令和7年(2025年)4月に施行された「改正プロバイダ責任制限法(通称:情報流通プラットフォーム対処法)」では、ネット上の誹謗中傷対策が大幅に強化されます。特に、総務大臣から指定を受けた「大規模プラットフォーム事業者(法2条、法21条に定める「大規模特定電気通信役務提供者」)」に対しては、削除申出への迅速な対応(7日以内)や、改善命令違反に対する最大1億円の罰金という厳しい制裁が課される可能性があります。
改正法により、Google、YouTube、LINEヤフー、Meta、X等一部の大規模プラットフォーム事業者に課された「7日以内の対応」「削除基準の公表」といった基準は、今後のネット業界における新たなスタンダード(業界標準)として定着していくことが確実視されています。直接の法的罰則を受けない一般的なプラットフォーム事業者であっても、この基準を軽視し対応を遅延させることは、企業のレピュテーションリスクを増大させ、民事上の損害賠償責任を問われる際の判断材料にもなり得る点に留意が必要です。
プラットフォーム事業者は、発信者情報開示請求をされたときに備えて、改正プロバイダ責任制限法のポイントを押さえておくことが大切です。今回は、令和4年改正と令和7年年改正のポイントを整理しつつ、削除・発信者情報開示請求がなされたときの適切な対処法をベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
口コミやレビュー機能を備えるプラットフォーム事業者が理解しておくべき重要な法律が「プロバイダ責任制限法」です。以下では、プロバイダ責任制限法の目的・概要・責任の範囲について説明します。
プロバイダ責任制限法(正式名称:特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)は、インターネット上で情報を掲載・流通させるサービス事業者の責任範囲を定める法律です。
同法では、SNSや口コミサイト、掲示板、レビュー機能を備えたプラットフォームなど、ユーザーが自由に情報を書き込めるサービスが対象になります。
インターネット上では名誉毀損やプライバシー侵害が容易に起こり得ますが、その一方で、事業者が投稿内容を逐一監視し、すべてを把握することは現実的に不可能です。このような状況の中で、被害者の権利救済と事業者の負担軽減のバランスを取るために制定されたのがプロバイダ責任制限法です。
プロバイダ責任制限法の中心となる仕組みが「発信者情報開示請求」と「発信者情報開示命令(令和4年改正で導入)」です。
① 発信者情報開示請求とは
被害者が、投稿者を特定するために、サイト運営者や接続プロバイダに対し、IPアドレスやログイン情報などの開示を求めたうえで発信者情報(投稿者の氏名住所等)を求める制度です。
従来型の発信者情報開示請求は、
をそれぞれ別手続きで行う必要があり、時間や手間がかかる点が大きな課題でした。
特に、ログの保存期間は短いため、手続きが遅れると投稿者特定が不可能になるケースも多く、被害者側の不利益が顕著でした。
② 発信者情報開示命令とは(令和4年改正)
発信者情報開示命令とは、令和4年のプロバイダ責任制限法改正により新設された制度で、従来の発信者情報開示請求よりも迅速かつ効率的に開示を受けられるという特徴があります。
具体的には、これまで仮処分と訴訟という2段階の手続きが必要だったものを、一体的な手続きで審理することができるようになった点が挙げられます。
これにより
といった大幅な改善が実現しました。
プラットフォーム事業者は、投稿の削除対応に関して、被害者や発信者から損害賠償請求をされる可能性があります。しかし、事業者の責任は無制限ではなく、プロバイダ責任制限法において、以下のような一定の要件を満たせば責任を免れる仕組みが設けられています。
① 被害者に対する責任
事業者がプラットフォーム上の投稿を削除しなかったとしても、以下のいずれかに該当する場合でなければ免責されます。
② 発信者に対する責任
事業者がプラットフォーム上の投稿を削除したとしても、以下のいずれかの要件を満たせば、免責されます。
インターネット上の誹謗中傷や違法情報への対策を強化するため、プロバイダ責任制限法は令和4年と令和7年に大きく改正されました。特に令和7年改正では、大規模プラットフォーム事業者の義務が拡大し、削除基準の公表や迅速な対応が求められるようになっています。以下では、両改正のポイントをわかりやすく説明します。
