2025年05月14日
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過労死とは? 過労死の判断基準や企業のリスクと対処法を弁護士が解説

過労死とは? 過労死の判断基準や企業のリスクと対処法を弁護士が解説

毎年、仕事による過労やストレスが原因で過労死に至るケースが少なくありません。会社としては、大切な従業員の心身を守るために最大限の注意を尽くすべきです。

しかし、昨今では人手不足などの厳しい経営環境下において、従業員に長時間労働などの負荷がかかってしまうこともあるのではないでしょうか。過労死が発生した場合、会社にも損害賠償責任などのさまざまなリスクが生じるおそれがあります。

そこで今回は、
・ 過労死の判断基準
・ 過労死が発生した場合に企業が負うリスク
・ 過労死が発生したときの対処法
などについてわかりやすく解説します。

過労死を未然に防止するためにも、万が一、過労死が発生した場合に企業が抱えるリスクを最小限に抑えるためにも、過労死に関する正しい知識を持っておきましょう。

1、過労死とは

過労死とは、一般的には長時間労働や重労働などの仕事による疲労や精神的ストレスの蓄積により、労働者が死亡に至ることを指して使用されている言葉です。

しかし、過労死等防止対策推進法では、以下の3つのことを指して「過労死等」と定義されています(同法第2条)。

  • 業務における過重な負荷による脳血管疾患・心臓疾患を原因とする死亡
  • 業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡
  • これらの脳血管疾患・心臓疾患、精神障害で、死亡に至らないもの

近年、過労死等の多発が大きな社会問題となっています。過労死等が発生すると本人や家族のみならず社会にとっても大きな損失となります。

そこで、過労死等がなく、仕事と生活を調和させ、健康で充実して働き続けることのできる社会の実現を目指して、2014年11月に過労死等防止対策推進法が施行されたのです。

過労死等の防止は国を挙げて取り組んでいる課題であり、各企業としても「過労死等ゼロ」を目指して労働環境の改善・維持に取り組む必要があるといえるでしょう。

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2、過労死の判断基準

前章では過労死の定義を紹介しましたが、過労死の防止対策や、過労死が発生した場合の対処法を検討するためには、過労死に該当するかどうかの具体的な判断基準を知っておく必要があります。

過労死の判断基準を知るためには、次の2つの内容を理解することが重要です。


  1. (1)過労死ライン

    過労死ラインとは、労働時間が一定の「ライン」を超えると、業務と過労死の原因となる疾病の発症との関連性が強いと認められる時間の基準における、その「ライン」のことを指します。

    一般的には、「月80時間の残業」が過労死ラインと呼ばれることが多いですが、厚生労働省が発表した資料では、以下の基準が示されています。

    • 発症前1か月間に100時間、または発症前2か月間~6か月の間に、1か月当たり80時間を超える時間外労働があった場合は、業務と発症との関連性が強い
    • 発症前1か月間~6か月の間に、1か月当たり45時間を超える時間外労働があった場合は、時間外労働時間が長くなるほど業務と発症との関連性が徐々に強まる
    • 発症前1か月間~6か月の間に、1か月当たり45時間を超える時間外労働がなかった場合は、業務と発症との関連性は弱い

    ここでいう時間外労働の時間数は、法定労働時間である1週間当たり40時間を超えた労働時間数のことを指します。

    参考:「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」(厚生労働省労働基準局長)

  2. (2)労災における認定基準

    労災における過労死等の認定基準は厚生労働省が詳細に発表していますが、ここでは簡単に要点を紹介します。

    ① 脳・心臓疾患
    脳・心臓疾患の対象となる疾病は、下記9つが定められています。

    • 脳内出血
    • くも膜下出血
    • 脳梗塞
    • 高血圧性脳症
    • 心筋梗塞
    • 狭心症
    • 重篤な心停止
    • 解離性大動脈瘤

    これらの対象疾病が、業務による明らかな過重負荷を受けたことにより発症したと認められる場合に、労災に認定されます。
    業務による明らかな過重負荷を受けたかどうかは、次の3点を考慮して判断されます。

    • 長期間にわたって著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したか
    • 発症前の近接した時期に、特に過重な業務に就労したか
    • 発症直前から前日までの間に「異常な出来事」に遭遇したか

