企業法務コラム

2024年06月10日
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IPアドレスで特定できる情報はどこまで? 発信者情報開示請求の方法

IPアドレスで特定できる情報はどこまで? 発信者情報開示請求の方法

ネット上での誹謗中傷や個人情報の拡散などが発生し、加害者に法的対応をとるためには、氏名や住所など加害者の身元を特定することが必要です。身元を特定するためには、まず、発信者情報開示請求という手続きによって、加害者が違法な投稿を行ったときに割り振られていたIPアドレスの開示を受けます。

それでは、IPアドレスを特定することができれば、なぜ加害者の身元を特定できるのでしょうか。また、IPアドレスを手掛かりとして、追加でどのような情報を入手できるのでしょうか。

この記事では、IPアドレスの意味や、IPアドレスの種類から身元を特定するために必要な発信者情報開示請求の方法まで、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、IPアドレスとは? IPアドレスでわかる情報

  1. (1)IPアドレスとは?

    IPアドレス(Internet Protocol Address)とは、インターネットに接続しているデバイスに割り当てられる、インターネット上での住所を意味します。手紙を出すときに送り先の住所を書くのと同じように、インターネット上で通信する際にも、通信先のIPアドレス(=住所)が指定されるのです。

    インターネットに接続している全ての機器にはIPアドレスが割り振られるのですが、その仕組みには、固定IPアドレス動的IPアドレスの2種類があります。

    ・ 固定IPアドレス
    固定IPアドレスは、常に同じIPアドレスを用いてネットワークに接続する仕組みのものです。
    たとえば、社内で共有ファイルサーバーを構築している場合、日によってIPアドレスが変わってしまったらアクセスすることができなくなってしまうので、ファイルサーバーに固定IPアドレスを割り振っておく、というように利用されます。

    ・ 動的IPアドレス
    動的IPアドレスは、インターネットに接続するたびに、IPアドレスがホストに割り振られる仕組みのものです。
    たとえば、自宅用Wi-Fiルーターからインターネットに接続するときには、契約しているプロバイダから、そのときに空いているIPアドレスがランダムに割り振られますし、不特定多数が利用するフリーWi-Fiでも、動的IPアドレスによってIPアドレスが割り振られます。
    したがって、動的IPアドレスの場合には、固定IPアドレスとは異なり、インターネットに接続するたびにIPアドレスが変化する、ということになります。
  2. (2)IPアドレスからわかる情報は?

    インターネット上の住所を示すIPアドレスですが、IPアドレスによって特定できる/特定できない情報は、次の表のとおりです。

    特定できる情報 特定できない情報
    • 通信の行われた国
      ※日本であれば都道府県まで特定可能
    • IPアドレスの保有者
    • 回線情報
    • 端末情報(PC、スマホ、タブレットなど)
    • OS
    • 氏名
    • 住所
    • その他の個人情報


    このように、IPアドレスだけでは氏名や住所などを特定することができないため、IPアドレスと他の情報を紐付けて、身元を特定するといった作業が必要になります。

    具体的には、加害者は、インターネットを利用するためにプロバイダと契約をしており、プロバイダは、加害者の氏名や住所などを把握していますので、プロバイダに対して、該当するIPアドレスを利用していた者の個人情報の開示を請求することになります。

2、身元を特定するには発信者情報開示請求が必要

  1. (1)発信者情報開示請求とは?

    発信者情報開示請求とは、サイト管理者などのコンテンツプロバイダに対してIPアドレスの開示を請求する手続きと、通信事業者などのアクセスプロバイダに対して契約者の氏名や住所などの開示を請求する手続きのことをいいます。

    これまでは、コンテンツプロバイダとアクセスプロバイダのそれぞれに対して、別々の手続きをとる必要があったのですが、2022年10月には、開示命令という手続きが創設され、これらを1つの手続きの中で行うことができるようになりました

    したがって、加害者の身元を特定するための方法としては、開示請求と開示命令の2種類の中から、事案に応じた適切な方を選択することができます。

    いずれの方法を採る場合であっても、上記の手続きを利用するに当たっては、違法な投稿が行われたことを示す証拠を残しておくことが重要です。
    違法な投稿が掲載されているページのURLとともにスクリーンショットを撮っておくなど、事後の手続きに備えた準備をしておかなければなりません。

  2. (2)発信者情報の保存期間は?

