準委任契約とは、法律行為以外の仕事を行うことを目的とした業務委託契約の一種です。
準委任契約には、雇用に関する規制が適用されない、社会保険料の負担が発生しない、専門性の高い外部人材を活用できるなどのメリットがある反面、業務の進め方を具体的に指示できないなどのデメリットもあります。
外部人材の活用として準委任契約の締結をする際には、メリット・デメリット、契約締結時の注意点や流れなどをしっかりと押さえておくことが大切です。
今回は、準委任契約の概要、他の契約形態との違い、メリット・デメリットや注意点などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
準委任契約とはどのような契約なのでしょうか。以下では、準委任契約の定義や特徴、他の契約形態との違いを説明します。
準委任契約とは、法律行為以外の事務を委託する契約です(民法656条)。
法律行為以外の事務の具体的な例としては、コンサルティング業務、システム開発・設計、人事や採用業務などがあります。
このような準委任契約には、特徴によって以下の2つの類型にわけて考えることができます。
① 成果完成型の準委任契約
成果完成型の準委任契約とは、業務の履行によって得られる成果に対し、報酬が支払われるものをいいます。
約束した成果が出なかった場合のリスクを、受任者が引き受けるというのが特徴です。
② 履行割合型の準委任契約e
履行割合型の準委任契約とは、業務の進み具合に応じて報酬が支払われるものをいいます。
成果完成型とは違い、想定どおりの成果が得られなくてもあらかじめ定めた時間などを稼働していれば、受任者は報酬を請求することができます。
企業が外部人材を利用する際の契約には、準委任契約以外にも、委任契約・請負契約・労働者派遣契約があります。以下では、準委任契約とこれらの契約との違いを説明します。
① 準委任契約と委任契約の違い
委任契約とは、法律行為を委託する契約です(民法643条)。
委任契約と準委任契約は、いずれも業務委託契約の一種として利用される契約ですが、委任契約の対象が「法律行為」(契約する、契約の取り消しをする、などの行為)であるのに対して、準委任契約は「法律行為以外の事務」であるという違いがあります。
他方、委任契約と準委任契約は、委託事務の内容が異なること以外は共通する部分が多いため、準委任契約には、委任契約の規定が準用されています。
② 準委任契約と請負契約の違い
請負契約とは、請負人が請け負った仕事を完成させることを約束し、注文者がこれに対して報酬の支払いを約束することで成立する契約です。
請負契約の例としては、建物の建築を工務店に依頼する、自動車の修理を修理工場に依頼するなどがあります。
請負契約は、「仕事の完成」を目的とする契約であり、引き渡した目的物に欠点がある場合には、契約不適合責任を負います。他方、準委任契約は、「業務の遂行」を目的とする契約であり、善管注意義務に従って事務処理を行えば、仕事の成果に欠陥があったとしても契約不適合責任を負うことはありません。
また、請負契約では、第三者への再委託が認められているのに対して、準委任契約では、当事者の合意がない限り第三者への再委託はできません。
③ 準委任契約と労働者派遣契約の違い
労働者派遣契約とは、派遣労働者を雇用する派遣会社と派遣労働者を受け入れる派遣先企業との間で締結される契約です。
労働者派遣契約は、派遣先企業が派遣労働者に対して、指揮命令権を有しますので、業務に関して具体的な指示や命令をすることができます。これに対して、準委任契約は、業務遂行の方法は受任者の裁量に委ねられていますので、受任者には派遣労働者よりも広い裁量が認められています。
準委任契約には、どのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。以下では、準委任契約のメリット・デメリットについて説明します。
準委任契約のメリットには、以下のようなものがあります。
① 雇用に関する規制が適用されない
準委任契約を締結した当事者間の関係は、雇用契約ではありませんので、労働基準法などの雇用に関する規制が適用されません。
これにより、残業代の支払いは不要で、厳格な解雇規制もありません。そのため、必要な人材を必要な期間だけ確保することができるというメリットがあります。
② 社会保険料の負担が発生しない
企業は、従業員を雇用すると社会保険料を負担しなければなりません。
