「諭旨解雇」と「諭旨退職」は、懲戒解雇に次いで重い懲戒処分です。
どちらも重大な就業規則違反を犯した従業員(労働者)に対して行われますが、「諭旨解雇」は解雇を前提とした会社処分である一方、「論旨退職」は従業員に退職を促し自発的に退職とする形式です。
諭旨解雇は、懲戒解雇に近い重い処分であるため、就業規則の規定を確認した上で慎重に検討しましょう。論旨解雇の適切な進め方について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
「諭旨解雇(ゆしかいこ)」とは、従業員に対して退職を勧告する懲戒処分です。
まずはどのような処分であるか解説します。
諭旨解雇は多くの会社において、懲戒解雇に次いで2番目に重い懲戒処分と位置付けられています。
諭旨解雇は強制に退職させる処分ではありませんが、拒否すると懲戒解雇がなされるケースが多く、従業員は退職を回避することが事実上難しいです。
諭旨解雇が従業員に及ぼす不利益はきわめて大きいため、会社においては懲戒解雇に準じた慎重な検討が求められます。
諭旨解雇に相当する従業員の行為は、就業規則違反の中でも悪質性が高いものです。
具体的には、以下のような行為が諭旨解雇に相当すると考えられます。
どちらの解雇も、行う際には懲戒処分と解雇を有効にする要件を満たす必要があります。
退職勧奨は懲戒処分ではないので、特に制限なく行うことができます。
ただし、事実上退職を強制するような退職勧奨は違法性が高く、合意が無効となったり損害賠償が認められる可能性があります。
問題社員のトラブルから、
会社が従業員に対して懲戒処分を行うためには、就業規則において懲戒処分に関する事項を定めた上で、規定された要件に従う必要があります。
就業規則を作成していない場合や、就業規則で懲戒処分について定めていない場合には、懲戒処分を行うことはできません。
これらの場合には、早急に就業規則の作成や見直しを行いましょう。
会社が諭旨解雇処分を行うためには、以下の3つの要件を満たす必要があります。
1つ目の要件は、従業員の行為が就業規則で定めた懲戒事由に該当することです。
懲戒事由の定め方としては、以下の2パターンがあります。
特に、抽象的な要件に該当するかどうかについては、規定の趣旨に照らして慎重に検討しなければなりません。
2つ目の要件は、就業規則において、懲戒処分の種類として諭旨解雇が定められていることです。
会社によっては、諭旨解雇を懲戒処分の種類に挙げていないケースもあります。
たとえば「懲戒解雇」「減給」「戒告」の3つしか就業規則に定めていない会社では、諭旨解雇処分を行うことはできません。
3つ目の要件は、諭旨解雇が懲戒権や解雇権の濫用に当たらないことです。
従業員の行為の性質や態様などに照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない諭旨解雇処分は、懲戒権または解雇権の濫用として無効となります(労働契約法第15条、第16条)。
諭旨解雇を含む懲戒処分を行う際には、従業員の行為の内容や会社に生じた損害などに、その懲戒処分が見合っているかどうかを慎重に検討しなければなりません。
会社が従業員に対して諭旨解雇処分を行う際には、以下の流れで手続きを行いましょう。
まずは、従業員の行為についての事実関係を調査します。
社内にある資料の確認や関係者への聞き取りなどを通じて、事実関係を正確に把握しましょう。
調査の結果として判明した事実については、証拠を確保しておくことも大切です。
動かぬ証拠を確保しておけば、従業員が諭旨解雇の無効を主張してきた際に、会社として適切に反論することができます。
諭旨解雇を決定する前に、対象となる従業員に弁明の機会を与えましょう。
弁明の機会を与えることは、手続保障の観点から非常に重要です。
弁明の中で新しい情報が出てくれば、会社は追加で調査を行った上で、より適切に懲戒処分について判断できるようになります。
従業員の弁明が不合理な場合には、そのことによって懲戒処分の正当性が補強されます。
