2025年08月27日
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公益通報者保護法とは? 違反したときの罰則や不祥事への対応を解説

公益通報者保護法とは? 違反したときの罰則や不祥事への対応を解説

公益通報者保護法は、「公益通報」に関するルールを定めた法律です。公益通報者に対する不利益な取り扱いが禁止されるなど、企業内における違法行為の通報を促すための仕組みが整備されています。

公益通報者を不当に取り扱った企業は、さまざまなリスクを負うことになるため、ご注意ください。仮に公益通報が発覚した際は、弁護士のサポートを受けながら、公益通報者保護法を遵守した対応に努めましょう。

本コラムでは、企業が知っておくべき公益通報者保護法の内容や注意点などについて、ベリーベスト法律事務所 危機管理専門チームの弁護士が解説します。

1、公益通報者保護法とは?

公益通報者保護法とは、「公益通報」に関するルールを定めた法律です。1章では、公益通報者保護法を理解するために、公益通報の概要などについて解説します。

  1. (1)公益通報と内部告発の違い

    公益通報とは、社内における違法行為に関する通報のうち、公益通報者保護法によって通報者が保護されるものです。

    社内における違法行為を早期に発見して対処するためには、従業員などの内部者による通報が重要なきっかけとなります。
    しかし、通報することによって会社から不利益な取り扱いを受ける可能性があると、そのことに萎縮して通報できない人もいるかもしれません。

    そこで、公益通報者保護法では、一定の要件を満たす違法行為の通報を「公益通報」と定義し、通報者に対する不利益な取り扱いを禁止しています。このような公益通報者保護制度(公益通報制度)により、違法行為に関する通報を促す効果が期待されるでしょう。

    なお、企業の内部者による違法行為の通報は「内部告発」と呼ばれることもあります。
    内部告発には、公益通報として保護されるものと、そうでないものの両方が含まれます。内部告発が公益通報として保護されるときは、公益通報者保護法の要件を満たさなければなりません。

  2. (2)公益通報者として保護され得る人

    公益通報者として保護されることがあるのは、下表の「保護対象者」に該当する人です(公益通報者保護法第2条第1項、第2項)。

    保護対象者 通報対象
    • 労働者
    • 労働者であった者
    • 使用者
    • 1年以内に使用者であった事業者
    • 派遣労働者
    • 派遣労働者であった者
    • 派遣先の事業者
    • 1年以内に派遣先であった事業者
    • 請負契約等に基づく事業に従事している労働者、派遣労働者
    • 1年以内に請負契約等に基づく事業に従事していた労働者、派遣労働者であった者
    • 注文者である事業者
    • 役員
    • 役員として所属する事業者
    ※当該事業者が請負人であるときは、注文者である事業者

    「保護対象者」に対応した「通報対象」に関する違法行為の事実を所定の窓口に通報したときは、公益通報者として保護されます。

  3. (3)公益通報の対象事実

    公益通報の対象となるのは、以下のいずれかに該当する事実です(公益通報者保護法第2条第3項)。

    • ① 犯罪・過料に当たる行為の事実
    ※対象となるのは、労働基準法、食品衛生法、個人情報保護法、会社法など、公益通報者保護法別表に掲げる法律に規定されたものに限る
    • ② ①の犯罪・過料に該当する行政処分の理由となる事実
  4. (4)公益通報として保護されるための要件

    公益通報として保護されるための要件は、通報先の窓口によって異なります

    会社が設置した社内窓口や、会社が委託した社外窓口(例:外部弁護士)への通報は、比較的緩やかな要件で保護対象となりますが、報道機関等への公益通報の要件はかなり厳しくなっています。

    通報先 公益通報として保護されるための要件
    ※労働者・派遣労働者等による通報の場合
    会社が定めた社内窓口または社外窓口
    (例)人事部、公益通報窓口、外部の弁護士など
    公益通報者が、通報対象事実が生じ、またはまさに生じようとしていると考えていること
    行政機関等
    ※通報対象事実について処分・勧告等の権限を有する行政機関、またはその行政機関が定めた外部窓口
    以下のいずれかに該当すること
    • ① 公益通報者が、通報対象事実が生じ、またはまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある
    • ② 公益通報者が、通報対象事実が生じ、またはまさに生じようとしていると考え、かつ所定の事項を記載した書面によって実名で通報した
    通報が違法行為の発生や被害拡大の防止に必要と認められる者
    (例)報道機関、消費者団体、労働組合、違法行為によって被害を受けている者またはそのおそれがある者など

    ※通報の対象となった事業者の競争上の地位など、正当な利益を害するおそれがある者を除く
    公益通報者が、通報対象事実が生じ、またはまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があり、かつ以下のいずれかに該当すること
    • ① 社内窓口・社外窓口・行政機関等に公益通報を行うと、解雇その他不利益な取扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由がある
    • ② 社内窓口・社外窓口に公益通報を行うと、証拠の隠滅・偽造・変造のおそれがあると信ずるに足りる相当の理由がある
    • ③ 社内窓口・社外窓口に公益通報を行うと、通報者を特定できる事項を正当な理由なく漏らされると信ずるに足りる相当の理由がある
    • ④ 使用者に、公益通報をしないよう正当な理由なく要求された
    • ⑤ 社内窓口・社外窓口への公益通報後20日が経過しても調査開始の通知がなく、または使用者が正当な理由なく調査を行わない
    • ⑥ 個人の生命や身体への危害、または個人(個人事業主を除く)の財産に対する重大な損害が発生し、または発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある
  5. (5)公益通報者に対する保護の内容