しかし、準委任契約は雇用契約ではありませんので、受託者の社会保険料を委託者である企業が負担する必要はありません。そのため、企業側には経済的なコストを軽減できるというメリットがあります。
③ 専門性の高い外部人材を活用できる
準委任契約は、専門性の高い外部人材を活用できるというメリットがあります。
雇用契約だと長い時間とコストをかけて従業員の教育をしていかなければなりませんが、準委任契約であれば、すぐに専門性の高い人材を活用でき、即戦力として働いてもらうことができます。
準委任契約のデメリットには、以下のようなものがあります。
① 業務の進め方を具体的に指示できない
準委任契約では、企業側に指揮命令権がありませんので、受託者の業務の進め方について詳細な指示を行うことができません。また、時間的な拘束や稼働場所の指定も基本的にはできません。契約上そのような拘束を加えることはできますが、そうすると名目上は委任契約でも、雇用契約であるとの評価を受けやすくなります。
業務の性質上、具体的に指揮命令が必要になるときは、準委任契約ではなく、雇用契約を締結すべきでしょう。
② 自社にノウハウがたまらない
準委任契約では、業務の遂行を外部に委託することになりますので、当該業務に関してのノウハウが自社にたまらないというデメリットがあります。
優秀な外部の人材を利用することで高度な業務を行うことができたとしても、それは受託者の能力に依存しています。そのため、契約が終了してしまうとそれまでと同等のレベルで業務を行うことができなくなってしまいます。
以下では、準委任契約で業務委託をする際の注意点と準委任契約締結の一般的な流れについて説明します。
準委任契約で業務を委託する際には、以下の点に注意が必要です。
① 業務の内容や報酬などの契約条件を明確にする
準委任契約を利用して外部人材に業務を委託する場合、契約内容をめぐってトラブルになるケースがあります。
曖昧な契約内容や契約条件では、業務遂行にあたってお互いの認識に食い違いが生じるなどトラブルの原因になりますので、必ず準委任契約書(業務委託契約書)を作成し、業務内容や報酬などの契約条件を明確にするようにしましょう。
② 偽装請負にならないようにする
偽装請負とは、形式上は業務委託契約など他の契約形態をとっているものの、実態が雇用契約と同様の状態をいいます。雇用契約を締結すると労働基準法などの雇用に関する法規制が適用されるため、法規制を回避する手段として偽装請負が使われることがあります。
しかし、このような偽装請負は、労働関係法令が適用されることで、残業代などを請求されるリスクもあります。そのため、準委任契約を利用する際は、形式だけでなく実態からも準委任契約であるといえなければなりません。
③ 印紙税がかかるかどうかを検討する
準委任契約は、原則として印紙税は課税されませんので、契約書への収入印紙の貼付は不要です。しかし、準委任契約を書面により締結する場合で、以下のいずれかに該当すると収入印紙の貼付が必要になります。
準委任契約は、一般的に以下のような流れで締結します。
① 委託する業務の内容を明確にする
準委任契約を利用して外部人材を利用する場合、まずはどのような業務を委託するのかを明確にします。
初期段階で業務内容を明確にしておくことで、人材のミスマッチを防ぐことができます。
② 委託者と受託者との間で詳細な契約条件の調整を行う
自社の希望する条件に合致する受託者が見つかった場合、次は、委託者と受託者との間で詳細な契約条件の話し合いを行います。
契約内容が曖昧なまま業務を委託すると、お互いの認識に食い違いが生じてトラブルになる可能性もあります。そのため、契約内容や条件は、できる限り具体的に定めるようにしましょう。
③ 準委任契約書の作成・締結をする
委託者と受託者との間で契約内容の合意に至ったときは、その内容をまとめた準委任契約書を作成し、双方が署名押印することで契約成立となります。
以下では、準委任契約でトラブルになった実際の事例を紹介します。
【事案の概要】
A社から無線LANルーター機器の開発を受注したY社がX社に対して、同機器のソフトウエア開発を委託しました。Xは、仕様の追加・変更などで追加業務が生じたことを理由に、Yに対し、業務委託契約に基づき、追加報酬代金を請求したという事案です。
【裁判所の判断】
裁判では、本件契約が準委任契約と請負契約のいずれに該当するのかが争点になりました。
裁判所は、以下のような理由から本件契約は、請負契約に該当するとし、追加・変更に対して相当な報酬を支払うとの黙示の合意がある認定し、Xの追加報酬代金請求を認めました。
【事案の概要】
