宗教法人が行う不動産貸付は、収益事業にあたる場合とそうでない場合があります。収益事業にあたる場合は、法人税等の申告などが必要となる点に注意しましょう。
そのほかにも、宗教法人の不動産貸付には法律上の注意点が数多くあるので、弁護士に相談することをおすすめします。
本記事では、宗教法人の不動産貸付が収益事業にあたるかどうかの判断基準や、収益事業として不動産貸付を行う際の対応・注意点などをベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
宗教法人が行うメインの活動は「宗教活動」ですが、それ以外にも事業を行うことができます。宗教法人が行う事業からも、民間企業などが行う事業と同様に、収益が発生するケースがあるでしょう。
宗教法人については、その公益性に鑑み、法人税等が原則として非課税とされています。ただし「収益事業」を行う場合には、宗教法人であっても法人税等が課税されます(法人税法第4条第1項など)。
「収益事業」にあたるのは、以下の34種類のうちいずれかに該当し、継続して事業場を設けて行われる事業です(法人税法第2条第13号、法人税法施行令第5条)。
ただし例外的に、上記の34業種にあたる事業でも、収益事業に該当しないケースがあります。
不動産貸付業は上記の34業種に含まれているため、原則として収益事業にあたり、法人税等の課税対象となります。
たとえば、以下のような不動産貸付業は収益事業に該当します。
収益事業にあたる不動産貸付業の例 |
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ただし例外的に、宗教法人が行う不動産貸付業のうち、以下のいずれかにあたるものは収益事業に該当しません(法人税法施行令第5条第1項第5号、法人税法施行規則第4条、法人税基本通達15-1-20・15-1-21)。
宗教法人が行う墳墓地の貸付業は、その公益性に鑑み、一律で収益事業の対象外とされています。また、建物を建設するための土地を貸し付ける事業も、地代が低廉であるなど一定の要件を満たせば、収益事業に該当しません。
宗教法人の不動産貸付が収益事業にあたるかどうかについては、法的な観点から慎重な検討を要するため、弁護士や税理士に相談することをおすすめします。
宗教法人が収益事業にあたる不動産貸付を行う際、必要となる対応や注意すべきポイントを解説します。
宗教法人が収益事業にあたる不動産貸付を行う際には、規則においてその旨を明記する必要があります。宗教法人が規則に記載のない収益事業を行った場合、その事業に関する宗教法人の行為の効力が否定される可能性もあります(宗教法人法第10条参照)。
規則に上記の記載がない場合は、変更手続きが必要です。規則に定められた手続きに従って変更内容を決定し、その変更について所轄庁の認証を受けます(同法第26条)。
所轄庁の認証書が交付された時点で、規則の変更の効力が発生し、収益事業にあたる不動産貸付を行うことができるようになります(同法第29条)。
宗教法人が新たに収益事業を開始した場合は、開始日以後2か月以内に、納税地の所轄税務署長に対して「収益事業開始等届出書」を提出しなければなりません。
参考:「C1-6 公益法人等又は人格のない社団等の収益事業開始等の届出」(国税庁)
また、都道府県や市区町村への届出も必要となります。具体的な手続きの方法は、各自治体の窓口でご確認ください。
宗教法人が行う収益事業には法人税等が課されますが、その他の活動や事業から得られる収益は非課税です。
したがって、宗教法人が会計処理を行う際には、収益事業とその他の活動・事業を分ける必要があります。それぞれ別々の会計帳簿を作成しましょう。
宗教法人が行う収益事業に関しては、原則として事業年度終了後2か月以内に、以下の税金に関する申告を行う必要があります。
また、過去の納税額などによっては、中間申告が必要となることもあります。税理士のサポートを受けながら、漏れのないよう税務申告を行いましょう。
宗教法人は、毎会計年度終了後3か月以内に財産目録を作成し、それを常に事務所に備えなければなりません(宗教法人法第25条第1項・第2項)。不動産を取得または売却した際には、資産の増減等を財産目録に反映する必要があります。
