ホテルや旅館の予約キャンセルにより損害を受けた場合、事業者は客に対してキャンセル料金を請求することができます。
ただし金額が高過ぎると、予約キャンセル料の定めが無効になる点などに注意しましょう。
本記事では、キャンセル料に関する法律上のルールや、キャンセル条項の定め方などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
予約者の都合でホテルや旅館への宿泊をキャンセルした場合、宿泊約款などに基づき、事業者は顧客に対して、その時期などの条件に応じた額のキャンセル料を請求できます。
ただし、宿泊のキャンセルに伴い、事業者側に生ずべき平均的な損害の額を超える部分のキャンセル料(損害賠償額の予定・違約金)は、消費者契約法によって無効となります(消費者契約法第9条第1項第1号)。
また、キャンセル料の金額について顧客から説明を求められたときは、その算定根拠の概要を説明するよう努めなければなりません(同条第2項)。
ホテルや旅館への宿泊は、顧客側の都合によってキャンセルされることがよくあります。キャンセル料も高額になることが多いため、顧客がキャンセル料の支払いを拒否してトラブルになるケースが少なくありません。
ホテル・旅館側としては、顧客とのキャンセル料に関するトラブルをできる限り回避できるように、あらかじめ対策を講じておきましょう。
消費者庁は、令和5年に行った「キャンセル料に関する消費者の意識調査」の報告書を公表しています。
この報告書によると、「過去1年間に事業者から商品やサービスを購入した後、キャンセルをした経験がある」と回答した人のうち、キャンセルした商品・サービスが「ホテル・旅館等の宿泊」である(複数回の経験がある場合は、それが最も記憶に残っている)と回答した人は30.6%と最多でした。なお、「ホテル・旅館等の宿泊」の契約額は平均4万0704.1円、キャンセル料の平均支払額は1万3956.2円でした。
この調査結果からは、ホテルや旅館の宿泊予約はキャンセルされる頻度が高く、キャンセル料も比較的高額であることがわかります。ホテル・旅館を運営する事業者は、キャンセル料に関するトラブルのリスクが高いことを認識しつつ、あらかじめ対策を講じるべきといえるでしょう。
前掲の調査によると、顧客側がキャンセル料の支払いを不満に思った割合は57.5%、不満に思わなかった割合は20.9%となっています。
キャンセル料の支払いを不満に思った理由と、不満に思わなかった理由としては、それぞれ以下の理由が上位に挙がっています。
上記の調査結果からは、適正額のキャンセル料を設定すること、およびキャンセル料の規定についてはあらかじめわかりやすく説明することが、トラブルの回避につながると考えられます。
顧客とのトラブルを回避するためには、適切な内容のキャンセルポリシー(キャンセル料条項)を定めることが大切です。ホテル・旅館におけるキャンセルポリシーの条文例と、適切なキャンセル料やキャンセル期間の定め方を解説します。
ホテル・旅館におけるキャンセルポリシーを定める際には、国土交通省が公表しているモデル宿泊約款が参考になります。同約款第6条および別表第2をご参照ください。
出典:「モデル宿泊約款」(国土交通省)
ホテルや旅館におけるキャンセル料は、以下のように定める例がよく見られます。
上記はあくまでも一例で、顧客に対して提供するサービスの内容や立地などに応じて、事業者の判断でキャンセル料やキャンセル期間を定めて構いません。
ただしキャンセル料の額が、宿泊のキャンセルによって事業者側に生ずべき平均的な損害の額を超える場合は、超過部分が無効となる点に留意する必要があります(消費者契約法第9条第1項第1号)。
たとえば、宿泊代金の額を超えるキャンセル料の定めは、消費者契約法違反によって無効となる可能性が高いです。また、代わりの顧客の予約を受け付ける時間的余裕があるにもかかわらず、宿泊代金の100%かそれに近い水準のキャンセル料を定めた場合も、やはり消費者契約法違反によって無効となるリスクが高いでしょう。
提供しているサービスの内容と、それに要する準備なども合わせて考えれば、自ずと不合理ではない期間も見えてくると思います。