イベント企画会社Yは、イベントを管理するためのシステム開発をXに委託し、Xは、システム開発に着手しました。
しかし、Yは開発の遅延などを理由として、本件システム開発を中止したことから、Xは、Yに対し、業務委託契約に基づき作業を行った分の報酬を請求し、YはXに対して善管注意義務違反を理由とする損害賠償請求をしたという事案です。
【裁判所の判断】
裁判では、本件契約が準委任契約と請負契約のいずれに該当するか、Xに善管注意義務違反があったかどうかが争点になりました。
裁判所は、本件契約は、準委任契約の形式で契約が締結されており、契約締結の至る当事者の認識もそれに沿うものであることなどを理由に準委任契約であると認定し、Xの報酬請求を認めました。
他方、システム開発の遅延に関してXには善管注意義務違反があると認定され、Yによる反訴の一部も認容されました。
令和6年11月1日にフリーランス新法が施行されましたので、企業が業務委託を行う際には、フリーランス新法にも配慮する必要があります。
フリーランス新法とは、正式名称を「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」といい、令和6年11月1日から施行された新しい法律です。
近年、働き方の変化により、雇用ではなくフリーランスを選択する方が増えてきています。また、副業が許可されたことで、正社員として働きながら副業でフリーランスをする方も増えています。しかし、雇用されている労働者とは異なり、フリーランスを保護する法律はほとんどなく、フリーランスは、発注者から不当な契約を強いられているなどの問題が指摘されていました。そこで、フリーランスを保護することを目的として制定された法律がフリーランス新法になります。
フリーランス新法では、フリーランスに業務を委託する事業者を「業務委託事業者」、業務委託事業者のうち従業員を使用している事業者を「特定業務委託事業者」と定義しています。フリーランスに業務委託をする企業の多くが、特定業務委託事業者に該当することになり、フリーランス新法による以下のような規制を受けます。
① 取引条件の明示義務
フリーランスに業務を委託する事業者は、以下の契約条件を書面、またはメールなどの電磁的方法ではっきりと示さなければなりません。
② 報酬支払期日、支払い遅延の禁止
特定業務委託事業者がフリーランスに対して業務委託をした場合、フリーランスから給付を受け取った日から60日以内の報酬支払期日を設定し、期間内に報酬を支払う必要があります。
また、再委託の場合には、発注元より支払いを受ける期日から30日以内に報酬支払期日を設定しなければなりません。
③ 禁止行為
特定業務委託事業者は、1か月以上の期間を定めてフリーランスに業務委託をする場合、以下のような行為が禁止されます。
④ フリーランスの就業環境の整備
特定業務委託事業者は、フリーランスの就業環境の整備として、以下のような対応が求められます。
準委任契約やフリーランス対応に関するお悩みは、弁護士に相談することをおすすめします。
業務の一部を外部に委託する場合には、準委任契約などの締結が必要になります。その際には、契約条件を明示するために、準委任契約書などを作成しなければなりません。
トラブルを回避・予防するには、契約内容や条件を具体的に定めることが必要になりますので、法的観点からのアドバイスが不可欠です。
弁護士に依頼をすれば、準委任契約書の作成やリーガルチェックをしてもらうことができますので法的に不備のない契約書を準備することが可能です。
フリーランスに外部委託をする場合、フリーランス新法が適用されますので、事業者は、フリーランス新法に沿った対応をしなければなりません。
フリーランス新法は、令和6年11月1日に施行された新しい法律ですので、まだ具体的な規制内容などを把握していない企業も多いでしょう。弁護士に依頼すれば、フリーランス新法に関して企業が対応すべきポイントをわかりやすく説明してもらえますので、法律に適合した形でフリーランスとの契約を進めることが可能です。
準委任契約でトラブルが生じた場合、損害の拡大を防ぐには、早期に適切な対応をすることがポイントになります。
弁護士に依頼すれば、準委任契約の相手方との対応を任せることができますので、専門的な観点から適切な対応が期待できます。正確な知識がなければトラブル対応は難しいといえますので、専門家である弁護士に任せるのがおすすめです。
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