令和4年のプロバイダ責任制限法改正では、発信者を特定しやすくするための制度の再設計が行われました。特に大きなポイントは、以下の2点です。
① 発信者情報開示命令制度の新設|裁判所による一体的審理
従来は、サイト運営者と接続プロバイダに対して、それぞれ別手続きで開示請求を行う必要がありました。結果として、「手続きが2段階で複雑」「ログ保存期間(3~6か月間のケースが多い)に間に合わない」という問題が発生していました。
令和4年改正により、裁判所が一体的に判断する発信者情報開示命令制度が導入され、手続きが大幅に簡略化されました。これにより、被害者が投稿者を特定できる可能性が格段に高まり、誹謗中傷対策が実務レベルで強化されたのです。
② 開示範囲の拡大|ログイン情報なども対象化
改正前の開示対象は、投稿時のIPアドレスが中心でしたが、改正後は、以下の情報も開示対象になっています。
令和7年の改正は、大規模プラットフォーム事業者に対する義務強化と刑事罰の導入が柱となっています。
① 法律名の変更
「情報流通プラットフォーム対処法(正式名称:特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律)」と名称が変わり、単に責任を制限する法律から、違法情報をより確実に取り扱うための法律へと性質が変わりました。
② 大規模特定電気通信役務提供者(大規模プラットフォーム事業者)の定義
総務省令で、以下のような事業者が「大規模特定電気通信役務提供者」と定義されています。総務省令で定める基準に基づき、個別に指定されます。
この「大規模特定通信役務提供者」に該当する事業者には、後述の厳しい義務が課されます。
③ 大規模事業者の義務(令和7年改正の中心)
この義務違反には、後述のとおり刑事罰が科される可能性があります。
プロバイダ責任制限法改正を踏まえて、大規模プラットフォーム事業者が特に注意すべきポイントは、以下の3つです。
令和7年改正では、義務違反に対する罰則が大幅に強化されました。大規模プラットフォーム事業者には最大1億円の罰金、担当者個人にも刑事罰が科される可能性があり、事業者は従来以上に厳格な対応が求められます。
令和7年改正でもっとも大きな変更点のひとつが、大規模プラットフォーム事業者に対する罰金の導入(上限1億円)です。これは、削除基準の公表義務、7日以内の調査・通知対応、対応記録の保存、年次報告書の提出といった義務に違反した場合に科されます。
これにより、事業者は、従来以上にコンプライアンスを重視し、削除基準や審査体制を整備しなければなりません。
大規模プラットフォーム事業者の場合は、ガイドライン策定・社内審査部門の設置・記録管理システムの導入など、体制整備への投資が避けられないといえます。
法人だけでなく、担当する個人(責任者)も処罰対象となる点も、令和7年改正の大きな特徴です。
担当者個人が義務違反をした場合、以下の刑罰が科される可能性があります。
そのため、今後の運用においては、個々の担当者が責任を負わないよう、企業として明確な内部プロセスを整え、弁護士との連携のもとで判断フローを統一することが重要です。
削除請求や発信者情報開示請求への対応は、誤ると重大な法的リスクにつながります。
令和7年改正後は、要請から7日以内の調査・通知等の対応が求められるため、事業者は迅速かつ正確な判断が不可欠です。
以下では、削除・発信者情報開示請求が届いた際に事業者が対応すべき手順を説明します。
まずは、請求の内容を正確に把握して記録化することが重要です。通知書、メール、問い合わせフォームなど請求がどのルートで届いたとしても、以下の情報を保存しておくようにしましょう。
令和7年改正により、大規模プラットフォーム事業者は記録保存が義務化されますが、一般的なプラットフォーム事業者も後日の紛争防止のために証拠管理システムを整えておくことが望ましいです。
削除請求や開示請求は、法的な要件判断が必要な専門領域です。特に、名誉毀損・プライバシー侵害・肖像権侵害などは、投稿の文脈や社会的評価を慎重に分析しなければ誤った判断に至ります。
そのため、請求が届いた段階で弁護士にすぐ相談することが重要です。
これらを事業者だけで判断すると、誤対応による損害賠償リスクが高まるため、弁護士の早期関与をおすすめします。