    違法な投稿に割り振られたIPアドレスのログ情報をサイト管理者が保存しているのは、投稿から約3~6か月であることが多いと思われます。
    IPアドレスのログ情報が消えてしまうと、加害者の身元を特定することは不可能になってしまいます。
    そのため、サイト管理者などに対してIPアドレスの開示を請求するときには、あわせて、保存しているIPアドレスのログ情報の消去禁止も求めることが一般的です。

3、発信者情報開示請求の方法

それでは、開示請求と開示命令について、具体的な方法を確認していきましょう。

  1. (1)開示請求

    開示請求をするためには、次の2つの手続きが必要です。

    ① コンテンツプロバイダに対する開示仮処分
    違法な投稿が行われたときの通信に用いられたIPアドレスの開示を求めます。
    また、同時に、IPアドレスのログ情報の消去禁止も求めることがあります。
    IPアドレスが判明すれば、加害者が契約しているプロバイダを特定することができます

    ② アクセスプロバイダに対する氏名・住所などの開示請求訴訟
    IPアドレスによって特定したアクセスプロバイダに対して、加害者である契約者の氏名や住所などの開示を求めます。
    この2つの手続きを経ることによって、加害者の身元の特定が可能となります
  2. (2)開示命令

    開示命令は、非訟事件という手続きによって行われます。

    コンテンツプロバイダに対する開示請求と消去禁止請求、アクセスプロバイダに対する開示請求の全てが、1つの手続きで審理されますので、開示請求よりも迅速な手続きであるといえます
    ただし、必ずしも口頭弁論(審尋)が開かれないこともあり、相手方が異議を申し出れば、通常の訴訟に移行するため、結果として二度手間となるリスクもあります。どちらの手続きを選択すべきかについては、慎重な検討が必要です

    このほかにも、裁判所を介する手続きを経ずに、アクセスプロバイダなどに対して直接開示を求める任意開示を求めることもできなくはないですが、プロバイダなどがこれに応じるケースは稀ですので、裁判所を介する手続きを利用することが一般的であるといえます。

4、身元の特定ができたら、損害賠償請求も可能

  1. (1)身元の特定ができれば損害賠償請求を

    加害者の身元が判明すれば、加害者を被告とする訴訟を提起して、名誉毀損・人格権侵害を理由とする損害賠償を請求します。

    損害賠償請求訴訟では、次の費用を請求することが可能です。

    • 違法な投稿によって受けた精神的苦痛に対する慰謝料
    • 社会的な評価が低下した場合にはそれによる損失
    • 加害者の身元を特定するための調査などにかかった費用
    • 発信者情報開示請求から損害賠償請求までの間にかかった弁護士費用
  2. (2)発信者情報開示請求から損害賠償請求までは弁護士への依頼を

    ネットトラブルを解決するためには、複数の手続きをとる必要がありますし、ネットに対する知識も必要となりますので、発信者情報開示請求の段階から弁護士に依頼なさることをおすすめします。

    弁護士に依頼することで、次のようなメリットが期待できます。

    ・裁判書類や証拠を適切に準備できる
    発信者情報開示請求や損害賠償請求では、裁判所を介する手続きに関する知識が必要となり、裁判所や相手方と書類をやり取りする必要のほか、自身の主張を裏付ける証拠を提出しなければなりません。
    また、どの裁判所で裁判を受けるべきかという管轄が決まっており、これを誤ると手続きをはじめからやり直す必要があったり、時間が余計にかかったりするのですが、ネットトラブルの場合には、管轄の判断にも困難が伴います
    この点、ネットトラブルに精通した弁護士であれば、適切かつ円滑な裁判の進行を期待することができ、トラブルの早期解決につながります。

    ・解決のための方法、加害者への請求内容などを判断できる
    ネットトラブルの解決方法はさまざまで、発信者情報開示請求で身元を特定して損害賠償請求を行うこともあれば、裁判にまでは至らず示談交渉で解決することも、さらには、身元の特定もせずに削除請求だけを行って様子を見るケースもあります。
    経験豊富な弁護士にご相談いただければ、個別の事案においてどのような解決方法や請求内容が適切であるかを提示し、最適な解決へと導くことが期待できます

    ・全ての手続きで代理人となれる
    ネットトラブルに巻き込まれて、それだけでも精神的な負担があるにもかかわらず、自分ひとりで示談交渉や裁判所を介する手続きまで行うとなれば、その負担は計り知れません。
    弁護士であれば、手続きだけでなく、それ以外の示談交渉などもすべて、依頼者の代理人として行うことが可能です

5、まとめ

ネットトラブルが起きたとき、加害者の身元を特定するために、まずはIPアドレスを調査します。

しかし、IPアドレスだけでは個人を特定することはできず、IPアドレスから判明するプロバイダ名などの他の情報と紐付けることで、身元を特定が可能となります。
加害者に損害賠償を請求するためには、通常、① コンテンツプロバイダに対する開示請求② アクセスプロバイダに対する開示請求③ 加害者に対する損害賠償請求という複数の手続きをとる必要があります。

IPアドレスに関するログ情報は3~6か月で消えてしまいますので、ネットトラブルに巻き込まれたときには、早めの弁護士への相談をおすすめします。ベリーベスト法律事務所の弁護士へご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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