2025年09月22日
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【弁護士が解説】宗教法人が不動産を売却する手続きと注意点

【弁護士が解説】宗教法人が不動産を売却する手続きと注意点

檀家数の減少や不動産の維持費用の高騰といった課題に直面する宗教法人にとって、所有する不動産の売却は、運営を維持するための重要な選択肢となり得ます。

しかし、宗教法人が不動産を売却する際は、一般的な不動産取引とは異なり、宗教法人法に基づく特別な手続きが必要となるため、ご注意ください。また、手続きの不備や法令違反を防止し、無用なトラブルを回避するには、法令の規制内容を正確に理解して適切に対応することが不可欠です。

本コラムでは、宗教法人が不動産を売却する場面において問題となる法令や、行うべき手続き、リスクなどについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、宗教法人は不動産を自由に売却できるのか?

宗教法人は、活動のために不動産を所有すること、また、売却することも基本的に可能となっています。

しかし宗教法人の財産は、信者からの寄進(金銭や物品の寄付)などによって成り立っており、その公益性・公共性の観点から、売却にあたっては、宗教法人法および当該宗教法人の規則に定められた特別な手続きをしなければなりません

これは、宗教法人による財産の適正な管理・処分を担保し、信者や利害関係者の権利を守るための規制です。

正当な手続きを経ずに不動産を売却すると、契約の効力に疑義が生じたり、関係者から訴訟等の法的紛争に発展したりするおそれがあるため、注意しましょう。すでにトラブルになっている際は、弁護士にご相談ください。

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2、宗教法人が不動産を売却する際の手続き

本章では、宗教法人が不動産を売却する際に必要となる手続きについて、解説します。

  1. (1)責任役員会の議決

    宗教法人法第19条では、「宗教法人の事務」は責任役員の定数の過半数で決すると定められています。不動産の売却もこの「事務」に該当するため、原則として責任役員会の議決を取らなければなりません

  2. (2)総代会・包括宗教法人等の同意(規則に定めがある場合)

    不動産の処分など、重要な処分行為については、責任役員会の議決以外にも、宗教法人が独自に定める規則において、総代会等の同意が必要とされている場合があります。

    また、被包括宗教法人(特定の宗派に属する寺院など)では、包括宗教法人(宗派)の同意が求められていることもあり、この場合は、規則で定めるところに従わなければなりません。

  3. (3)公告

    公告とは、宗教法人の運営における重要な事項について、適切な方法によって信者その他の利害関係人に一定事項を周知することをいいます。

    宗教法人の財産は信者からの寄進で成り立っているため、それらがどのように扱われるのかは、信者にとって重大な関心事です。そのため、不動産売却を含む重要な財産処分について、信者その他の利害関係人にその実態を了知させるべく、以下のとおり、一定事項の公告が義務付けられています(宗教法人法23条柱書本文)。

    • 処分する物件
    • 処分する価格
    • 処分の目的
    • 処分の相手方
    • 処分の年月日
    • 処分の方法(売却等)

    公告の方法は、新聞紙または当該宗教法人の機関紙に掲載し、また、宗教法人の事務所の掲示場にも掲示し、その他当該宗教法人の信者や利害関係人に周知させるのに適当な方法でなければならないとされています(宗教法人法第12条2項)。

    公告の期間について、宗教法人法第23条柱書本文によれば、「一定期間の掲示」と「1か月の据置期間」が求められます。具体的には、規則で10日間の掲示が定められている場合、10日間の掲示期間が経過した翌日から1か月の据置期間を置き、その満了日以降に処分が可能です。

    たとえば、4月1日から掲示を始めた場合、民法140条(初日不算入)により、起算日は4月2日、満了日は4月11日となります。4月12日から1か月の据置期間が始まり、その満了日は5月11日、処分可能日は5月12日以降です(民法143条2項)。

    公告を行ったときは、後の紛争予防のためにも、公告が行われたことを証拠として保存しておきましょう。たとえば、公告文の写しや掲示物を保存する、信者その他の利害関係人複数名から公告を確認した旨の文書に署名押印をしてもらう、信者等が公告を見ている様子を写真で撮影しておく、といったことが望ましいです。

  4. (4)変更登記および届出

    基本財産とは、宗教法人などが宗教活動を行ううえで必要な財産的基礎となる財産をいい、境内地や境内建物などのほか一定の基金が該当するとされています。

    売却した不動産が基本財産にあたるケースでは、登記された「基本財産の額」に変更が生じることになるため、変更の生じた日から2週間以内に変更の登記をしなければなりません(宗教法人法第53条、同法第52条2項5号)。

    登記完了後は、遅滞なく、登記事項証明書を添えて、その旨を所轄庁に届け出なければなりません(宗教法人法第9条)。

3、不動産の売却時、宗教法人法の規定に違反したときのリスク

宗教法人が不動産を売却するには、宗教法人法および規則に定められた一定の手続きが必要です。本章では、これらの手続きに違反した場合に生じうるリスクについて解説します。

