長時間残業が過労死を招く大きなリスクとなることは、広く知られているところでしょう。
そもそも残業時間の上限は法律で規制されているため、企業はまずもって、残業時間の上限規制を守る必要があります。しかし、それだけでは過労死の防止対策として十分とはいえません。
そこで今回は、残業による過労死のリスクと、過労死を防止するための注意事項について、弁護士がわかりやすく解説します。
法律で定められた残業時間の上限を企業が守れば、従業員の過労死の防止に大きく役立ちます。しかし、残業時間の上限さえ守れば安心というわけではありません。
ここでは、残業時間の上限規制と過労死のリスクとの関係について説明します。
労働基準法で定められた残業時間の上限には、「原則」と「例外」があります。それぞれの内容は第3章で詳述しますが、「原則」を守れば過労死のリスクは低いといえます。
大企業に対しては2019年4月から、中小企業に対しても2020年4月から、残業時間の上限が明記された改正労働基準法が施行されています。残業時間の上限規制は国が推奨する働き方改革の一環として導入されましたが、労働者の健康維持を最大の目的としていることは間違いありません。
したがって、残業時間に関する法律上の上限を守れば、従業員の健康障害を防止できる可能性は高いと考えられます。
ただし、過労死を引き起こす要因は長時間労働だけでなく、他にも業務内容や勤務時間の不規則性、職場環境など、さまざまなものがあります。そのため、企業としては、過労死を防止するために残業時間の上限さえ守れば安心というわけではなく、残業時間の上限を守ることは必要最低限の対策にすぎないと考えるべきです。
企業は、労働基準法第36条に基づく労使協定(以下「36協定」といいます)に特別条項を設ければ、「原則」を超えて従業員に残業をさせることができます。
ただし、法律上の原則を超えて残業をさせると、従業員の心身に疲労が蓄積されやすくなり、過労死のリスクが高まることに注意すべきです。
そのため、厚生労働省も、労働基準法第36条第7項に基づき策定した指針(36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針)の⑧で、企業に対し、限度時間を超えて労働させる労働者の健康・福祉を確保するための措置をとるべきことを要請しています。
36協定に特別条項を設けたとしても、無制限に従業員を働かせることはできません。労働基準法第36条第5項および第6項では、特別条項を設ける場合の残業時間の上限が定められています。
この上限時間数を超えて残業をさせると、従業員の健康障害や死亡につながるリスクが高まります。
そもそも特別条項の上限を超えて従業員を働かせることは違法なので、企業としては絶対に控えるべきです。
問題社員のトラブルから、
過労死を防止するために企業が注意すべきものとして「過労死ライン」があります。
過労死ラインとは、時間外労働によって健康障害や死亡のリスクが高まると考えられる時間数の目安のことです。法律で過労死ラインが定められているわけではありませんが、厚生労働省が労災認定基準として時間外労働時間数の目安を掲げており、これが一般的に「過労死ライン」と呼ばれています。
厚生労働省の過労死等に関する労災認定基準で示された時間外労働時間数の目安は、以下のとおりです。
参考:「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」(厚生労働省)
この労災認定基準においても、労働時間が唯一の絶対的な基準とされているわけではなく、業務量や業務内容、作業環境等を総合的に考慮した上で、業務による加重負担の有無や程度を判断しなければならないとされています。
次に、法律で定められた残業時間の上限規制の内容を紹介します。
先ほども説明しましたが、企業としては、以下の法的規制は絶対に守らなければなりません。
法律上、1日当たりの労働時間は8時間までで、かつ、1週間につき40時間までと定められています(労働基準法第32条第1項、第2項)。そして、毎週少なくとも1回の休日を与えなければなりません(同法第35条第1項)。
これを超えて労働者を働かせるためには、36協定を締結し、労働基準監督署へ届け出ることが必要です(同法第36条第1項)。
36協定を締結・届け出た場合の残業時間の上限は、原則として月45時間までで、かつ、年360時間までとされています(同条第3項、第4項)。
次に説明する「特別条項」を36協定に設けない限り、この原則的な上限を超えて残業させると違法になるので、注意が必要です。
企業は、36協定に特別条項を設けることにより、「月45時間・年360時間」の上限を超えて従業員に残業をさせることができます。ただし、その場合でも以下の上限を超えることは許されません(労働基準法第36条第5項、第6項)。
こうしてみると、厚生労働省が掲げた過労死ラインを超えて従業員に残業をさせることは、法律にも違反するということがわかるでしょう。
労働基準法上の上限規制に違反した場合は、会社側に罰則が適用されるおそれがあります。その罰則は、「6か月以上の懲役または30万円以下の罰金」です(同法第119条第1号)。
その他にも、万が一、過労死が発生した場合には、企業は民事上の損害賠償義務を負わなければなりません。さらに、企業イメージが低下し、業績の悪化を招く元にもなりかねません。
このようなリスクを回避するためにも、企業が過労死防止対策をとることは極めて重要です。
過労死を防止するためには、残業時間の上限規制を守ることを前提として、企業は以下のことに留意する必要があります。
過労死の要因は長時間残業だけではありませんが、長時間残業が常態化している職場では特に、残業時間を減らすことが過労死の防止に大きく役立つはずです。したがって、残業時間を必要最小限にとどめることを検討しましょう。
残業時間を減らすためには人員を増やすことが効果的ですが、それが難しい場合でも、業務フローを見直し、作業効率の向上を図ることで残業時間を削減できる可能性も十分にあります。
また、フレックス制やリモートワークなどの柔軟な勤務スタイルを導入することにより、各従業員の作業効率を高めることも考えられます。
会社によっては、残業時間を削減するという方針を示し、勤怠管理を徹底するだけでも、ある程度は残業時間を減らせることもあるでしょう。
ある程度の残業が避けられない職場では、労働者の健康・福祉を確保するために適切な措置をとることが大切です。
厚生労働省の「36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針」では、次の中から適切なものを選んで労使協定を結ぶことが望ましいとされています。
これらの措置は、「月45時間、年360時間」の原則的な上限を超えて労働させる場合に推奨されているものです。しかし、過労死防止対策を万全なものとするためには、原則的な上限を超えない場合でも、可能な限りの措置を検討した方がいいでしょう。
問題社員のトラブルから、
労働基準法による残業時間の上限規制の内容は複雑なので、よくわからないという方もいることでしょう。その上に、過労死を防止するためには、業務量や業務内容、作業環境等をはじめとして、さまざまな要因を考慮しなければなりません。
万全な過労死防止対策をとるためには幅広い専門知識を要するため、企業法務に強い弁護士へのご相談をおすすめします。企業法務に強い弁護士へ相談すれば、過労死防止対策について適切なアドバイスが期待できます。弁護士へご相談の上、残業時間の削減をはじめとする過労死防止対策を検討していきましょう。
ベリーベスト法律事務所には、企業法務の実績が豊富にございます。残業時間に関する問題はもちろんのこと、顧客や取引先からのクレームや社内のハラスメント問題など、過労死につながるリスクのある問題について、全般的なアドバイスが可能です。
過労死のリスクが気になる企業の担当者の方は、お気軽にご相談ください。
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