また、宗教法人が不動産を売却する際には、売却日の1か月以上前に、信者その他の利害関係人に対し、要旨を示してその旨を公告しなければなりません(同法第23条第1号)。
主要な境内建物または境内地を賃貸に転用する場合も、同様に公告が必要です(同条第5号)。
平成4年8月1日に施行された借地借家法では、建物所有目的の土地または建物の賃貸借契約に関して、借主側の保護が大幅に強化されました。
貸主である宗教法人は、同日以降に締結した賃貸借契約について、特に以下のポイントに留意する必要があります。
上記以外にも、借地借家法に関して貸主側が留意すべきポイントは多数存在します。借主とのトラブルを防ぐため、弁護士のアドバイスを受けながら対応しましょう。
宗教法人の土地上に建物を所有する借主は、その建物を担保に入れて銀行からお金を借りようとするケースがあります。
この場合、貸主である宗教法人は、建物への抵当権設定に関する承諾を求められるのが一般的です。
抵当権を実行した際に、借主から競売による落札者へと借地権が移転するところ、借地権の移転について地主の承諾が必要となります。抵当権設定の承諾依頼は実質的に、借地権の移転に関する地主の承諾を前もって得ておこうとするものです。
地主としては、抵当権設定を承諾する義務はありません。借主の便宜のために協力することも可能ですが、銀行などに対する義務を一切負わないようにしておくべきです。
たとえば、承諾書に「地代の不払いが生じたときは、速やかに銀行へ通知する」「借地権の価値を毀損するような行為をしない」などと記載されている場合は、その文言の削除を求めましょう。
また、借地権の移転に関する承諾時には、譲渡承諾料が授受されるのが一般的です。そのことを踏まえて、抵当権設定を承諾する際にも承諾料の支払いを求めることが考えられます。
宗教法人が貸している土地の借主は、賃貸借契約上の借主を変更したいと申し出てくることがあります。
たとえば、高齢になった親が宗教法人から借りている土地上に、新しく建物を建てたいとします。しかし、高齢者はローンの審査に通りにくいため、子どもが代わりにローンを組むケースが多いです。
この場合、新しい建物の所有者は子どもになりますが、敷地の借地権者と建物の所有者が異なるとローンの審査に支障が出るため、敷地に関して借主の名義変更を希望することになります。
貸主である宗教法人としては、名義変更に応じる義務はありません。
借主の便宜のために協力することは可能ですが、その場合は地代が適切に支払われるかどうかなどを慎重に確認すべきです。
宗教法人が収益事業にあたる不動産貸付によって得た収益は、収益事業以外の事業(宗教活動や公益事業など)に用いることもできます。
この場合は、支出した金額が収益事業に係る寄附金の額とみなされます。寄附金の額は、以下の式によって計算した金額の範囲内で、収益事業の損金に算入することができます。
宗教法人が行う不動産貸付業に関しては、法律や税金に関する注意点が多数あります。十分な知識がないまま判断するのは危険なので、弁護士や税理士にアドバイスを求めましょう。
会計処理や法人税等の申告、みなし寄附金など、税務・会計に関することは税理士が対応しています。
これに対して弁護士は、宗教法人法に関する手続きや賃貸借契約、借地借家法など、契約・法律に関する事柄を取り扱っています。特に借主とのトラブルの予防や対応については、弁護士に相談するのが安心です。
弁護士と顧問契約を締結すれば、不動産貸付に関する契約や法律の疑問点について、いつでも相談することができます。まだ顧問弁護士がいない宗教法人は、弁護士との顧問契約をご検討ください。
宗教法人が行う不動産貸付は、墳墓地の貸付や低廉な地代による建物敷地の貸付などを除いて収益事業にあたり、法人税等の課税対象となります。
不動産貸付が収益事業にあたるかどうかは、法律の要件に照らして判断する必要があります。また、宗教法人が行う不動産貸付については、契約や法律などに関する多くのポイントに留意しなければなりません。
顧問弁護士と契約すれば、宗教法人の不動産貸付についていつでもアドバイスを受けられるため安心です。ベリーベスト法律事務所は、リーズナブルな料金からご利用いただける顧問弁護士サービスをご提供しておりますので、お気軽にご相談ください。
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