  1. (1)処分行為の無効

    宗教法人法第24条本文は、宗教法人の境内建物もしくは境内地である不動産について、前条の規定に対する違反行為は無効とする、と規定しています。

    すなわち、宗教法人法第23条に定める公告手続きに違反して、「境内建物」(本殿、拝殿など)や「境内地」(境内建物が存する土地、参道など)を処分すると、その行為は原則として無効ということです。

    ただし、「善意」の相手方または第三者に対しては、売買契約の無効を主張することはできません(法24条但書)。ここにいう「善意」とは、宗教法人法第23条が定める公告手続きがとられていないのを知らなかったことをいいます。
    仮に当該事情を知らなかったことについて重大な過失があったときは、悪意と同視され、当該処分行為は無効です(最判昭和48年11月22日)。

    処分行為が無効と判断された場合、宗教法人は買い主に対し、受領した売却代金の返還義務などを負う一方で、不動産の所有権は買い主の元にとどまるため、買い主との間で紛争に発展するおそれがあることにご注意ください。

  2. (2)過料

    宗教法人法第23条の規定に違反し、同条の規定による公告をせずに不動産を売却すると、宗教法人の代表役員などには10万円以下の過料が科される可能性があります(宗教法人法第88条3号)。

  3. (3)懲戒処分

    被包括宗教法人の代表役員が、不動産の売却について法令、規則および届出で定める手続きに違反した場合、包括宗教法人から懲戒処分を受けるリスクがあります。

  4. (4)損害賠償

    代表役員および責任役員は、法令・規則および(包括宗教法人に属する場合は)包括宗教法人との協議により定められた規程に従い、宗教法人の業務運営を適切に行う義務を負っています(法18条5項)。

    それゆえ、不動産の売却で手続き違反があった結果、宗教法人や相手方に損害を与えてしまえば、損害賠償責任を負う可能性があることもリスクのひとつです。

  5. (5)信用失墜・レピュテーションリスク

    たとえば、公告を行わずに墓地を売却すると、信者からの強い反発や地域社会からの不信感を招く可能性が高いでしょう。

    また、墓地や境内地の売却で法令違反があったり、信者と紛争が生じているなどの情報が報道されてしまったりすると、宗教法人としての社会的信用が大きく失墜することにもつながりかねません。

4、宗教法人の不動産売却に関して弁護士に相談するメリット

宗教法人が不動産を売却する際、弁護士相談をしたときの3つのメリットを紹介します。

  1. (1)法的リスクの回避

    弁護士であれば、宗教法人法上の責任役員会決議や公告義務、規則で定められる総代会の同意、包括宗教団体の承認といった、手続きの適法性を確保するための要件を正確に把握し、助言をすることが可能です。

    そのため、手続きの不備により、売買契約が無効とされる可能性や、代表役員に対する過料、損害賠償請求といった重大な法的リスクを未然に防ぐことができます。

  2. (2)信者・地域社会等への適切な対応

    公告内容の適正性や、信者・利害関係者への説明方法について、弁護士からアドバイスを受けることで、財産処分の透明性を高めつつ、売却に関する疑念や不信感の払拭につながります

    これにより、信者からの異議や、地域社会からの批判、ひいてはメディアによる報道といった評判低下のリスクを未然に防ぐことができるでしょう。

    万が一、信者や関係者との間で不動産売却に関する紛争が生じた場合でも、弁護士が代理人として、交渉や調停、訴訟といった紛争解決手続を適切に進め、宗教法人の権利利益を守ります。

  3. (3)売買契約上のリスク予防

    弁護士は、不動産売買契約書の内容を法的な観点から詳細にレビューし、宗教法人にとって不利な条項がないか、必要な条項に漏れがないかを確認します

    これにより、予期せぬトラブルや損害から宗教法人を保護することが可能です。

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5、まとめ

宗教法人が不動産を売却する際には、宗教法人法上必要な手続きが規定され、これを怠ると、場合によっては売買契約が無効とされたり、損害賠償責任や過料といった重大な法的リスクを負ったりするおそれがあります。

トラブルを未然に防ぎ、円滑かつ適法に不動産を売却するためにも、宗教法人の不動産売却に知見がある弁護士に相談し、適切な助言を受けるようにしましょう。

ベリーベスト法律事務所では、宗教法人法務や不動産問題、宗教法人の不動産売却などのご相談を受け付けております。不動産売却でお悩みの場合は、弁護士が尽力してサポートいたしますので、ぜひ一度当事務所までご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
この記事の監修者
米澤 弘文
米澤 弘文  パートナー弁護士
ベリーベスト法律事務所
所属 : 東京弁護士会
弁護士会登録番号 : 53503
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