    ② 精神障害
    精神障害についても、まず、対象となる疾病として統合失調症、気分障害、神経性障害などが定められています。なお、うつ病は、気分障害に含まれます。
    これらの対象疾病が、仕事によるストレスが原因で発症したものと認められる場合に、労災に認定されます。
    仕事によるストレスが発病の原因といえるかどうかは、次の2点を考慮して判断されます。

    • 発病前6か月間に、業務による強い心理的負荷が認められること
    • 業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと

    ③ その他の疾病
    脳・心臓疾患、精神障害以外の疾病により死亡したケースでも、過重な業務が原因となって発症したことが立証されると、労災に認定される可能性があります

    主なところでは、胃潰瘍や十二指腸潰瘍など消化器系の疾患、ぜんそく、てんかんなどは、過重な業務に起因して発症する可能性が十分に考えられるでしょう。

    企業側としては、ここまでに紹介した過労死ラインや、脳・心臓疾患、精神障害に関する労災の認定基準を参考にして、従業員の業務負担が過重にならないように注意を尽くす必要があるといえます。

3、過労死が発生した場合に企業が負うリスク

万が一、過労死が発生すると、企業は以下の不利益を被るリスクがあります。


  1. (1)民事上の損害賠償責任

    企業による過労死等防止対策が不十分であり、そのことと過労死等との因果関係が認められた場合は、安全配慮義務違反(労働契約法第5条)に基づき、企業が民事上の損害賠償責任を負わなければなりません

    従業員が死亡した場合、その損害額は少なくとも数千万円、多ければ1億円を超える可能性もあります。

    労災認定を受けて保険金が支給された場合でも、労災保険では慰謝料が補償されないため、遺族から慰謝料の請求を受けた場合、会社は多額の慰謝料を支払う必要がある可能性が高いでしょう。

  2. (2)法令違反による刑事責任

    過労死が発生した職場の実態によっては、会社や代表者、過労死した従業員の上司などが刑事責任を負わなければならない可能性もあります

    具体的には、労働基準法第36条第6項で定められた時間外労働の上限規制に違反して従業員を働かせた場合は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金という刑罰の対象となります(同法第119条第1号)。

    また、過労死等が発生したにもかかわらず、労働基準監督署への報告を怠ったり、虚偽の報告をしたりした場合は「労災隠し」に該当し、50万円以下の罰金という刑罰の対象となります(労働安全衛生法120条第5号)。

  3. (3)労働基準監督署による行政処分

    長時間労働など、職場における法令違反が行われる場合は、労働基準監督署による事業場への立ち入り調査が行われたり、その結果、監督指導や是正勧告といった行政処分が行われたりすることもあります

    違法な状態が是正されない場合には送検され、刑事罰を科せられるおそれがあることにも注意が必要です。

  4. (4)企業イメージの低下

    過労死が発生したことが明るみに出ると、社会から「ブラック企業」との印象を持たれてしまい、企業イメージの低下を招くおそれがあります

    遺族からの民事訴訟の提起や、送検、行政処分などをきっかけとして報道されることもありますし、近年では関係者がSNSなどで事実を公表する可能性があることにも注意が必要です。

    ブラック企業とみなされてしまうと、顧客や取引先からの信頼を失ったり、新卒採用に支障を来したりして、業績の悪化につながる可能性が高まってしまうでしょう。

4、過労死が発生したときの対処法

不幸にして過労死が発生したときに、企業がとるべき対処法は以下のとおりです。


  1. (1)事実関係の調査と原因の把握

    まずは、事実関係を調査した上で、従業員が死傷した原因の把握に努めましょう

    本記事の第2章で解説した基準に照らして、その原因が「過労死等」に該当するかどうかを判断することが必要です。その結果次第で、会社が責任を負うかどうかが異なります。

    原因を正確に究明するためには、死傷した従業員の労働時間や業務内容だけでなく、職場における人間関係や作業環境、さらには従業員の持病の有無や性格、生活習慣なども調査する必要があります。

    この調査には時間がかかりますが、再発防止対策を検討するためにも、綿密に調査することが大切です。概要だけは早急に把握すべきですが、詳細は以下のステップと並行して、じっくりと調査していきましょう。

