下請法では、下請事業者を保護するさまざまな規制が設けられています。
約束手形による下請代金の支払いも、下請法によって規制されています。令和6年11月から「60日ルール」が適用され、60日を超えるサイトの約束手形の交付は行政指導の対象になりました。下請事業者が、長すぎるサイトの約束手形を受け取った場合は、弁護士に相談しながら対応を検討しましょう。
本記事では、下請代金の約束手形による決済について、60日ルールや下請事業者が注意すべきポイントなどをベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
下請法では、下請事業者を保護するための規制が設けられています。約束手形による決済についても、親事業者がサイト(=手形期間または決済期間)の長すぎる約束手形を交付すると、下請法違反に該当するケースがあります。
「下請法」とは、親事業者と下請事業者の取引において、下請事業者の利益を保護するための規制を定めた法律です。正式名称は「下請代金支払遅延等防止法」といいます。
下請事業者は、親事業者と比べて立場が弱いのが一般的です。下請事業者が親事業者によって搾取されるような事態を防ぐために、下請法によって親事業者が順守すべき事項が定められています。
約束手形の決済に関して、親事業者は、下請代金の支払期日までに一般の金融機関によって割引を受けることが困難だと認められる手形を交付して、下請事業者の利益を不当に害してはならないと定められています(下請法第4条第2項第2号)。
下請代金の支払期日は、親事業者が下請事業者の給付を受領(じゅりょう)した日、または下請事業者が役務を提供した日から起算して、60日以内かつできるだけ短い期間内で定める必要があります(同法第2条の2)。
したがって、手形サイト(=手形期間または決済期間)が60日を超える約束手形によって親事業者が下請代金を支払うことは、下請法違反に該当する可能性があります。
サイトが長すぎる約束手形を受け取ると、その手形はすぐに現金化できないため、下請事業者は資金繰りが悪化してしまいます。
また、手形の支払期日が来ていないうちに、親事業者が倒産してしまった場合、下請代金を回収できなくなるリスクもあります。
下請事業者としては、できる限り現金で下請代金の支払いを受けるか、またはサイトの短い約束手形の交付を受けることが望ましいです。
公正取引委員会は、令和6年11月1日以降、下請代金の支払い手段としてサイトが60日を超える手形等を交付した親事業者を下請法違反のおそれがあるとして、指導の対象とする方針を公表しました。公正取引委員会の上記方針は、「60日ルール」と呼ばれています。
さらに公正取引委員会および中小企業庁は、60日ルールを運用するにあたって、手形サイトが60日を超える手形等によって下請代金を支払っている、かつ現金払いへ変更したり手形等のサイトを60日以内へ短縮したりする予定がないとした親事業者に対して、手形等のサイトを60日以内に短縮するよう求める注意喚起もしました。
下請代金の支払い手段としての手形等については、昭和41年以降、業界の商慣行や金融情勢等を総合的に検討して、サイトが120日(繊維業については90日)を超える場合に限って指導の対象とされてきました。
しかし、下請法により、下請代金の支払期日は納品やサービスの提供から60日以内とされています。下請法の規定を素直に解釈すれば、下請代金の支払い手段である手形等についても、サイトが60日を超える場合は下請法違反に当たると理解すべきです。
このような下請法の規定を前提としつつ、改めて業界の商慣行や金融情勢等を総合的に検討した結果、令和6年11月1日以降は60日ルールへ変更されました。
参考:「(令和6年10月1日)手形等のサイトの短縮について」(公正取引委員会)
下請代金の手形決済につき60日ルールが導入されたことに関連して、親事業者から約束手形を受け取る下請事業者においては、以下のポイントに注意しつつ対応しましょう。
親事業者が60日を超えるサイトの約束手形を交付してきた場合は、下請法違反に該当する可能性が高いといえます。
下請法違反に当たる親事業者の行為については、公正取引委員会が申告を受け付けています。必ず対応してもらえるわけではありませんが、悪質なケースについては勧告などを行ってもらえることがありますので、公正取引委員会への申告を検討しましょう。
参考:「下請法に関する申告の受付」(公正取引委員会)
約束手形は、金融機関で割引を受けることにより、支払期日よりも前に現金化することができます。ただし、手形の割引を受ける場合は、年2~15%程度の割引手数料がかかります。実際の手数料率については、金融機関や振出人の信用性、支払期日までの期間などによって異なります。
下請代金の支払い手段として受け取った約束手形につき、割引を受けようとする場合は、割引手数料がかかることを十分考慮しましょう。資金繰りなどの関係でやむを得ないケースも考えられますが、そうでなければ割り引かずに満期まで保有していた方がよいかもしれません。
また、親事業者との間で下請代金の額や支払い方法を取り決める際には、割引手数料などのコストを下請事業者が負担せずに済む形とすることが望ましいです。可能であれば、割引手数料に相当する下請代金の増額などを求めて、親事業者と交渉しましょう。
中小企業庁長官と公正取引委員会事務総長は、下請代金の支払い手段について、できる限り現金によるべき旨を事業者団体向けに通達しています。これは、手形等についてはサイトが長いケースが見られることや、割引手数料などのコストを下請事業者が負担するケースが多いことが問題視されているためです。
参考:「下請代金の支払手段について」(公正取引委員会)
下請事業者としては、約束手形ではなく現金で下請代金の支払いを受けた方が、資金繰りが安定し、親事業者の倒産によるリスクも軽減されます。そのため、慣例的に約束手形による決済が行われているとしても、現金決済に切り替えてもらえるように親事業者と交渉してみましょう。
政府は令和8年度末までに、紙の約束手形の利用を廃止して、全面的に電子化する方針を示しています。電子化によって紙の約束手形は電子記録債権へと移行する予定です。
下請事業者にとって、電子記録債権には以下のようなメリットがあります。
まだ電子記録債権を取り扱っていない下請事業者は、金融機関の窓口で受け取り方法などを確認しておきましょう。
参考:「約束手形を振り出している発注者の皆様へ 紙の約束手形、やめませんか?」(中小企業庁)
参考:「企業経営者・経理担当者の皆さま 2026年度末までに紙の手形・小切手の全面的な電子化」(一般社団法人全国銀行協会)
下請事業者においては、親事業者との取引に関して、立場上言い出しづらい問題が多々あるでしょう。特に下請法違反に該当し得る親事業者の不適切な行為については、速やかに弁護士へご相談ください。
弁護士に相談することには、主に以下のメリットがあります。
弁護士と協力して対応することが、親事業者とのトラブルを未然に防ぎ、またはすでに発生したトラブルをスムーズに解決することにつながります。
親事業者との関係性に悩んでいる下請事業者は、お早めに弁護士へご相談ください。
約束手形による下請代金の支払いについては、令和6年11月1日以降、サイトが60日を超える場合は行政指導の対象とされています。
長すぎるサイトの約束手形の交付を受けると、下請事業者は資金繰りが悪化するうえに、親事業者の倒産リスクも生じます。もしサイトが60日を超える約束手形を交付されたら、弁護士を通じて親事業者に是正を求めましょう。
ベリーベスト法律事務所は、下請取引に関するご相談を受け付けております。下請法の規制を踏まえつつ、下請事業者の権利を守るために、経験豊富な弁護士が適切に対応いたします。親事業者の不適切な行為に悩んでいる下請事業者の方は、ベリーベスト法律事務所へご相談ください。
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