採用した社員に学歴、職歴、免許・資格といった経歴詐称があった場合、不誠実な人を会社に置いておくことはできないとして解雇したいと思うことが多いでしょう。経歴詐称は、一般的に懲戒事由に該当しますので、経歴詐称の内容や程度によっては懲戒解雇が認められる可能性もあります。
しかし、懲戒解雇は厳格な要件が定められていますので、安易に解雇してしまうと、労働者から不当解雇を主張されるリスクがあります。そのため、経歴詐称で懲戒解雇するときは、解雇の要件や手続きに誤りがないように慎重に進めていくことが大切です。
今回は、経歴詐称を理由とする解雇の可否や解雇手続き、注意点などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
経歴詐称は、懲戒事由に該当するのが一般的ですので、経歴詐称の内容や程度によっては、懲戒解雇が認められる可能性があります。
もっとも、経歴詐称には、軽微なものから重大なものまでありますので、常に懲戒解雇が有効になるというわけではありません。
軽微な経歴詐称を理由に解雇をしてしまうと、不当解雇として解雇が無効と判断されるリスクもあります。
そのため、経歴詐称があった場合には、解雇するかどうかは慎重に判断しなければなりません。
問題社員のトラブルから、
経歴詐称には、学歴、職歴、雇用形態、在籍期間、転職回数、免許・資格、年収、職位、病歴など、さまざまなパターンがあります。
過去の事例を参考にすると、以下のケースは、懲戒解雇できると判断される可能性が高いでしょう。
学歴詐称には、以下のようなパターンがあります。
学歴は、本人の能力を測る上で重要な経歴のひとつとなりますので、学歴詐称があった場合には、重大な経歴詐称として解雇が有効になる可能性が高いです。
ただし、募集職種が「学歴不問」の場合は、解雇が無効と判断される場合もありますので注意が必要です。
職歴詐称には、以下のようなパターンがあります。
中途採用ではその人がどのような経験や能力を有しているかどうかが重要になりますので、職歴詐称は、重大な経歴詐称にあたります。
ただし、「未経験歓迎」や「経験不問」の職種の場合は、職歴詐称があっても解雇が無効と判断される場合があります。
犯罪歴は、履歴書の賞罰欄に記載する必要がある経歴です。
賞罰欄に犯罪歴を記載せず、面接で犯罪歴を問われたもののそれを申告しなかった場合には、犯罪歴の詐称にあたります。
犯罪歴詐称については、詐称した犯罪の軽重にもよりますが、重大な罪を犯したにもかかわらず、それを申告しなかった場合には、重大な経歴詐称にあたり解雇が認められる可能性があります。
ただし、以下のようなケースもあります。
このように犯罪歴の詐称があったとしても、刑が確定していなかったり、消滅した前科の場合は、申告義務がないため、懲戒解雇が無効と判断される場合もあります。
重大な経歴詐称があったとしても、従業員を懲戒解雇するためには、就業規則に経歴詐称が懲戒事由として規定されている必要があります。
また、懲戒処分にはいくつか種類がありますが、「懲戒解雇」が懲戒処分の種類として規定されていることも必要になります。
そのため、経歴詐称を理由に懲戒解雇をするのであれば、まずは就業規則の懲戒事由として経歴詐称が、懲戒の種類として懲戒解雇が入っているかを確認することが重要です。
といった場合は、早めに弁護士に相談して、就業規則の見直しを進めていくようにしましょう。
経歴詐称を理由に懲戒解雇をするには、以下のような手続きを行う必要があります。
従業員に経歴詐称の疑いが生じたときは、「本当に経歴詐称をしているかどうか」を調査します。
十分な根拠に基づかず単なるうわさや臆測で懲戒処分をすることはできませんので、客観的な証拠に基づいて判断しなければなりません。
学歴詐称であれば卒業証明書の提出を求め、職歴詐称であれば雇用保険被保険証の提出を求めることで明らかにできる可能性があります。
いずれにしても十分な証拠を確保しておくことが大切です。
懲戒処分にあたっては適正な手続きが要求されますので、労働者に対して、弁明の機会を付与しなければなりません。
弁明の機会を与えずに懲戒解雇をしてしまうと、重大な経歴詐称があったとしても適正手続き違反として解雇が無効になってしまいますので注意が必要です。
就業規則を確認して、従業員による企業秩序違反行為が懲戒事由に該当するかどうかを検討します。
懲戒事由として経歴詐称が規定されていれば、それに基づいて懲戒解雇の手続きを進めることが可能です。