  2. (2)労災申請のサポート

    過労死等をした本人や、その遺族が会社に対して労災の申請を求めてきたときは、その手続きをサポートしましょう

    事業主には労災の申請手続きに助力する義務があるため(労災保険法施行規則第23条第1項)、会社としては労災に該当しないと判断した場合であっても、手続きをサポートしなければならないことに注意が必要です。

    また、従業員が労働災害で死亡または休業したとき、会社は遅滞なく「労災死傷病報告書」を労働基準監督署へ提出しなければならない(労働安全衛生規則第97条第1項)ことにもご注意ください。

    労働災害に該当するかどうかを判断するのは労働基準監督署なので、会社としての判断内容とは無関係に、必ず労災死傷病報告書を提出しなければなりません

  3. (3)遺族等への謝罪と示談交渉

    死傷した従業員やその遺族に対しては、会社として謝罪した上で、賠償問題について示談交渉をする必要があります

    初期段階で正確な原因が特定できていない場合でも、哀悼の意を示して、今後の事実調査を踏まえて適切に対応することを約束しましょう。実際に示談交渉を始めるのは、労災認定の結果が出た後の方がよいです。

    労災に認定された場合は、特に慎重に対応する必要があります。労働基準監督署の判断が絶対ではないですし、安全配慮義務違反の有無などで検討すべき部分もあると思われますが、労災に認定された場合には、裁判をした場合にも会社の法的責任が肯定される可能性が高まると考えられます。

    賠償金の額については、労災でカバーされない部分の補償について話し合うことになります。労使紛争に強い弁護士へご相談の上、適正な金額を提示することをおすすめします

5、過労死の予防と再発防止のために企業がやるべきこと

過労死等が社会問題化している以上、すべての企業は予防対策をとることが求められています。不幸にして過労死等が発生した場合には、再発防止対策をとることが特に重要です。

具体的にとるべき対策としては、次のようなものが考えられます。

  • 各従業員の労働時間を把握する
  • 長時間労働の削減を図る
  • 勤務間インターバル制度の導入を検討する
  • 有給休暇を計画的に取得させる
  • ストレスチェックを実施する
  • 相談窓口を設置する
  • 産業医と連携し、従業員の不調の兆候に気づいたら診察をすすめる
  • 職場におけるハラスメント防止対策を徹底する

すぐにできることばかりではありませんし、職場の実情に応じて重視すべきポイントも変わってくるかもしれません。過労死等の予防・再発防止対策を効果的に行うためには、企業法務の経験が豊富な弁護士から専門的なアドバイスを受けた方がよいでしょう。

6、過労死への対処は弁護士へ相談を

過労死等への対処については、弁護士へのご相談をおすすめします。

企業法務の経験が豊富な弁護士に相談することで、社内の実情に応じて効果的な過労死等の予防・再発防止対策に関するアドバイスが得られます。

不幸にして過労死等が発生した場合には、事実関係について調査すべきポイントや、調査方法に関するアドバイスを受けることも可能です。原因や会社の責任の有無については、弁護士が調査結果を踏まえて的確に判断してくるでしょう。

遺族等への対応も弁護士に任せることが可能なので、賠償問題について穏便な解決が期待できます。

顧問弁護士の契約をして普段から社内の実情を弁護士が把握していれば、より的確なアドバイスや対応が可能となるでしょう。

ベリーベスト法律事務所には、企業法務の豊富な実績がございます。労使紛争に強い弁護士が対応し、トラブルの適切な解決を図ります。顧問弁護士については月額3980円から豊富なプランを用意していますので、気になる方はお気軽にご相談ください

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7、まとめ

過労死等が発生してしまったとき、遺族等に納得してもらえる対応ができなければ、訴訟に発展する可能性が十分にあります。そうなると、報道等により企業イメージの低下を招くことにもなりかねません。

会社としては、過労死等を未然に防止する対策に力を入れるとともに、不幸にして過労死等が発生してしまったときは、迅速かつ適切に対応することが大切です。

従業員を過労死等から守るためにも、事後の対応を適切に行うためにも、ベリーベスト法律事務所の弁護士へご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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