    公益通報者に対して、事業者が以下の行為をすることは禁止されています。

    • 公益通報を理由とする解雇(公益通報者保護法第3条)
    • 公益通報を理由とする労働者派遣契約の解除(同法第4条)
    • 公益通報を理由とする不利益な取り扱い(同法第5条)
    • 公益通報を理由とする損害賠償請求(同法第7条)

    公益通報を理由に役員を解任すること自体は形式上可能ですが、その解任理由が公益通報にある場合、役員は会社に対して損害賠償請求を行うことができます(同法第6条)。

2、令和4年の公益通報者保護法改正による変更点

令和4年6月1日から施行された改正公益通報者保護法では、公益通報者をより実効的に保護し、企業内部における体制強化・制度信頼性を向上するために、以下の変更が行われました。

  • 従業員数が300人を超える事業者に対して、内部通報への対応体制(窓口設置、調査手続、従事者の指定など)の整備を義務付け
  • 内部調査に従事する者の守秘義務の新設
  • 行政機関等や報道機関等への通報要件の緩和
  • 保護対象者の範囲の拡大(1年以内の退職者や役員も保護の対象になった)
  • 通報対象事実の範囲の拡大(過料の対象となる行為も通報の対象になった)
  • 公益通報者の損害賠償責任を免除する規定の追加

帝国データバンクが令和5年10月に行った「公益通報者保護制度に関する企業の意識調査」によると、下表のとおり、改正法の施行から1年余りが経過しているにもかかわらず、改正法への対応を行っている企業は2割程度にとどまっています。

対応状況 内訳 割合
対応している(計) 内容を理解し、対応している 8.8%
内容をある程度理解し、対応している 10.9%
合計 19.7%
対応していない(計) 内容は理解しているが、対応していない 9.4%
内容はある程度理解しているが、対応していない 17.4%
言葉だけは知っているが、対応していない 20.8%
言葉も知らない 18.8%
合計 66.4%
分からない - 14.0%

※調査対象企業数:1506社

公益通報が行われるケースに備えて、各企業は公益通報者保護法の内容を理解し、体制整備などの必要な対応を行いましょう

3、公益通報者保護法に違反した場合のペナルティとリスク

公益通報者保護法に違反した企業は、以下のようなペナルティを受けるおそれがあります。

① 解雇等の無効
公益通報者保護法に違反して行われた解雇や、その他の不利益な取り扱い(減給、降格、退職金の不支給など)は無効です。

② 損害賠償
不当解雇その他の不利益な取り扱いを受けた労働者などから、損害賠償を請求されるおそれがあります。

③ 指導・勧告・公表処分
監督官庁から、違法状態の是正を求める指導や勧告を受けることがあります(公益通報者保護法第15条)。勧告に従わない場合は、違反事実や事業者名を公表されるおそれがあります(同法第16条)。

④ 罰則
公益通報を受け付ける担当者が、その業務に関して知り得た公益通報者を特定させる事項を正当な理由なく漏らした場合は、30万円以下の罰金に処されます(同法第21条)。
また、監督官庁から求められた報告を怠り、または虚偽の報告をした場合は、20万円以下の過料に処されます(同法第22条)。

公益通報者保護法に違反した事実が公になれば、企業のブランドイメージの毀損、社会的信用の喪失、従業員の離職や採用難といった重大な経営リスクを招く可能性があります。
そのため、各企業は、公益通報者保護法の規定を踏まえて、内部通報制度の運営や公益通報者の保護などを適切に行うことが必要です。

4、不祥事を起こした企業が行うべき対応

公益通報やメディア報道などをきっかけに企業不祥事が発覚したときは、以下の対応を講じましょう。

① 事実関係の調査
その後の対応方針を適切に決めるための前提として、事実関係の調査を行います。調査方法としては、関係者へのヒアリングや社内資料の確認などが挙げられます。

② 関係者の処分
違法行為をした関係者に対して、懲戒処分や解任などの処分を行います。公益通報者に対して不利益な取り扱いをしてはいけません。

③ 再発防止策の検討・実施
不祥事の原因を分析したうえで、二度と同じ不祥事が発生しないように再発防止を図りましょう。

④ ステークホルダーに対する説明
上記の各対応につき、ステークホルダー(株主や取引先など)に対して状況説明を行い、信頼の回復に努めましょう。

⑤ 監督官庁や警察などへの対応
監督官庁から報告を求められている場合や、警察から捜査協力を求められている場合には、誠実に協力しましょう。

なお、第三者委員会の設置や外部専門家の関与を検討することで、調査の客観性・中立性を担保することが望ましいケースもあります。

不祥事による影響を鎮静化して信頼回復につなげるためには、危機管理対応に詳しい弁護士のサポートが欠かせません。早期に弁護士へ相談して、適切な対応のあり方についてアドバイスを求めましょう。

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5、まとめ

公益通報者に対する解雇その他の不利益な取り扱いは、公益通報者保護法によって禁止されています。

公益通報者保護法に違反した企業は、通報者とのトラブルや行政処分、社会的信用の低下などのリスクを負うことになるため、十分にご注意ください。
自社内で不祥事が発生したら、信頼回復に向けて弁護士の協力を得ながら対応しましょう


ベリーベスト法律事務所は危機管理専門チームを編成しており、検察官出身の弁護士など、危機管理に長けた弁護士が在籍しております。さまざまな状況に対応しながらサポートいたしますので、ぜひ安心してご相談ください。

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