従業員の育成は、企業が時間とお金をかけて行っていますので、従業員の引き抜きを許してしまうと、企業には多大な損害が発生します。引き抜かれた従業員が競合退社に就職したり、引き抜きの際に営業秘密の持ち出しがあると、その損害はさらに大きなものとなります。
このような違法な引き抜きを防ぐためにも事前にしっかりと対策を講じておくことが大切です。また、万が一違法な引き抜きの被害に遭ってしまったときは、すぐに損害賠償請求などの法的対応を検討するようにしましょう。
今回は、従業員による引き抜きが違法になるケースや従業員を引き抜かれた場合の対処法などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
従業員の引き抜きとはどのような行為をいうのでしょうか。以下では、従業員による引き抜きの具体例を説明します。
従業員の引き抜きには、主に以下のようなものが挙げられます。
従業員の引き抜きは、自社の勤務条件よりも好条件の待遇を提示して、他社への就職を勧誘する行為になります。
また、従業員を引き抜かれるだけでなく、退職した従業員が顧客情報等を持ち出し、転職先でその情報を使用することも考えられるでしょう。
優秀な人材を確保するためには、時間とお金をかけて社員教育を行わなければなりません。優秀な従業員を引き抜きかれてしまうと、社員教育にかかったこれまでのコストがすべて無駄になり、即戦力となる従業員を失うなどの多大な損害が発生します。
引き抜かれた従業員が競業他社で就職することになれば、自社での経験やノウハウなどが利用されることで、その損害はさらに大きなものとなるでしょう。また、退職した従業員が顧客情報等を持ち出し、その情報をもとに営業活動などを行っていた場合、自社の顧客を失うことにつながりかねません。
従業員による引き抜きがあったとしても、すべてが違法になるわけではありません。以下では、従業員による引き抜きが違法になるケースについて説明します。
労働者には、日本国憲法により職業選択の自由が保障されています(憲法21条1項)。これにより従業員がどのような職業や職場を選ぶのかについては、従業員が自由に決めることができ、引き抜きに応じるかどうかも基本的には従業員の自由となります。
そのため、従業員による引き抜きがあったとしても、それが勧誘する程度のものであり、勧誘された従業員の自由意思を妨げるようなものでない限り、直ちに違法となるわけではありません。
もっとも、従業員は、労働契約上の義務として、誠実義務や競業避止義務を負っています。従業員の引き抜きの態様が単なる勧誘を超えて、社会的相当性を逸脱するものと評価できるような場合には違法になる可能性があります。
従業員による引き抜きが違法になるケースとしては、以下のようなケースが挙げられます。
① 在職中の社会的相当性を逸脱する引き抜き
在職中の従業員は、労働契約に付随する義務として誠実義務や競業避止義務が課されています。そのため、在職中の従業員による引き抜き行為があった場合には、誠実義務および競業避止義務違反となる可能性があります。
他方、従業員には職業選択の自由が保障されていますので、引き抜き行為が直ちに違法になるのではなく、社会的相当性を逸脱するような引き抜きがなされた場合に違法となります。
たとえば、以下のような引き抜きがなされた場合には違法となる可能性が出てきます。
② 退職後の競業避止義務に違反する引き抜き
従業員の競業避止義務は、労働契約に付随する義務ですので、すでに退職した労働者には在職中と同様の競業避止義務は課されません。
ただ、中には労働契約や退職時の作成書面などで競業避止義務を課している企業もありますので、この場合は競業避止義務違反が問題になります。
その際には、以下の要素を踏まえて引き抜き行為の違法性が判断されます。
③ 営業秘密の持ち出しを伴う引き抜き
従業員の引き抜きの際に営業秘密の持ち出しを指示して、引き抜きの勧誘がなされることがあります。
しかし、営業秘密の持ち出しは、不正競争防止法により禁止されている行為です。そのため、営業秘密の持ち出しを伴う引き抜きは違法と評価される可能性が高いです。
従業員による引き抜きを防ぐにはどうしたらよいのでしょうか。以下では、従業員による引き抜きを防ぐために企業ができる対策について説明します。
従業員の在職中は、労働契約に付随する義務として競業避止義務が課されていますが、退職により労働契約は解消されますので、退職後は、当然に競業避止義務を負うわけではありません。
