企業法務コラム

2024年06月11日
  • 中小小売商業振興法

中小小売商業振興法を弁護士が解説|フランチャイズ事業者の注意点とは

中小小売商業振興法を弁護士が解説|フランチャイズ事業者の注意点とは

フランチャイズシステムは、非常に複雑な仕組みになっていますので、フランチャイズ本部と加盟店との間でトラブルが生じることも少なくありません。

日本にはフランチャイズを直接定義づけた法律は存在しませんが、「中小小売商業振興法」では、フランチャイズ的事業を「特定連鎖化事業」として、さまざまな規制を行っています。そのため、フランチャイズ事業者としては、中小小売商業振興法の概要などを理解しておくことが大切です。

今回は、中小小売商業振興法のルールやフランチャイズ事業者の注意点などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、中小小売商業振興法とは

中小小売商業振興法とはどのような法律なのでしょうか。以下では、中小小売商業振興法の概要について説明します。

  1. (1)中小小売商業振興法の概要

    中小小売商業振興法とは、中小小売商業の振興と国民経済の健全の発展を目的として、昭和48年に制定・施行された法律です。中小小売商業振興法は、商店街の整備、店舗の集団化、共同店舗の整備などを実施することで、商店街の近代化を目的に制定された法律ですので、直接的には、フランチャイズを規制する法律ではありません。

    しかし、フランチャイズ事業は、中小小売商業振興法における「特定連鎖化事業」に該当しますので、フランチャイズ本部については中小小売商業振興法の規制を受けることになるのです。

  2. (2)中小小売商業振興法でフランチャイズはどのように扱われている?

    では、中小小売商業振興法における「特定連鎖化事業」とはどのようなものなのでしょうか。

    中小小売商業振興法では、以下の2つ条件を満たす事業を「連鎖化事業」として定義しています。

    • 主として中小小売商業者に対して、定型的な約款による契約に基づき、継続的に商品の販売または販売のあっせんをする事業であること
    • 経営に関する指導を行う事業であること

    そして、連鎖化事業にあたるもののうち、以下の2つの条件を満たすものを「特定連鎖化事業」として定義しています。

    • 約款で加盟店に特定の商標や商号その他の表示を使用させる旨の定めがあること
    • 約款で加盟店から加盟金、保証金などの金銭を徴収する旨の定めがあること

    法律の定義からは何が「特定連鎖化事業」にあたるかがわかりづらいですが、飲食店や小売店のフランチャイズ事業で、本部が加盟店に商品を卸したり、仕入れ先を指定したりする場合には、特定連鎖化事業に該当するといえます。

    他方、美容院などのサービス業のフランチャイズでは、そもそも「連鎖化事業」に該当しないため、中小小売商業振興法の適用対象外となります。

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2、中小小売商業振興法に基づく本部事業者の義務と違反時のペナルティー

中小小売商業振興法では、フランチャイズ本部事業者に対して、以下のような義務を定め、その違反に対しては一定のペナルティーを課しています

  1. (1)フランチャイズ本部事業者の義務とは?

    中小小売商業振興法が適用されるフランチャイズ事業の場合、フランチャイズ本部事業者は、加盟店に対して、フランチャイズ契約締結時に法定開示書面を交付して、その内容について説明することが義務付けられています(中小小売商業振興法11条)。
    中小小売商業振興法で書面開示および説明が義務付けられている事項としては、以下のものが挙げられます。

    • ① 本部事業者の名称および住所、従業員の数、役員の役職名および氏名
    • ② 本部事業者の資本の額または出資の総額および主要株主の氏名または名称、他に事業を行っているときはその種類
    • ③ 子会社の名称および事業の種類
    • ④ 本部事業者の直近3事業年度の貸借対照表および損益計算書
    • ⑤ 特定連鎖化事業の開始時期
    • ⑥ 直近の3事業年度における加盟者の店舗数の推移
    • ⑦ 直近の5事業年度において、フランチャイズ契約に関する訴訟件数
    • ⑧ 営業時間、営業日および休業日
    • ⑨ 本部事業者が加盟者の店舗の周辺の地域に同一または類似の店舗を営業または他人に営業させる旨の規定の有無およびその内容
    • ⑩ 契約期間中、契約終了後、他の特定連鎖化事業への加盟禁止、類似事業への就業制限その他加盟者が禁止または制限される規定の有無およびその内容
    • ⑪ 契約期間中、契約終了後、当該特定連鎖化事業について知り得た情報の開示を禁止または制限する規定の有無およびその内容
    • ⑫ 加盟者から定期的に徴収する金銭に関する事項
    • ⑬ 加盟者から定期的に売上金の全部または一部を送金させる場合はその時期および方法
    • ⑭ 加盟者に対する金銭の貸し付けまたは貸し付けのあっせんを行う場合はそれに係る利率または算定方法およびその他の条件
    • ⑮ 加盟者との一定期間の取引より生じる債権債務の相殺で発生する残額の全部または一部に対して利率を付する場合は、利息に係る利率または算定方法その他条件
    • ⑯ 加盟者に対する特別義務
    • ⑰ 契約に違反した場合に生じる金銭の支払いその他義務の内容
    • ⑱ 加盟に際し徴収する金銭に関する事項
    • ⑲ 加盟者に対する商品の販売条件に関する事項
    • ⑳ 経営指導に関する事項
    • ㉑ 使用される商標、商号その他の表示
    • ㉒ 契約の期間ならびに契約の更新および解除に関する事項
  2. (2)義務に違反した場合のペナルティー