次に、「本当に削除や開示に応じるべき投稿なのか」を判断します。ここでは、名誉毀損・プライバシー侵害・著作権侵害といった権利侵害の要件を満たすかどうかがポイントです。
たとえば、名誉毀損では、以下の4点を中心に判断します。
いずれも投稿の文脈によって結論が変わりやすいため、社内だけで判断しないことが重要です。弁護士のチェックを組み合わせることで、誤った削除・非削除による責任発生を防げます。
大規模プラットフォーム事業者は、調査結果に基づいて、申出から7日以内に「削除の可否およびその理由」等を通知する必要があります。
このプロセスを期限内にこなすには、社内の判断フローが明確であることが不可欠です。担当者個人で抱え込むと、期限切れによる義務違反のリスクが高まります。
削除請求や開示請求は、一つひとつの対応が事業者の法的責任に直結します。わずかな遅れや判断ミスが重大な問題へ発展することも珍しくありません。
特に、令和7年改正後は、大規模プラットフォーム事業者に対して最大1億円の罰金が科される可能性があり、担当者個人にまで刑事罰が及ぶこともあります。そのため、請求を受けたら「迅速・正確・記録を残す」ことが絶対条件になります。
このような対応を社内だけで完結させるのは現実的ではなく、弁護士にサポートを求めることが解決への近道です。
弁護士と連携すれば、投稿の違法性や削除の可否について適切なアドバイスを受けられるほか、投稿者や請求者への通知内容の作成、社内ルールの整備、イレギュラー案件の処理など、実務全体を安心して進められます。また、法的責任の発生や紛争の拡大を未然に防ぐ観点から、請求が届いた後のみならず、平時の段階から弁護士に相談し体制を整えておくことは、法的リスクの低減だけでなく、企業の社会的信用やブランド価値の毀損といったレピュテーションリスクの予防にもつながる有益な対応といえるでしょう。
さらに重要なのは、こうした体制整備が「大規模プラットフォーム事業者だけの話ではない」という点です。改正法により明文化された迅速対応や削除基準の透明化といった考え方は、今後のインターネット業界における事実上の業界標準として扱われていく可能性が高く、一般的なプラットフォーム事業者であっても無関係ではいられません。
たとえ直接の罰則対象でなくとも、対応が遅れた、判断基準が不明確だった、記録が残っていないといった事情は、紛争化した際に「適切な運営体制を構築していなかった」と評価される要因になり得ます。
実際の民事訴訟では、業界における標準的な対応水準が注意義務の内容を判断する資料とされることもあり、削除対応の遅延や判断プロセスの不備が、過失の有無を検討するうえで不利に働く可能性も否定できません。
また、削除判断は常に二方向のリスクを伴います。削除すべき投稿を放置すれば被害者側からの責任追及につながり、反対に削除すべきでない投稿を削除すれば発信者側からの損害賠償請求やクレームの対象となります。
この板挟みの構造は、事業規模に関係なく、投稿機能を持つ全てのプラットフォーム事業者に共通する問題です。
だからこそ、個別案件への助言だけでなく、平時からの予防的な法務体制の構築に弁護士が関与することが大きな意味を持ちます。削除基準や対応フローをあらかじめ法的観点から点検しておくことで、担当者ごとの判断のばらつきを防ぎ、いざ問題が発生した際にも一貫性のある対応が可能になります。これは単なる「法令遵守」にとどまらず、外部から見た企業姿勢の信頼性を高めることにも直結します。
結果として、弁護士との継続的な連携は、トラブル発生後の“対処”のためだけではなく、紛争を起こさないための“予防”として機能します。全てのプラットフォーム事業者にとっては、法的リスクの最小化とレピュテーションの維持を両立させるための、実務上きわめて現実的かつ効果的なリスクマネジメント手段であるといえるでしょう。
削除請求や発信者情報開示請求が届いたら、まず通知内容を正確に記録し、投稿の違法性を速やかに確認する必要があります。自社だけで判断するのは危険なため、早い段階で弁護士に相談し、正しい削除基準や対応フローを整えることが重要です。
ベリーベスト法律事務所は、削除可否の判断から投稿者・請求者への通知文案、運用体制の整備まで総合的にサポートいたします。トラブルを未然に防ぎたい際も、お困りの際も、まずは当事務所までご相談ください。
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