そのため、引き抜きによる競業行為を回避するには、退職後にも競業避止義務を課す内容の誓約書を書かせることが有効です。
ただし、従業員には、職業選択が保障されていますので、過大な競業避止義務を課してしまうと効力が否定されるリスクがあります。競業避止義務の範囲については制限的な内容にするようにしましょう。
在職中の引き抜き行為を懲戒事由として定めておくことで、違法な引き抜き行為があった場合には、懲戒処分という制裁を与えることが可能です。これにより違法な引き抜き行為がなされるのを抑止する効果が期待できます。
引き抜き行為を理由に懲戒処分をするには、就業規則に懲戒事由とその種類が定められている必要がありますので、就業規則の見直しとその周知を行うようにしましょう。
引き抜き行為を防止する対策として、引き抜き行為を退職金の減額事由として定めることも有効な手段となります。退職金の減額をされてまで違法な引き抜き行為を強行しようとする従業員はほとんどいませんので、引き抜き行為の予防が期待できます。
ただし、引き抜き行為により退職金の全額を不支給とするのは行き過ぎですので、減額する金額は慎重に検討するようにしましょう。
従業員による引き抜き対策を講じていても、違法な引き抜きが発生した場合には、以下のような法的対応を検討するとよいでしょう。
従業員による違法な引き抜き行為により会社に損害が発生した場合は、損害賠償請求をすることが可能です。競業他社と画策して引き抜きがなされた場合には、引き抜きをした従業員だけでなく、その会社に対しても損害賠償請求できる可能性があります。
ただし、違法な引き抜きにより会社に生じた損害は、会社側において立証していかなければなりません。従業員の引き抜きにより業績が下がったとしても、その原因にはさまざまなものが考えられますので、引き抜きと損害との因果関係の立証が難しいケースも多いでしょう。
損害の立証には、弁護士のサポートが不可欠となりますので、適正な金額を請求するためにも、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
従業員による引き抜き自体を直接差し止めることは難しいものの、退職後の競業避止義務違反に該当する行為については差止請求が認められる場合があります。
競業避止義務違反行為を差し止めることで、結果的に引き抜き行為を抑止する効果が期待できます。
ただし、従業員には職業選択の自由が保障されており、差止請求が認められると従業員に重大な不利益が生じることから、裁判所は差止の可否を慎重に判断する傾向にあります。
あらかじめ従業員の引き抜き行為を退職金減額事由として定めていれば、すでに退職金の支給を受けた従業員に対して、退職金の返還請求をすることができます。
このように違法な引き抜き行為があった場合、さまざまな法的手段をとることができますが、いずれの手段も弁護士のサポートがなければ適切に対応することは困難です。まずは、顧問弁護士を利用して就業規則や退職金規定の見直しから検討してみるとよいでしょう。
優秀な従業員が引き抜かれてしまうと、会社には多大な損害が生じるおそれがあります。違法な従業員の引き抜きから企業を守るためにも、まずは就業規則などの見直しを行い、競業避止義務、退職金の減額事由、懲戒事由の明文化を検討するようにしましょう。
その際には、法的観点から従業員の権利を違法に制限していなかどうかのチェックが必要になりますので、顧問弁護士の利用をおすすめします。
従業員による違法な引き抜きへの対策をお考えの経営者の方は、ベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。
従業員の育成は、企業が時間とお金をかけて行っていますので、従業員の引き抜きを許してしまうと、企業には多大な損害が発生します。引き抜かれた従業員が競合退社に就職したり、引き抜きの際に営業秘密の持ち出し…
令和6年11月に、大手出版社である株式会社KADOKAWAが、公正取引委員会から下請代金支払遅延等防止法(下請法)違反を理由に是正勧告を受けました。是正勧告の理由は、雑誌の記事作成や写真撮影の業務に…
宗教法人でも、収益事業によって得た利益は課税対象となります。宗教法人の運営者は、非課税の宗教活動と課税される収益事業を明確に区別した上で、適切に税務申告を行いましょう。本記事では、宗教法人でも課税対…
お問い合わせ・資料請求