従業員の弁明を聞く際には、会社側から圧力をかけることがないように、自由な発言ができる環境を整えましょう。
事実関係の調査と従業員の弁明の聴取が完了し、判断材料が出そろったら、就業規則上の規定を踏まえて、懲戒処分の可否および種類を検討しましょう。
諭旨解雇処分を行う際には、従業員の行為が相当程度悪質であることが求められます。
諭旨解雇がふさわしいかどうか判断が難しい場合には、弁護士にご相談ください。
慎重に検討を行った後、取締役会などの意思決定機関において諭旨解雇処分を決定し、従業員に通知しましょう。
諭旨解雇については、通常の解雇と同様に、原則として30日以上前にその旨を予告しなければなりません。
解雇予告をしない場合や、予告後30日未満で従業員を退職させる場合には、解雇予告手当の支払いが必要となります(労働基準法第20条)。
諭旨解雇処分を受けた従業員が退職に応じた場合には、退職日について話し合った上で、合意した日時に退職する旨の退職届を提出させましょう。
退職届が提出された後は、社会保険に関する手続きや源泉徴収票の交付など、退職に伴って必要となる手続きを行います。
退職金の扱い
なお、諭旨解雇となった従業員に対して退職金を支給するか、減額または不支給とするかは、退職金規定などの定めに従い慎重に検討しましょう。
諭旨解雇はかなり重い懲戒処分なので、後に無効と判断されるケースもよく見られます。
犯罪などのきわめて悪質な行為をした場合を除き、改善指導を行って様子を見ることも有力な選択肢です。
また、従業員の行為の内容に応じて、「戒告」「譴責」「減給」「出勤停止」「降格」など、諭旨解雇よりも軽い懲戒処分から段階的に行うことも検討すべきでしょう。
これらのリスクを避けるため、諭旨解雇処分を行う際には、従業員の行為が諭旨解雇にふさわしいかどうかを慎重に検討しましょう。
従業員が諭旨解雇による退職を拒否した場合には、懲戒解雇処分とするのが一般的です。
改めて取締役会などで懲戒解雇を決定し、解雇日の30日以上前に従業員に対して通知しましょう。
懲戒解雇処分を行わない場合は、自主的な退職に応じてもらえるように、退職金の上乗せなどを提案することも考えられますが、懲戒解雇に踏み切れない状況ならそもそも諭旨解雇も行わらず、最初から退職勧奨の交渉を主軸としていく方がおすすめです。
従業員を安易に解雇してしまうと、後に解雇の無効を主張されて、深刻なトラブルに発展することになりかねません。
解雇を検討する際には、労務・企業法務の実績がある弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士は、解雇ができるかどうか、具体的な事情に照らしてアドバイスします。
解雇処分は従業員と紛争が発生することも珍しくありません。
弁護士は和解交渉や裁判手続きの対応を全面的に代行し、クライアント企業の損害を最小限に抑えられるように尽力いたします。
また、解雇以外の人事・労務管理全般(残業時間の管理、残業代の支払い、就業規則の見直しなど)について、顧問弁護士として日常的にサポートすることも可能です。
ベリーベスト法律事務所は、ご相談内容や会社規模、ご予算など、ニーズに合わせた顧問弁護士サービスを各種ご用意しております。
従業員の解雇など、労務管理に関する問題についてお悩みの企業は、お早めに当事務所の弁護士へご相談ください。
問題社員のトラブルから、
諭旨解雇は、従業員に対して退職を勧告する懲戒処分です。
諭旨解雇はきわめて重い懲戒処分であり、後に無効と判断されるケースも多いので、事前に弁護士へ相談することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所は、人事・労務管理に関する企業のご相談を随時受け付けております。従業員に対する諭旨解雇処分をご検討中の企業は、ベリーベスト法律事務所へご相談ください。
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