    中小小売商業振興法で義務付けられている書面開示および説明を怠ったフランチャイズ本部事業者に対しては、主務大臣による勧告が行われます。また、フランチャイズ本部事業者が勧告に従わなかった場合には、その事実が公表されるといったペナルティーが課されます。

    フランチャイズに加盟しようとする事業者としては、当然、フランチャイズシステムに参加して利益を上げることが目的ですので、法定開示書面はそのような判断をするにあたって重要な書面になります。中小小売商業振興法は、フランチャイズ本部事業者に対して、書面開示を義務付け、不開示に対してはペナルティーを課していますので、フランチャイズへの加盟者や加盟希望者を保護する法律であるといえるでしょう。

3、中小小売商業振興法に関するフランチャイズ事業者の注意点

中小小売商業振興法に関するフランチャイズ事業者は、以下の点に注意が必要です。

  1. (1)フランチャイズ加盟店の立場での注意点

    フランチャイズ加盟店としては、契約書や法定開示書面の内容をしっかりと確認することが大切です。

    たとえば、フランチャイズ契約においては、加盟に際して加盟金や保証金が徴収されることがありますので、どのような性質の金銭であるのか、返還はされるのかなどをよく確認するようにしましょう。また、法定開示書面には経営指導に関する事項も記載されていますので、フランチャイズに加盟後、思ったような経営指導が受けられなかったということがないようにするためにも、内容の確認が必要です。

    このように、法定開示書面には、フランチャイズ加盟事業者を保護する観点からさまざまな事項が記載されていますので、それらをしっかりと確認し、理解しておくようにしましょう。

  2. (2)フランチャイズ本部事業者の立場での注意点

    フランチャイズ本部事業者の立場での注意点は、以下の点になります。

    ① 事業内容を踏まえた法定開示書面を作成する
    中小小売商業振興法により開示が義務付けられている法定開示書面については、(一般社団法人)日本フランチャイズチェーン協会のウェブサイト上に掲載されていますので、それを参考に作成することもできます。

    その際には、他社の法定開示書面をほぼそのまま利用するのではなく、自社の事業内容に即して作成することが大切です。内容に不備があった場合には、将来的に加盟店との間でトラブルになるおそれがありますので注意が必要です。

    ② 加盟店に内容を説明し、確認の署名押印をもらう
    法定開示書面の交付および説明にあたっては、後日、加盟店から「そんな説明は受けていない」などと言われるトラブルが生じることもあります。
    加盟店に対して、法定開示書面を交付する際には、少なくとも契約締結の1週間前には開示し、内容を検討するだけの十分な時間を与える必要があります。また、契約締結時には、フランチャイズ契約書への署名押印だけでなく、法定開示書面の交付および説明を受けたことを明らかにするために、こちらについても加盟店から署名押印を受けておくと安心です。

4、フランチャイズ事業に関するご相談は弁護士へ

フランチャイズ事業に関するお悩みは、弁護士に相談することをおすすめします。

  1. (1)フランチャイズ契約書や法定開示書面の作成・チェック

    フランチャイズ契約の締結にあたっては、契約書の作成はもちろんのこと中小小売商業振興法により法定開示書面の作成・交付も必要になります。フランチャイズ事業者としては、フランチャイズ本部事業者から著しく不利な契約を押し付けられていないかどうかをチェックする必要があります。事前に弁護士に確認し、必要に応じて本部に修正を求めることで、そのようなリスクを回避することができます。
    フランチャイズ本部事業者にとっては、加盟店との間のトラブルを防止するための重要な書類になりますので、弁護士に相談して内容をチェックしてもらうことが大切です。時代の変化とともに契約内容は変わっていきますので、定期的に弁護士にチェックしてもらうためにも、顧問弁護士の利用がおすすめです

  2. (2)事業運営に関する法的な悩みを相談できる

    フランチャイズ事業者として、事業を継続しているとさまざまな悩みやトラブルに直面することがあります。そのような悩みやトラブルが生じたときには、すぐに適切な対処をしなければ、問題が大きくなり、深刻化するおそれがあります。

    顧問弁護士がいれば、いつでも気軽に相談することができますので、法的トラブルを事前に回避することができます。安定的な経営を希望する経営者の方は、顧問弁護士を利用するとよいでしょう。

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5、まとめ

フランチャイズを直接規制する法律は存在しませんが、中小小売商業振興法は、特定連鎖化事業に当たる場合、フランチャイズ本部事業者に、法定書面の交付および説明を義務付けることで、フランチャイズ事業者を保護しています。

中小小売商業振興法は、フランチャイズ本部はもちろんですが、加盟店側も把握しておかなければならないものですので、契約書の作成やチェックなどを希望される経営者の方は、ベリーベスト法律事務所までご相談ください

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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