公益通報者保護法は、「公益通報」に関するルールを定めた法律です。公益通報者に対する不利益な取り扱いが禁止されるなど、企業内における違法行為の通報を促すための仕組みが整備されています。
公益通報者を不当に取り扱った企業は、さまざまなリスクを負うことになるため、ご注意ください。仮に公益通報が発覚した際は、弁護士のサポートを受けながら、公益通報者保護法を遵守した対応に努めましょう。
本コラムでは、企業が知っておくべき公益通報者保護法の内容や注意点などについて、ベリーベスト法律事務所 危機管理専門チームの弁護士が解説します。
公益通報者保護法とは、「公益通報」に関するルールを定めた法律です。1章では、公益通報者保護法を理解するために、公益通報の概要などについて解説します。
公益通報とは、社内における違法行為に関する通報のうち、公益通報者保護法によって通報者が保護されるものです。
社内における違法行為を早期に発見して対処するためには、従業員などの内部者による通報が重要なきっかけとなります。
しかし、通報することによって会社から不利益な取り扱いを受ける可能性があると、そのことに萎縮して通報できない人もいるかもしれません。
そこで、公益通報者保護法では、一定の要件を満たす違法行為の通報を「公益通報」と定義し、通報者に対する不利益な取り扱いを禁止しています。このような公益通報者保護制度(公益通報制度)により、違法行為に関する通報を促す効果が期待されるでしょう。
なお、企業の内部者による違法行為の通報は「内部告発」と呼ばれることもあります。
内部告発には、公益通報として保護されるものと、そうでないものの両方が含まれます。内部告発が公益通報として保護されるときは、公益通報者保護法の要件を満たさなければなりません。
公益通報者として保護されることがあるのは、下表の「保護対象者」に該当する人です(公益通報者保護法第2条第1項、第2項)。
保護対象者 | 通報対象 |
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「保護対象者」に対応した「通報対象」に関する違法行為の事実を所定の窓口に通報したときは、公益通報者として保護されます。
公益通報の対象となるのは、以下のいずれかに該当する事実です(公益通報者保護法第2条第3項)。
公益通報として保護されるための要件は、通報先の窓口によって異なります。
会社が設置した社内窓口や、会社が委託した社外窓口(例:外部弁護士)への通報は、比較的緩やかな要件で保護対象となりますが、報道機関等への公益通報の要件はかなり厳しくなっています。
通報先 | 公益通報として保護されるための要件 ※労働者・派遣労働者等による通報の場合 |
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会社が定めた社内窓口または社外窓口 (例)人事部、公益通報窓口、外部の弁護士など |
公益通報者が、通報対象事実が生じ、またはまさに生じようとしていると考えていること |
行政機関等 ※通報対象事実について処分・勧告等の権限を有する行政機関、またはその行政機関が定めた外部窓口 |
以下のいずれかに該当すること
|
通報が違法行為の発生や被害拡大の防止に必要と認められる者 (例)報道機関、消費者団体、労働組合、違法行為によって被害を受けている者またはそのおそれがある者など ※通報の対象となった事業者の競争上の地位など、正当な利益を害するおそれがある者を除く |
公益通報者が、通報対象事実が生じ、またはまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があり、かつ以下のいずれかに該当すること
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公益通報者に対して、事業者が以下の行為をすることは禁止されています。
公益通報を理由に役員を解任すること自体は形式上可能ですが、その解任理由が公益通報にある場合、役員は会社に対して損害賠償請求を行うことができます(同法第6条)。
令和4年6月1日から施行された改正公益通報者保護法では、公益通報者をより実効的に保護し、企業内部における体制強化・制度信頼性を向上するために、以下の変更が行われました。
帝国データバンクが令和5年10月に行った「公益通報者保護制度に関する企業の意識調査」によると、下表のとおり、改正法の施行から1年余りが経過しているにもかかわらず、改正法への対応を行っている企業は2割程度にとどまっています。
対応状況 | 内訳 | 割合 |
---|---|---|
対応している(計) | 内容を理解し、対応している | 8.8% |
内容をある程度理解し、対応している | 10.9% | |
合計 | 19.7% | |
対応していない(計) | 内容は理解しているが、対応していない | 9.4% |
内容はある程度理解しているが、対応していない | 17.4% | |
言葉だけは知っているが、対応していない | 20.8% | |
言葉も知らない | 18.8% | |
合計 | 66.4% | |
分からない | - | 14.0% |
※調査対象企業数:1506社
公益通報が行われるケースに備えて、各企業は公益通報者保護法の内容を理解し、体制整備などの必要な対応を行いましょう。
公益通報者保護法に違反した企業は、以下のようなペナルティを受けるおそれがあります。
公益通報者保護法に違反した事実が公になれば、企業のブランドイメージの毀損、社会的信用の喪失、従業員の離職や採用難といった重大な経営リスクを招く可能性があります。
そのため、各企業は、公益通報者保護法の規定を踏まえて、内部通報制度の運営や公益通報者の保護などを適切に行うことが必要です。
公益通報やメディア報道などをきっかけに企業不祥事が発覚したときは、以下の対応を講じましょう。
なお、第三者委員会の設置や外部専門家の関与を検討することで、調査の客観性・中立性を担保することが望ましいケースもあります。
不祥事による影響を鎮静化して信頼回復につなげるためには、危機管理対応に詳しい弁護士のサポートが欠かせません。早期に弁護士へ相談して、適切な対応のあり方についてアドバイスを求めましょう。
公益通報者に対する解雇その他の不利益な取り扱いは、公益通報者保護法によって禁止されています。
公益通報者保護法に違反した企業は、通報者とのトラブルや行政処分、社会的信用の低下などのリスクを負うことになるため、十分にご注意ください。
自社内で不祥事が発生したら、信頼回復に向けて弁護士の協力を得ながら対応しましょう。
ベリーベスト法律事務所は危機管理専門チームを編成しており、検察官出身の弁護士など、危機管理に長けた弁護士が在籍しております。さまざまな状況に対応しながらサポートいたしますので、ぜひ安心してご相談ください。
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