宗教法人には、一定の書類と帳簿を備え付けることが義務付けられています。宗教法人の備え付け書類のうち、一部の書類は、写しを所轄庁に提出しなければなりません。
また、信者その他の利害関係人から備え付け書類の閲覧請求があった際は、応じなければならないこともあります。後々のトラブルを回避するためにも、宗教法人法の規定に沿って対応しましょう。
本記事では、宗教法人に備え付け書類が必要な理由や、所轄庁に提出すべきものと提出方法、注意点などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
宗教法人の事務所には、宗教法人法で定められた書類および帳簿(以下、「備え付け書類」)を常に備え付けておかなければなりません。
宗教法人が常に事務所に備え付けるべき書類および帳簿は、以下のとおりです(宗教法人法第25条第2項)。
宗教法人に書類の備え付けが求められているのは、宗教法人が公益性を有する組織であり、多数の信者や、その他の利害関係人がいることを踏まえて、運営の透明性を確保するためです。
宗教法人は、信者その他の利害関係人からお金を集めて宗教活動を行っています。その大部分は「宗教活動に役立ててほしい」という善意からの寄付によるものです。
お金を出している信者その他の利害関係人は、宗教法人が適切に運営されているかどうかを知る権利があります。信者その他の利害関係人が、宗教法人の運営の実態を知ることができるよう、宗教法人は、義務として書類・帳簿の作成を行い、備え付けておかなければなりません。
また、宗教法人の備え付け書類は、所轄庁(=都道府県知事または文部科学大臣)が監督を行う際にも役立ちます。たとえば、不適切な運営を行っていないかどうか、書類内容と運営の実態が合っているかどうかなど、運営状況について一定の把握が可能です。
後述するように、備え付け書類のうち、一部は写しを所轄庁に提出することが義務付けられているため、ご注意ください。
宗教法人の事務所に書類および帳簿を備え付ける義務を怠った者は、10万円以下の過料に処されます(宗教法人法第88条第4号)。
書類や帳簿の作成等に不安がある際は、弁護士にご相談ください。
宗教法人の備え付け書類は、うち一部の写しを所轄庁に提出することが義務付けられています。
宗教法人の備え付け書類のうち、会計年度が終わる度に、所轄庁に写しを提出すべきものは以下のとおりです(宗教法人法第25条第4項)。
認証書については所轄庁から発行されるものであり、規則については、認証に際して所轄庁にて対して提出していますので、宗教法人法第25条4項で写しを求められる書類には含まれていません。「責任役員その他規則で定める機関の議事に関する書類および事務処理簿」は、所轄庁に写しを提出する必要はありませんが、事務所に原本を備え置くようにしてください。
なお所轄庁は、上記の提出書類を取り扱うに当たり、宗教法人の宗教上の特性および慣習を尊重し、信教の自由を妨げることがないよう、特に留意しなければならないものとされています(同条第5項)。
宗教法人の備え付け書類の写しは、所轄庁に対して提出します。
宗教法人の所轄庁は、原則として、主たる事務所の所在地を管轄する都道府県知事です(宗教法人法第5条第1項)。都道府県知事が所轄庁である場合は、各都道府県の宗教法人担当部署に対して備え付け書類の写しを提出します。
たとえば東京都では、都庁内に設置された「生活文化スポーツ局都民生活部管理法人課宗教法人担当」が備え付け書類の写しの提出を受け付けています。
参考:「宗教法人」(東京都)
ただし、以下のいずれかに該当する場合、宗教法人の所轄庁は文部科学大臣で、文化庁が備え付け書類の写しの提出先となる点にご留意ください(同条第2項)。
要するに、複数の都道府県にわたって拠点を有している宗教法人は、文部科学大臣が所轄するということです。
宗教法人の備え付け書類の写しを所轄庁に提出する方法は、窓口へ持参または郵送のいずれかとなります。所轄庁に応じた都道府県庁または文化庁の窓口や住所を調べましょう。
なお、文化庁に対しては、郵送による提出が原則とされています。
備え付け書類の写しは、毎会計年度終了後4か月以内に提出しなければなりません(宗教法人法第25条第4項)。会計年度は、各宗教法人の規則の定めに従います。
総会の議決など、宗教法人内部で行うべき手続きが終わっていない場合も、提出期限内に書類を提出したうえで、総会の議決など必要な手続きを後日行うことが必要です。
提出が遅れると、所轄庁から督促の通知が行われるため、提出していなかったことを認識した時点で速やかに対応しましょう。
参考:「提出期限 3 いつまでにどのように提出するのですか。」(文化省)
信者その他の利害関係人であって、備え付け書類を閲覧することに正当な利益がある者は、宗教法人に対して備え付け書類の閲覧を請求できます。
宗教法人が上記の者から閲覧請求を受けた際は、その請求が不当な目的によるものである場合を除き、備え付け書類を閲覧させなければなりません(宗教法人法第25条第3項)。
備え付け書類を閲覧する「正当な利益」には、主に以下のような利益が含まれます。
「正当な利益」の例 |
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・宗教法人の適正な運営に資する利益 (例)信者として、宗教法人が適正に運営されているかどうかを確認したい ・債権を確保する利益 (例)宗教法人にお金を貸している立場として、財務状況が健全であるかどうかを確認したい |
閲覧請求が「不当な目的」によると認められるのは、たとえば以下のようなケースです。
「不当な目的」の例 |
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基本的には、信者から備え付け書類の閲覧請求を受けた場合、特段の事情がない限り応じる必要があると考えられます。信者からの閲覧請求を拒否するとしたら、上記に挙げたような不当な目的に基づくと合理的に判断できる場合に限定すべきでしょう。
備え付け書類のほか、宗教法人の運営に当たっては、法的に注意すべき事項がたくさんあります。たとえば、以下のようなポイントに注意してください。
法的な注意事項を踏まえて、宗教法人を適正に運営するためには、弁護士のアドバイスが役立ちます。
また、弁護士と顧問契約を締結すれば、宗教法人の運営に関する疑問点について、いつでもスムーズに相談することが可能です。宗教法人の法務対応を適切に進めるためには、弁護士との顧問契約を活用することもおすすめします。
宗教法人は、常に事務所に一定の書類・帳簿を備え付けなければなりません。
また、備え付け書類のうち、一部の書類については所轄庁に提出する必要があり、信者その他の利害関係人からの閲覧請求への対応も必要です。
備え付け書類に関する事項以外にも、宗教法人の運営に当たっては注意すべきポイントがたくさんあります。弁護士のサポートを受けながら、宗教法人法のルールを守った適正な運営を心がけましょう。
ベリーベスト法律事務所は、宗教法人の運営に関するご相談を随時受け付けております。ニーズに応じてご利用いただける顧問弁護士サービスもございますので、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所へご相談ください。
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