上記のようなポイントを踏まえて、キャンセル料やキャンセル期間を適切に定めることが大切です。
顧客がキャンセル料を支払わない場合、ホテル・旅館の運営会社は、以下の方法などによってキャンセル料を請求することができます。どの方法を選択すべきかについては、弁護士にご相談ください。
ホテルの利用をキャンセルした顧客に対して、ホテルやツアー手配者がキャンセル料を請求した事案の裁判例を紹介します。
名古屋地裁令和4年2月25日判決の事案では、新型コロナウイルス感染症に関する緊急事態宣言が発令された状況下において、顧客が約2か月後の結婚披露宴をキャンセルしました。
会場ホテルの運営会社は、取消料条項に基づき、顧客に対して150万0803円のキャンセル料を請求しました。これに対して顧客は、コロナ禍によって結婚披露宴をキャンセルしたのはやむを得ず、自分たちに責任はないと主張して、キャンセル料の支払いを拒否し、争いになっています。
名古屋地裁は、当時の状況において結婚披露宴を開催することは、新型コロナウイルスの感染拡大を招くおそれがあり現実的に不可能であると一般的に認識されていたことを指摘しました。
その上で、結婚披露宴をキャンセルしたことはやむを得ず、顧客に責任はないため取消料条項は適用されないとして、ホテル側の請求を棄却しました。
ただし、補足的にですが、既にホテル側が受け取っている申込料20万円については、部屋を確保するための手付のような位置づけとして、ホテル側がそのまま保持する権利があるとも述べられています。
東京地裁平成23年7月28日判決の事案では、日本とニューヨークの間の往復航空券と、ニューヨークにおける3日分のホテル宿泊が含まれるパッケージツアーを顧客がキャンセルしました。
航空券の発券後のキャンセルについては、航空会社によって航空券代金の100%が徴収されることになっていました。ツアーの手配会社は、交渉によって手配先から返還を受けられた金額を除き、航空券代金分を顧客に対して返還しませんでした。そこで顧客がツアーの手配会社に対して、未返還代金38万3410円の返還を請求し、争いとなりました。
東京地裁は、顧客都合でツアーをキャンセルしたために発生した取消料や違約金を、顧客のためにツアーの手配会社が負担しなければならない理由はないことを指摘して、顧客の返還請求を棄却しています。
東京地裁令和2年1月20日判決の事案では、台風が接近していることを理由として、顧客が航空券やホテルなどが含まれる沖縄旅行ツアーを出発前日にキャンセルしました。
ツアーの手配会社は、旅行パンフレットの記載に基づき、受領済みの旅行代金から40%に相当するキャンセル料を控除して顧客に返還しました。しかし顧客は、「旅行の安全かつ円滑な実施が不可能となり、または不可能となるおそれが極めて大きいとき」に当たり、取消料が発生しない場合に該当すると主張して、キャンセル料の一部である4万1360円の返還を請求し、争いになった事案です。
東京地裁は、顧客が搭乗予定であった往路航空便は通常運航が予定されており、宿泊予定だったホテルや使用予定だったレンタカー会社も通常営業が予定されていたこと、気象注意報や気象警報、沖縄県による台風の注意喚起もなかったことなどを指摘しました。その上で、旅行の移動手段や宿泊先について、現実的な支障は見込まれていなかったと認定し、顧客のキャンセル料の返還請求を棄却しています。
ホテルや旅館の運営に当たっては、顧客とのキャンセル料に関するトラブルがつきものです。キャンセル料トラブルに備えるためには、顧問弁護士と契約しておくことをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所は、ホテル・旅館の運営会社からのご相談を随時受け付けております。キャンセル料に関するトラブルを含めて、法律に関する悩みを何でもご相談いただける顧問弁護士サービスをご用意しておりますので、ぜひベリーベスト法律事務所へご相談ください。
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