会社の法人格は消滅します。
会社が解散してから法人格が消滅するまでには、残っている業務の処理・債権者に対する弁済・残った財産の株主への分配など、さまざまなことを行わなければなりません。これらの業務は「清算業務」と呼ばれ、その清算業務を担当するのが清算人です。
解散後の会社は、「清算株式会社」または「清算持分会社」と呼ばれます。清算株式会社・清算持分会社には、最低1名の清算人を置かなければなりません(会社法第477条、第646条)。
清算人は、各自清算株式会社・清算持分会社を代表するのが原則です(会社法第483条第1項、第2項、第655条第1項、第2項)。ただし、代表清算人などの代表者を別途定めた場合は、その者が清算株式会社・清算持分会社を代表します。
なお、破産手続開始の決定によって解散した会社については、破産管財人が清算に相当する業務を行うため、清算人は置かれません。
清算株式会社における清算人の報酬は、取締役の報酬に関する規定が準用されています(会社法第482条第4項、第361条)。また、清算持分会社における清算人の報酬は、民法上の委任契約における受任者の報酬に関する規定が準用となります(会社法第651条第2項、第593条第4項、民法第648条)。
裁判所が清算人を選任したケースでは、清算株式会社が清算人に対して支払う報酬額を、裁判所が定めます(会社法第485条、第657条)。
2章では、清算人の選任方法と、清算人選任後の登記申請について解説します。
清算人は、以下のとおり選任されることになります(会社法第478条第1項~第4項、第647条)。
実際には、取締役または業務執行社員が清算人となるケースが一般的です。
清算人になった者は、取締役の場合は解散の日から2週間以内、それ以外の者の場合は選任から2週間以内に、本店所在地において以下の事項を登記しなければなりません(会社法第928条第1項~第3項)。
清算人選任に関する登記申請は、本店所在地の法務局または地方法務局に対して行います。
清算人が行う職務の内容は、以下のとおりです(会社法第481条、第649条)。
清算株式会社・清算持分会社は、解散前の会社と同一の法人格であるため、解散前の会社が負っていた権利義務をそのまま引き継いでいます。
たとえば、取引先との契約に基づく業務や従業員に対する労務管理など、対応すべき業務が残っている状態です。これらの業務に対応し、完了させることを「現務の結了」といいます。
清算人は、現務の結了のために必要な業務を行った上で、取引先との契約や従業員との労働契約を解消します。なお、現務の結了のために、必要がない新たな法律行為をすることは認められません。
また、現務の結了と並行して、清算人は就任後に遅滞することなく、財産目録および貸借対照表を作成することが必要です(会社法第492条第1項、第658条第1項)。
清算株式会社では、財産目録および貸借対照表について、株主総会の承認を受けます(会社法第492条第3項)。貸借対照表に関しては、監査役の監査および清算人会の承認を受けなければなりません(会社法第495条第1項、第2項。ただし、監査役・清算人会がない場合は不要)。
清算持分会社では、財産目録および貸借対照表の作成後、各社員への内容の通知が必要です(会社法第658条第1項)。
清算株式会社・清算持分会社が有する債権は取り立てによって現金化し、当該会社が負担する債務は弁済を行う必要があります。清算株式会社・清算持分会社の債権の取り立てと債務の弁済を行うことは、清算人の役割です。
債権の取り立てについては、請求書を送付して支払いを求めるほか、必要であれば訴訟を提起して請求することが考えられます。どのような方法で債権を取り立てるかは、清算人が判断すべき事項です。
債務の弁済については、弁済申出の公告および知れている債権者に対する個別催告を経た後に行います(会社法第499条第1項、第660条第1項)。
公告期間は、2か月以上とすることが必要です。公告期間中に申出がなかった債権は清算手続きから除斥され、残余財産の分配後でなければ、弁済を受けられません(会社法第503条第1項、第2項、第665条第1項、第2項)。
なお、債務を支払いきれない場合は清算を完了できないので、破産手続開始の申立てを行うことになります。
債権の取り立て・債務の弁済を終えたら、次に清算人は、残余財産の分配を行います。
清算株式会社では、清算人の決定(清算人会設置会社では、清算人会の決議)により以下の事項を定めた上で、株主に対して残余財産を割り当てます(会社法第504条第1項)。
※残余財産を金銭以外の財産とすること(=現物分配)もできますが、株主は清算株式会社に金銭分配の請求が可能です(会社法第505条第1項)
清算持分会社では、社員に対して残余財産を割り当てます。残余財産の分配の割合は定款の定めに従いますが、定款の定めがないときは、各社員の出資の価額に応じて決まります(会社法第666条)。
残余財産の分配が完了した後、清算株式会社の清算人は決算報告を作成して、株主総会の承認を受けなければなりません(会社法第507条第1項、第3項)。
清算持分会社の清算人は、清算に係る計算を行えばよいですが、社員の承認を受けることが必要です(会社法第667条第1項)。
決算報告または計算の承認を受けた段階で、会社の清算は結了し、法人格が消滅します。清算結了後、決算報告または計算の承認日から2週間以内に、本店所在地で清算結了の登記が必要です(会社法第929条)。
清算結了の登記のときから10年間、清算人は以下の資料を保存する義務を負います(会社法第508条第1項、第672条第1項)。ただし、清算人に代わる保管者を定めることも可能です(会社法第508条第2項、第672条第2項)。
清算人が任務を怠ったときは、清算株式会社・清算持分会社に対して損害賠償責任を負います(会社法第486条第1項、第652条)。
また、清算人はいつでも株主総会決議または社員の過半数の決定による解任が認められています(会社法第479条第1項、第648条第1項、第2項)。
さらに、重要な事由があるときは、株主または社員その他の利害関係人の申立てによって、裁判所により解任される場合もあります(会社法第479条第2項、第3項、第648条第3項)。
このように清算人は責任を負うことになるため、しっかりと役割と果たすようにしましょう。
会社が解散した後の清算手続きにおいては、取締役や業務執行社員などが清算人として清算業務を行うことになります。トラブルなく清算業務を完了するためには、弁護士のサポートが欠かせません。
弁護士は、解散後の会社において残っている業務を整理した上で、それらを適切に処理するための方法をアドバイスします。弁護士のアドバイスに沿って、会社法の規定を踏まえて着実に清算業務を行うことにより、取引先・債権者・従業員などとのトラブルのリスクを抑えられるでしょう。
会社の廃業を検討している方は、あらかじめ弁護士に解散・清算の手続きについてご相談ください。
会社の解散・清算に関する手続きは多岐にわたるので、弁護士のサポートを受けるのが安心です。
ベリーベスト法律事務所は、会社の解散・清算に関するご相談を随時受け付けております。廃業を検討している会社経営者の方は、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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