懲戒処分には、戒告、譴責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇などの種類がありますので、経歴詐称に対してどのような処分を選択するかを検討します。
懲戒解雇は、懲戒処分の中でもっとも重い処分になりますので、経歴詐称の内容や程度を踏まえて懲戒解雇が相当な処分であるといえなければ無効になる可能性もあります。
そのため、軽微な経歴詐称であれば懲戒解雇以外の処分を検討した方がよいでしょう。
懲戒解雇をすることに決まったときは、懲戒解雇通知書を作成し、それを従業員に通知します。
使用者が労働者を解雇する際には、「原則として解雇日の30日以上前」にその旨を予告しなければなりません。
解雇予告期間が30日に満たない場合には、不足する日数分の解雇予告手当の支払いが必要になります。
懲戒解雇通知書に記載された解雇日に、解雇となります。
採用前に従業員の経歴詐称を見抜くにはどうしたらよいのでしょうか。
以下では、経歴詐称を事前に見抜く方法を紹介します。
従業員を採用する際には、履歴書などの書類選考と面接が行われます。
履歴書の気になる点があるときは、面接時にヒアリングして確認をする、追加で資料の提出を求めるなどの方法をとることで経歴詐称の有無を明らかにすることができます。
労働者には不利な経歴を積極的に告知する義務はありませんので、企業側でしっかりと確認することが大切です。
ただし、犯罪歴については、業務上必要になる場合を除いて、過度に情報を収集してはいけません。
職歴や資格などを重視して採用する場合には、専門的な知識や経験を有する人を面接に同席させることが重要です。
当該職種に特有の知識や慣習について質問して、候補者がきちんと答えられるかどうかを見極めることで経歴詐称の有無を明らかにすることができます。
人事担当者だけでは対応が難しいときは、社内の詳しい人を面接に同席させるようにしましょう。
犯罪歴については、インターネットで本人の名前を検索することで判明することがあります。
ただし、同姓同名の別人という可能性もありますので、面接時に本人に確認することも必要です。
また、候補者がSNSを利用している場合には、自分の経歴や資格などをSNSで開示している可能性もあります。履歴書の情報とSNSの情報に齟齬がないかを比較することで経歴詐称の有無が明らかになるケースもあります。
書類選考や面接だけでは経歴詐称の有無が見抜けない可能性もありますので、実際の働きぶりを見て経歴詐称の有無を判断する必要があります。
いきなり正式採用となると経歴詐称が発覚したときに解雇のハードルが高くなりますので、試用期間を設けて、その期間の働きぶりから経歴詐称がないかを含めた、ミスマッチの有無をチェックするとよいでしょう。
人事・労務管理に関するお悩みは、専門家である弁護士にご相談ください。
経歴詐称があったとしても、経歴詐称の内容や程度によっては、懲戒解雇まで認められない可能性があります。
どのようなケースで解雇が可能であるかは、ケースバイケースですので具体的な状況に応じて判断しなければなりません。
正確な判断をするためには法的な知識や経験が不可欠となりますので、まずは弁護士に相談するのがおすすめです。
弁護士であれば、過去の判例などを踏まえて経歴詐称を理由とする解雇の可否を正確に判断することができますので、不当解雇になるリスクを回避することができます。
重大な経歴詐称があったとしても懲戒解雇の手続きに瑕疵があると解雇が無効になるリスクがあります。
慎重に解雇手続きを進めるためにも弁護士のアドバイスやサポートを受けながら進めていくのが安心です。また、そもそも懲戒という手続が適切なのかの検討も、専門家と共に行うべきです。
顧問弁護士がいれば懲戒解雇の手続きの各段階で気軽に相談できますので、まだ顧問弁護士を利用していないという企業は、顧問弁護士の利用を積極的に検討していくとよいでしょう。
問題社員のトラブルから、
経歴詐称のうち重大な経歴詐称があった場合には、懲戒解雇が認められる可能性があります。経歴詐称にはさまざまなパターンがありますので、重大な経歴詐称にあたるかどうかを適切に判断するためにもまずは弁護士に相談するようにしましょう。
従業員の経歴詐称による解雇を検討中の企業は、ベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。
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